トラック環礁撤退

 

 

 

 

「・・・それでは次です。
戦争後期の1944年初頭のトラック環礁からの撤退について簡単に説明します。
特別重要な話ではないので適当にくつろいで頂いて結構です。」

「は〜い♪」

「みんな、お茶入れなおしたけど・・・どう?」

「お、すまねぇな。ありがたくもらっとくぜ。」

「あたしも〜♪」

「・・・もらっておこう。」

「・・・ティータイムですね。エゲレス紳士といった感じでございます。」

「あんたのどこが紳士なのよ。」

「・・・いただきます。」

「ところでこの後、日本軍はどうなるのだ?」

「負けてくだけですがそれが何か?」

「・・・そういう話ではない。負け方にも色々あるだろう?」

「正攻法では歯が立たなくなっていきます。
南太平洋海戦の時点でどうにか互角の状況だったのですから、仕方が無いと言えばその通りなのですが・・・。
聞き流す程度で結構ですので、こちらの地図をご覧下さい。」



「で、この地図がどうしたのよ?」

「1943年末から1944年初頭にかけて、アメリカ軍はギルバート諸島方面に攻勢をかけてきているのです。
グェゼリンやマキン、タラワが有名かと思います。」

「有名なの?」

「南太平洋の島々に駐留していた日本軍は次々と全滅していきましたから・・・」

「全滅か・・・」

「ちなみに、こちらを攻めていたのは
太平洋艦隊司令長官チェスター・W・二ミッツ大将率いる太平洋地域軍(POA)です。
このままでは連合艦隊の根拠地であるトラック環礁にアメリカ軍が進撃してくるのも時間の問題だったのです。

トラック環礁の大まかな位置は地図でご確認下さい。」

「大まかって・・・正確な場所を示しなさいよ。」

「・・・すみません。いくつかの地図で調べたのですが、距離や大陸の形もまちまちなので・・・
上記の地図でも正確な位置とは言い切れません。」

「すみませんじゃ済まないっての!なんでそういい加減なのよ!」

「この地図はあくまで手描きなので・・・
そもそも、球状の地球を平面に直そうというのが無謀なのです。多少のズレは多かれ少なかれあるものですよ。」

「なら、ちゃんとした地図を用意すればいいじゃないの。」

「・・・この地図もちゃんとしてますよ?」

「してないでしょうが!」

「大体の位置は分かるのだ。そう目くじらを立てることもあるまい。」

「甘いわよ!そうやって手を抜いてくと、どんどん手抜きになっていくに決まってるんだから!」

「人物特性『陰険』追加・・・。」

「るさい!」

「人物特性?そんなのあったっけ?」

「どーせ、別のところから引っ張ってきたんだろ?気にするだけ無駄無駄。」

「無駄無駄無駄〜ァ!」

「マヌケが・・・知るがいい『世界(ザ・ワールド)』の真の能力は・・・まさに!
『世界を支配する』能力だということを!『世界(ザ・ワールド)』!!
これが・・・『世界(ザ・ワールド)』だ・・・花京院。おまえは死んだことにさえ気づいていない。何が起こったのかもわからない・・・。」

「脈絡の無い脱線は止めなさいって。」

「花京院って・・・」

「私達はただ、休憩時間に彩をと思いまして・・・ささやかながら余興を披露しただけですよ。」

「ね〜♪」

「無駄なことに費やす労力は惜しまないのね、あんたら。」

「いや〜、そんなに褒めなくても♪」

「照れちゃうよね。」

「褒めてはいないと思うが・・・」

「ま、いつもの事だがな。」

「最初は、まばたきほどの一瞬しか止められぬ能力だった。
しかし(中略)時が止まっているのに5秒と考えるのはおかしいが、とにかく5秒ほどだ・・・フフ。
いずれは一分・・・十分・・・一時間と思いのまま止められるようになってやろう・・・楽しみだ・・・だんだん長く時間を止めるのはな・・・。」

「・・・・・。」

「おや、どうしたんです?」

「あ〜、もしかしてあまりの再現度に感動しちゃったとか?」

「単に呆れているのだろう。」

8秒経過!ンッン〜♪実に!スガスガしい気分だッ!歌でもひとつ歌いたいようなようなイイ気分だ〜〜、
フフフフハハハハ!100年前に不老不死を手に入れたが・・・これほどまでにッ!
絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ。フッフッフッフッフッ、
ジョースターの血のおかげだ。本当によくなじむッ!最高に『ハイ!』ってやつだァァァァァ!
アハハハハハハハハハハーッ 9秒経過ッ!

「・・・・・。」

「どしたの?みんな黙っちゃって・・・」

「それはもちろん我々に対する恐怖で凍りついてるんでつよ。ほら、恐怖を克服しないとダメなんでしょ?」

「呆れてるんだってば・・・。」

「・・・そろそろいいでしょうか?説明を続けますよ?

海戦と呼べるような大きな戦いは昭和19年6月まで待たなければなりません。
ろ号作戦で戦力を消耗した日本軍ですが、戦力がある程度回復出来るくらいの期間はありました。」

「ところで、アメリカって何してんの?」

「・・・日本軍の勢力圏に攻め込んで来ていますよ。
先ほども話した南太平洋の島々に展開した日本軍のほとんどが全滅していますから。
もちろん、守備隊は頑強に抵抗はしていますが、圧倒的なアメリカ軍の前では・・・全滅は必至です。」

「・・・要するに、アメリカ軍は堅実に侵攻しているという事だな?」

「・・・そうです。」

「そういえばさ、他の国ってどうなってんの?」

「他の国・・・ああ、ドイツとかの事か?」

「うん。最初の頃、ちょっと話に出たっきりだったよね。」

「お前にしてはよく覚えているな。」

「ふ〜んだ。あたしだってそのくらい覚えてるもん。だって、ドイツが負けたら日本も共倒れなんでしょ?」

「まぁ、ドイツの勝利を期待していたと言うのは日本の基本戦略の一つでもありますから・・・大事と言えば大事な話ですね。」

「でも、こんな人がたくさんいる国でしょ?」

「誰がこんな人よ!第一、私はアメリカ国籍だっての!」

「国籍では民族的な本質までは変えられませんですよ?」

「うるさいわね!民族がどうとかなんて時代錯誤な事言ってんじゃないわよ!」

「こうして考えれば流れはつかめるかと思います。」

1941年12月
日本・真珠湾奇襲
ドイツ・モスクワ攻略失敗
 
1942年6月
日本・ミッドウェー攻略作戦
ドイツ・ブラウ作戦
 
1942年末
日本・ガダルカナル撤退を決意
ドイツ・スターリングラード攻防戦
 
1943年夏季
日本・ソロモン攻防戦
ドイツ・クルスク攻防戦
イタリア・無条件降伏


「あれ?同盟国でイタリアなんていたっけ?」

「イタリアがやっと出てきたと思ったら降伏って・・・」

「イタリア軍の行動で目に付くのはこのくらいなので・・・
細かい事はソフィア先生のところで説明されているのでここでは省略します。」

「何の話かよく分からんが・・・」

「ファースト、あんたもイタリアが動かなければって思ってるクチ?」

「・・・さぁ?日本がアメリカとの戦争に突入した時にはすでにイタリア軍が動いていた後ですから、どうしようもありませんよ。」

「イタリア軍が動いたらダメなんですか?」

「・・・結果的にドイツの足を引っ張ってしまいましたからね。イタリアが使えないと言うのは有名な話かと。」

「で、あんたもイタリア嫌いなの?」

「・・・嫌いとかそういう問題ではありません。先ほども申した通り
日本が開戦決意した時はイタリア軍がすでに動いてたわけですから、悔やんだところでどうにもなりません。諦めるしかないんです。」

「イタリア軍とはそれほどまでに使えなかったのか?」

「・・・さぁ?イタリアもイタリアで敵艦に肉薄攻撃をかけたなんて話もありますから、
全部が全部無能の集団と言う訳では無いでしょうね。あまり知らないので言及は避けます。」

「さっき、イタリアが使えないって思いっきり・・・」

「ドイツにとってみれば使えなかったでしょうね。役に立たない上に無条件降伏とともに寝返ったんですから。
もっとも、イタリアも一枚岩の集団と言う訳では無いようです。まぁ、どこの国も一緒という事ですね。」

「あんた、イタリアの事あんまり知らないでしょ?」

「はい。あまり興味が無いので。」

「・・・それにしても、日本だけではなく頼みの綱のドイツも劣勢か。同盟国のイタリアも脱落し・・・目も当てられんな。」

「ほんとほんと。」

「それにしても、イタリアはさっさと降伏しちゃってんじゃん。日本もそうすればよかったんじゃないの?」

「いきなり何を言い出す?」

「だって、イタリアは降伏してんのに戦後も国としては残ってるじゃない。
別にあんたらみたいに深刻に考える必要は無かったんじゃないの?」

「・・・国の一大事を楽観的に考える為政者がどこにいる?」

「ここにいるじゃないですか。アスカさんがもし国のトップだったら滅亡間違いなし♪」

「いちいちうるっさいわね〜!他の国の勝利をアテに戦争始めるよりマシでしょ!」

「・・・降伏の後の事を考えなくて良いなら戦争を終わらせるのは楽でしょうね。
ただ、降伏した後に高い確率で日本が消滅する可能性がある事を考えれば
無条件降伏など受け入れられるはずもないのに・・・いつになったら分かるんですか?」

「だ〜か〜ら!イタリアを見なさいよ!政権が変わったとしてもイタリアそのものとしての国は存続してるでしょうが!」

「・・・イタリアと日本を同列に語る事が間違いです。
西部戦線についてはソフィア先生のところで説明されていますが、連合軍はイタリア→フランス→ドイツへの侵攻を計画していたのです。
連合国の目標はドイツですから、イタリアに無意味に抵抗されるよりは一刻も早く連合国側に取り入れた方が戦略的には有効でしょう?」

「で?」

「連合軍の最大の敵はあくまでナチスドイツ。イタリアはドイツへの侵攻ルートとして有効に活用出来ますが・・・、
仮に日本が早めに降伏したとして連合国側の役に立つと思いますか?」

「何かあるかな・・・?」

「日本の艦隊とか陸軍とか、イタリアよりは役に立つんじゃないの?」

「・・・そんな程度の事で日本という国家が存続出来るのなら、始めから戦争など起きていませんよ。
第一、日本の周囲には連合国の脅威となる敵が居ません。そんな状況で日本を味方につけてどうするんです?」

「そうなんでしたっけ?」

「連合国にとって、ヨーロッパで叩く相手がナチスドイツなら、アジアで叩く相手は日本です。
つまり日本は連合国にとっての敵そのものなのです。イタリアの様なおまけ枢軸国と話が違うんですよ。」

「おまけって・・・をい。」

「そもそも、アメリカは日本が脅威になると感じたからこそ日本を潰す為にABCD包囲網を仕掛け日本を暴発させたのです。
日本を潰す事が目的なのに、アメリカが融和的な態度に出るわけないでしょう?
それに、前も話しましたが無条件降伏したとしても日本国内が収まりません。当時の状況なら、まず間違いなく内乱が起きるでしょうね。」

「そうなの?」

「・・・当時の陸海軍は決して一枚岩ではありません。まだ戦えるなら降伏はしないものでしょう?
もっとも、実際に連合国と互角に戦えるかどうかは別問題ですが・・・
条件付き降伏なら納得出来るかも知れませんが、無条件では・・・無理があり過ぎます。降伏した後がまるで分からないのですから。」

「いくらなんでも、国が無くなる様な酷い要求はしないでしょ。」

「・・・相手の良心に任せるなど論外です。国が十七分割されたとしても文句は言えないのですよ?」

「十七分割って・・・何?」

「どこぞの真祖の吸血鬼じゃあるまいし、十七分割なんて日本を細切れにしてどーすんのよ。」

「・・・十七分割は冗談ですが、2分割くらいならありえた話ですよ。
終戦がもう少し遅れていたら・・・日本本土は分かれていたかもしれませんね。」

「そうなのか?」

「・・・それは戦争末期の話なのでここでは避けます。
とりあえず、この時点での日本の降伏は自殺行為と考えてもらえれば問題はありません。」

「自殺行為なんて・・・そこまで言い切っちゃって良いんですか?」

「・・・実際、降伏しなかったんですからそう考えても問題は無いかと。戦争は始めるより終わらせる方が難しいのですからね。

話を元に戻します。1944年・・・昭和19年2月になると、アメリカ軍はトラックにも爆撃を行うようになりました。
対する日本軍は防空体制の不備から、トラックの基地機能を喪失するほどの損害を被ってしまったのです。」

「をい、根拠地なのにあっさりやられちゃってどうすんのよ?」

「・・・陥落したわけではありません。ですが、基地の機能を失ってはどうしようもありません。
連合艦隊はパラオに退く事になったのです。」

「そんなにあっさり逃げちゃうもんなの?」

「有効な攻撃手段を持たなければ交戦しても無駄だ。無闇に損害を増やすよりは迅速に撤退した方が良いだろう。」

「・・・有効な攻撃手段って空母か?」

「・・・空母、あるいは基地航空隊です。
しかし、トラックの航空隊はアメリカ軍の空襲で大打撃を受けてしまったので反撃はほぼ不可能。撤退以外に道はなかったのです。」

「日本の機動部隊は何やってんのよ?」

「・・・再建中です。ろ号作戦での損害は大きいものでしたから。」

「だから言ったのよ。やるだけ無駄な作戦だったって。肝心な時に使えないんじゃしょーがないわね〜。」

「・・・仕方ありません。その時はラバウルの危機だったのですから。」

「それ結局、目先の事にバタバタしてるって事になりません?」

「まぁ・・・そうなりますね。」

「やれやれ、これだから日本人は・・・」

「・・・どうしようもありませんよ。戦略の立てようが無いのですからね。」

「ウソ言うんじゃないわよ。戦略の立てようがないなんて事は無いでしょ。」

「そうそう、例えば某漫画みたいにマリアナ諸島あたりを要塞化するとか。」

「・・・帝国海軍の構想はあくまで南方での決戦志向です。
その構想を諦めたのはトラックから連合艦隊司令部を移した後・・・マリアナ周辺の防備を固めるにしろ、時すでに遅しです。」

「そんなもんかね。」

「・・・日本軍は一応、昭和18年中に絶対国防圏を策定しています。
ですが、防備に回す兵員を乗せた輸送船がアメリカ潜水艦に沈められるという有り様で、計画は遅々として進まなかったそうです。」

「何やってんだか・・・」

「・・・元々、米豪遮断作戦の延長で1944年に至っているワケですからどうしようもありません。
マリアナ周辺を重点的に防衛するとなると、ソロモン諸島やトラックの放棄をあらかじめ決めておかなければならないでしょうし・・・。」

「後からならいくらでも言えるという事か。」

「・・・そうです。」

「だ〜か〜ら!そんな事ばかり言ってちゃ反省になんないでしょって!」

「そ〜だそ〜だ!」

「のび太のくせに生意気だぞ〜!」

「脈絡の無い発言は止めなさいって。」

「・・・仮に前線を退き防備を整えていたとしても、結局は同じ事かと思いますが。」

「どういう事なの?」

「・・・確かに、早めに前線を引き下げマリアナ周辺を要塞化、
自軍の消耗を抑えた上でアメリカ軍を迎え撃つというのは一理あります。」

「なら、それで良いじゃん。」

「ですが、その為には戦争初期に占領した前線の各地から兵員を引き上げさせる必要が出てきます。
その為の輸送船や護衛の駆逐艦をどれほど確保できるのか・・・ちゃんと考えましたか?」

「む・・・、でも史実だって前線で孤立してた部隊とか多かったんでしょ?」

「・・・連合軍の侵攻により、やむなく孤立と言う状況です。見捨てたくて見捨てた訳ではありません。
余裕があるなら、当時の日本軍でも撤退させるでしょうね。」

「なら、あんたは仕方無いなら見捨てても良いって言うわけ?」

「・・・そうは言ってません。
ですが、早期に前線を下げると言うのであれば連合艦隊にも少なからず余裕はあります。
そんな状況では前線の将兵を置き去りには出来ないでしょう?その為にはある程度の艦船を動員しなければなりません。
また、アメリカ軍の目を誤魔化すためには陽動を行う必要も出てくるでしょう。
決めたからと言って、即撤退出来るほど簡単な話ではありません。」

「何の話なのか分からないんだけど・・・」

「・・・いつも通りの話ですが、前線で抵抗するにしろ退却するにしろ・・・双方に利点と欠点があるという事です。
一方の選択が必ずしも正しいという話ではないのです。」

「・・・あんた、そればっかね。」

「では、早期にラバウル・ソロモンを放棄するのが最善とでも?
史実では終戦まで双方とも日本が保持していましたが、これらの要衝がアメリカ軍に奪われるとなれば・・・また話は違ってくるはずです。」

「どんなふうに変わるんです?」

「・・・仮想戦記になってしまうので、話すだけ無駄かと思いますが。」

「良いんじゃん?別に。一応、今は休み時間みたいなもんなんだし。」

「だそうだ。まぁ、話すかどうかはお前さんに任せるが。」

「・・・では、少しだけ。」

「結局、話すんかい・・・。」

「・・・トラック環礁をアメリカが抑えれば、まず間違いなくそこを拠点とするでしょうね。
トラック環礁はその名の通り、天然の要塞とも言うべき環礁に守られた地形です。
広大な洋上に大きな拠点が出来るのですから、アメリカ軍の作戦行動の幅がさらに広がる事は確実です。」

「それだけ?」

「・・・それだけでも十分ですよ。
トラックの放棄とは大艦隊が集結出来る洋上拠点の一つを、自ら敵に提供してしまうのと同義ですからそれはそれで問題なのです。」

「でも、結局は使えなくなっちゃうんだからどーでも良いんじゃないの?」

「・・・使えなくとも保持し続けるのと、敵の手に渡ってしまうのでは全く別の話になります。」

「どーゆーこと?」

「・・・占領する事で得られるメリットとデメリットの問題です。
トラック環礁は確かに艦隊の停泊地としては適していますが、
日本軍から奪うとなるとアメリカ軍も多大な出血を覚悟しなければなりません。」

「そうなんですか?アメリカなんだから空爆でイチコロでしょ?」

「・・・空爆では占領出来ません。最終的には兵士が上陸し直接制圧しなければ意味は無いのです。
しかし、そういったリスクを負わずに拠点が得られるのであれば・・・誰だって占領しようと思うでしょう?
後の戦闘を優位に進められるのであれば尚更です。」

「う〜ん、イマイチ分からないんだけど。」

「もう少し、分かりやすく説明しなさいよ。」

「・・・そう言われましても、こればかりは簡単に説明する方法が思い浮かびません。」

「え〜!」

「・・・少しは理解しようとしろ。」

「だってワケ分かんないんだもん。」

「・・・自分の身に置き換えて考えてみろ。
そうだな・・・もし仮に、戦闘中にボスクラスの敵が現れたとしたら・・・お前は迷わず叩くか?」

「いきなりそんな事を言われても分からないって。」

「そうでつ、あまりに抽象的な表現が多すぎます!もっと分かりやすくお願いします!」

「人にモノを頼む態度じゃないわね・・・。」

「で、どういうこった?」

「ボスクラスの敵は経験値も多く得られ、また資金や強化パーツも得られる・・・
その程度の事は、お前でも理解しているだろう?」

酷っ!あたしだってそのくらいの事は知ってるもん!」

「迷わず倒しますよ。幸運+努力で小金持ち確定ですからねぇ。」

「だが、その敵を倒すにはこちらも多大な被害を受けるとしたらどうする?
被害も1機や2機ではない、マップ兵器で10〜20機が確実にやられる相手だとしたら・・・それでもお前は倒そうとするか?」

「アムロ大尉とかショウに任せとけばノーダメージで倒せんじゃないの?」

「すぐに他人を頼るな。お前達ならばどうするか?という話なのだからな。」

「う〜ん、どうしよう・・・。」

「でも、どっちみち倒さなきゃなんないんでしょ?」

「その敵は必ずしも倒す必要は無い。
作戦目的とは関係の無い敵が現れるのは、この部隊では日常茶飯事なのだろう?
ただ、撃破出来れば多くの資金や経験値は得られる。運が良ければ強化パーツも手に入れられるだろう。

・・・状況説明としてはそんなところか。」

「ワケ分かんないって。」

「ま、こういう事だと思うぜ。
グランゾンとかの強敵が出たとしたら、危険を冒してでも倒すか、面倒だからスルーするか・・・
お前さんならどっちを選ぶかってな。」

「う〜ん、どうしよっか・・・。」

「君子危うきに近寄らず・・・私ならスルーしますね。」

「え〜!倒せば資金と経験値ガッポガッポなのに?」

「・・・MAP兵器で多数が撃ち落されるのでは資金面ではマイナスになってしまう可能性が高いでしょう。
おまけに、作戦遂行に支障をきたしては本末転倒です。無理はしないのが最善かと思われます。」

「慎重過ぎんじゃないの、それ?」

「・・・もちろん2機くらいなら攻撃に向かわせても良いですよ。
EVA弐号機かボルテスあたりを向かわせて楽に倒せそうな芽があるのであれば・・・その時は方針の変更もあるかもしれません。」

「ボルテスはともかく何で弐号機を出すのよ?」

「撃墜されたとしても、それほど痛手じゃないから・・・」

をい!

「プル、お前ならどうする?」

「え〜、どうしよっかな〜・・・。」

「恐れる事はありません、同志エルピー・プル。
大いなるT-72神の加護があれば、グランゾンだろうとジュデッカだろうと某弐号機だろうとお茶の子サイサイです。」

オブイェークト♪

「ちょっと待った!何でそこで脈絡無く弐号機を出すのよ!」

「ほら、伝統だから。」

「るさい!伝統なわけないでしょ!」

「結局、どういう事なの?」

「・・・意味はあまり無い。あくまで例え話だからな。」

「え〜!何よそれ〜!」

「だが、自分で考えてはみただろう?
先程話したボスクラスの敵だが・・・倒さなくても、それだけの資金+経験値+強化パーツが得られるとしたら欲しいか?」

「力が欲しいか?ならばくれてやる。」

「古いから・・・」

「ただで手に入るなら貰うに決まってるじゃん。よく言うよね、ただより安いモノは無いって♪」

「・・・微妙に違う気がしますが。」

「で?」

「・・・プルの答えが本質だ。」

「どういう事?」

「どうと言う事は無い。
私が例えたプルにとってのボスクラスの敵と、先程話していたアメリカ軍にとってのトラック諸島は同義だったと言う事だ。
犠牲と労力を費やしてまでアメリカ軍がトラックを占領する必要があるか否か・・・。
これを、お前達自身の身に置き換えれば少しは理解出来るだろう?」

「理解出来るか?」

「う〜ん・・・なんとなく?」

「疑問系?」

「質問に質問で返しあってんじゃないわよ・・・。」

「元々何の話してたんだっけ?」

「・・・日本軍の戦略とトラック諸島についてです。
どこでどう話が逸れたのか分かりませんが・・・理解していただけたものとして話を進めたいと思います。」

「あんなお笑い騎士の説明で、ホントに分かったと思ってんの?」

「お笑い騎士とは何だ?分かりやすいようにお前達に合わせてやったと言うのに・・・その物言いはなんだ!」

「ひっど〜い!マシュマー様差別してる〜!」

「・・・差別では無い。そもそも分からないと言ったのはお前達だぞ?」

「む〜・・・」

「で、その話とアメリカ軍と何の関係があるんですか?」

「・・・いい加減にしなさいよ。あんたは話を無限ループさせる気?」

「だって分からないんだもん。」

「自分で言っていただろう?何もせずとも資金等を得られるのなら貰うと。」

「そうだけど?」

「太平洋戦線におけるトラック環礁も同じ・・・仮に日本軍が引き上げたとして、
トラック環礁が無防備状態であるならアメリカ軍もほうっておく訳が無いというだけの話だ。」

「う〜ん・・・分かったような分からないような。」

「例え話がメチャクチャだからしょーがないけどね。」

「・・・あいにく、これ以上簡略化した説明は無理だ。分からないのなら後は自分で考えろ。」

「説明投げっぱなし(・A・)イクナイ!!」

「何を言うか!最期まで説明しただろう!」

「・・・まとめると、大体こんな感じですね。」

1.トラック環礁は太平洋における要衝であり利用価値は高い。
2.放棄するとアメリカ軍が根拠地を築いていた可能性が高い。
3.マリアナで日本が防備を固めるには早期でなければ意味が無い。

「何か質問はありますか?」

「質問も何も・・・なんでアメリカがトラックに基地作る可能性が高いなんて言えるのよ?」

「・・・アメリカ軍は元々、日本軍の陣地を一つずつ攻略する作戦を実施していました。
その方針を転換したのは日本軍の頑強な抵抗に嫌気がさしたからに過ぎません。
楽に占領出来るのなら利用価値の高いトラック環礁を放置しておくとは思えないというだけの話です。」

「結局は推測なんだな。」

「それはまぁ・・・結局は仮想戦記ですから。」

「結局脳内妄想かい。」

「・・・仕方ありません、もともと史実に無い話なのですから。後は可能性の問題です。
私見では防御に徹しても負けは確定、マリアナの防備を固めるにも手遅れと言ったところでしょうか。
もし、マリアナで迎え撃つのであれば、1942年の中ごろから準備を始めなければならないでしょうね。
ガダルカナルでの一連の戦闘などもってのほかです。」

「それだと某漫画と似てますけど。」

「・・・さぁ?私個人としてはマリアナ諸島周辺の防備を固めても結局は負けると思いますけどね。
本気でマリアナで迎え撃つつもりなら1942年から・・・というだけの話です。
ですが、日本が防備に徹すればアメリカ軍の機動部隊はある程度健在という事になります。」


アメリカ軍正規空母
エンタープライズ
ホーネット
サラトガ
ワスプ

 

「この内、サラトガとワスプは潜水艦の攻撃を受けて損傷、
沈没してるので帝国海軍の潜水艦の扱いがそのままなら、この2隻は史実と同じ道を歩むことになるでしょう。
しかし、エンタープライズとホーネットが存在しているとなると、
日本軍の前線からの撤退が順調に進むかどうかは疑わしいと言わざるをえません。
あのハルゼー大将なら積極的に日本軍の手薄な場所を攻撃するでしょうし・・・
南太平洋海戦が無くとも別の場所で同様の戦いは起きていたでしょう。」

「長々と・・・あんたは何が言いたいのよ?」

「・・・マリアナ諸島の防備を固める戦術を早々に執っていたとしても、
史実より良い戦いができるかどうかは微妙というだけの話です。
多少の方針転換で有利になれると考えられるほど、私は楽観論者ではありませんので。」

「あんた、遠まわしにケンカ売ってるでしょ!」

「負けるのはいつもアスカさんですけどね♪」

「うるさいっての!」

「みんな、お茶のお代わりあるけど・・・」

「うむ、頂こう。」

「俺も俺も〜。」

「う〜ん、お茶だけじゃ何かさみしーから、お菓子とかも欲しいな〜。」

「・・・何かあったかな?ちょっと探してみるね。」

「ありがと〜♪」

「そういえば、まだ休憩中だったのよね。すっかり忘れてた・・・。」

「・・・では、続いてこちらの地図をご覧下さい。」


「これ、さっきも出したよね。」

「説明がまだ終わっていなかったもので・・・地図にパラオという名前が記してあるのですが、確認出来ますか?」

「まぁな。これがどうかしたか?」

「・・・短い間でしたが、パラオは連合艦隊の根拠地として活用されました。
また、戦後の話になりますがパラオは親日国として有名です。国旗を見れば、一目瞭然とも言えるでしょうけど。」

「また、テキトーな事言って・・・」

「パラオと言えば橋の話も有名ですね。何も無いのに崩れ去った連絡橋・・・その代わりとして日本が援助し
コロール・バベルダオブ橋、別名Japan−Palau friendship bridge(日・パラオ友好橋)
ODAで建設しています。両国の友好を示す良い例の一つかと思います。」

「地震か何かあったのか?」

「・・・細かい説明は省きますが、その橋は突然崩れたそうです。
もっとも、兆候は前々からあったため、慎重に使っていたとの事ですが・・・結局は崩れてしまいました。
また、水道・電気・電話等も使えなくなってしまい非常事態宣言が出されるという有り様だったようです。
俗に言う欠陥品というものですね。」

「酷い話だな。そんな不良品を作ったのはどこの誰だ?」

「・・・某半島の業者だそうです。
専門知識の無い素人が見ても旧橋の酷さが分かるくらいなので暇があるなら探してみてください。
新旧両橋の写真がありますので検索してみる事をおすすめします。」

「思いっきり戦争の話から逸れてんだけど・・・」

「私にとってはごく自然な流れだったのですが・・・」

「どこがよ!何の関係も無いでしょうが!」

「・・・ありますよ。
パラオが21世紀において日本の友好国なのは1920年代からの日本による委任統治の影響が大きいからです。
これは戦前の日本が良く思われていた一例でもあると思うのです。」

「でも、日本だって単に植民地が欲しかったから進出してったんでしょ?」

「・・・確かに善意だけで労力を使うとは考えにくいですからね。下心の一つや二つあるでしょう。」

「下心ってをい。」

「感情ストレートに侵略する当時の欧州やロシアに比べれば可愛いものです。」

「アレと一緒にしてどうすんのよ・・・。」

「ところで委任統治ってなに?」

「国際連盟の監督に基づいて行われた統治方法の一つです。
直接統治と違い、酒類や軍事物資の取引や軍事施設の建造不可、定期的に国際連盟への報告など様々な制約がありました。
ちなみに、前述のトラックも日本委任統治領の一つです。」

「ふ〜ん・・・、なんかよく分からないけど。」

「ねぇ、トラックって日本海軍の基地じゃ・・・」

「日本は後々国際連盟を脱退したから、そういう細かい事はどうでも良いんです。」

「よくないでしょ・・・。」

「・・・とりあえず、パラオは日本の友好国であるという事を分かっていただければ問題はありません。」

「ねぇ、こんなのを見つけたんだけど・・・食べる?」

「ヒカリ、何か見つけたの?」

「普通のおせんべいなんだけど・・・どうかな?」

「何それ?」

「私も知らんな・・・保存食か?」

「どんな発想してんのよ、あんたは・・・。」

「煎餅なんて・・・日本の趣を感じる一品でつねぇ。」

「でも、煎餅に紅茶は合わんだろ。やっぱり緑茶じゃないと駄目だな。」

「ちょっと待ってて、すぐ入れなおすから。」

「ん、すまんな。」

「あんたら、ヒカリばかりにやらせてないで、何か手伝ったらどうなのよ。」

「そう言うアスカさんだって何もしてないじゃないですか。」

「うるっさいわね〜!あんた、いちいち口答えするんじゃないわよ!」

「あたし、ちょっと手伝ってくるね。」

「なら私も〜♪」

「ちょっと待ちなさいよ!その展開だと私が悪者みたいじゃない!」

「みたいじゃなくてそのものかと・・・」

「うるさい!」

 

 

 

「なんだかんだで行っちまったな、あいつら。」

「・・・すぐに戻るでしょう。その間にこちらも少し片付けますね。」

「・・・そうだな。大分不要な資料も増えてきたからな。」

 

 

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