「真珠湾攻撃とは、日本の第一航空艦隊(南雲機動部隊)が
ハワイに停泊していたアメリカ太平洋艦隊に行った奇襲作戦の事です。」
「奇襲?あのルーズベルトってのは日本の動きを掴んでたって話よ。」
「大統領が情報を掴んでいても、末端の米兵まで情報が行き届いていなければ意味はありません。
異論はあるでしょうが奇襲だったと考えて良いと思います。
さて、あまりにも有名な真珠湾攻撃ですが、実行前には反対意見が数多く出されました。」
「そうなの?」
「主力空母を全て出撃させた上に、航空機を主戦力とした対艦戦など前例が無かったのです。
慎重意見が出るのも無理は無いと言えます。」
「だが、結局は実行したのだろう?誰なんだ、無謀な計画を発案した猛者は。」
「褒めてんだか貶してるんだか解らない事言うんじゃないわよ・・・。」
「何を言う、私は褒めているのだぞ?兵を預かる将たる者、
時には果敢な決断が必要な事もある。安穏としていては無能を証明しているようなものだ。」
「・・・真珠湾への奇襲を考案したのは、当時の連合艦隊司令長官山本五十六海軍大将です。
彼がいつ空母を中心とした戦術を発案したのかは解りませんが、彼はこの作戦に自信を持っていた様です。
作戦が通らなければ連合艦隊司令長官の辞任をも示唆したと言われているくらいですから。
彼の強硬な態度に軍令部も彼の作戦を認めざるをえませんでした。」
「ほう、そうとうに自信があったんだなぁ。」
「作戦が承認された1941年10月、
第一航空艦隊搭乗員は各々に課せられた任務に対応出来る様、猛訓練に励んでいました。」
「訓練?訓練って、どんな事してたの?」
「停泊している軍艦に対しての爆撃や雷撃、制空戦闘、洋上航法
航空母艦への昼夜問わずの着艦訓練など・・・必要な事は全てです。」
「ふ〜ん、訓練ってやっぱり大事なんだ。」
「はい。練度を保ち向上させるには重要な事です。
当時の飛行機の攻撃方である爆撃や雷撃は人の力に頼る部分が多かったですからね。」
「まぁ、そうですねぇ。私の様に100%狙い撃ちなんて真似は出来ないでしょうからねぇ。」
「・・・時代が違うわよ、時代が。」
「しかし、真珠湾への攻撃を成功させるに当たって難題が一つありました。
それは、真珠湾の水深が十数mほどしかないという点です。
従来の魚雷を使用した雷撃では、投下した魚雷が一度60m程まで沈み込んでしまうものでしたので
当然、真珠湾に投下された魚雷は着底してしまう事になります。」
「ん〜・・・、何言ってんだかよく解らないんだけど。」
「私も。雷撃やら魚雷やら何が何だか解らないわ。
大体そんなヲタな内容を羅列しても一般の人に解る訳ないじゃない。もう少し解りやすく説明しなさいよ。」
「解らんのか?ならば私が簡単に説明してやろう。」
「・・・あんた、説明なんて出来んの?」
「貴様、私は仮にもネオジオンの仕官だぞ!
この程度の事、ハマーン様より頂いたこの薔薇にかけて華麗に解説してくれるわ!」
「んで、どういう説明なんだ?」
「うむ。あの少女の言う内容の基本だが
既存の方法では敵に攻撃出来ないという事だ。ここまでは理解出来たか?」
「ん、まぁね。それで?」
「これをわかりやすく説明するとだな。宇宙空間においてミノフスキー粒子が散布された戦闘域では・・・」
「やめんかーっ!解りやすくなるどころか、さらに訳が解らなくなってるじゃない!」
「言いがかりは止せ。宙間戦闘など基本中の基本ではないか。例え話にするには最適だろう?」
「そういう問題じゃ無いわよ。
私達がわかっても普通の人が解らなかったら、例え話にする意味が無いじゃない。」
「もっと解りやすい方がいいんじゃないかなぁ。例えば〜・・・」
「例えば?」
「ん〜・・・、あたしは思い浮かばないけど。」
「・・・・・。」
「魚雷と雷撃の問題についてですが、一言で言うならこれまでの戦法では無理という事です。
帝国海軍はその為の対策を迫られた・・・と、この様な経緯になっています。」
「それって重要な事なんですか?魚雷が無くても爆弾を落とせば何とかなるんじゃないかと思うんですけど。」
「軍艦・・・特に防御力の高い戦艦を相手にする場合、爆弾で致命傷を与えるのは困難です。
細かい説明は省きますが、防御力の高い艦船を沈めるには側面を叩かなければなりません。
対艦船用の攻撃部隊、その為の雷撃隊なのです。ましてや、真珠湾での攻撃対象のほとんどが艦船です。
帝国海軍としては、真珠湾での勝利を決定的なものにする為に
どうしても真珠湾に対応出来る魚雷の開発、新戦術を確立しなければなりませんでした。」
「何言ってんだか解らないんだけど・・・まぁ、いいわ。で、結局どうなったの?」
「・・・問題は解決されました。真珠湾の様な水深の浅い海面でも使用可能な魚雷が開発されたのです。」
「随分あっさり解決しちゃったのね。もっと、めんどくさい事になるかと思ってたんだけど・・・」
「話では一言ですが、実際にはかなり複雑です。魚雷そのものの問題だけでは無く、
魚雷投下にしても従来の戦法は50〜150mの高度から1000m程度の距離で魚雷を投下するもので
その戦術では真珠湾には対応する事が出来ませんでした。
海軍は試行錯誤の末、新戦術を編み出しました。投下高度30m以下、自機の速度150ノット以上・・・
これらの条件を満たして初めて真珠湾への雷撃が可能になったのです。」
「何を言っているのか解りませんねぇ。」
「とにかく、攻撃する上での問題はとりあえず無くなったってこったな。」
「1941年11月5日、日本政府は帝国国策遂行要領を決定。
軍令部は山本連合艦隊司令長官に作戦命令を下しました。
訓練中の各部隊は急遽母艦に収容され、各艦は極秘とされていた集結地、択捉島の単冠湾に向けて出航しました。」
「いよいよ・・・という訳だな。
この日本という国の動きはまるで、連邦に対し開戦のその時まで極秘裏に準備を進めていたジオンの様だ・・・。」
「ま、似たようなモンだからな。」
「似てない似てない。」
「攻撃に参加する全艦船が集結を終えた11月24日
飛行機搭乗員に初めて作戦内容と目的地が知らされました。この頃はまだ情報を慎重に扱っていた様です。
さて、1941年11月26日、第一航空艦隊は真珠湾に向けて出発しました。
この作戦が約4年に亘る連合国との長期戦の幕開けになるとは、誰も思わなかったでしょうね・・・。」
「そういえば、この頃ってさっきのハルノートが何たらの交渉してたんでしょ?
交渉中に作戦行動に移すなんて・・・日本側だってやる気満々じゃない。」
「交渉が成立すれば、機動部隊は何もせずに帰還する予定でした。
もっとも、アメリカ側がハルノートを用意していた時点で交渉成立は不可能でしたけど。
交渉が決裂した場合、日本は宣戦布告と同時に奇襲を行う予定でした。ですが、ここで手違いが発生したのです。」
「何かあったのか?」
「先程も少し説明しましたが、日本は宣戦布告と同時に奇襲を仕掛ける予定でした。
敵が迎撃体制を整えてしまえば、奇襲ではなく強襲になってしまうからです。」
「奇襲と強襲の違いが解んないんだけど・・・」
「紀州というのは日本の地名の一つでしてね。例えば梅とかが有名で・・・」
「ちがーう!」
「え、違うの?」
「ほら、信じちゃってんじゃない!小さい子を騙してどーすんのよ。」
「何か妙だとは思っていたが・・・。」
「私は嘘を述べてませんが、何か?」
「何か?じゃないわよ!どこをどうやったら紀州が出てくんのよ!」
「分かって無いですねぇ、アスカさん。私は慈悲に満ちているんですよ?」
「はぁ?」
「世の中は欺瞞と恣意で満ち溢れています。
嘘を嘘と見抜けなければ世を見極めるのは難しいと言うじゃありませんか。
私は、その様な悪質な情報に飲まれないだけの耐性を身に付けて頂きたいだけなのです。」
「言ってる事はご立派なんだけど・・・紀州は何の関係があんのよ?」
「別に。ただの思いつきで〜す♪」
「少しは真面目にやんなさいよ・・・」
「まぁ、奇襲ってのは平たく言うなら不意打ちの事さ。
強襲ってのは正面切っての正攻法・・・正攻法といえば聞こえは良いが、実際はただの力押しだわな。」
「強襲だと駄目なの?」
「・・・強襲は攻撃側も自ずと被害が増えてしまうのです。
一般的に、強襲は戦術的に下策とされているので、極力使用しない方が賢明かと思われます。」
「ふ〜ん・・・。」
「なぜ、私を見るのだ?」
「だって・・・マシュマー様って、いっつも力押しじゃん。そっか・・・だから負けまくってたんだね。」
「うるさい!高貴な騎士道精神を理解していない輩が何を言うか!」
「まぁ・・・、負けてたらどうしようもないわよね。」
「そこっ!うるさいぞ!」
「で、どこまで話が進んだっけ?」
「奇襲と強襲がどうとかって話までよね・・・。」
「・・・説明を続けます。
日本は奇襲を成功させる為、アメリカへの宣戦布告の通知をギリギリまで遅らせようとしました。
ですが、真珠湾攻撃後に宣戦布告という結果になってしまったのです。
遅れた原因は諸説ありますが、遅れてしまった事実に違いはありません。これは日本にとって非常にマイナスでした。」
「ふむ、布告も無しに戦争を始めるとは・・・卑怯極まりないな。それでは流石に言い訳も出来まい。」
「・・・耳の痛い話ですがその通りです。
例え当時宣戦布告が必ずしも常識では無かった時代であると言っても、口実を与えてしまったのは事実ですから。」
「はぁ?宣戦布告が常識じゃないってどういう事?」
「言葉の通りです。当時、世界では必ずしも宣戦布告が実行されていた訳ではありません。
日中戦争然り、独逸のポーランド侵攻然り。後年のベトナム戦争ですら宣戦布告はありませんでした。」
「でも、宣戦布告は必要なんでしょ?」
「・・・しないよりは良いとは思います。手順通りきちんと行ってさえいれば・・・返す返すも残念でなりません。」
「何で通知が遅れたんです?」
「もっとも有名で一般的な説は日本外務省の怠慢との事です。
おそらくこの説が一番有力であると言えるでしょう。しかし・・・腑に落ちない点があるのです。」
「腑に落ちないって?別に外務省の怠慢でいいじゃん。21世紀になっても体質が変わってなかったくらいだもの。」
「・・・それで納得してしまえばいいのですが。もし、外務省の怠慢で真珠湾が奇襲になったのだとしたら・・・
当然、開戦時の外交官は戦後罪に問われる事になるはずです。そうは思いませんか?」
「まぁ・・・、そうだわな。アメリカにとっては奇襲の原因になった憎むべき敵だからなぁ。」
「しかし、当時全権大使だった2人の外交官は戦後、公職を追放されたに止まりました。
よく言われる様な戦犯にはならなかったのです。
もっとも、厳密に言えば日本に戦犯という方々はいない事になっているのですが・・・・。」
「あれ?TVとかで言ってなかったっけ?A級がどうとかって・・・」
「あれは恣意的な報道の一つです。
日本は戦犯と呼ばれている彼らの存在を認めてはおらず、普通の戦没者として扱うという旨を決定しているのです。
国会が全会一致で決めた事ですから・・・日本に戦犯は居ない事になりますね。」
「ほらほらほら、こういうところに捏造や恣意的な報道、悪質な印象操作が潜んでいるんですよ!」
「まぁ・・・、解ったから。」
「ところで外交官の話はどこ行ったのだ?」
「・・・失礼しました。とりあえず外務省の失敗という説は、一つの意見と言う事に止めておいた方が賢明かと思います。」
「ちょっと待ちなさいよ。だったら、何で通告が遅れたのよ?外務省の怠慢じゃ無いってんなら、他に理由あんでしょ?」
「・・・全権大使が、とある人物の葬儀に参列していたという話があります。
短時間で終わると思われた葬儀が異常に長くなり、結果的に会談に間に合わなかった・・・とする説です。」
「そうなの?」
「あくまで、説の一つに過ぎません。他には日本側がわざと宣戦布告を遅らせた・・・とする意見もありますが。」
「ありえん話でもないぜ。奇襲を成功させる為ならそんくらいの策も普通だろ?」
「・・・そこまで低脳な策士は日本には居ないと思われます。遅らせるくらいなら宣戦布告する意味が無いですから。」
「なら、あんたは何が原因だと思うわけ?」
「解りません。・・・それに、ここで何を挙げても推論にしかなりませんしね。
しかしながら、宣戦布告が遅れた事は事実・・・覚える事はそれだけでかまいません。
そして、これがプロパガンダと化しアメリカを団結させる結果にもなってしまいました。・・・海軍が最も恐れていたシナリオの一つです。
奇襲攻撃こそ成功しましたが、戦略目標であったアメリカ国民の戦意喪失は達成出来ませんでした。
逆から言えば、奇襲を行った事で火に油を注いでしまったとも言えます。」
「どゆこと?」
「つまり・・・敵国の民を敵に回してしまったという事だな?」
「?」
「日本・・・特に海軍は短期決戦を望んでました。
燃料が無くなれば行動が取れなくなる以上、短期間で可能な限り敵を叩く戦術以外無かったのです。」
「その事と、アメリカの人達を敵に回す事と何の関係があるの?」
「・・・アメリカの最大の主権者は国民です。
まがりなりにも民主国家である以上、大統領は彼らの意見を無視する事が出来ません。
アメリカ国民の戦意を喪失させる事こそが帝国海軍の目的だったのです。
戦いが無意味なものだとアメリカ人に気付かせる事さえ出来れば良かったのですが・・・前述の様に作戦は失敗しました。」
「民意が重要か・・・。思えば、ハマーン様も同じ様な事を言われていたな。ああ、ハマーン様・・・」
「・・・・・。」
「・・・さて、戦略的には目的を達成する事が出来なかった真珠湾攻撃ですが
戦術的には大成功を収めました。これから詳しく説明していきたいと思います。」
「なに・・・、あんたまだ話すつもりなの?」
「当然です。これまでの話はまだ冒頭部分・・・これから話す内容が重要なのですから。」
「ぜんっぜん興味無いんだけど。」
「それでは、日本軍の主力となった第一航空艦隊(南雲機動部隊)の編成を簡単に説明しましょう。」
「無視すんじゃ無いわよ!」
「まぁまぁ、怒ってばかりだと小ジワだらけになりますよ?」
「るさいっ!」
「アスカ、落ち着いて・・・。」
「これが南雲機動部隊の編成です。」
第一航空艦隊
第一航空戦隊・赤城、加賀(空母)
第二航空戦隊・蒼龍、飛龍(空母)
第五航空戦隊・瑞鶴、翔鶴(空母)
第三戦隊・比叡、霧島(戦艦)
第八戦隊・利根、筑摩(巡洋艦)
警戒隊
阿武隈(巡洋艦)
第十七駆逐隊・谷風、浦風、浜風、磯風
第十八駆逐隊・不知火、霞、霰、陽炎
付属・秋雲(駆逐艦)
哨戒隊
伊19潜、伊21潜、伊23潜(潜水艦)
補給隊
第一補給隊・輸送船4
第二補給隊・輸送船3
「随分と数が多いようだな・・・。」
「そうでもありません。後半のアメリカ軍の編成に比べたら物の数にもなりませんから。」
「・・・どうでも良いんだけどさぁ、戦艦とか駆逐艦とか言われてもさっぱり解んないんだけど。」
「解らなくても構いません。
重要なのは、第一航空艦隊という一部隊に正規空母が六隻も配備されているという事なのです。」
「何か特別な事なんですか?」
「日本海軍は虎の子とも言える空母を、たった一つの部隊に集中させてるって事さ。
それだけ、この真珠湾攻撃に賭ける気合が並々ならぬモンだったって事だわな。」
「ふ〜ん・・・。」
「空母とはそれほど重要なのか?」
「・・・はい。とても重要です。解りやすい例え話があります。」
「たとえ話ってどんな?」
「かの一年戦争の緒戦・・・連邦軍が圧倒的な物量を持って臨んだルウム戦役ですが・・・」
「やめんかーっ!
さっきも言ったでしょ!普通の人にも解るたとえ話にしなさいって・・・そんな説明じゃ解る訳ないでしょうが!」
「カリカリしてんなぁ。カルシウム摂った方がいいぞ?」
「るさいっ!」
「では・・・、別のたとえ話にします。体の大きい人と体の小さい人がいます。」
「彼らが喧嘩をするとしたら、普通に考えてどちらが勝つと思いますか?
「考えてって・・・大きい人が勝つんじゃないの?」
「そうですよねぇ。体格の差が決定的な戦力の差になりますから。」
「ファーストの事だから解らないわよ。小理屈並べて小さい方が勝つって言うかもしれないし。」
「そういえば、どっかのお相撲さんも負けちゃってたもんね♪」
「・・・アレは例外と考えて下さい。」
「だが、普通に考えれば大きい方が勝つに決まっているだろう。
格闘技の試合等で重量での区分けがなされているのは何故だと思う?」
「確かにね。体格そのものがハンデになるから
公平に技術を競える様に分けられてるんだし・・・やっぱり大きい人が勝つって事かしら。」
「それでよろしいですか?」
「ファイナルアンサー?」
「んじゃ、電話で聞いてみるか。」
「・・・どこへかけんのよ。」
「大きい人が勝つという事でよろしいですね?」
「ファイナルアンサー?」
「う〜ん・・・、迷うなぁ。」
「しつこい!」
「やっぱり、体の大きい人の方が勝つと思うけど・・・。」
「正解です。技術が同程度なら体格が大きな差になります。
体重、筋力など・・・全ての点において物理的に大きい方に有利となるのです。」
「ふ〜ん、やっぱりそうなんだ〜。」
「まぁ、それは良いんだが・・・それと空母と何のつながりがあるんだ?」
「・・・同感だな。どう考えても二者が繋がるとは思えん。」
「繋がらないのは当たり前よ。どーせ行き当たりばったりに決まってるんだから。」
「いいえ。繋がりはあります。たとえ話に空母等を当てはめると・・・」
大きい人=空母
小さい人=戦艦他
「こういう事です。航空母艦の最大の利点はその攻撃範囲にあります。」
「攻撃範囲?空母の方が弱いように思えるけど・・・」
「空母の攻撃範囲と言っても厳密に言うなら、空母本体ではなく搭載された艦載機の攻撃範囲の事です。
当時の艦載機は航続距離がおおよそ1000km程なので、余裕を見て考えても3〜400kmの範囲は攻撃出来る事になります。
一方、帝国海軍の誇る戦艦大和の最大射程が40kmだったとされています。
単純に考えて、空母は戦艦の攻撃範囲外から攻撃を行えるという事になるのです。体の大小で称したのはリーチの違いですね。
体が大きければ手足も長い、懐に潜り込ませなければ大きい方が一方的に攻撃出来る訳ですから。」
「格闘技にしても海戦にしても、そんな単純じゃ無いでしょ。」
「・・・当然です。空母があっても搭乗員の練度が低ければ、また話は違ってきますから。」
「とりあえずこういう事か?
空母は当時の兵器の中ではアウトレンジ攻撃出来るNT機の様な存在だと・・・、そう理解していいのだな?」
「・・・概ねそんな感じです。
空母の有用性に先見の明があった日本だけに、敵国の航空母艦に対する恐怖というのもあったと思います。
有効に運用されれば、逆の立場もありえる訳ですからね。」
「と、言いますと?」
「後で説明しますが、日本は資源を確保する為、南方にも進出を開始していました。
当時、実践に投入出来る水準の空母を保有していたのは、日本の他にイギリスとアメリカくらいの国しかありませんでした。
軍令部が真珠湾攻撃に乗り気で無かったのは真珠湾攻撃の成功率の低さと
南方の作戦に空母を参加させたかったから・・・らしいです。」
「それほど成功の可能性が低かったのか?」
「事前に数回行われた図上演習でも、真珠湾攻撃自体賭けの要素が強いという事が判明したのです。
もっとも、こういった作戦自体前例が無かったので、それも理由の一つかと思いますが・・・。」
「でも、なんだかんだ言っても実行しちまった訳だろ?」
「はい。」
「ほう、では見せてもらおうか。低い勝率と知りながら行われた真珠湾攻撃とやらを。」
「・・・その台詞ってもしかして、シャア大佐のパクリ?」
「ええ〜い、うるさい!」
「・・・話を続けます。単冠湾を出港してから八日目
ハワイオアフ島から約750海里付近に到達した南雲機動部隊。その旗艦、赤城のマストにある信号旗が掲げられました。」
皇国の興廃この一戦にあり
各員一層奮闘努力せよ
「これはZ旗と呼ばれるもので、日露戦争の日本海海戦時に東郷平八郎司令長官が掲げたものと同義のものです。
この事からも、帝国海軍の真珠湾攻撃に対する並々ならぬ決意が感じられます。」
「ただ単に、兵士達の士気を鼓舞する為だったんじゃないの?」
「ミもフタも無い事言いなさんな。」
「ねぇ、海里って何?」
「距離を現す単位の一つだ。一海里は約1852m、そのくらい自分で調べろ。」
「え〜、メンドーなんだもん。」
「午前6時15分、攻撃隊発進地点に到達した空母(赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴)から発艦が始まりました。
第一次攻撃隊第一波183機は編隊を整えて真珠湾を目指し出撃していきました。編成は・・・」
第一次攻撃隊 第一波
零戦43機(制空)
九七艦攻40機(雷撃)
九七艦攻49機(爆撃)
九九艦爆51機(爆撃)
「以上の様になってます。ここまでの説明で不明な点、または質問等はありますか?」
「質問っつーか何つーか・・・
零戦とか艦なんとかとか・・・区別がつかないんだけど。いいかげん、ヲタな話は止めなさいよ。」
「解りました。では、真珠湾攻撃における帝国海軍の艦載機の説明を行います。」
「をい・・・。」
「まぁ、いいんじゃねぇの?
どっかのB級映画みたいに史実無視のプロパガンダになったら困るもんな。」
「それって、某パールハーバーの事ですね?」
「・・・某の意味が無いでしょ。」
「何?パールハーバーって?」
「気にする必要はありません。アメリカの宣伝用映画ですから。
続いて、真珠湾攻撃に使用された機体について説明します。」
「ふ〜ん・・・、バルキリーみたいだね。機動力が高くて防御力が低いってトコが。」
「バルキリーって・・・解る気はするけど、もう少し良い例えは無かったの?」
「そんな事言われても・・・簡単に思い浮かばないよ。」
「例えとしては間違ってません。
零戦は搭乗員の技量の高さと相まって絶大な強さを誇っていました。・・・では次の機体です。」
「この機体には長所、短所は無いのか?」
「・・・特筆すべき優れた性能があるというわけでもなく、決定的な欠点がある事も無いので
極めて普通の機体であるとしか言いようがありません。」
「というと連邦のジムみたいだね。可もなく不可もなく・・・なんでしょ?」
「そう・・・なのかな?」
「・・・九九艦爆の主な攻撃方法は急降下爆撃です。
これは爆撃そのものの命中率を上げる方法として有効な戦法と言えます。」
「そうなのか?古代の戦術など良く解らんが・・・」
「当時の爆弾はほとんどが無誘導ですから。1発しか搭載していない貴重な爆弾を有効に活用しようとするなら尚更です。」
「でも、相手に近付くって事は危険なんじゃないの?」
「・・・その通りです。真珠湾攻撃での未帰還機29機の内、15機ほどが艦爆隊だったと言われています。
攻撃隊の中でも損害を受けやすい機種であるとも言えますね。
さて、最後の機体を説明しましょう。」
九七式艦上攻撃機
「この九七艦攻は真珠湾で雷撃と水平爆撃を担当しました。
雷撃は海面ギリギリからの魚雷攻撃。水平爆撃はその名の通り、ある程度の高度から爆弾を落とすというものです。」
「何で急降下爆撃にしなかったんだ?急降下した方が命中率が良いんだろ?」
「目標が動くものでなければ水平爆撃でも問題は無いのです。
それに九七艦攻で急降下爆撃が行えるという話は聞いた事がありません。
おそらくしなかったのではなく出来なかったのだと思われます。
・・・さて、目標付近に到達した第一次攻撃隊は、真珠湾上空に敵機の姿が無い事を確認。」
トラ・トラ・トラ
(我、奇襲に成功せり)
「と、艦隊司令部に打電しました。現地時間、7時53分の事です。
それより少し前に信号弾を打ち上げているので、攻撃隊はすでに各々の目標に向かっています。
当面の目標は真珠湾周辺の艦船と飛行場です。」
「飛行場?どうして飛行場まで攻撃するの?」
「奇襲に成功したと言っても、飛行場を放って置けば当然迎撃機が離陸を始めます。
そうなっては奇襲も何もありませんから、飛行場を叩くのは至極当然かと思われます。
まずはヒッカムとホイラーに急降下爆撃隊が向かいました。」
「日本軍の奇襲など知るはずも無いホイラー・ヒッカム両飛行場は完膚なきまでに破壊されました。
時を同じくして、真珠湾に停泊している戦艦群に雷撃隊が攻撃を開始します。」
「ふ〜ん、アメリカの中の人は何してたの?もう、日本軍が来てるって解ってるんでしょ。」
「・・・真珠湾にいた兵士達は海軍か陸軍の演習だと思っていたらしいです。
機体に描いてある日の丸を見て初めてジャップだ!と、気付いたくらいですから。
しかし、日本軍の奇襲成功もアメリカ軍の怠慢に助けられた一面がありました。
実は、第一次攻撃隊が真珠湾に到着する一時間ほど前、日本軍の特殊潜航艇がアメリカの駆逐艦に撃沈されていたのです。」
「特殊潜航艇ってのは?」
「二人乗りの潜水艇です。第一次攻撃隊の攻撃に合わせて撹乱目的に攻撃を開始する予定でしたが
特殊潜航艇の潜望鏡を発見したアメリカ軍によって特殊潜航艇の一隻が沈められてしまいました。
もっとも、出撃した総勢5隻の潜航艇は全て日本に帰る事が出来なかったのですが・・・。」
「何それ・・・、5隻中5隻帰れなかったなら帰還率0じゃない。
戦争後半ならいざ知らず、これから戦争始まるって時になんでそんな無謀な作戦立てたのよ?」
「司令長官の山本大将も、生還率の低い潜航艇の作戦を認めようとはしませんでした。
しかし、潜水艦部隊からの強い上申があり、潜航艇の回収方法にも改善があったので認めたとの事です。
・・・結果的には前述通りになってしまいましたが。」
「・・・不思議では無かろう。騎士には退いてはならぬ時もあるのだ。」
「・・・・・。」
「なんだ?その疑いの目は。」
「マシュマー様、同じ事出来る?帰ってくる事が難しい機体で出撃って事は
ボールで出撃しるって言われているみたいな感じでしょ?どう考えても無謀な気がするけど。」
「・・・ボールで出撃はともかく、大儀の為には退いてはならぬ時があるのだ。
守るべきモノがあるなら尚更な。無謀の一言で彼等の行動を片付けてしまっては本質は見えてこないものだぞ。」
「ふ〜ん・・・。」
「あんたもたまには良い事言うねぇ。」
「たまにとはどういう事だ!私は常に正しい事しか言わん!」
「独り善がりになるとカルトになりまつよ?」
「誰がカルトだ!」
「ハマーン様教・・・」
「貴様、ハマーン様を愚弄する気か!それでも栄光あるジオン軍人か!」
「今はロンド・ベル隊じゃん。アクシズはもう降伏しちゃったんだから、マシュマー様も頭切り替えた方がいいと思うよ。」
「ぬうぅぅ・・・。」
「ねぇ・・・あんた、何でそこまでハマーンって人にこだわってんの?
傍目から見てるとすごくヘンなんだけど・・・。」
「フッ、ハマーン様こそ地球圏を導いていくお方だ。
私はハマーン様の剣となって歯向かう敵を斬るのみ・・・それが騎士の務めというものだ。違うか?」
「違うも何も誰が騎士なのよ?」
「騎士より、むしろ芸人かと。」
「誰が芸人だ!誰が!」
「マシュマー様とゴットン・・・」
「黙れ!あれはゴットンが原因だ!私は常に最善を尽くしていたのだぞ!」
「脱線は程ほどにお願いします。続いて、アメリカ軍の対応についての簡単な説明です。
アメリカ軍の対応を遅らせた原因ですが、まず第一に潜航艇撃沈の報告がキンメル司令長官に届かなかった事が挙げられます。
次に、オアフ島のレーダー基地が日本軍の機影を捕えていたにも関わらず、
カリフォルニアから到着予定のB−17の編隊だと思い込み、情報センターがそのままにしてしまった事。
後は、アメリカ大統領の日本軍に対する過小評価でしょう。
これら以外にもいくつかの要素はありますが、日本軍の技量だけで成功したと言う訳ではなく、運に恵まれた事も成功の一因でした。」
「成功って言ったって・・・肝心の空母はいなかったんでしょ?
おまけに真珠湾に並べといたのは旧式艦だらけだったって話だし・・・」
「私見ですが・・・それはただの負け惜しみかと思われます。」
「負け惜しみ・・・ですか?」
「その点については後で話します。今、話してしまうと時系列が混乱してしまうので・・・」
「あんた・・・話を後回しにする事多いけど、ちゃんと覚えてんの?」
「まぁ、大丈夫だと思いますよ。誰かさんとは違うでしょうし。」
「誰かさんって誰の事よ!」
「こういうのは、心当たりがある奴が反応するんだよな。」
「うるさいっ!」
「それにしても、話が全然進まんな。これも予定通りなのか?」
「・・・その点については予想外です。本来ならすでに次の講義に進んでいるハズなのですから。」
「一体、誰のせいなんでしょうねぇ?ねぇ、アスカさん。」
「何で私を見んのよ?」
「・・・そこまでにして下さい。本当に話が進まなくなるので。」
「は〜い。」
「真珠湾に停泊している艦船群への第一撃は、雷撃隊によって行われました。
雷撃隊は主要戦艦に次々と魚雷を命中させていきます。」
「ほう、まさに訓練の賜物だな。」
「タマモノ?何それ?」
「賜物とは頂き物という意味以外に、ある行為を行った為に得られた物・・・という意味もある。
この場合は訓練の成果という意味合いだな。・・・どうでもいいが、この程度の事は自分で調べろ。」
「そんなの調べようが無いもん。それに、マシュマー様物知りだし〜。」
「・・・媚びても何も出んぞ。」
「別に期待はしてないけど・・・」
「雷撃隊が飛び去った後、水平爆撃隊が攻撃に移りました。
九七艦攻から放たれた800kg爆弾が太平洋艦隊の頭上に降り注いでいったのです。」
「攻撃する順番って決まってんの?何となく、テキトーに攻撃してたイメージがあるんだけど。」
「ん?もしかして、あの映画の影響受けてないか?」
「あの映画って?」
「さっきも話に出た某パールハーバーですよ。
あの映画だと確か・・・飛行機が滅茶苦茶に入り乱れて攻撃してましたからねぇ。」
「・・・映画は脚色された物語に過ぎませんから気にしないで下さい。
もし、真珠湾攻撃を映画で知りたいならトラ!トラ!トラ!でも観てください。某映画とは比べものになりませんから。
さて、どうして爆撃より先に雷撃を行ったのかと言うと爆弾を爆発させた時に発生する黒煙に原因があります。
雷撃の際、狙いを定めるにしても当時は目視が基本です。
黒煙で目標が見えなければ、雷撃の成功率が低下するであろう事は考えなくとも解るかと思います。」
「何言ってんだか解らないんだけど・・・」
「ごめん・・・、私も分からないわ。」
「フッ、素人はこれだから困る。少しは頭を働かせたらどうだ?」
「え?あんたは分かったの?」
「つまりだ、その少女の言いたい事を例えて言うなら、スイカ割りの時に目隠しするか否かという事だ。分かるか?」
「余計にわけ分かんないわよ・・・。」
「やれやれ、頭の回転の悪い娘だ。理解しやすい例え話を考えてやったと言うのに・・・。」
「ムチャ言わないでよ!そもそも雷撃とか艦攻なんてマニアックな話題に付いていける訳無いでしょ!ねぇ、ヒカリ?」
「え?あ・・・ごめん。さっきのスイカの話で何となく解っちゃった。」
「うそ!」
「解ったか?先入観を持たなければ理解できるものなのだ。」
「む・・・」
「心を解き放つの。スプーンを曲げようとするんじゃなくて、始めからスプーンなんか無いと思えば理解できる・・・」
「るさいっ!マトリックスネタは止めなさいよ!何年前の話だと思ってんのよ!」
「あの〜真珠湾の話はどうなったんです?」
「・・・第一次攻撃隊の雷撃・爆撃によって
真珠湾に停泊していたアメリカ太平洋艦隊は次々と破壊されていきます。
日本軍の猛攻は約30分に亘って続けられ、役目を終えた日本軍機は次々と引き返していきました。」
「え、帰っちゃうの?」
「そりゃそーだろ。爆弾ったって一発しか積んでねーんだから。おまけに、燃料の問題もあるだろうしな。
嬢ちゃんだってファンネル撃ちまくって残弾無くなったあげくエネルギー切れちまったら、引き返すほかないだろ?」
「そっか、それもそーだね。」
「・・・第一次攻撃隊の攻撃終了から30分程経った頃、真珠湾上空に日本軍の第一次攻撃隊第二波が到着しました。」
「また?」
「・・・第一波とは少々編成が異なっています。」
第一次攻撃隊 第二波
零戦35機(制空)
九七艦攻54機(爆撃)
九九艦爆78機(爆撃)
「ん?雷撃隊とやらが居ない様だが・・・」
「真珠湾はすでに黒煙に覆われています。
第二波に雷撃隊を組織しなかったのも、そういった予想の上で考えられた編成なのでしょう。」
「話だけ聞いてると、随分用意周到な作戦だったんだな。」
「・・・当然です。この作戦が失敗すれば、日本には後が無かったのですから。
この作戦を考案した山本大将の功績はかなり大きいと思われます。」
「そんなモンなの?」
「・・・そういうものです。
古来より、戦術で重要とされた要素の一つが機動力の高い部隊の運用方法なのです。話が脱線するので控えますが・・・」
「あんた、ホント説明省いてばかりよね。やる気あんの?」
「もしここで余計な説明を始めたら、私が率先して脱線する事になってしまいます。
それでは本末転倒なので・・・私は身を斬る思いで省略しているのです。」
「ホントかしら?」
「まぁ、いいとして・・・その第二波とやらは何を攻撃しに来たんだ?魚雷持って無いって事は地上部隊にでも攻撃するのか?」
「・・・基本的には敵艦船群が目標です。
第二波は、第一波が撃ち洩らした敵戦艦・航空基地などを攻撃しました。
しかし、この頃になると防空体制も整い日本軍機も撃ち落とされ始めたのです。」
「映画じゃ黒人の人が機関砲ぶっ放してハッスルしてましたよ。
そういえば、日本軍は民間人を攻撃してましたよね。」
「え、ホント?何でそんな事したの?」
「・・・映画の話を私に聞かれても困ります。
そもそも、任務で忙しい日本軍がストーカーの様に民間人を追い回し機銃掃射するなど聞いた事ありません。
弾薬すら貴重な日本軍がそんな無駄な事をするとは思えないのですが・・・。
おそらく、彼らは自分達の主観でそういったシーンを入れたのだと思います。
大戦末期にはアメリカ軍が日本にそういった事をしてますから・・・」
「結局、どっちが悪いの?」
「真珠湾攻撃において、民間人に被害が出た事は事実の様です。しかし、日本軍は彼らを狙うほど暇ではありません。
真珠湾攻撃の時、ハワイで発生した民間人犠牲者の多くが米軍の放った流れ弾が原因だったという話があります。
確かに奇襲を受け混乱したあの状況で、銃を触った事がほとんど無いというコックが機関砲を撃ちまくれば
そういう話にはなるでしょう。」
「あんたも映画と現実をごちゃ混ぜにするんじゃ無いわよ。
それに、さっきから聞いてるとアメリカ否定してばかりじゃない。そんなにアメリカ嫌いなの?」
「そういえば、アスカさんアメリカ国籍ですもんね。やはり同胞の血が騒ぐんですか?」
「違うわよ!」
「・・・私、アメリカ嫌いではありません。」
「え?だって、事あるごとにアメリカを否定してるじゃない。」
「・・・私はペテン師大統領と彼の属する民主党が嫌いなだけです。アカに踊らされた哀れな大統領
そして、彼の支持母体・・・それらが嫌いなだけで、
アメリカそのものに対して、反米等と言われる方々の様な敵意剥き出しの感情はありません。」
「それでも十分偏ってる気がするけど・・・」
「敵は敵と認識しておかなければ危険です。こう言っては何ですが
中道感覚は幻想であり平和主義は妄想なのです。
敵を敵と認識出来る見識、国益の為には同盟国ですら貶める事も厭わない冷徹さ・・・戦時にはこれらも必要なのです。」
「・・・あんた、リリーナに喧嘩売ってんの?」
「そのつもりはありません。ただ彼女には、もう少し空気を読んで欲しいとは思いますが。」
「また脱線してるな。」
「・・・すみません。日本軍の攻撃により太平洋艦隊は壊滅的な打撃を受けました。大まかな戦果は次の通りです。」
戦艦・アリゾナ(完全喪失)
戦艦・ネバダ(着底)
戦艦・ウエストバージニア(着底)
戦艦・テネシー(大破)
戦艦・オクラホマ(転覆)
戦艦・メリーランド(中破)
戦艦・カリフォルニア(着底)
戦艦・ペンシルバニア(損害軽微)
他、上記と合計で17隻に損害
航空機・陸海231機
犠牲者・3784名
「威風堂々と戦果を話してるトコ悪いんだけど・・・アメリカは、日本が沈めた船のほとんどを直しちゃったのよね。
おまけに、日本軍は艦船とか飛行場は攻撃したけど、燃料タンクとか攻撃してなかったし。」
「・・・その通りですが何か?」
「いや、何か?じゃなくて・・・何で攻撃しなかったのよ。
攻撃しとけばもっと打撃を与えられたんじゃないの?日本軍の中でもそういう意見はあったんでしょ?」
「そういや、そうだな。
先に帰った攻撃隊の再出撃準備はほとんど整ってたらしいからな。なんで出撃しなかったんだ?」
「・・・理由の一つに攻撃隊の第一波、第二波の損害で差がある事が挙げられます。」
「差?」
「sir!! yes sir!! 」
「・・・いきなり、何を言い出すのよ。」
「いや、何となく口が勝手に・・・」
「真珠湾攻撃での、日本軍の損害は次の通りです。」
第一波・未帰還機9
第二波・未帰還機20
特殊潜航艇・未帰還5
「これって・・・多いのか?少ないのか?」
「決して少ないとは言えませんが、事前の図上演習で予想された被害よりは少ないものです。」
「それで・・・再出撃を止めた事と何か関係はあるのか?」
「普通に上記の結果を見れば、攻撃取りやめとの関係は察しがつくと思うのですが・・・」
「ん〜・・・なんだろ?」
「奇襲に成功した第一波の被害は9機。
しかし、アメリカ軍の迎撃体制がある程度整ったと思われる第二波の被害は倍にまで増加しています。
単純に考えて再出撃させたと仮定すると・・・さらに倍の被害になるとは思いませんか?」
「倍率ドン。さらに倍。」
「じゃあ・・・はら○いらさんに全部。」
「るさいっ!」
「・・・今の私達は結果を知っています。
大した被害も無く真珠湾攻撃を終える事が出来たという事を知った上で意見を述べていますが・・・
当時の指揮官はそんな結果を知るよしもないのです。
航空隊が更なる被害を受ける可能性が否定出来ないのですから、攻撃取りやめも間違った判断とは言えません。」
「確かにな。だが、攻撃を行った場合更なる戦果を得られた事も否定は出来ないだろう?」
「・・・否定はしませんが、その先は仮想戦記の域に入ってしまうのでここでの言及は避けます。」
「でも、攻撃要請はあったんでしょ。
どっちにしろ後が無かったんなら攻撃に移っても良かったんじゃないの?」
「・・・余計な欲を持って良い事などありません。
それに、最大の目標であった敵空母の所在すら解らない状況で同じ海域に留まるのは危険過ぎます。
第二波が攻撃を終えた時点で太平洋艦隊に壊滅的な打撃を与えている以上、
余計な危険を冒してまで攻撃する必要は無いと判断したのだと思われます。」
「壊滅的じゃないでしょ。沈没した戦艦だって、あっという間に直しちゃったんだから。」
「・・・それは結果論というものです。
歴史を語る場合、結果論で論ずるのは後知恵で語っているだけに過ぎませんから・・・何の意味もありません。
私には、先人達に対する冒涜としか思えませんね。」
「何よそれ!それじゃ私が悪者みたいじゃない!」
「みたいじゃなくてそのものかと・・・」
「いちいちうるっさいわね〜!ひし形は黙ってなさいよ!」
「非道っ!ちょっとお茶目にツッコミを入れただけなのに・・・」
「まぁ、再出撃を取りやめたという理由・・・解らなくも無い。簡単な例え話をしてやろう。」
「また?あんたの例え話は、全然例えになってないでしょ。」
「少しは黙って聞け!
いいか?再出撃させるという事は当然、同じパイロットを出撃させるという事なのだぞ?」
「そりゃね、再出撃って言うくらいだもの。」
「割と疎かになるがパイロットの疲労度を忘れていないか?」
「まぁ、リリンですからねぇ。私みたいに24時間営業など出来る訳ないでしょうから・・・」
「・・・あんたの常識で物事を語るの止めなさいって。」
「連続で出撃させられるパイロットは疲労するものなのだ。
お前達も連続でミッションが続いた場合、気力が50まで下がったりするだろう?
気力が低ければ相手に与えるダメージは少なくなり、受けるダメージは増大する。
熱血や魂を使ったところでスズメの涙程の付加しか無い。勝利が決定している状況で、わざわざ出撃させる理由は無かろう?」
「スパロボと現実をごっちゃにするんじゃないわよ。」
「・・・あながち間違いとも言えません。」
「え?」
「航空機搭乗員が最大の力を発揮出来るのは出撃から1時間くらいだそうです。
あまり戦闘時間が長くなると集中力も落ちていくらしいので・・・彼の言う事にも一理あります。
おまけに、当時の航空機の操縦にはかなりの体力が必要なはずですし・・・」
「うそ・・・。」
「フッ、そういう事だ。勝利が約束されているなら、欲をかいてわざわざ危ない橋を渡らせるような事はしないものだぞ。」
「では、反論も無いようなので真珠湾攻撃についてまとめさせていただきます。」
1.真珠湾攻撃は博打の要素が強く、成功率は未知数だったが成功を収めた。
2.宣戦布告が遅れた事には異論は無い。次への反省点にする必要がある。
3.攻撃隊を再出撃した方が良かったかもしれないが、出撃を取りやめた判断も決して間違いでは無い。
「こんな感じかと思いますが・・・何か質問はありますか?」
「あんたが省きまくってた説明はいつすんのよ?」
「・・・正直、今となってはどうでもいい気がするのですが、要望があれば説明します。」
「要望は今、出しんでしょ!説明するならしなさいよ!」
「何の説明を後回しにしてたんだっけ・・・?」
「真珠湾の被害が少ない・・・という意見の事かと思います。」
「それだけじゃ無いでしょ。」
「真珠湾攻撃に関しては、ペテン師の某アメリカ大統領が
真珠湾に日本軍をおびき寄せた・・・と言うのが一般的な見方かと思います。
私も可能性は否定しません。しかし・・・」
「しかし?」
「かかし。」
「つまんないんだけど・・・」
「よく言うじゃないですか。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるって。」
「をい!」
「以前にも少し説明しましたが
アメリカ軍も日本軍同様、水深の浅い真珠湾での雷撃は不可能だと考えていた様です。
ここからは推論ですが、彼は戦艦なら日本軍に攻撃を加えられても大した事はないだろうと考えていたものと思われます。
事実、爆撃で戦艦に与えた致命傷はアリゾナ1隻のみ。しかも、アリゾナは単に当たり所が悪かっただけです。
通常の攻撃では大した被害を受けないと彼が考えていたとしても不思議はありません。」
「そうなのかな・・・。」
「アメリカ軍は真珠湾攻撃後大西洋方面から戦艦を数隻引き抜いています。
大した戦果で無いと言うのなら、そんな事をする必要は無いと思います。」
「ふむ、確かにそうなのかもしれんな。」
「・・・戦果に言及するなら、日本にとっての計算外は真珠湾攻撃でアメリカの士気が逆に高揚してしまった事でしょうか。」
「リメンバー・パールハーバーですね?」
「聞いた事あるわ。確か、その合言葉でアメリカが団結したとかって・・・」
「アメリカ人が自己を戒める言葉ですね。」
「はぁ?違うでしょ。それは日本に対する復讐を誓った言葉じゃないの?」
「そうでしょうか?日本軍の動きを察知しながら大打撃を被ったんですから、自己を戒める言葉と考えるのが自然かと・・・
まぁ、某大統領がそこまで謙虚とは思えないので士気高揚に利用したと考える方がやはり自然でしょうね。」
「これで説明は終わり?」
「はい。次は真珠湾奇襲と同時期に行われたマレー沖海戦になります。」
「まだ続ける気かい・・・。」