帝国海軍潜水戦隊 伍
「それでは、舞台を再び太平洋方面に戻しましょう。」
「いきなり戻されたって覚えてないわよ。」
「・・・ミッドウェー海戦において、潜水艦が空母ヨークタウンを撃沈したというのは以前に話したと思うので割愛します。
ミッドウェー以降は水上部隊同様、潜水戦隊の戦場もソロモン方面に移る事になります。」
「ふ〜ん。」
「あからさまに興味無さそうな返事してますねぇ。」
「興味無さそうじゃなくて興味無いの。いい加減飽きてきたんだけど。」
「で、ソロモンってのは?ドズルなんとかが居たとこか?」
「そうそう♪」
「ガトー少佐が核をぶっぱなした思い出の土地でつ♪」
「なんで昔の話にソロモンが出てくるんだ?」
「それ、ソロモン違いだっての。
地球のオーストラリア近くにそういう名前の場所があんのよ。」
「ネタにマジレス(・A・)イクナイ!」
「何がマジレスよ!大体、嘘を教えるあんたらが悪いんでしょうが!」
「嘘なんかついてないもん!」
「そ〜だそ〜だ!」
「やかましい!話の展開から考えれば宇宙要塞ソロモンが出てくるわけないでしょうが!」
「で、ソロモンってのは・・・?」
「20世紀半ばに起きた戦争の激戦区の一つだ。
先ほどから話に出ている日本とアメリカが消耗戦を行った地域と認識していれば良い。」
「・・・そうなのか。本当にソロモン違いじゃないか。」
「嘘は言ってませんもん♪」
「ね〜♪」
「もういい、お前らの言う事は二度と信用しない。」
「で、ソロモンがどうしたって?」
「主にインド洋方面で通商破壊を行っていた潜水戦隊ですが、
1942年8月にいくつかの部隊がソロモン方面へ投入される事になりました。」
「・・・何しに?」
「主に敵艦隊への攻撃になります。任務そのものは以前話した内容が基本です。」
「なんだっけ?」
「漸減戦術では無かったか?索敵しつつ状況に応じて適宜攻撃するとかいう話だったと思うが・・・」
「・・・正確には漸減戦術は破綻してたようなものなのですけどね。
以前にも少し話しましたが、敵艦隊の巡航速度が想定とは大きく異なっていたのですから
戦前の構想ではどうにもならないというのが現実でした。
まぁ、破綻したと言っても行動そのものはさほど変わりません。
細かい部分はともかく、結局は敵艦隊を攻撃しているワケですからね。」
「んじゃ、通商破壊やってたってのはどうなったんだ?」
「潜水戦隊の全部が全部ソロモンに投入されたわけではありません。
インド洋方面でも引き続き通商破壊戦は行われています。」
「ふ〜ん。」
「で、ソロモンに潜水艦を持ち出して何か戦果あったわけ?」
「第二次ソロモン海戦直後に正規空母ワスプを沈めてますよ。
その時、ついでに駆逐艦と戦艦一隻ずつにも損傷を与えてましたけど・・・何か御不満ですか?」
「そーやって稀な戦果をさも全体像であるかのように言うんじゃないわよ。」
「そういえば、ワスプの前に正規空母サラトガにも損傷を与えていますね。
機動部隊をもってしても敵空母を沈めるというのは難しい話・・・
ソロモンに展開してからは正規空母二隻を撃沈破し、他の艦艇にも損傷を与えているのですから評価されてしかるべきかと思いますが。」
「空母二隻破壊ってスゴイのか?」
「一応参考までに・・・緒戦で日本軍の主力となっていた南雲機動部隊との比較です。」
南雲機動部隊
空母・ヨークタウン(大破)
空母・エンタープライズ(中破)
空母・ホーネット(沈没)
第五航空戦隊
空母・レキシントン(沈没)
潜水戦隊
空母・サラトガ(小破)
空母・ヨークタウン(撃沈)
空母・ワスプ(撃沈)
「単純に空母だけでの比較ですが、機動部隊と比べても遜色無い戦果を上げています。
これでも帝国海軍の潜水戦隊は戦果が無かったと言えますか?」
「そういう事じゃなくてさ。私が言ってんのは他の使い道の方が良かったんじゃないのかって話よ。」
「ですから、通商破壊はインド洋方面や南方でやってますけど・・・」
「そーじゃなくて。」
「?」
「アメリカ軍の補給線を断つとか考えなかったわけ?
ちょっと空母を沈めたくらいじゃ何の意味も無いでしょうが。」
「ちょっとくらいとはなんですか。
サラトガは二回損傷させて戦線から離脱させていますし、ワスプは文字通りの撃沈です。
正規空母以外の空母なら他にも何隻かは沈めていますしね。」
「ふむ。それなりの戦果は上げているわけか。」
「でも、補給線とか狙った方がもっと良い戦果が上げられたんじゃないの?」
「・・・・・。」
「何よ、その目は!」
「補給線と簡単に言いますが・・・具体的にドコを狙うつもりなんですか?」
「へ?ドコって・・・んなの私が知るわけ無いでしょ。」
「投げやりキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!」
「るさいわよ!」
「・・・そんな曖昧な意見では検証のしようも無いのですが。」
「あんたもいちいち細かいわね〜!
アメリカって言ったって本土と前線の行き来くらいあるでしょうが。そういうトコを狙えば良いじゃない。」
「・・・・・。」
「何よ、その目は!ムカつくって言ってるでしょ!」
「本土と前線がどこを指しているのか解りませんが、
アメリカ軍にとっての後方ですから、当然の事ながら日本軍の拠点から遠い位置という事になります。」
「それがどうしたのよ?」
「拠点から遠く離れた区域での作戦行動となると、自ずと作戦遂行時間が短くなります。
簡単に図で表してみるとこんな感じでしょうか。」
拠点━━━━━━━━━━目的地
拠点━━━━━━━━━━━━━━━━目的地
「なんだこれは?」
「拠点と目的地の間の棒線を距離だと考えてみてください。
どちらの方が目的地で作戦行動を長く遂行出来ると思いますか?」
「いきなり言われても解らないし・・・」
「少しは考えてみろ。拠点と目的地の間を移動するという事は時間の浪費でもある。
長距離を移動するにはそれだけ多くの時間が掛かるものだ。」
「あ、そうそう。こういう騙し絵知ってます?」
<━━━━━━━━━━>
>━━━━━━━━━━━<
「いきなりどうした?」
「目の錯覚を利用した有名なヤツでつ。
棒線の長さは同じなんですけど、その脇にある記号のせいで下の線の方が長くみえてしまうという・・・
人間の目と言うのは実にだまされやすいものなんですよ。」
「ちょっと待ちなさいよ。あからさまに下の方が長いでしょうが。」
「それが錯覚でつ♪」
「んなワケあるか!くだらない事やってんじゃないっての!」
「あの、先程の質問なんですけど・・・何か意見はありますか?」
「遠いトコへいくのに時間かかるんならワープしちゃえば良いじゃん♪」
「ちょっと待て、そんな技術は宇宙世紀でも無いぞ。どこからそんな話が出てきた?」
「だって、某宇宙戦艦なんてワープしまくってすぐに某イスカンダル星から帰ってきちゃったじゃないですか。
行き道にあれだけ時間かけておきながら帰りが30分って・・・あれはどうかと思いまつよ?」
「30分って・・・あんたは何の話してんのよ。」
「一応、昔の話ですから当時の条件で考えてみてください。」
「考えてって・・・そりゃ距離が長い方が時間掛かるわな。」
「そうですね。同じ性能、同じスピードなら長距離移動する方が時間が掛かるのは明白です。」
「で、それが何なのよ?」
「ですから、長距離移動するという事はそれだけ目的地での作戦遂行時間が短くなるという事です。
相手の後方を衝くにしても、現地での作戦遂行時間が短くなればそれだけ効率も悪くなります。
史実でも日本海軍の潜水艦がアメリカ本土付近にまで進出した事はありますが・・・大規模な通商破壊は行ってませんからね。」
「ふ〜ん。」
「つーか、日本軍の潜水艦ってアメリカ本土にまで来てたの?」
「そうですよ?一応、日本軍の潜水艦がアメリカ本土を砲撃したという写真も撮られてますしね。
また、別任務で零式小型水上偵察機を使ってアメリカ本土を爆撃してますし・・・。」
零式小型水上偵察機
「色々やっているのだな。」
「こんな飛行機で大丈夫なの?見るからに性能低そうなんだけど・・・」
「何と比較して性能が低いと言うのかよく解りませんが
速度は時速250km程度で航続距離は約900km、爆弾搭載量は200kgにも満たない機体です。」
「そんなんで役に立つの?」
「有名な話ですが、アメリカ本土爆撃には成功してますよ。
オレゴン州の山中に焼夷弾を落とし山火事を発生させるという計画のために単機で出撃、
藤田飛曹長・奥田兵曹搭乗の水偵は焼夷弾を投下し母艦である伊25に帰還しています。」
「え?成功したの?」
「戦略目標である山火事は発生しませんでしたが、ちゃんと任務は遂行してます。」
「へ〜、すごいじゃん♪」
「( ・∀・)つ〃∩ ヘェー」
「後日談ですが、藤田飛曹長が戦後オレゴン州に招待され地元の方々に歓迎されたとか・・・
一方の藤田飛曹長は招待を受けた時、内心殺されるんじゃないかと覚悟して自刃して果てるための日本刀を持参していったとか・・・」
「殺されるんじゃないかって・・・どんな思考してんのよ。」
「そうですよ。みんながみんなアスカさんみたいなDQNじゃないんですから。ねぇ?」
「なんで私に同意を求めんのよ!大体、私がDQNってのはどーいう事よ!」
「だから、そのときのアメリカの中の人がみんなアスカさんみたいな思考してたら
その藤田さんって人もきっと袋叩きにされてたんじゃないのかな〜って思って♪」
「袋叩きなんてしないわよ!私はそこまで執念深く無いっての!」
「・・・爆撃の被害が少なかったからというのもあるかもしれませんが、
敵対し、自分達の地元を爆撃した兵士を招待し歓迎するというのも不思議な話ですね。
そういう思考はある意味アメリカの良いところでもある気がしますが・・・」
「へ〜、鬼畜米英のアンタがアメリカを褒めるなんて珍しい事もあるものね。」
「・・・私は鬼畜米英的な思考はしていませんが。」
「鬼畜米英・・・?なんだそれは?」
「平たく言うなら、敵国の人間を人間と見るなという標語と言ったところか。
米英とはアメリカ・イギリスの事だな。」
「じゃあ鬼畜ってのは?」
「この人の事でつ♪」
「人を指差すんじゃないわよ!なんで私が鬼畜呼ばわりされなきゃなんないのよ!」
「だって、鬼畜って酷く残酷で人情を知らない者って辞書に載ってましたもん。
アスカさんにピッタリじゃないでつか♪」
「誰が残酷で誰が人情を知らないってのよ!」
「ざ〜ん〜こ〜く〜な、てんしのように〜(ry」
「るさいわよ!」
「何がなんだか話が解らなくなってきたな・・・。」
「とりあえず、鬼畜米英は当時の日本の心構えの一つだと思っておけ。」
「あ、鬼畜ってのは恩義を知らない人という意味もあるみたいですよ。
これもアスカさんにピッタリ♪」
「あ〜、もう!アンタうるさい!」
「・・・あの、そろそろ話を戻しても良いでしょうか?」
「何の話をしてたのか解らなくなるな。」
「一応、日本軍の潜水艦がアメリカ本土近海にまで進出していたという話の途中だったと思いますが・・・」
「誰かさんが話しを逸らすから。」
「それはアンタでしょ!いい加減に黙りなさいよ!」
「いい加減、飽き飽きのツッコミでつ。もう少し進歩しないといけませんよ?」
「アンタが言うな!」
「・・・・・。」
「・・・本当に話が進まないな。
おい、同じ使徒仲間なんだろ?少しはなんとかしろ。」
「へ?俺に言ってんのか?」
「ヤツを除けば、お前以外に他に使徒はいないだろ。」
「んな事言われたって・・・別に使徒ってカテゴリーが一緒なだけで元々仲間とかって繋がりはねーしなぁ。」
「そうなのか?」
「そうなんでつ♪」
「大体、なんで使徒のアンタらが仲間になってんのよ。私はいまだにワケ解んないんだけど。」
「いいや、愛する人のために仲間を裏切り正義に寝返るのも世の王道だよ。美少年なら尚更ね。」
「どの口で言うのよ。大体アンタは美少年以前に男か女かすら解らないでしょうが。」
「まぁねぇ。確かに俺らの性別なんて解らんわな。」
「男だ女だなんて、世の中を二種類だけで分類するなんて間違ってまつ。
ほら、今流行のハードゲイの人とかも居るじゃないですか。」
「四の五のぬかすな!稀な話をそれが全部であるかのように言うなって言ったでしょ!」
「稀なんて酷いです!カミーユさんだって戦闘中にフォー!とか叫んだりしてるじゃないですか!
これはハードゲイが一般的に受け入れられてきた証左ですよ?」
「フォー!」
「あれはフォー!じゃなくてフォウ!人の名前!
大体、何が楽しくて戦闘中に脈絡無くフォー!なんて叫ばなきゃなんないのよ!どう考えても不自然でしょうが!」
「あ、そうだったんですか?私てっきり・・・」
「そ〜なんだ。あたしもてっきり・・・」
「お前ら・・・」
「さっぱり話が見えてこんが・・・」
「いい加減、話を元に戻しますよ?以前の説明を忘れられても困りますし・・・」
「エヘへ〜」
「もう忘れちゃいますた(´・ω・`)」
「・・・零式小型水上偵察機のアメリカ本土への爆撃の話を終えたところまで話したはずです。
この水偵ですが、当然本来の偵察任務にも使われ多くの偵察任務を完遂していました。」
「多くのってどれくらいよ?」
「正確な数は忘れましたが、偵察任務の8割くらいは成功していたはずです。」
「もう少しちゃんと調べなさいよ・・・。」
「また、ソロモン海域に投入された潜水艦は敵艦隊への攻撃だけではなく輸送任務にも使用されました。」
「輸送任務?」
「以前、ソロモン海域での前線への輸送任務が困難であった事を幾度か説明したと思います。
輸送船での輸送は言うに及ばず、高速の駆逐艦でもアメリカ軍に捕捉されてしまえば任務の完遂は危ういものとなってしまいます。
その様な状況では、当然の事ながら隠密製の高い潜水艦が輸送任務に使用されないはずがありません。
しかし、輸送任務に使用するには潜水艦は不向きな艦種と言えました。」
「そなの?」
「潜水艦はただでさえ居住性が良くありません。
一応、物資を積めない事はありませんが、同サイズの水上艦艇と比べると潜水艦の積載量はかなり低かったのです。」
「駄目じゃん。」
「そこで、計画されたのが輸送用の潜水艦の建造です。
最初に計画されたのは、装備の変更等で積載量の増加を試みたものですが
通常の潜水艦よりも船体の幅を増やした上で輸送任務に不要と思われる装備を排除、本格的な輸送用の潜水艦が計画されました。」
「つーかさぁ、ただでさえ工業力が低いのにそんなにホイホイ種類増やして大丈夫なワケ?」
「どゆこと?」
「だから、種類を絞った方が生産しやすいって話よ。
特にドイツなんて、潜水艦の種類を絞って造ってたからこそ大量生産出来たわけだし。」
「海軍も無定見に種類は増やしてませんよ?
戦中に建造計画を見直した時には無駄を極力減らし、出来るだけ効率化を進めようとしてましたしね。」
「だからって種類増やしてどうすんのよ?効率化進んでないじゃん。」
「・・・必要に迫られて輸送用の潜水艦を建造しようという話になったのです。
それは、既存の潜水艦では輸送量が少なく効率が悪いからに他なりません。
それとも何ですか?既存の輸送量が少ない潜水艦で効率が悪いまま輸送作戦を行えと?」
「そうじゃないけど・・・だからって日本の潜水艦の種類が多い理由にはなんないでしょうが。」
「当時の兵器開発も試行錯誤の状態ですから、様々な試みがなされるのは自然な事かと。
ドイツの効率化が良いとしても、日本がそれを真似るのは十分な時間と予算が無ければ不可能です。
当時の日本に規格統一を求めるというのは酷ですよ?」
「で、アンタはまた擁護を始めるわけね。」
「・・・擁護ではなく正当な主張です。
とりあえず、ソロモン方面での潜水艦の役割は哨戒や敵艦隊への攻撃、輸送任務だった事は解っていただけたと思うので次に移りましょうか。」