帝国海軍潜水戦隊 肆
「で、ドイツがどうしたのよ?日本の話とはあんま関係ない気がすんだけど。」
「・・・ドイツを引き合いに出してきたのは貴方でしょう?
私としても脱線を助長するのは本意ではないのですが・・・、説明上必要となったのであれば仕方ありません。」
「脱線(・A・)イクナイ!」
「あんたが言うな!」
「あのさ、ドイツってそんなにスゴかったの?全然知らないからピンとこないんだけど。」
「第一次世界大戦の頃も通商破壊に力を入れ、かなりの戦果を得ていたのですから
第二次世界大戦においても同じような戦略に行き着くというのはむしろ当然の話でした。とりあえず実績があるわけですからね。
そして、ドイツはヴェルサイユ条約により海軍の装備についても制約があったため
主力艦の分野に関しては他の海軍国に比べ遅れを取ってしまっていたのです。」
「遅れ?いつだったか話に出たビスマルクはどした?」
ビスマルク
「ビスマルクの設計思想は第一次世界大戦当時のものだったそうです。
まぁ、艦そのものの設計思想が古くとも建造時期や運用まで考えればそれほど問題があるわけでもありませんけどね。」
「どういう事だ?」
「ドイツ海軍の基本戦略の元となっているのが仮想敵国のイギリスであり、
海軍国のイギリス相手に正攻法では勝ち目が無いのは明確です。そこで出た結論が通商破壊というのは以前に説明しましたよね?」
「で?それが何なのよ?」
「つまり、戦艦と言ってもビスマルクの主任務は通商破壊となります。
艦隊決戦を行う事が目的ではありませんから、対戦艦の兵器としては多少問題があろうとも大した欠点ではありません。」
「はい?」
「・・・ビスマルクも色々言われているんですよ。
主砲周辺の水密が悪かったとか、レーダーがよく壊れたとか、主砲斉射の衝撃でクレーンがよく壊れたとか・・・」
「壊れてばかりだな。」
「もっとも、ビスマルク自体新造艦であり問題点を修正する前に沈んでしまったから仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。
それに、新兵器に不具合が出るというのはよくある話でもありますし。」
「でも、ビスマルクはちゃんと敵の戦艦沈めてんだし
射撃方位盤が壊れたどこぞの巨大戦艦に比べたらよっぽどマシだと思うんだけどねぇ〜。」
「目くそ鼻くそを笑う・・・」
「なんですって〜っ!」
「・・・その意見には賛同出来ませんね。根拠の無い誹謗中傷には感心しません。」
「シクシク・・・ちょっと言ってみただけなのに、集中攻撃されたニダ。」
「お前達、珍しく意見が一致したな。」
「別にファーストと意見を合わせたワケじゃないわよ。」
「・・・話を戻します。ところで何の話の途中でしたっけ?」
「ドイツとやらの話だろう?確か通商破壊の話の途中だったはずだが。」
「サキエルさんが話を逸らすから。」
「いや、そんなつもりは無かったんだが・・・」
「とりあえず、ドイツは色々な事情があり潜水艦の建造に力を入れていたという事です。
そして、ドイツ海軍の目的は主に敵国であるイギリスの通商破壊となったのです。
第一次世界大戦での実績があったとはいえ、その効果は絶大でした。」
「そうなのか?」
「開戦当初はイギリスの準備が整っていなかった事もあり、輸送船の被害は甚大。
また、輸送船のみならず戦艦や空母もUボートの餌食となっていました。
もちろん敵に捕捉されればUボートも沈められる事はありましたが、それでも輸送船への被害を食い止めることは出来ませんでした。」
「ふ〜ん・・・。」
「また、ドイツ海軍が採用した群狼戦術
・・・ウルフパックとも呼ばれていたみたいですが、
その戦術も輸送船の被害を大きくした要因の一つですね。」
「なにそれ?」
「洋上の輸送船航路付近にUボートを散開、輸送船団を捕捉次第、襲撃地点に集合
主に夜間を利用して各艦が連携し輸送船団を襲うというものです。
それはさながら羊の群れに襲い掛かる狼の様に・・・Uボートが恐れられたというのも戦果を考えれば頷ける話です。
実際、群狼戦術を採用した事により輸送船の被害はさらに大きくなりましたからね。」
「ふ〜ん、スゴいんだね。ねぇ、あたし達もやってみない?」
「お前は・・・藪から棒に何を言い出すんだ?」
「プルツー、質問に質問で返さない。こんなの基本だよ?」
「・・・お前に説教されたくない。で、なんだ?」
「え〜と、ウルフパックだっけ?使えるっ方法ってんならやってみたくなるのが人情ってヤツじゃん♪
次に出撃したときやってみようよ、ね?」
「ね?じゃない!一々、お前のくだらない思いつきに付き合ってられるか!」
「ぶ〜・・・、つまんないの〜。」
「話を戻しますが・・・Uボートだけではなく、
先ほど紹介したビスマルクの様な水上艦艇も通商破壊戦に投入されて戦果を上げていました。
ポケット戦艦と呼ばれた1万トンクラスの戦艦が使われた事でも有名ですね。」
「ポケット戦艦?」
「戦艦と巡洋艦の中間に位置する軍艦です。他国の重巡と比べると重武装だったため、注目されていたとか・・・
ドイッチュランド、アドミラル・グラーフ・シュペー、アドミラル・シーアの3隻は通商破壊に投入されそれぞれ戦果を得ています。」
「ふ〜ん、ドイッチュランドって何かカワイイ名前だね♪」
「可愛いというかなんというか、一応ドイツの名を冠する名前なのですが・・・
ちなみにドイッチュランドは、後にリュッツォウと名前を変更されているようです。
なんでも、戦没する事で国民の士気が低下する事を恐れたからだとか・・・」
「全然興味ないけど・・・」
「ただ、こういった艦艇は単艦、あるいは2艦で行動するのが基本だったため
一度捕捉されてしまうと簡単に危険に陥ってしまいました。
通商破壊戦に投入されたドイツ軍水上艦艇の多くが沈没、または自沈に追い込まれています。」
「何やってんですかねぇ。少ない数でうろついてたらタコ殴りにされるのも当たり前じゃないですか。」
「そうだわな。」
「あんたらが言っても説得力無いっての。」
「そういえばさ、ドイツに空母って無いの?」
「いきなり何を言い出す?」
「だって、海軍の話してたら空母が出てくるのが当たり前じゃん。」
「別に、当たり前じゃないわよ。
ちょっと、ファースト。アンタが偏った説明してるからプルが誤解しちゃってんじゃない。」
「・・・私のせいですか?」
「白々しい事言うんじゃないわよ!
小さい子相手に偏った説明を長々としてたら、思考が偏るのも当然でしょうが!」
「同志エルピー・プルは、いずれロンド・ベル隊の中核を成すお方で、それに見合った正しい物の見方をしておられる。
貴様こそ心変わりしたのでは無いか?」
「ワケわかんないっての!アンタは黙ってなさいよ!」
「ドイツ軍も日本の空母を参考にグラーフ・ツェッペリンという空母を建造、ほとんど完成させていましたが
実際には艦載機の問題等があり、実際には戦場に出ること無く終戦を迎えています。」
「そ〜なんだ。なんで駄目だったの?」
「艦載機の問題もそうですが、
たとえ完成していたとしても時期的に外海に出られる状況でも無くなってましたし訓練体系も整っていたワケではありません。
兵器をただ造っただけでは役に立たないという好例ですね。
まぁ、どうでもいい話ですが、グラーフ・ツェッペリンが戦線に投入されたら
どんな使い方をされたのかというのは個人的に興味がありますけど。」
「ホントにどうでも良いっての。通商破壊の話はどこへいったのよ?」
「そういえば、イギリスとやらがどの程度の戦力を保有していたのかは知らんが、護衛はどうしたのだ?
輸送船を良い様に沈められっ放しでは話にならんだろう?」
「では、話を戻しましょう。
緒戦こそ優位に戦いを進めていたドイツ海軍ですが、イギリスの準備が整いアメリカが参戦すると状況が変わってきました。
戦争初期はイギリスと言えどそれほどの余裕はありませんでしたが
護衛体制が形となりアメリカから旧式駆逐艦を貸与され、護衛空母が大西洋に回されてくるようになってくると
Uボートの損害も次第に増えるようになってきたのです。」
「我がナチスのォォォ!科学力はァァァァァ!世界一チィィィィ!なのに?」
「・・・どんな質問だ。」
「緒戦はアメリカの本土近海にまで出没、大西洋からインド洋まで我が物顔で暴れまわったUボートに対し
連合国側も護衛空母と駆逐艦で構成された対潜用の部隊を編成し対抗するようになりました。
主に護衛空母を旗艦として、哨戒機を飛ばし情報を収集しつつ状況に応じて適宜攻撃
発見したUボートへ駆逐艦を誘導しつつ共同でこれを仕留めるというものです。」
「飛行機なんかで潜水艦が見つかるのか?」
「潜水艦と言っても、当時の基本は水上航行ですからね。
たとえ潜航したとしても水中速力などたかが知れていますから、駆逐艦に包囲されてしまえばひとたまりもありません。
また、アメリカ軍の哨戒機にレーダーが搭載され始めた事でUボートの損害はさらに増えるようになってきました。」
「ドイツも大変なんですねぇ。」
「当然の事ながら、ドイツも対抗策として逆探を装備したり
音響魚雷を開発して護衛艦に反撃するなどの方法を執りましたが、時がたつと連合国側も対処策を講じてきます。
結局はその繰り返しで・・・文字通りのイタチゴッコになってしまいました。」
「まぁ、そんなものだろうな。」
「ところで音響魚雷ってのは?」
「主にスクリュー音を探知して追尾する誘導兵器です。
どこの国の話かは知りませんが、自分で撃った音響魚雷が自艦のスクリュー音を探知し命中、沈んでしまったとか・・・」
「自分で自分に命中って、なんつーアホな事してんのよ・・・。」
「どこの国だ?んな愉快な事してんのは。」
「多分、ドイツかアメリカのどちらかでしょう。」
「え?」
「ドイツ人の血を引いたアメリカ国籍のアスカさん、ご意見をどうぞ!」
「うるっさいわね〜!んなの関係無いでしょうが!」
「だってもう、サラブレッド並に血統が良いじゃないですか(・∀・)ニヤニヤ」
「うるさいっつってるでしょ!」
「でもさ、音を探知して戻ってくるんじゃその武器危ないんじゃないの?」
「お前にしては的確な指摘だな・・・。」
「ふ〜んだ。あたしだってちゃんと考えてるもん。」
「では、図で表してみたのでこちらをご覧下さい。」
「大抵の潜水艦の魚雷発射管は艦首か艦尾にあります。数は大体、4〜8本程。
右に示したのは音響魚雷の簡単な図ですが・・・音を探知すると言ってもちゃんと探知範囲があり
前方約15度の角度がその範囲だったそうです。」
「じゃあ、後ろから音がしても戻ってこないって事?」
「そうなりますね。」
「ならなんで戻ってくるんだ?」
「ほら、誰かさんみたいにひねくれてるから。」
「るさい!誰の話をしてんのよ!」
「別にアスカさんの事なんて話してなうわなにをするやめ(ry」
「では、次はこちらをご覧下さい。」
工夫なし 工夫あり
「なんだこれは?」
「以前使用したの図の流用ですが・・・、青が自分の潜水艦だと思ってください。」
「それで?」
「先ほど示した図を見てもらえば解るかと思いますが、魚雷発射管は縦に付いています。
何の工夫も無しにそのまま発射すれば左の図みたいになってしまうのは簡単に予想できますよね?
当時の魚雷は基本的に無誘導ですから、縦に集中させてしまっては命中率の向上が見込めない事になります。」
「なるほど、命中率を高める為に右の図のように魚雷を放射線に放つという事か。」
「正確に言えば放射状ではありませんが解りやすく言うとそんなところです。
狙いがしっかりしてさえいれば無誘導とは言っても魚雷はそこそこ命中するものですからね。」
「で、それが音響魚雷の話と何の関係があんのよ?」
「魚雷が放射状に放たれるのは、魚雷が発射直後に広がるように調整されているからなんです。
そして、先ほど話した音響魚雷が自艦に戻ってきてしまったというのは
調整ミスや何らかの異常により、魚雷が想定以上に旋回し魚雷の先端が自艦の方向を向いてしまい
さらに運悪く、音響魚雷の探知範囲にたまたま自分が入ってしまったのだと考えられます。」
「あららぁ〜。」
「・・・なんか悲惨な話だな。」
「ほんとほんと。」
「大変ですねぇ(・∀・)ニヤニヤ」
「うるさいわよ。」
「まぁ、そういった新兵器を投入し双方の攻防が激化していたわけですが
1943年の半ばを過ぎた頃を境に、Uボートの損害が格段に増え始めるようになってしまいました。
時期的にもアメリカの準備が整い始めた頃でもあり・・・以降、Uボートが優位に立つ事は無くなります。
また、程なくして長い間使われてきた群狼戦術も廃止されました。」
「止めちゃったの?」
「被害が増えるばかりで戦果が芳しくありませんからね。
連合軍は群狼戦術を行うUボート同士の無線のやり取りを傍受してUボートを探知したりもしてましたから。
もっとも、群狼戦術を止めてもUボートの被害が少なくなったわけでもありませんけどね。」
「それじゃ、その後はどーなっちゃったの?」
「連合軍のノルマンディー上陸により、フランスにあったUボートの拠点も使用不能となりました。
その後もわずかなUボートが活動し、最後まで戦っていましたが・・・最終的には戦局を覆すには至らず終戦を迎えました。」
「で、長々とドイツの話をしたのはなんでよ?」
「貴方がドイツの通商破壊の話を振ったから説明したのですよ?
その言い方はどうかと思いますが・・・」
「説明が長いっての!」
「で、ドイツと同盟国だったとは言え日本と何の関係があるのだ?」
「だから、通商破壊が良かったんなら日本も真似てれば良かったでしょうが。」
「前も言いましたが、緒戦なら日本軍も南方やインド洋方面で通商破壊作戦をしてましたよ。」
「緒戦だけでしょ?最終的には敵の主力艦隊相手に使ってんじゃん。」
「・・・それが何か?」
「何かじゃないわよ!なんで意味のある事をしようとしないのよ!」
「・・・何か勘違いしていませんか?ドイツと日本ではお互いの前提が違うんです。」
「え、違うってなにが?」
「ドイツが敵対したイギリスは日本と同様の島国です。
そのイギリスは輸送船で運ばれる物資が届かなければ国として立ち行かなくなってしまうのです。
当時1年間に必要としていた物資の総量は約5000万トン、少なくとも4300万トンは必要だったと言われています。
ですから、通商破壊を行われる事は生命線を脅かされる事と同義と言っても過言ではありません。
そういった点では日本とイギリスは非常によく似ていると言えますね。」
「だからなによ。」
「逆にイギリスがドイツに通商破壊を仕掛けたとして戦果は得られたと思いますか?
仮に輸送船を沈めたとしても、直接戦局を左右できるほどの影響を与える事は不可能です。ドイツは大陸にある国家ですから。」
「だからなんなのよ!ワケが解らないわよ!」
「それと一緒なんですよ。日本軍がアメリカ軍に対し通商破壊を仕掛けるというのは。
もちろん輸送船を沈める事で戦術的には大きな効果があるかもしれませんが・・・緒戦は後知恵です。」
「なんですってぇ〜!」
「プルツーさん、よく見ておいた方が良いでつよ。」
「は?何がだ?」
「ここから本格的にアスカさんが玉砕するんですから。
まるで息をするように玉砕する・・・もはや神に等しい存在なんでつ♪」
「うるさいわよ!」
「とりあえず、日本の話に移行したいと思うので・・・その辺りも含めて次に移りましょうか。」