帝国海軍潜水戦隊 弐
「それでは次です。今回は当時の潜水艦の基本的な構造について説明したいと思います。」
「また、マニアックな話を・・・」
「出来るだけ簡単にするつもりです。
それに、当時の潜水艦を理解する上で構造の説明は欠かせませんからね。」
「ぜんっぜん興味無いんだけど。」
「さて、当時の艦艇の多くは重油・・・元は石炭も使われていましたが、
その多くが蒸気を基本としたエンジンで動いていました。」
「じょーき?」
「大昔に使われていたエンジンの一種だ。
水を熱する事で高圧の蒸気を発生させ、その蒸気圧でエンジンを動かすタイプの機関だ。」
「よく解らないんだけど・・・」
「図で表すとこんな感じです。」
左から、スクリュー・タービン(機関)・ボイラー(缶)
「だからさぁ・・・もうちょっとマシな絵を描きなさいっての。何なのよ、この落書きは。」
「まず、右にあるボイラーで可燃物を燃やす事で水を熱し蒸気を発生させます。
その蒸気圧でタービンを回し、その回転力がスクリューを回す力となって船を航行させるのです。」
「人の話を聞きなさいよ!」
「・・・では、実物に忠実な絵を提示して解りやすいと思いますか?
図というのは簡略化するから解りやすくなるのであって、精密な絵を描いたところで解りやすくなるものではありません。」
「精密とかじゃなくて丁寧に描きなさいって言ってんの。
ボイラーはともかくとして、スクリューとかタービンとかメチャクチャじゃない。」
「・・・十分に丁寧ですよ?」
「どこがよ!大体なんなのよ、そのミジンコみたいなタービンは!」
「ミジンコと言うよりはボルボックスでは?」
「いちいちうるっさいわね〜!んなのどうだっていいでしょうが!」
「・・・何の事かよく解りませんが、タービンだと理解して頂けたのなら問題ありません。」
「確かに絵としては精密と言えんが、それぞれの役割が解るのなら気にする事もあるまい。」
「甘いわよ!そうやって手抜きをほったらかしにしてるから、んな落書きで済ませようとするんでしょうが!」
「落書きなんて人聞きの悪いことを言わないで下さい。これでも5分くらいは掛かってるんですよ?」
「5分しかでしょ!説明するならもう少し真面目にやんなさいよ!」
「・・・さて、とりあえず当時の水上艦艇のエンジンについての基本は解っていただけたかと思います。」
「ちょっと!無視すんじゃないわよ!」
「華麗にスルーされてるアスカさん萌え〜♪」
「るさいっ!」
「ね〜ね〜、プルツーは分かった?」
「まぁな。水蒸気を利用してエンジンを動かしてるって事だろ?要は蒸気機関って事だ。」
「そなの?」
「・・・まぁ、そんな感じかと。」
「すっご〜い!」
「フフ、褒めても何も出ないぞ。」
「さすがサン・・・」
「・・・・・。」
「サン・・・サン・・・マ・ツ・ケ・ン・サ〜ンバ〜♪」
「なに言ってんのよ、あんたは・・・」
「オレ♪」
「・・・ワケ分かんないってば。」
「で、そのエンジンと潜水艦となんの関係があるんだ?」
「・・・潜水艦は他の水上艦艇と違い、水の中に潜る事を目的とする船です。
ですが、蒸気を利用したエンジンでは可燃物を燃やした後に出る排煙の通路や高温となるボイラーの熱が
急速潜行を求められる潜水艦にとっての障害となってくるのです。」
「よく分からないなぁ・・・」
「そうですね・・・。ボイラーというのはかなり高温になるのですが、
他の水上艦艇なら熱を外に放出出来ますから問題はありませんが、潜水艦となると話は別です。
周囲が水な訳ですから、ボイラーの熱に逃げ場が無くなるという事になります。」
「そなの?」
「まぁ、水中で蒸気機関を動かすというのは排煙の問題もありますから現実的とは言えませんが
水中で動かさないとしても、急速潜行するにはそれまで動かしていたボイラーの熱をどうにかしなければなりません。
そうしなければ、艦内が暑くなってたまりませんからね。」
「どうにかって・・・どうやってだ?」
「どうにもならないので、蒸気機関は一部の国で実験的に使われただけで潜水艦の主力機関としては採用されませんでした。
そこで出てくるのがディーゼルエンジンです。」
「でぃーぜる?何それ?」
「軽油を利用した内燃機関のひとつです。こちらがディーゼルエンジンの簡単な概要になっています。」
ディーゼルエンジン
「だからさぁ・・・」
「大まかな造りはガソリンエンジンと大差ありませんが、ガソリンエンジンが点火プラグで混合ガスに着火し爆発させているのに対し
ディーゼルエンジンは燃焼室に軽油を噴射する事で爆発力を得ています。
燃料を直接燃焼室に噴射するディーゼルエンジンは、燃焼効率が良く燃費も良いので航続距離の点でも良い効果が期待出来ると言えます。」
「だから、図がヘボいっていってるでしょうが!無視すんじゃないわよ!」
「ところでディーゼルってのが良いなら、なんで蒸気機関なんか搭載しようとしてたんだ?」
「当時のディーゼルエンジンは蒸気機関に比べて高い出力が得られなかったのです。
高い水上速力を得るには高出力のエンジンが必要だったので、蒸気機関の搭載も考えられたのですが・・・
結果的にはディーゼルエンジンの出力増大を目指して開発が進む事となりました。」
「ファ〜スト〜!あんたは〜!」
「華麗に流されているアスカさん萌え♪」
「るさいっての!」
「・・・意外に思われるかもしれませんが、ディーゼルエンジンというのは精密さを要求される機関です。
日本も他国からディーゼル機関を輸入し研究開発するものの、その道筋は決して平坦なものではありませんでした。」
「ディーゼルって、あんまり凄いイメージは無いけどな。」
「・・・例えば、ガソリンエンジンは点火コイルからなる電装系が制御していますが
ディーゼルエンジンは燃料噴射ポンプでその行程を制御しています。
毎分何千回転というエンジンに噴射する燃料を制御しなければならないのですから、当然の事ながら精密に作らなければなりません。
燃料噴射タイミングが安定しなければエンジン出力や信頼性の低下、さらに、エンジンそのものにダメージを与える可能性すら出てきます。」
「何が何だか解らないんだけど・・・」
「ディーゼルエンジンが難しい造りをしている事が解っていただけたのなら、他は聞き流していただいて結構です。
とりあえず、日本として潜水艦の動力をディーゼルと蓄電池によるモーターの併用とする事で開発が進められる事となったのです。」
「蓄電池・・・バッテリーの事か?」
「そうです。」
「現時点で潜水艦は電力に頼るしかないの。水中に潜ってもしばらくならバッテリーで動けるわ。これが今の私たちの科学の限界。」
「なんか、どっかで聞いたような台詞ね。」
「リッちゃん(;´Д`)ハァハァ」
「おいおい、節操無しかい・・・」
「水中でディーゼルエンジンを活用する方法が無かった訳ではありませんが、基本的に潜行時はモーターで推進する事になります。
水上速力を重視した艦形の影響もあり、水中速力は良くて10ノット程度というのが当時の潜水艦の性能でした。」
「10ノットって・・・どれくらいのスピードなんだっけ?」
「1ノットは時速1.8km程度だから、どんなに早くても時速20kmは超えていまい。」
「ふ〜ん。あんまり速くないんだね。」
「当時の潜水艦は、水に潜る事の出来る艦艇と言った意味合いの方が強かったですからね。
後年の原子力潜水艦の様に、長期間ずっと潜っていられるようなものではありませんから。」
「なんでよ?潜水艦って水に潜るのが仕事でしょ?」
「・・・当時は機関の問題もありましたが、一番大きな問題は酸素です。」
「酸素って・・・あの酸素だよね?」
「・・・水中に潜り、しかも密閉された潜水艦では当然の事ながら外気を取り込む事が出来ません。
それに対し、艦内は多数の乗組員が呼吸をしなければなりませんから、当然炭酸ガスの濃度が上がる事になります。
対策が何も無かったわけではありませんが、どちらにしろある程度の時間が経過すれば浮上して外気を取り入れなければならないのです。」
「大変だな、昔の兵器は。」
「・・・性能的には現在の兵器とは比べるべくもありません。
しかし、そういった過去の積み重ねがあるからこそ現在の兵器開発にも生かされているのです。
日本においても潜水艦開発初期には多くの殉職者が出てしまいました。
彼らの尊い犠牲があったからこそ、後年の潜水艦開発が進んだといっても過言ではありません。」
「兵器がどうたらって・・・どこかの平和主義者が聞いたらファビョりそうな台詞ね。」
「リリーナさんでつか?」
「いや、別にあの人って訳じゃないけど・・・」
「おおよそですが、帝国海軍が建造した潜水艦は次のような造りをしています。」
「また・・・」
「当時の潜水艦は外殻と内殻に分かれていましたが、面倒なのでその点は省いてあります。
赤で示した部分がディーゼル機関が搭載されている機関室、黄で示した部分は蓄電池が設置されている区画となります。
司令塔や乗組員の居住区、魚雷発射管その他はそれ以外の部分という事になりますね。」
「おい。」
「潜水艦の主兵装である魚雷発射管は艦によってまちまちですが艦首に4〜6、艦尾に1〜2という配置が多かった様です。」
「ちょっと!人を無視すんじゃないわよ!」
「・・・何か?」
「なにかじゃないわよ!図がヘボいって言ってるでしょうが!」
「前よりは出来るだけ丁寧に描いたつもりですが・・・」
今度の 前の
「形変えてあるだけでしょうが!どっちも落書きじゃない!」
「あれ?でも、なんで形が違うの?どっちも潜水艦なんでしょ?」
「・・・何度か話に出していますが、水上速力を求めた結果です。
水中を進むのなら艦の抵抗を減らした右のホランド型の方が理に適っているのですが、
水上を進むには凌波性・・・水を掻き分けて進む艦形にしなければ水上速力を高める事は出来ません。
したがって、多少水中での抵抗が増えようと、水上を速く移動する事ができる左の艦形が当時の主流となったのです。」
「やっぱりよく解らないや・・・。」
「潜水艦と言っても、当時は水上航行がメインでたまに潜るといった感じですからね。
迅速な移動という点から考えても、水上速力を求めた当時の考え方に間違いは無かったわけです。
もちろん、水中速力を高める研究がなされていなかった訳ではありませんが。」
「で、潜水艦の話ってのはこれで終わりか?」
「いえ、まだあります。次はシュノーケルについての説明です。」
「シュノーケルって・・・泳いだりするときに使うヤツでしょ?」
「そうです。原理としては大体同じ様なものです。」
「シュノーケルの目的はいくつかありましたが、
日本の場合は、水中航行に必要な蓄電池に充電するためのディーゼル発電機を動かす為にシュノーケルを使っていたそうです。
シュノーケルも正式には特殊充電装置と呼ばれていたそうですが・・・」
「で、これがどうしたのよ?」
「いえ、そういうものを装備していたという予備知識の一つです。
もっとも、この特殊充電装置はすべての潜水艦に装備されていたというわけでもありませんが・・・」
「別に知りたくもないわよ。」
「アスカさん。今度はイチャモンつけないんですか?」
「は?別にそんな気も無いわよ。どーせ、言うだけ無駄だし。」
「でもさ、なんで空気入るトコが下むいてんの?」
「雨が降っていたらどうするつもりだ?それに波が高ければ直接艦内に水が入り込んでしまうだろう?」
「あ、そっか・・・。」
「そんな事も解らないのか?こんなのが私の姉だなんて・・・頭が痛くなってくる。」
「あ〜、そんなこと言っていいのかな〜?プルツーってあたしが説得したからここにいられるんだよ〜?」
「ふ〜ん、となると場合によっちゃこの嬢ちゃんも敵のまんまだったって可能性もあるわけか。」
「別にあたしはどっちでも・・・
最強だって噂されていたロンド・ベル隊がこんな部隊だとは思わなかった・・・。」
「いや・・・別にみんながみんな、こんな感じってワケじゃないし。」
「そうですよ。みんながみんなアスカさんみたいな人ってワケじゃないんですから。」
「それ、どーいう意味よ。」
「だから、アスカさんみたいに怖い人はそんなに居ないかな、と♪」
「なんですってぇ〜!」
「・・・とりあえず次です。」
「まだ何かあるのか?」
「・・・潜水艦は水上では敵の有無を目視で確認しながら進む事が出来ますが水中ではそうはいきません。
密閉されている以上、窓などありませんし潜望鏡を使うにしても深く潜ってしまえば潜望鏡すら使用不能となってしまいます。」
「なんで窓がないの?」
「・・・水圧というのは弱い部分に集中します。
仮に窓を設置して通常航行に支障は無かったとしても、爆雷攻撃を受けてしまえば当時の窓ガラスでは耐える事など出来ません。
それ以前に、遊覧船では無いのですからわざわざ窓という弱点を造る必要も無いでしょう。
窓を付けたとしても水中での視界は深度が増すほど悪くなりますので、その様な発想自体があまり意味が無いかと・・・」
「・・・だそうだ。」
「ぶ〜、シャア大佐が乗ってたマッドアングラーなんとかだって窓ついてんじゃん。」
「そんな事を言われましても・・・」
「で、結局なんなのよ。何か話があんでしょ?」
「・・・目視による確認が出来ない潜水艦は別の手段を講じるしかありません。
その為の装備の一つが水中聴音機・・・平たく言えばパッシブソナーが挙げられます。」
「母さんが言う〜、そ〜いうパーマは変だと、氏の〜♪」
「なにそれ・・・?」
「空耳ア〜ワ〜♪」
「知らないわよ・・・。」
「念のために言っておきますけど、さっきのはシナーって曲の空耳なんですよ。どうです、面白いでしょ?」
「おもしろかないわよ!大体、ソナーとなんの関係もないでしょうが!」
「ソナーとシナーって似てるじゃないですか。」
「やかましい!」
「・・・・・。」
「話が全然進まないな。」
「いつもの事だ。すぐに慣れる。」
「そういう問題じゃないだろ。」
「・・・さて、日本軍が使用していた水中聴音機の基本的な仕組みは次の通りになっています。」
「なにこれ?」
「・・・ドイツから輸入したものをコピーした93式水中聴音機の概要です。
潜水艦の前部に捕音機があり数は全部で16、1〜8が右舷9〜16までが左舷に設置されています。
実際には、それぞれの捕音機を切り替える事で敵の方向を割り出すという事になります。
例えば、1〜3の捕音機が音を探知した場合、1〜3の捕音機の中で最も音が大きく聞こえる方向・・・
つまり、自分達からみて12時から2時の方角に音源があるという事になりますね。」
「でもさ、音なんかで敵とかって判るの?」
「・・・水中は空気中と比べて音を広範囲に伝えます。
また、訓練しだいではスクリュー音などを識別できるようにもなりますので、敵を探知するという点では十分に使える兵器です。
ただ、聴音機の数が多いわけではないので、方向探知という点では完璧とは言えません。」
「そういえば、日本軍の電装はあまり信頼性が高くなかったのではないか?」
「被服電線もお粗末なモノでしたしねぇ。」
「コンセントとかも駄目だったって話も無かったか?」
「空気の入った真空管なんて話もあったよね。」
「挙句の果てには、新鋭戦艦の射撃方位盤が主砲発射の衝撃で壊れたなんて話もあったものね〜。」
「・・・悲しくなるような事を一斉に言われても困ります。」
「なに言ってんのよ。ホントの事を指摘しただけじゃない。」
「さすがアスカさん、嫌味を言わせたら右に出る人は居ませんね♪」
「んだな。」
「うるっさいわよ!あんたらだって電線とかコンセントがどうたら言ってたでしょうが!」
「マシュマー様が変な事言うから。」
「む、すまん。質問以上の意味はなかったのだが・・・」
「かまいません。事実には違いありませんから・・・」
「お前達、何の話をしてるんだ?」
「ん〜とねぇ。ぶっちゃけて言うと、日本って国の電化製品があんまり良くなかったって話♪」
「ぶっちゃけ過ぎよ・・・。」
「ところで何か質問はありますか?」
「別に無いけど。」
「一つ聞くが、音で方角を探知するというのは解ったが距離はどう判断するのだ?」
「・・・距離は超音波を放ってその反射波を測定する方法で測定します。
もっとも、自艦から音波を発する事は逆探知されてしまう可能性もあるため、あまり使用されず
ほとんどは聴音機で方角を探知し、後は潜望鏡で確認するといった感じだったようですね。」
「何のための装備なんだか・・・」
「探知されてしまっては意味はありません。潜水艦は隠密性が重要なのですから・・・」
「でも、戦争じゃ役に立ってないじゃん。」
「プルツーさん、よく見ておいた方がいいですよ。これから始まるんですから。」
「は?何が始まるんだ?」
「すばらしい事です。」
「映画ネタキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!」
「そのネタ・・・マイナー過ぎやしないか?前作が有名すぎるってのもあるかもしれんが。」
「別に良いじゃないですか。それにホラ、私も角度を変えればモノリスみたいに見えません?」
「見えないわよ!つーか、何の話なのよ!」
「だから、これからアスカさんの玉砕が始まるからしっかり見ておいた方が良いとプルツーさんに助言したんでつ。」
「誰が玉砕よ!」
「玉砕?」
「自爆ですよ、じ・ば・く♪」
「うるさいっつってるでしょうが!」
「・・・・・。」
「本当に話が進まんな。」
「・・・当時の潜水艦についての基本的な構造は解っていただけたとして、次に移りましょうか。」