帝国海軍潜水戦隊 零
「はぁ・・・、暇・・・。連絡するとか言って、何も無いってのはどーいう事なのよ・・・。」
ウイィィィン(ドアの開閉音)
「ミサト、遅いわよ!やっと私の出番・・・」
「・・・・・。」
「なんだ、ファーストじゃない。なんでアンタ戻ってきてんのよ?」
「警戒待機が解かれたから・・・。」
「へ、なんで?」
「宇宙怪獣どもに目立った動きが無いらしい。
少数で地球圏に向かっていた先発隊は撃破したが、主力と思われる敵本隊はまだ太陽系外だ。
地球圏には他にも敵勢力が残っているから我々のみで突出する訳にもいかん。
今はまだ様子を見るという事で警戒レベルが下げられたのだ。」
「そうそう♪なんかよく解らないけど、もうしばらくヒマ潰してていいんだって。」
「なんだ、アンタらも居たの。」
「元に戻ったり小さくなったり忙しい事です。ハイ。」
「まったくだ。振り回されるこっちの身にもなって欲しいもんだぜ。」
「あんたらまで居るんかい・・・。」
「・・・・・。」
「あれ?なんでプルツーまで居るの?」
「プルツーもヒマそうにしてたから連れてきちゃったんだ。べつに良いでしょ?」
「いや、良いも何も・・・なんでここに集まってきてんのよ?」
「説明がまだ終わってなかったから・・・
それに資料も片付けてなかったし・・・ついでだからきちんと終わらせておこうと思って。」
「そういう事だ。終戦の部分まで終わったとは言え、まだ途中だったからな。あれでは尻切れトンボも良いところだ。」
「そうそう♪」
「・・・あんたらも物好きなのね。」
「私はアスカさんが好きです。」
「は?あんた、脈絡無く何言ってんのよ?」
「ほら、物好きって言うからなんとなく?」
「どーいう意味よ!訳の解らない事いうのは止めなさいよ!」
「君が何を言っているのか僕にはわからないよ!」
「プル、あんたまで・・・」
「エヘヘ・・・♪」
「エヘへじゃない!」
「・・・おい。そこの四角いの。」
「へ、私ですか?」
「そうだ。プルに余計な事を吹き込んだのはお前か?」
「余計な事ってなんだ?」
「さっきの戦闘中、プルがずっと変な事を口走っててうるさいったらありゃしない。
ビームサーベルで攻撃した時には・・・」
「愚者がァ!きさまの腕ごとカメを砕くように頭蓋骨を陥没してくれるッ!」
「攻撃を避けたかと思えば・・・」
「UREYYYYYそんなねむっちまいそうなのろい動きでこのプルが倒せるかァーーーー!?」
「ツインファンネルで攻撃した時なんか・・・」
「おまえは今まで撃ったファンネルの数をおぼえているのか?」
「挙句の果てには・・・」
「キュべレイMk‐Uだッ!!!!」
「とか言って、私の機体を後ろから押して敵に体当たりさせたんだぞ!
戦闘中、こんな目に遭わされるこっちの身にもなってみろ!」
「それはそれは・・・ご愁傷様です。」
「他人事みたいに言うな!こっちは撃墜されかけたんだ!
敵にやられるならまだしも味方撃ちで落とされてたまるか!」
「プル・・・、あんた何やってんのよ。」
「ごめんね、プルツー。もうあんな事やんないから・・・」
「当たり前だ!」
「さっきの戦闘は敵の本隊では無かったから良いようなものの・・・今後、くれぐれもあんな真似はせんようにな。」
「はぁ〜い。」
「あれ?そういえばヒカリは?」
「洞木さんは用事があるそうです。よく解りませんが明日の準備があるとか・・・。」
「ふ〜ん、明日何かあんのかねぇ。」
「別にあんたには関係ないでしょ。年頃の女の子が用事あるって言ってんだからそのくらい察しなさいよ。」
「さすが、アスカさん。亀の甲より歳の功ですねぇ。」
「るさい!私だってまだ14だっての!」
「・・・それでは、前回の続きから始めたいと思います。前回は・・・どこまで話しましたっけ?」
「忘れてんじゃないわよ。一通り、戦争の説明は終わってたでしょうが。」
「・・・で、お前達ここで何してたんだ?」
「何って・・・え〜と、なんだろ?」
「過去を知る事で未来への教訓にする事が出来る。簡単に言うなら座学と言ったところか・・・」
「むしろ、ファーストの趣味でしょ。前回の講義だって、結局私らの役になんか立ってないじゃない。
教訓って言ったって何も無いでしょうが。」
「攻撃の基本はアウトレンジ・・・」
「んな事あんたに言われなくても解るっての!今更得意気に解説してんじゃないわよ!」
「とかなんとか言って、アスカさんの基本は接近戦じゃないですか。」
「うるさいわよ!あんたは黙ってて!」
「・・・ふ〜ん。ま、退屈だから邪魔する事にするよ。」
「ところで、前回の説明で戦争の話は終わったのではなかったか?」
「・・・大まかな海戦の話は終了しています。しかし、ほとんど話していない分野の題材が残っているんです。
それが、帝国海軍の潜水戦隊・・・つまり、今回は潜水艦についての話がメインとなります。」
「潜なんとかって・・・海に潜れる船だよね。」
「潜水艦か。たしか局地専用の兵装だね。」
「局地って・・・。まぁ、宇宙世紀じゃそうなっちゃうけど・・・」
「はるかな昔は人類は宇宙に進出していませんでしたから・・・
戦場が地球のみだった頃には潜水艦は大海原を縦横無尽に走破出来る有用な兵器だったんです。」
「で、その潜水艦がどうしたんだ?」
「先ほどまで行っていた説明でも潜水艦の話は必要に応じて挙げましたが、やはり説明不足は否めません。
そこで、今回の講義は潜水艦に重点を置いて説明しようと思うのです。」
「なんで、んなメンドーな事してんのよ。
前に説明してた時に一緒にやってればこんなワケの解らない事にならなくても済んだでしょうに。」
「・・・前回までの説明で題材にしてきた水上艦船や機動部隊の話を陽とすれば潜水戦隊の話は陰と言ったところでしょう。
帝国海軍を裏から支えた潜水戦隊・・・彼らの行動を理解するには先の戦争についての基礎知識が必要になるんです。
ですから、戦争の流れをある程度理解しておいた方がさらに解りやすくなると思いまして・・・。」
「どーせ、思いつきか知らなかっただけじゃないの?」
「さすがアスカさん!私達が出来ない中傷を平然とやってのける!」
「そこにシビれる!アコがれるぅ〜!」
「るさい!」
「四角いの!やっぱりお前が原因だったんじゃないか!プルに妙な事を教えるのは止めろ!」
「おや、異な事をおっしゃいますね。私はただ某台詞を述べたに過ぎません。
そこからネタについてくるかどうかは我が同志エルピー・プルの自由意志に委ねられているんですよ?」
「そうそう、前フリがあるとやっぱりね〜♪」
「ネタにはのってやるのが礼儀ってトコか。」
「どこかの芸人さんの押すなよ!絶対に押すなよ!みたいなものなんですよ♪」
「押すとか言うな!さっきの嫌な事思い出すじゃないか!」
「プルツー、あんまり相手にしない方が良いわよ・・・。疲れるだけだし。」
「やっぱり加齢が堪えるんでつか?」
「やかましい!あんたは余計な事を言うんじゃないわよ!」
「・・・・・。」
「以前より脱線する確率が高くなっているようだな・・・。」
「・・・まぁ良いでしょう。こちらはこちらで説明を続けるだけですから。」
「で、潜水艦がどうしたんだ?」
「・・・日本の潜水艦の歴史は明治の頃まで遡ります。
歴史の説明として流れをつかむ事は重要なのですが・・・説明しても良いでしょうか?」
「明治って言われても、あたしには何が何だか解らないんだけど。」
「チョコレートの会社じゃないの?」
「チョコレ〜ト〜はめ・い・じ♪」
「ん?菓子の会社と潜水艦と何か関係があるのか?」
「違うって。明治ってのは日本の元号の一つで、昔はそういう年の数え方をしてたの。
その二人の言う事は真に受けないほうが良いわよ。」
「そうなのか・・・。」
「私も日本とやらの歴史はよく解らぬが・・・どのくらい時代を遡るのだ?」
「以前話した戦争から大体20〜30年くらいですね。
日露戦争の終盤から第一次世界大戦、条約時代を経て第二次世界大戦という流れになっています。」
「まさか、そんな長い時代の話をいちいち説明する気じゃないでしょうね。」
「・・・必要とあれば。」
「なんでそんな昔の話まで聞かなきゃなんないのよ!
第二次大戦の潜水艦の説明するってんなら、そこだけ説明してれば済む問題でしょうが!」
「しかし、第二次世界大戦・・・特に日本の潜水艦の運用法には批判が少なくないのです。
同じように潜水艦を活用し多大な戦果を挙げていた同盟国ドイツと比べて、
日本軍の潜水戦隊は戦前に予想された程の戦績を挙げる事が出来なかったのです。
そして、なぜそうなったのかと言えば、戦前から説明しなければ誤解が生じてしまうかと・・・」
「で、アンタはまた擁護するわけ?」
「・・・正当な主張と言って頂きたいものです。
あの時代の技術革新は著しいものがありましたからね。特に戦争突入後のあの進化ぶりは異常と言っても良いでしょう。
日本の国力で他国に追従するというのは・・・やはり、難しいとしか言い様がありません。」
「アンタ、ホント国力の差って言葉が好きよね。そんなに国力のせいにしたいの?」
「・・・事実ですから否定のしようがありません。」
「何の話なのか解らないんだけど・・・。」
「そうですねぇ。アスカさんが量産機にボコられたというのを想像していただければ
国力の差というのがいかに恐ろしいものかというのが解るかと・・・
やっぱり戦いは数だよ、兄貴!となってしまいますからねぇ。」
「またんかい!なんでそこで私が出てくんのよ!」
「・・・物量差か。確かに数が多すぎると鬱陶しいってのはあるが。」
「それはそうだけど、ファーストの言ってる事は極端過ぎなのよ。」
「そういや、嬢ちゃんだって量産機と戦う前にティターンズの連中とも戦ってたよな?
あれは物量に質で対抗できたって言えるんじゃないか?」
「そーよ。なんでもかんでも物量を言い訳にすんじゃないっての。」
「対象となる機体に性能差があるのですから、それはそれで別問題です。
例えるなら、零戦に複葉機で勝てるか?と言うのと本質的には変わりません。」
「零戦とやらに複葉機では・・・さすがに無理だろう。
もちろんパイロットの質にもよるだろうが、根本的な性能に開きがありすぎるのでは勝負にすらならん。」
「ちょっと待ちなさいよ。それじゃ、まるで私が機体性能のおかげで勝てたって言ってる様にしか聞こえないんだけど。」
「いい気になるな!お前が勝てたのは機体の性能のおかげだという事を忘れるな!」
「ランバ・ラルさんキタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!」
「うるさいっ!」
「・・・潜水艦の話から随分離れてしまいましたが、どの兵装であれ当時の日本は国力という根本的な問題から逃れる事は出来ません。
さて、それでは帝国海軍の潜水戦隊のあらましについて簡単に説明していきましょう。」
「結局、一から説明するんかい・・・。」
「・・・話は日露戦争当時まで遡ります。
当時の帝国海軍は日露戦争中に失った艦船の代替として、アメリカからホランド型という潜水艦を5隻購入しました。
それを、横須賀工廠で組み立てたのが帝国海軍における潜水戦隊の始まりだとされています。
ちなみにこちらがホランド型潜水艦の大まかな形の図になっています。」
ホランド型潜水艦
「つか、あんたはいつになったら丁寧な絵を書く気になるのよ。」
「形的には大体図の通りですから、細かい事は気にしないでください。
このホランド型は涙滴型と呼ばれる形状をしており、形的には後年に登場する原子力潜水艦の元祖とも言えます。」
「ところで日露戦争ってのは?」
「日露戦争については、別のところで説明されているのでここでは割愛します。
先のホランド型潜水艦ですが、性能的には航続力や速度等の問題があり実戦に耐え得るほどのものでは無く
日露戦争にも間に合わなかったため、活躍したと言えるほどの艦ではありません。」
「駄目じゃん。」
「ですが、潜水艦の開発に遅れをとっていた日本にとっては今後の参考になった事は言うまでも無いでしょう。
それでも潜水艦については試行錯誤の段階だったので、潜水戦隊として形になるにはまだしばらくの時間が必要でした。
帝国海軍の潜水艦開発を大きく前進させたのは第一次世界大戦後のある出来事が要因となっています。」
「なにそれ?」
「第一次世界大戦の戦勝国となった日本にはドイツの潜水艦7隻が戦利品として割り当てられたのです。
当時は日本に持ち帰るだけでも大変な作業でしたが、海軍は無事に任務を完遂。
潜水艦開発後進国であった日本にとってドイツ海軍のUボートはまさに宝の山と言っても過言ではありません。
また、日本の造船業者もドイツの技術者と接触し図面を購入するなど、潜水艦の開発に力を入れていました。」
「・・・ふむ、百聞は一見に如かずと言うからな。実物ほど参考になる教材は無いだろう。」
「第一次世界大戦の勝利により、南洋への進出の足がかりを得た日本ですが
アメリカやイギリスにとって日本が障害と認識されるようになってきました。当然の事ながら出る杭は打たれますからね。
そこで、当時の先進諸国はワシントン軍縮会議で各国の軍艦の保有制限を取り決めたのです。
有名な話ですが、日本の戦力はアメリカ・イギリスに対して保有率が低く抑えられており、実質的には不利な条件での条約と言えます。」
「不利なのになんで条約結んでんだ?」
「・・・条約を結ばなければ、さらなる不利に追い込まれていた可能性は否定出来ません。
国力的には他の列強には到底及ばない日本ですから、力比べをして勝てる道理もありませんからね。
正面から挑むよりは、条約で保有数を取り決めておいた方がまだ良い選択肢だったのでしょう。」
「なんか、難しい話ばかりで分からなくなってきちゃった・・・。」
「まったくでつ。」
「・・・・・。」
「紆余曲折を経てイギリスとの同盟も解消。
今後の仮想敵国をアメリカとした帝国海軍ですが、正面から戦えば戦力的な差により勝ち目はありません。
当時は大艦巨砲主義が主流の世の中でしたから、戦艦の保有数が少なく設定された日本は不利でした。
しかし、あるものでどうにかしなければならないのが現実。当然、戦艦以外の兵器に目が向けられる事となったのです。」
「あの〜、もうちょっと分かりやすく・・・」
「説明をキボンヌでつ。」
「要するに、手駒が足りないから代替品でどうにかしようって話だろ?」
「まぁ、平たく言うならそういう事になりますね。」
「すっご〜い!プルツー、なんでそんな事分かるの?」
「・・・別に難しい話じゃない。普通に聞いていれば分かる。」
「フフフフフ。名前がほしいな。『プルツー』じゃあイマイチ呼びにくいッ!このラミエルが名づけ親になってやるッ!
そうだな・・・『メキシコに吹く熱風!』という意味の『サンタナ』というのはどうかな!」
「どーいう話の展開だ!そうやって妙な事を口走るのは止めろ!」
「いーじゃん。そんな細かい事気にしなくても。それに、サンタナって響きの方がカッコ良くない?」
「良くない!なんでお前は馬鹿話に拍車をかけようとするんだ!」
「プルツーってよォ・・・みんなはそのまんま『プルツー』って発音して呼ぶ。
でも、このあたしの事はみんな『プル』って呼ぶんだよォ〜〜。『プル』とか『エルピー・プル』とかよォーー。
なんで『プルワン』って呼ばねえーんだよォオオォオオオーッ。それって納得いくかァ〜〜、おい?」
「は?」
「おれはぜーんぜん納得いかねえ・・・。なめてんのかァーーッ、このおれをッ!
プルワンと呼べ!プルワンと!チクショオーー、ムカつくんだよ!
コケにしやがって!ボケがッ!」
「知るか!」
「だってプルツーのあだ名がサンタナになるんじゃ、あたしもそのまんまじゃなんか駄目じゃん。姉妹としてさ♪」
「勝手に人の名前を変えるな!大体なんなんだ、そのサンタナってのは!」
「ですから、メキシコに吹く熱風ですよ。それがホントかどうかは知りませんけど。」
「言葉の意味を聞いてるんじゃない!もういい、お前達は黙ってろ!」
「(´・ω・`)ショボーン」
「・・・そろそろ続けて良いでしょうか?」
「まぁ・・・、良いんじゃないの?一応話も落ち着いたみたいだし。」
「・・・・・。」
「なぁ、もしかしてさっきの戦闘中ずっとこんなやり取りが続いてたのか?この二人ってマシュマーの小隊だったんだろ?」
「・・・言うな。」
「・・・プルツーさんの言うとおり、手駒の足りない日本はあるものでどうにかしなければなりません。
戦力不足を補完する為に空母を中心とする機動部隊の編成や水雷戦隊の充実に力を入れたのは有名な話ですが
それ以外にも、潜水艦を中心とした部隊を創り上げるというのも日本にとっては魅力ある手段の一つでした。」
「なんか、言ってる事が大げさっぽく聞こえるんだけど。」
「何がですか?」
「潜水艦の話。たかが海の中に潜れるってだけでそんなにすごい兵器とは思えないのよね。」
「歴史に登場してから間もない潜水艦が挙げた実績は第一次世界大戦時のドイツによる通商破壊戦で実証されています。
他のものでどうにかしなければならない帝国海軍にとっては、十分研究開発するに値する分野だったんですよ。」
「でも、おもいっきり使い方間違ってたじゃん。」
「それは、これから説明していきます。」