セイロン島沖海戦
「では、そろそろ次に移りましょう。次は真珠湾攻撃で活躍したナグモ・タスク・フォースの戦いです。
敵はイギリス東洋艦隊、アメリカに対抗しなければならない日本としては後方を確保する為、
イギリス軍を壊滅させる必要がありました。」
「タスクなんとかって・・・なんでカタカナなの?」
「格好良いからです。」
「おいおい・・・。」
「日本はインドネシアを制圧し、他方ではビルマ(ミャンマー)の首都ラングーン(ヤンゴン)まで到達していました。
大雑把な地図ですが、一応、確認しておいてください。」
「一方、ビルマから駆逐されたイギリス軍は反抗準備の為、
カラチ(パキスタン)やインドに本国から運ばれてきた物資を運び込んでいたのです。
このまま放置すると、後々の作戦に響いてくると判断した日本軍は
イギリス補給線の寸断・東洋艦隊の駆逐を目的とした作戦を実行に移すことになります。
この作戦はインド洋作戦と命名され、世界にその名を轟かせていたナグモ・タスク・フォースが投入される事となりました。
この部隊は今の私達が考えている以上に恐れられていた部隊なのです。」
「さしずめ・・・ロンド・ベル隊みたいなものですかねぇ。」
「ロンド・ベルってそんなに強いの?」
「部隊の内側にいるから分からないのだろうが・・・あらゆる作戦に対応可能な特機の混成部隊だぞ?
MSやMAで戦うアクシズやネオジオンの身にもなってみろ。
奇跡を使った乾坤一擲の一撃がかわされた時の絶望感など・・・お前達には分かるまい。」
「あ、ごめん。ひらめき使ってあっさり避けちゃって・・・」
「色々、大変だったのね・・・。」
「マシュマーはまだマシだろ。俺なんか生身の人間にすら勝てなかったんだぞ。仮にも使徒だってのに・・・」
「相手は衝撃のアルベルトさんでしたっけ?」
「そうさ。あれじゃ完全なかませ犬だろ、俺。しかもその後、あっさりやられちまったし・・・」
「その点、私は最強の称号を得られていますからねぇ。なにがあろうと難攻不落の空中要塞。フフフ・・・」
「あんたら、関係者以外お断りな会話は止めなさいよ。」
「アスカさんは、その頃はまだ合流してませんでしたもんね。や〜い、仲間はずれ〜♪」
「るさいっ!あんたは小学生か!」
「あたしもまだいなかったと思うけど・・・」
「気にするな。私もだ。」
「つーか、あんたは元から合流できないでしょ。」
「・・・話、逸れすぎです。」
「あ、悪ぃ悪ぃ。つい愚痴っちまって。」
「エヘへ・・・。でも、最強なんて言われると照れるね。あたしが役に立ててるかどうかはわかんないけど・・・。」
「プルなら大丈夫。十分戦力になってるわよ。」
「・・・誰かさんと違ってね。」
「ちょっと!それどういう意味よ!」
「・・・・・。」
「む、ムカつく〜っ!ファーストのくせに生意気よ!」
「ジャイアニズム・・・」
「うるさいっ!」
「驕れるもの久しからずと言うからな。最強部隊の一員と言えど、己の力をわきまえておかねば身を滅ぼす事に繋がるぞ。」
「それって、驕れる平家は久しからずって言葉が元になっているのよね。」
「そうだ。お前もよく知っているな。」
「・・・話を戻します。日本軍は南雲中将率いる機動部隊の他
小沢中将閣下率いる南遣艦隊も連合国軍の交通路遮断を目的にインド洋に向かいました。・・・編成を説明しましょうか?」
「・・・んな事、どっちでもいいわよ。」
「南雲機動部隊とやらは、真珠湾攻撃の時にも説明しただろう?何も違いが無ければわざわざ説明する必要はあるまい。」
「ま、説明が重複しちまうからな。」
「真珠湾の時との編成で違いを指摘するなら大きな点で何箇所かあります。
インド洋に向かう途中、正規空母の一隻、加賀がパラオ泊地で暗礁に触れて損傷してしまい
修理の為内地に帰還する事になってしまったのです。
戦力的に、正規空母一隻分の航空戦力が使えなくなってしまいました。これは大きなマイナスであると言えます。
・・・後は、金剛型戦艦が4隻そろって作戦に参加している事でしょうか。」
「内地って?」
「日本の・・・一般的には本土の事を指す様です。外地法によって外地法令が適用された地域を外地・・・というそうです。
ちなみに、満州は準外地と呼ばれていました。」
「満州?」
「満州は中国大陸の北部地域の事を指します。位置的には・・・朝鮮半島より北です。
当時は、満州国という日本の傀儡政権が治めていた国が存在していました。」
「う〜ん・・・。何がなんだか分からなくなってきちゃった。」
「あまり難しく考える必要はありません。・・・満州国は日本にとっての防波堤。
ロシアの南下を食い止める為の前線基地の様なものです。」
「傀儡政権って・・・日本はそんな事もしてたの?」
「当時の先進国なら珍しい事ではありません。
アメリカの南に位置する小国キューバは、1959年に革命が起きるまでアメリカの傀儡政権が治めてましたから。」
「・・・戦後になっても、アメリカはんな事してたの?」
「・・・人間は昔から変わってないと、テッサ先生が言っているじゃないですか。
人間の本質は大昔から変わってないんですよ。それは宇宙世紀の人類も然りです。」
「まぁな。」
「だから、人類保管計画が進められたんでしょうかねぇ。」
「さりげなく誤字を混ぜるんじゃないわよ。保管じゃなくて補完でしょ。」
「バレました?」
「意味の無い事は止めなさいよ・・・。」
「・・・人類補完計画?何だそれは?」
「群体として行き詰った人類を人工的に進化させ、宇宙怪獣の襲撃から逃れる為の計画・・・らしいです。
オリジナルでも、人々の欠けた心を互いに補完させるとかいう計画だったそうですが・・・」
「わけ分かんないんだけど・・・」
「正直、私も分かりません。
人類補完計画など最早どうでも良い事なので、これ以上考えるのは止めておきます。」
「宇宙怪獣だと?エアロゲイター以外にも敵が存在したのか・・・。」
「知らなかったの?他にもボアザン星とか恐竜帝国とかミケーネなんとかとか・・・人類の敵なんてたくさんいるよ?」
「・・・いくらなんでも数が多すぎるぞ。せめて、2つか3つくらいにまとまらんのか?」
「それ以前に人類がまとまれって話だよな。
敵が海から空から宇宙から攻めて来てんのに、人類同士で仲たがいしてる場合じゃないだろうに。」
「そうですよ。今こそ人類は地球市民としての自覚を持ち、互いに助け合い共存の道を・・・」
「うるさいっ!どさくさに紛れてあんたは何を言い出すのよ!」
「だって私達は宇宙船地球号の仲間ですよ?当たり前の話じゃないですか。
私は栄えある地球市民ラミエル、戦争賛美する方々とは行動を共に出来ない!」
「何言ってんのよ、あんたは・・・」
「そういった類の方々は、戦争反対を唱える一方で軍事力も否定します。
全世界の人々全てが平和的な考えなら良いのですが、現実はそうはいきません。
現に十分な自衛力を持たなかったが為に消滅した国はいくつも存在します。
平和の為に軍隊無くせなどと言う輩は敵の工作員か売国奴と捉えておいた方が賢明ですね。」
「そこまで飛躍するのも極端な気がするけど・・・」
「・・・ファーストの意見は聞き流した方がいいわよ。」
「・・・話を戻します。インドの位置関係についてですが・・・こちらでご確認下さい。」
「適当すぎ・・・。」
「・・・気にしないでください。
さて、南雲機動部隊とマレー方面軍の行動はさすがにイギリス軍の知るところになりました。
開戦以来、アメリカ軍は日本の暗号解読に力を入れていたため、かなりの精度で暗号の解読に成功するようになっていたのです。
南雲機動部隊が出撃した2日後の3月28日の時点で、
日本軍のセイロン島奇襲は4月1日という情報がアメリカ軍からイギリス軍に伝わっていました。」
「・・・そこまで情報が漏れているのか。日本軍は何の対策もしなかったのか?」
「するわけないじゃん。」
「そうなの?」
「だって、日本軍の情報軽視なんて有名じゃない。何とか言う作戦の時だって作戦内容が筒抜けだったし・・・」
「・・・ネタをばらすのは止めてください。」
「別にいいじゃん。今さらって感じでしょ。」
「・・・確かにそうなのですが、情報が敵に漏れているという事実さえ分からなければ対策など立て様が無いのです。」
「そうですねぇ。日本軍の中の人が情報漏れに気付かなければどうしようもないですからねぇ。」
「・・・ちなみに暗号を解読されていたのは海軍だけという話です。陸軍の暗号は終戦まで解読されなかったとか・・・」
「ふ〜ん・・・。何で、海軍と陸軍で同じ暗号にしなかったんだろ?」
「・・・さぁ?私には分かりませんが海軍と陸軍での不仲も原因の一つかと思います。
日本の縦割り行政の弊害とか縄張り争いとか言われてますが・・・伝統ですからね。
もっとも、アメリカ軍がその気になれば陸軍の暗号も解読できたんでしょうけど・・・まぁ、どうでも良い事ですね。」
「伝統の一言で済ますんじゃないわよ。イギリスじゃあるまいし・・・」
「それじゃ、お国柄という事で。」
「・・・・・。」
「さて、日本軍の襲撃を察知したイギリス軍は
戦艦5隻・空母3隻からなる機動部隊を集結させ、日本軍の予想航路周辺の警戒・索敵にあたらせました。」
「待ち伏せ・・・か。当然の対応だな。」
「しかし、万全を期したイギリス軍の待ち伏せは失敗に終わりました。」
「どうして?」
「予想された4月1日、その翌日の2日になっても日本軍が現れなかったからです。
実は、日本軍のセイロン島奇襲作戦は4月5日に変更されていたのですが、アメリカ軍もそこまでは情報を掴んでいなかったのです。
結局、イギリス軍は待ち伏せを諦め、セイロン島から600浬程離れたマルダイブ諸島に極秘に作られた基地に引き返しました。
一方の南雲機動部隊は、4月4日にはイギリス軍の勢力圏内に到達したのです。」
「運も実力の内といいますからねぇ。」
「しかし、結局はイギリス軍の飛行艇に見つかってしまいました。
零戦隊が打ち落としたものの・・・機動部隊の位置は奇襲予定のコロンボ基地に知れてしまったのです。
翌4月5日、日本軍はセイロン島コロンボ基地を攻撃する為、第一次攻撃隊を発進させました。編成は次の通りです。」
零戦36機(制空)
九七艦攻54機・(爆撃)
九九艦爆38機・(爆撃)
「今回は雷撃隊とか言うのは出撃しないのか?」
「今回の目的は基本的に基地への攻撃です。
真珠湾の目的は太平洋艦隊への攻撃でしたから・・・目標そのものが違うのです。」
「やっぱり何がなんだか分からないんだけど・・・。」
「魚雷は艦船に対する兵器らしいからな。
ビーム系兵装が水中の敵に有効で無いのと同じ様に、対応する敵に合わせて武器は選ばなければならんのだろう。」
「発艦地点からセイロン島まで約200浬。
攻撃隊は九七艦攻を先頭に九九艦爆が後に続き、その後方上空から零戦が援護するという編隊でした。
出撃から約45分後、敵飛行艇に遭遇。零戦隊が撃墜するも敵飛行艇は基地に南雲起動部隊の位置を伝えた後でした。
これで、日本軍の作戦は強襲となったわけです。・・・セイロン島上空は積乱雲に覆われていました。
攻撃隊が雲の合間を縫って進んでいくと、雲の切れ間・・・日本軍の下方にイギリス軍の飛行機が10数機現れたのです。」
「あ〜・・・、見つかっちゃったんだ。やっぱり戦いになるのかな?」
「・・・いえ、イギリス軍側は日本軍に気付いていませんでした。
零戦隊は直ちに攻撃を敢行、あっという間に勝敗は決しました。言うまでも無く日本の圧勝です。」
「なんと他愛無い。鎧袖一触とはこの事か・・・。」
「今度はガトー少佐のパクリ・・・」
「うるさい!」
「でも、いくらなんでも弱過ぎるんじゃない?」
「仕方ありません。イギリス軍の機体は戦闘機ではなく魚雷を積んだ攻撃機だったのですから。・・・これがその写真です。」
ソードフィッシュさん
「・・・え?」
「ちょっとファースト!写真違うじゃない。第一次世界大戦の機体出してどーすんのよ!」
「・・・いいえ。これが第二次大戦中、イギリス軍の一翼を担ったソードフィッシュ攻撃機です。」
「うそ・・・、こんなの持ち出してどうする気よ。」
「・・・私に聞かないで下さい。
ソードフィッシュが活躍した欧州や地中海では空母同士の戦いはほとんど起きていませんでしたからインド洋でも大丈夫と判断したのでしょう。
事実、複葉機ゆえの低速安定性の高さが功を奏して、ドイツ軍の戦闘機では射撃位置が取り辛かったみたいです。
現に、ドイツ戦艦ビスマルクの運命を決したのもこの機体が放った魚雷だそうですから・・・。
ちなみにこれがドイツ最強と謳われたビスマルク・・・だと思います。」
(多分)ビスマルク
「ビスマルクとはそれほど強かったのか?」
「・・・それは私が説明する事ではありません。
色々意見はあるようですが、ビスマルクについて私個人の意見を言わせて頂くと羨ましい最後だったと言えます。
大艦巨砲主義が終わりを告げようとしていた時代、
戦艦同士の撃ち合いという能力を生かす事が出来る戦場で戦えた事は幸運だったと思います。
もっとも、舵に魚雷が命中して舵が固定されてしまったビスマルクも厳密に言えば薄幸ではあったのですけど。
それに負けず劣らず日本軍には、とかく不幸な艦が多すぎますからね。・・・悲しい事です。」
「そんなに幸薄かったんですか?」
「はい。ですが、ここで説明してしまうと・・・歯止めが効かなくなる恐れがあるので、後から説明していきます。」
「要するに、情報を小出しにするって事かい。」
「ミもフタも無いねぇ〜。」
「さっきの飛行機だけど、もしかしたら凄い性能だったのかもしんないよ?
ほら、一年戦争の時も連邦だってボールをたくさん作ってたじゃん。」
「・・・さっきの飛行機とは、ソードフィッシュの事ですか?」
「え?うん。見た目で判断するのってあんまり良い事じゃないんでしょ?」
「お前にしては良い心がけだが・・・説明を覚えているか?
日本軍の圧勝だぞ。性能は推して知るべし・・・という事だ。」
「え〜。でも、主人公がこういう機体で出撃して、かなりの戦果を上げるってのパターンじゃん。」
「・・・どこの主人公だ。」
「心当たりが多すぎて・・・どれの話なのやら。」
「よく知らないけど、ガンダムのパイロットって偶然機体に乗っちゃったって人が多いわよね。アムロ大尉とかカミーユとか・・・」
「つーか、ロンド・ベルには正規の軍属ってどのくらいいるんだ?
もしかしたら、ほとんど民間人その他なんじゃ・・・」
「私は一応騎士階級だが?」
「・・・そうは見えないけど。」
「ええ〜い、うるさいぞ!少しは敬ったらどうだ!上官だぞ、上官!」
「まぁまぁ、この部隊のほとんどの人が民間人ですし。
クワトロさんも軍規にはこだわらないって言ってたじゃないですか。気楽に行きましょ、気楽に。」
「そういう問題じゃ無いでしょ・・・。」
「・・・とりあえず、どうでもいい話は控えて下さい。」
「・・・日本軍の第一次攻撃隊がコロンボ基地上空に到着したのは10時45分頃でした。
急降下爆撃隊がタンカー・飛行場・商船などに攻撃を開始。
続いて、水平爆撃隊が船舶・桟橋・兵舎・修理工場・鉄道等に攻撃を開始しました。と同時にイギリス軍も対空砲で応戦を始めます。」
「今度は施設にも攻撃してるんだね。」
「真珠湾の時と違って・・・だろ?何を攻撃するにしても命令次第って事だよな。」
「当然だ。現場の判断で適当に行動されては戦術も何も無くなるからな。
何の為に、近代国家の常備軍化が進んでいると思っているのだ?」
「ああ、軍靴の音が聞こえる・・・」
「るさい。」
「常備軍って?何が何だか分からないんだけど・・・」
「・・・常備軍を大工さんと例えるなら、徴兵下での軍隊は日曜大工と言えます。
大事な仕事を任せるとしたら・・・どちらが良いかは考えるまでも無いでしょう?」
「ん〜、何となくわかったような・・・。」
「普通に考えれば、軍属が民間人に負けるわけは無いのだが・・・ガンダムの力は侮れん。」
「仕方ないですよ。
シャア少佐だってアムロ大尉には勝てなかったんですから。撃っても撃っても沈まないんですよ?普通なら鬱入りますですよ?」
「・・・それは言いすぎでしょ。」
「そんな事はありません。アスカさんだって経験はあるでしょ?」
「あの最強の使徒だな。ATフィールド中和しても無駄だった、アイツな。」
「・・・嫌な事、思い出させないでよ。いくらなんでもあれは卑怯よ。」
「ほら、鬱入ってるじゃないですか!何を言っているんですか!やはり貴方は責任を取って退陣するべき・・・」
「うるさいっ!どこからそんな話が出てくんのよ!あんたはどこぞの政治家か!」
「だってぇ〜・・・」
「・・・・・。」
「ま、説明するなら間を空けずに続けた方が良いぜ。粛々と進めれば脱線なんてしねーだろうから。」
「・・・そうですね。第一次攻撃隊の爆撃にも関わらず、戦果は思わしくありませんでした。
第一次攻撃隊隊長淵田中佐は南雲機動部隊司令部に
第二次攻撃隊を準備されたしという報告を打電しました。時間は11時18分の事です。
攻撃を終えた機体が集合地点に集まり始めた頃、イギリス軍のファルマー戦闘機・ハリケーン戦闘機40機程が攻撃を加えてきました。」
「・・・今度のはさすがに複葉機じゃないでしょ?」
「・・・当然です。その台詞はイギリス軍を馬鹿にしすぎですよ。
しかし、護衛の零戦隊が奮戦しイギリス軍戦闘機19機は返り討ちに遭ってしまいました。
この時期の零戦隊は本当に鬼ですね。もっとも、日本側も無傷と言う訳にもいかず艦爆6機が撃墜されてしまっています。」
「強いって言っても被害は出るのね・・・。」
「・・・戦争ですから仕方ありません。攻撃を終えた第一次攻撃隊は母艦への帰還を始めました。
一方、第二次攻撃の要請を受けた南雲中将は
イギリス艦隊攻撃の為に雷装で準備させておいた艦攻隊に爆弾への装備変更を命じたのです。」
「それはそうだろう。基地への攻撃に魚雷を使う訳にはいかんからな。何か問題でもあるのか?」
「この魚雷から爆弾、爆弾から魚雷への換装作業は今後の作戦にも幾度か出てくるのです。
多少なりとも覚えておいていただけると、後々の説明が分かりやすくなるはずです。
魚雷から爆弾への変更と一言で言っても、実際はかなり面倒な作業だった様です。
具体的な時間がどれほどかかるのかは分かりませんが・・・簡単に変えられるものでは無いという事を覚えておいて下さい。」
「覚える事が出てきましたか。なんだか授業みたいになってきましたねぇ〜。」
「魚雷から爆弾への変更作業に追われる南雲機動部隊ですが、そんな中偵察機からある情報が飛び込んできました。」
「何なんだろ・・・?」
「こういう時の情報は悪い知らせってのが相場だからな。多分、そんなモンだろ?」
「・・・そうです。偵察機からの報告はイギリス軍巡洋艦2隻発見・・・というものでした。
南雲中将は爆弾への兵装変更を中止、再び魚雷への装備変更を命じたのです。」
「また?めんどくさい作業なんでしょ?」
「・・・重巡洋艦を沈めるには陸用爆弾では無理だと判断したのでしょう。
防御の高い艦船相手には魚雷攻撃が基本ですからね。」
「だが、戦争は時間との勝負でもある。グズグズしている時間はあるまい?」
「はい。その事は南雲中将も当然分かっています。
そこで、すでに出撃準備が整っていた艦爆隊53機を先に出撃させたのです。
時間は15時3分。敵の詳細も最初は不正確でしたが、出撃時には敵が重巡洋艦2隻のみだという情報もほぼ確定していました。
15時54分、出撃した九九艦爆隊はイギリス重巡洋艦ドーセットシャー、コンウォールを発見。
攻撃隊は太陽を背に接近、16時29分に突撃を開始、瞬殺とも言える結果に終わりました。
艦爆隊の投下した爆弾は合計52発、うち46発が命中しました。内訳は次の通りです。」
ドーセットシャー 命中31発
コンウォール 命中15発
「命中率は88%・・・これは驚異的というより異常な数字です。
一般的な急降下爆撃の命中率は25%ほどですから。」
「・・・命中率が3倍以上か。日本軍は化け物か?」
「今度はシャア少佐?」
「うるさいっ!」
「・・・訓練の成果であるとしか言えません。この結果にはイギリス首相も驚きの声を上げています。」
日本の海軍航空戦の成功と威力は真に恐るべきものであった。(中略)
今はまた2隻の大切な巡洋艦が急降下爆撃と言う全然別な攻撃法で沈められてしまった。
ドイツとイタリアの空軍を相手にした地中海での戦闘で、こんな事はただの一度も無かった。
ウィンストン・チャーチル
「報告を受けた彼は茫然自失で、数日は鬱だ氏のうと言ったとか言わないとか・・・」
「んな事、言う訳ないでしょ!」
「そういえばイギリス艦隊はどうしたの?確か・・・待ち伏せしていた部隊ってあったのよね?」
「日本が攻撃を加えていた頃、イギリスの機動部隊は基地で補給作業の最中でした。
作業が終わるのは、4月5日早朝がやっとだったのです。」
「4月5日というと・・・日本軍がコロンボ基地に攻撃を加え重巡洋艦を沈めた日だな。」
「はい。ようやく出撃したイギリス軍機動部隊ですが、
南雲機動部隊への攻撃のタイミングを掴めず再び帰還してしまいました。」
「何やってんのよ・・・。」
「重巡洋艦を沈めた日本軍は次の目標、セイロン島北部のトリンコマリー攻撃に向け移動を始めました。
4月9日に攻撃位置に到着、いつも通り攻撃隊の準備が開始されたのです。トリンコマリー基地攻撃隊の編成は次の通りです。」
第一次攻撃隊
零戦30機(制空)
九七艦攻91機(爆撃)
「なんか、ずいぶんさっぱりしちゃったって言うか・・・」
「ですねぇ。最初は4種類だったのが今は2種類ですからねぇ。」
「・・・九七艦攻の役割を爆撃と書きましたが、正直情報が足りません。
もしかしたら、魚雷装備もあったかもしれませんが分からないので爆撃という事にしておきます。」
「をい・・・。」
「トリンコマリー基地に到達した第一次攻撃隊ですが、イギリスも手を拱いていたわけではありません。
彼らは艦船のほぼすべてを湾外に退避させておいたのです。
・・・仕方が無いので、日本軍は逃げ遅れた艦船・港湾施設等を爆撃していきました。
また、イギリス軍戦闘機も迎撃体制を整えていたようですが・・・やはり零戦隊の敵ではありません。」
「圧勝だったの?」
「日本軍も3機の零戦と艦攻1機、数名の負傷者を出しましたが、イギリス軍の被害はそれ以上でした。
戦闘機は39機、水偵1機、施設や艦船多数を破壊したのです。
トリンコマリー攻撃が終了した頃、南雲機動部隊司令部にある情報が届けられました。」
「話の流れから考えると・・・また、敵が現れたか?」
「まぁ、そんなトコよね。」
「・・・戦艦榛名の偵察機からの報告は、敵艦隊発見との内容でした。
待機していた攻撃隊は準備完了次第、次々と発進していきます。編成は次の通りです。」
零戦6機(制空)
九九艦爆85機(爆撃)
「何か、制空隊が少なすぎやしないか?」
「制空隊の目的はあくまで爆撃機の護衛です。
敵が自軍と同じ様な機動部隊なら護衛も重要ですが、相手は護衛空母クラスが1艦。
こう言っては何ですが、それほどの相手ではありません。」
「・・・あんたが敵を馬鹿にしてどうすんのよ。」
「馬鹿になどしていません。護衛空母の搭載機数は20ほど・・・これは過小評価などでもない正確な評価です。
出撃した攻撃隊により、イギリス海軍の航空母艦ハーミスは瞬殺されました。
ハーミスを攻撃したのは45機、命中弾は37発・・・命中率は82%ほどです。
攻撃隊はさらに駆逐艦・商船・補給艦などに爆撃を加え完膚なきまでに叩きました。」
日本軍機の攻撃を受けたハーミス
「イギリスってやる気あんの?いくらなんでも・・・」
「やる気はあったと思います。しかし、残念ながら機体性能と戦術が追いついていなかっただけかと・・・
例えば空母への着艦ですが、いくら空母が大きいとは言え、飛行場に着陸するように航空機そのもののブレーキだけでは到底間に合いません。
したがって、空母へ着艦する航空機は制動索を用いて機体を無理やり停止させているのです。」
「制動索?」
「爆動炸・・・動きを止めたか!」
「なに言ってんのよ、あんたは。」
「ガイドビーコンなんか出すなっ!やられたいのかぁ!」
「あ〜、それシーマ様の台詞でしょ〜♪」
「おや、解りました?」
「基本だよ、基本♪」
「どこの基本なのよ・・・。」
「・・・当時の飛行甲板はあまり広くはありませんでした。
おまけに空母への着艦というのは、素人が考える以上に難しいものだったようです。
着艦を安全かつ確実に行うには次のような手順が最善であり、通常の方法でした。」
飛行機着艦
↓
着艦した飛行機をエレベーターで格納庫に収納
↓
次の飛行機を着艦させる
「しかし、通常ならそれで良いかもしれませんが、いざ戦闘中となると、上記の方法では時間の浪費が大きすぎてしまうのです。
そこで、出てくるのが連続着艦という方法です。」
「また、なんつー絵を・・・」
「着艦した航空機を飛行甲板前部に移動させ、飛行甲板に装備されている制止索を作動させるのです。
そうすれば、万が一着艦に失敗したとしても破壊されるのは着艦に失敗した機体だけ。前部の艦載機群は無事守れるという事になります。
着艦時間の短縮にはこの連続着艦の技能が不可欠でしたが、
この時期に連続着艦技能をもっていたのは日本とアメリカくらいのものだったそうです。
ですから、イギリス軍は日本の機動部隊と正面から戦うには少々不利だったものと考えられます。」
「駄目じゃん。」
「イギリス軍機動部隊本体は健在でしたが、
これ以降、しばらくの間イギリス海軍は派手な動きを控えるようになってしまいました。
一方の、日本軍は作戦目標を達成し、後顧の憂い無く南太平洋の戦いに身を投じる事になるのです。
セイロン島沖海戦では圧倒的だった日本軍ですが、
南雲機動部隊の航空母艦赤城がイギリス軍の水平爆撃を受けるという事実もありました。」
「爆撃って・・・いつだ?」
「先程のハーミスを攻撃している最中、攻撃隊の準備に大忙しだった時の話です。幸い、爆弾は命中せず事無きを得ました。」
「なんだ、当たっちゃったのかと思った。大丈夫なら問題ないんじゃないの?」
「・・・歴史は繰り返すものです。
インド洋で爆撃されたこの時はたまたま当たらなかっただけで、
爆弾の命中確率が低いとは言え、その可能性は零では無いのです。詳しい話はまた後ほど・・・
とりあえず、セイロン島沖海戦は日本軍の圧倒的勝利で終わりました。」