珊瑚海海戦
「さて、当初の計画通り南進した日本軍ですが、南方攻略が終わった時点で次の作戦目標は未定でした。
あまりにも順調過ぎて、当初の予定より早く第一段階の作戦が終わってしまったからです。
日本軍は次の作戦目的を策定する必要に迫られました。」
「日本人は先を見る目が無いって言われてるけどホントね。何で先の事を考えないのかしら。」
「・・・無理を言わないで下さい。
それは作戦が順調に進んだからこそ言える台詞であって、もし苦戦し作戦が遅れていたとすれば
先の作戦を策定する暇があるなら最初の作戦を確実に遂行しろなどと言われるのは
目に見えていますからね。そんなに先人達を咎めたいんですか?」
「ま、いつの時代も批判だけするヤシはいるからな。」
「む・・・」
「また玉砕ですか?」
「うるさいっ!」
「・・・セイロン島の攻略。ハワイ攻略など色々検討されましたが、
とりあえず米豪分断作戦を遂行する事で決定しました。ちなみに豪とはオーストラリアの事です。」
「オーストラリアって・・・さっきの変な世界地図に出てた国でしょ?」
「そうですそうです。やっと役に立ちましたね。フフフ・・・」
「どうしてオーストラリアを攻めてるの?日本の相手はアメリカなんでしょ?」
「・・・日本軍がオーストラリア方面を攻めるには、ある理由がありました。戦略的な理由と地理的な要因です。」
「どういう事だ?」
「こちらの地図を見てください。」
「こちらがオーストラリア周辺の地図です。ここが日米双方が死力を尽くす事になる海域となります。
もし連合国軍が反撃を開始するなら、この海域を拠点に反抗作戦を開始すると日本側は予想したのです。
アメリカと日本の間には拠点となりえる様な島らしい島はほとんどありませんから・・・。
まぁ・・・、平たく言うなら反攻作戦の取っ掛かりとなるのがこの地域だと予想されたという事です。
その取っ掛かりを作らせないために先に手を打ち、アメリカとオーストラリアを分断してこれを孤立させる・・・
これらが米豪分断作戦の基本概要です。」
「・・・どゆこと?まだ、分かんないんだけど。」
「戦術において最も有効な方法は多数を持って少数に当たる事です。
しかし、日本軍と連合国軍の戦力差を考えると劣勢は火を見るより明らか・・・
ならば、取りえる戦術は各個撃破しかありません。
つまり、オーストラリアとアメリカの連携を崩す事が米豪分断作戦の目的なのです。
後もう一つ挙げるなら、オーストラリアを孤立させる事でイギリスが講和に応じるかもしれない・・・という希望的観測もありました。」
「そんな事で、イギリスが講和に応じるのか?」
「・・・まず無理でしょう。だから希望的観測なのです。」
「希望なんかで作戦立ててどうすんのよ・・・。」
「元々、国力差があり過ぎるのです。こんな条件で戦えと言う方が無謀と言えます。
クリア出来ないゲームなんて誰もやりたくはないでしょう?そんなモノは欠陥品の烙印を押されて棄てられるだけです。
しかし、日本は現実にそんな状況に追い込まれていたのです。ゲームオーバー確定の状況にですよ?
・・・まぁ、世の中が不公平なのは当たり前なのですから仕方ないと言えば仕方ないのですけどね。」
「随分、悲惨な状況だな。他人事とは思えん・・・。」
「・・・国力の差を語ると、あまりにも悲しくなってくるので話を先に進めたいと思います。
さて、米豪分断作戦の第一弾として日本軍はパプアニューギニアのポートモレスビー攻略作戦を開始しました。」
「ポートモレスビーって?」
「・・・一応、先程の地図に記載しておきましたが・・・ポートモレスビーは連合国軍の基地であり要衝でした。
このポートモレスビーを攻略し、オーストラリアとアメリカを分断しようとしたのです。」
「ふ〜ん・・・。じゃあ、さっきみたいにまた南雲さんの部隊が来るのかな?」
「南雲さんて・・・、近所の知り合いじゃないんだから・・・。」
「ポートモレスビー攻略は南雲機動部隊の一部と第四艦隊が実行する事になりました。
ポートモレスビー攻略作戦はMO作戦と呼ばれ第四艦隊司令長官・井上成美中将が指揮を執る事になったのです。
真珠湾やセイロン島沖海戦の編成に比べるとMO作戦に投入された部隊の規模は小さいものでした。」
「何で全力で叩かないのよ。全力で敵を叩くのが基本なんでしょ?」
「・・・後に重要な作戦が控えていたからです。ここでは語りませんが・・・。
それに、何度も何度も全力出撃できるような体力は日本にはありませんからね。
編成や状況から考えるに、このMO作戦はあまり重要視されていなかったと見ていいでしょう。
少なくとも、連合艦隊司令長官の山本大将はそう考えていたはずです。」
「何でまた?」
「先程説明したセイロン島沖海戦から間もない4月18日、アメリカ海軍によって内地が空襲されたのです。
ドゥーリットル中佐率いる16機のB25爆撃機による空襲は被害こそ少なかったものの、日本国民に与えた衝撃はかなりのものでした。」
「ドゥーリットルって・・・そういえば、某パールハーバーにも出てましたよね。」
「ドゥーリットル・・・?」
「艦載機で無いB25で出撃させて日本を空襲するという無謀な作戦ですよ。
しかも、爆撃終わったらそのまま進んで中国へ不時着しろという・・・自由の国アメリカらしからぬ戦法でしたねぇ。」
「アメリカの中の連中も大変だな。」
「・・・まぁ、大統領がペテン師ですからね。」
「で?山本なんとかって人の話と何の関係があんの?」
「山本大将は開戦後、真珠湾で逃したアメリカ軍の空母の存在に不安を感じていました。
開戦以来、アメリカ海軍機動部隊はラバウルやウェーク島の占領地域を散発的に攻撃していたのです。
被害こそ少ないものの、兵士達の士気に与える影響は小さいものではありません。
山本大将がもし内地が空襲されたら?と、不安を抱くのも当然と言えます。
国民の対戦意欲に与える影響は容易に想像出来ますし、軍部に対する国民の不満も当然大きくなるでしょう。
・・・そして、不安は現実のものとなったのです。」
「軍部に対する国民の不満・・・?その頃の政治って軍部の独裁だったんでしょ?」
「軍部の独裁と言えど、共産圏の様な恐怖政治とは次元が違います。
戦争を遂行するのには、当然国民の協力が必要になりますからね。」
「そうなの?でも、軍部が独裁してるんだから強制的に働かせるとかあったんじゃないのかな。」
「国民を強制的に戦わせる国と、国民を自発的に戦わせる国のどちらが強いかと言えば後者の方です。
嫌々戦わせられるよりは自らを社会の構成員と自覚させた方が
恐怖で統制された集団より強いのは当然なのですから。
尊敬も出来ない独裁者の為に戦うよりは、自分達の生活基盤を守るという意思で戦う方が強くなれるでしょう?」
「確かにな。」
「だから、MO作戦てのを軽く見るのとその話と、どんな関係があんのよ。」
「ドゥーリットルの一件で分かった事は、
日本にとって空母を中心とした機動部隊を放っておく事が危険だという事です。
空母の有用性が分かっているからこそ敵機動部隊に叩かれるという逆の立場もありえると想像出来るわけです。
MO作戦を軽く見たと言うよりは機動部隊の撃滅>MO作戦という優先順位の違いです。
重要性が高くないとは言え米豪遮断作戦も大事ですから。」
「んで、MO作戦てのはどうなったんだ?」
「・・・そういえば説明がまだでしたね。それでは、ポートモレスビー攻略における日本軍の編成を説明しましょう。」
MO機動部隊
本隊
第五戦隊・妙高、羽黒(重巡)
第七駆逐隊・曙、潮(駆逐艦)
航空部隊
第五航空戦隊・翔鶴、瑞鶴(空母)
第二七駆逐隊・有明、夕暮、白露、時雨(駆逐艦)
MO攻略部隊
主隊
第六戦隊・青葉、加古、衣笠、古鷹(重巡)
空母・祥鳳 駆逐艦×1
援護部隊
第十八戦隊・天竜、龍田(軽巡)
特設水上機母艦・神川丸、聖川丸
第五砲艦隊・特設砲艦×3
第十四掃海隊・特設掃海艇×2
ツラギ攻略部隊
ポートモレスビー攻略隊
「あの〜・・・」
「何です?」
「また、何がなんだか分からないとでも言うのだろう?」
「うん。」
「ちょっと、ファースト!説明が段々マニアックになってるじゃない!
もうちょっと分かりやすくしなさいよ、わ・か・り・や・す・く!」
「・・・難しいですか?」
「あったりまえでしょ!今日日、船の名前逐一挙げて全部分かるのなんて、ヲタか一部の物好きくらいのものよ!」
「アスカさんだって物好きじゃないですか。確か、イギリス戦艦の名前知ってましたよね?」
「つまんない事蒸し返すんじゃないわよ。とにかく、もう少し分かりやすくしなさいよ。」
「では、覚えるのはこれだけでかまいません。」
第五航空戦隊・翔鶴、瑞鶴(正規空母)
祥鳳(軽空母)
「極端に少なくなったな。」
「だが、これならお前でも覚えられるだろう?」
「え、あたしに言ってんの?」
「・・・他に誰がいる?」
「ひっど〜い!あたしが馬鹿みたいじゃないよぉ〜!」
「やれやれ、多少は自覚しているのかと思ったが・・・」
「あ〜、そんな事言うんだ?
いーもん、今度出撃した時マシュマー様の事、後ろからファンネルでオールレンジ攻撃するから。」
「待て待て待て!少し言い過ぎた!さっきのはだな・・・え〜、言葉の綾だ。言葉の綾。」
「ほんと?」
「ああ。」
「そっか・・・、ならいいや。」
(・・・ふぅ。)
「・・・・・。」
「どうした?」
「あんた、騎士がどうとか言ってんのにプルに頭が上がんないわけ?」
「・・・お前は奴の真の力を知らんからそんな事が言えるのだ。
似たような能力を持つ、奴の姉妹のプルツーが駆るクイン・マンサは化け物なのだぞ。
今は共闘しているからまだ良いようなものの・・・、万が一にもプルが我々に牙を剥いたらどうする?」
「はぁ?そんな話あったっけ?」
「原作の話なんじゃないですか?」
「原作って何よ、原作って・・・」
「知らないんですか?原作とは色々と話が違いますよね。
身近なところで言うと・・・そうですね。例えば、アスカさんのキレっぷりが足りないとか・・・」
「なんでそこで私の話が出てくんのよ!」
「そこまでにして下さい。」
「はい?」
「・・・話が進まないので、脱線は程ほどにお願いします。」
「は〜い。」
「さて、先程の部分までで不明な点など・・・何か質問はありますか?」
「エヘへ、説明簡単にしてもらって言うのもアレなんだけど・・・」
「まだ、分からんのか?」
「うん。空母とか軽空母とか言われても・・・いまいちピンとこなくてさ。」
「・・・簡単です。そうですね、例えて言うならラーカイラムが正規空母、アーガマが軽空母と言ったところです。」
「あの〜・・・」
「あんた、何度言ったら分かんのよ。分かりやすく説明しなさいっていってるでしょ。」
「アスカさん、批判ばかりじゃなくて自分で説明してみたらどうです?」
「え?」
「それもそうだな。批判ばかりじゃ万年野党と変わらねぇからな。」
「あんたら、何を言うのよ・・・。」
「そだね。たまにはそれもいいかも。」
「・・・・・。」
「どうした?」
「・・・私はお払い箱ですか。」
「あ、そういう事じゃないと思う。え〜と・・・、気分転換よ、気分転換。」
「わかりました。では、アスカに正規空母と軽空母の違いの説明を任せます。」
「ちょっと、あんた達・・・」
「それではどうぞ!」
「どうぞじゃないわよ!勝手に話を進めんじゃないわよ!」
「だと、アスカさんの負けですね。いいんですか?」
「む・・・、分かったわよ。説明すれば良いんでしょ。」
「意外と素直だな。」
「アスカ・・・、大丈夫?」
「だいじょぶよ。見てなさい、ファーストやひし形をギャフンと言わせる事なんか、お茶の子サイサイなんだから!」
「今時、ギャフンはどうかと・・・」
「お茶の子サイサイって・・・」
「るさいっ!」
「・・・アスカ、説明。」
「分かってるわよ!え〜と・・・」
正規空母=エヴァ弐号機
軽空母=エヴァ零号機
「こう考えればいいんじゃない?」
「これを見て・・・一体どう考えろと言うのだ?」
「う〜ん・・・。」
「さっぱり訳が分からないんだが・・・」
「そんな事無いわよ。エヴァ弐号機は初の戦闘用エヴァンゲリオンだもの。
テストタイプの零号機とは能力も武装も全てにおいて質が違うのよ。」
「え〜と・・・」
「強引過ぎないか?その例え。」
「そんな事無いわよ。正規空母と軽空母の差なんて能力の違いってだけなんでしょ?
それならエヴァの違いで説明したって十分じゃない。」
「これは、ちょっと・・・」
「うむ、決定的だな。」
「何がよ?」
「・・・綾波さん、説明お願いします。」
「何よ、それ!」
「・・・アスカの説明じゃ分かりづらいのでしょうね。」
「うるさいっ!」
「・・・正規空母と軽空母の違いは搭載機数の数です。大まかな数字は次の通りです。」
艦載機数
正規空母70〜90
軽空母20〜30
「違いはそれだけか?」
「もちろん、細かい部分は全然違いますが・・・覚えるのはこれだけで結構です。」
「なるほど〜、やっと分かったよ。」
「・・・なんだ、こんな説明で良かったんだ。難しく考えすぎて損しちゃった。」
「・・・愚痴ですか?」
「・・・愚痴の一つも言いたくなるわよ。私、なんで小難しい事考えてのかしら。」
「それは、コロンブスの卵ってヤツかな?」
「コロン・・・何それ?」
「大昔にコロンブスとか言う侵略者がそれまで発見されてなかった航路使って、新大陸を発見したらしくてな。
んで・・・その成功を妬んだヤシらがそんな事、簡単じゃないか!と、そのコロンブスってヤシに言いがかりをつけたのさ。
んで、コロンブスはこう言ったんだと。生卵を机の上に立ててみろ!と。
生卵なんだから当然ゴロンと転がっちまうだろ?結局、誰も立たせられなかったらしい。」
「当たり前じゃん。どうやって立たせるの?」
「何の事は無い、卵の底を潰しただけさ。」
「インチキじゃん。」
「でも、立たせる事には成功したわけだろ?」
「それはそうだけど・・・」
「つまり、誰かが成し遂げた結果にあれこれ言うのも批判するのも、最初に実行したヤツに比べたら簡単だし楽って事さ。」
「ふ〜ん・・・。」
「サキエルさん!なんてこと言うんですか!」
「へ、どした?俺、何か間違った事言ったっけ・・・?」
「食べ物を粗末にするような事を言っちゃ駄目じゃないですか!小さい子が真似したらどうするんです!」
「いや・・・、あくまで例え話だし真似するヤシなんか居るのか?」
「居る訳ないでしょ。」
「わかりませんよ?難癖つけるのは自称知識人の十八番なんですから。」
「あの・・・」
「あ、悪ぃ悪ぃ。話のコシを折るつもりは無かったんだ。ささ、続けてくれ。」
「・・・はい。」
「一つ聞くが・・・何故、空母の説明をしたのだ?」
「・・・これから説明するMO作戦が史上初の機動部隊対決だと言われているからです。
大東亜戦争以前の艦隊戦は基本的に目標を確認してからの砲撃戦・・・
それが、航空機の発達によって見えない敵との戦いに変貌してしまったのです。
そう言った意味で空母が話の主軸となっていくのです。」
「初のって・・・さっきのイギリスは?」
「イギリスとの戦いは微妙に違います。」
「何が違うのかしら・・・?」
「イギリス軍は空母を保有してましたが、セイロン島沖で日本軍が沈めたのは護衛空母でした。
イギリス軍の機動部隊とは結局、戦わず終いでしたので・・・本格的な空母同士の戦いは珊瑚海海戦が初めてとなるのです。」
「で?」
「ポートモレスビー攻略を目的としたMO作戦ですが、セイロン島の時と同じ様にアメリカ軍に情報が漏れていたのです。
4月末、アメリカ太平洋艦隊司令長官のチェスター・W・ニミッツ提督の元に
日本軍のポートモレスビー攻略計画の存在が知らされました。」
「何やってんのよ、日本軍は・・・。作戦始まる前から計画がバレてたらしょうがないじゃん。」
「・・・繰り返しになりますが、無理は言わないで下さい。」
「仮にも軍隊なんでしょ。情報の管理くらいしっかりしなさいよ。」
「アスカさん、日本軍の事あれこれ言ってますけど
アスカさんだってイングラム少佐がスパイだって事に気付かなかったじゃないですか!」
「だから、そういう一般の人お断りなネタを絡めるんじゃないわよ!訳分からなくなるでしょ!」
「う〜ん、いけずぅ〜。」
「いけずじゃない!」
「・・・情報漏れについては弁解の余地はありません。
大東亜戦争の時の情報漏洩は結果的に不手際となってしまいました。これは次の機会に生かすべき事案だと思います。」
「まぁ、前向きなのは良い事だ。」
「さて、圧倒的な国力を持つアメリカと言えど、戦争の準備はまだ出来ていませんでした。
海戦の中核をなす正規空母もそれほどの数は整っていなかったのです。・・・ご覧下さい。」
アメリカ海軍正規空母
エンタープライズ
ホーネット
ヨークタウン
レキシントン
サラトガ
「え?こんだけ?」
「そうです。少なくとも太平洋方面は・・・ですが。
何度も言いますが1941年に開戦した当時、アメリカ軍の準備はまだ整っていなかったのです。
ですから開戦を決定した日本の決断も、決して間違っていたとは言えないのです。」
「じゃあ、やっぱりハルノートは受け入れなくて正解だったって事か?」
「・・・そうでしょうね。
ちなみに、開戦を5年後に延ばしたとしたら戦うのも嫌になるくらい戦力の差が開くと日本側も認識していた様です。」
「・・・日本も現実は見えていたのか。機を見る目があるかどうかも重要だからな。」
「・・・さて、MO作戦の報告を聞いたニミッツ提督ですが、その時点で迎撃に回せる正規空母は2隻だけでした。」
「へ?そんなに少ないの?」
「エンタープライズ、ホーネットの2隻は
先程話したドゥーリットル隊の出撃に携わっていて南太平洋の作戦には間に合いません。
サラトガは日本海軍の潜水艦による攻撃を受けて損傷、その修理に追われていたのです。
したがって、作戦に参加できる正規空母はヨークタウン、レキシントンの2隻しかありませんでした。」
「へぇ〜、アメリカも大変だったみたいだなぁ。」
「ニミッツ提督は日本軍のポートモレスビー攻略を阻止する為、
ヨークタウン・レキシントンを中心とする第十七機動部隊を編成しました。艦載機の編成も日本軍とほぼ同等。」
F4Fワイルドキャット戦闘機
SBDドーントレス爆撃機
TBDデバステーター攻撃機
「上記の三機種です。役割も日本軍のものと同じ様なモノだと考えてもらって差し支えありません。
機数はおよそ140機ほど・・・、後は重巡×7、軽巡×2、駆逐艦×11、給油艦×2と、護衛艦の数も日本軍と同等でした。」
「戦力が互角って事は・・・後は本当に実力って事になるわね。」
「一方の日本軍はポートモレスビー攻略の前にツラギというソロモン諸島の一島を攻略しました。」
「ツラギはソロモン諸島の要衝の一つです。
当時、ツラギにはオーストラリア軍の水上基地がありソロモン諸島の中心地と言える地域でした。」
「ふ〜ん・・・。やっぱり何だか分からないけど。」
「・・・正直、私も理解しきれてないのでどうでもいい事と認識されて結構です。
ただ、このツラギの対面にガダルカナル島があるという事は覚えておいた方がいいと思います。」
「ガダルカナル島・・・?」
「芸人さんですか?」
「・・・んな訳ないでしょ。」
「・・・ガダルカナル島については後で説明します。
さて、アメリカ軍はポートモレスビーへの日本軍の侵攻計画をある程度掴んでいましたが
日本軍はアメリカ軍の機動部隊が進出している事など知りません。
5月4日フランク・J・フレッチャー少将率いる機動部隊(の一部)は日本軍のツラギ攻略部隊を急襲、
日本軍は駆逐艦菊月を含む計四隻の艦船を失いました。」
「あらら・・・。日本が強いって言ってもいきなり攻撃されたんじゃ、流石に無理か。」
「・・・はい。米軍機来襲の報告を受けたMO機動部隊はツラギに急行しましたが
結局アメリカ軍機動部隊を捕捉する事は出来ませんでした。」
「何故だ?」
「・・・引き上げてしまったからです。
空母同士の対決で最も重要な事は一刻も早く敵を見つける事なのです。
レーダーの発達していない時代ですから、日本軍もアメリカ軍も偵察機による目視が基本となります。」
「あれ、そうなの?アメリカ軍のレーダーって日本のより凄いんじゃなかったっけ?」
「それは、戦争中期から後期の話です。
開戦初期はまだ、多少の技術的格差なら人の力で補えた時代だったのです。」
「人の力で補うって・・・日本の事?」
「当たり前じゃないですか。日本の最大のハンデは国力の差なのですから。」
「俗に言う、気合と根性が通じる時代だったんですねぇ。」
「5月7日、MO機動部隊の翔鶴から飛び立った索敵機から米空母×1、駆逐艦×3発見の報告が入りました。
MO機動部隊はすぐさま攻撃隊を発進させます。編成は次の通りです。」
日本軍攻撃隊
零戦18機(制空)
九九艦爆36機(爆撃)
九七艦攻24機(雷撃)
「以上、合計78機からなる攻撃隊です。」
「それで、結果はどうなったのだ?」
「敵機動部隊発見の報告は誤報でした。偵察機が発見したのは油槽艦ネオショーと駆逐艦シムスだったのです。
攻撃隊は付近を捜索したものの機動部隊の姿を見つける事は出来ず・・・
日本軍は仕方なく、眼下の2隻を攻撃し引き上げていきました。」
「何やってんのよ・・・。」
「・・・リリンですから。間違いの一つや二つくらい起こしますよ。フフッ・・・。」
「一方の米軍機動部隊も日本艦隊を発見、直ちに攻撃隊を出撃させます。・・・編成は説明しましょうか?」
「どっちでもいいけど・・・」
「それでは・・・」
アメリカ軍攻撃隊
F4F18機(制空)
SBD53機(爆撃)
TBD22機(雷撃)
「ほんとに似てるんだね〜。編成ほとんど一緒じゃん。」
「有効な戦術が確立されれば、自ずと編成も似たようなものになる。これは至極当たり前の事だぞ。」
「しかし、アメリカ軍が発見した日本艦隊はMO機動部隊ではなくMO攻略部隊でした。」
「ごめん、違いがよく分からないんだけど・・・」
「MO攻略部隊は軽空母祥鳳が属する重巡がほとんどの部隊です。
日本側も敵との遭遇を考慮に入れていたので、迎撃機として零戦4機他を制空の為に上空に上げておきましたが
アメリカ軍攻撃隊の前には無力でした。
祥鳳の必死の回避行動も虚しく、魚雷7発・爆弾13発の命中弾を受け、炎上沈没しました。
この艦は井上中将が交渉した末にようやく派遣された新鋭艦だったのですが・・・」
「新鋭艦って、何か特徴でもあんの?」
「いいえ。ただ新しいというだけで、普通の護衛空母と変わりません。
日本にとって手痛い損失であった事に変わりはありませんが・・・」
「だったら意味ありげに新鋭艦なんて言うんじゃないわよ。
普通の人が聞いたら何か特別なのかな?って勘違いするに決まってんじゃん。」
「そんなものか?」
「そうじゃない。私達だって新鋭機が配備されるって聞いたら強力な機体が来るのかな?って思うでしょ?それと一緒よ。
新鋭機とか言ってザクTが配備されたら嫌でしょ?」
「例えになってない気がするが・・・」
「とにかく!誤解を招くような説明は止めなさいよ?ただでさえ日本語は難しいんだから。」
「・・・・・。」
「そういうアスカさんだって、日本語苦手じゃないですか。原作でも日本語が読めないとかなんとか・・・」
「るさいっ!つまんない事蒸し返すなって言ってるでしょ!大体、あんたらはどうして日本語喋ってんのよ!」
「ですから、それはATフィールドを使って・・・」
「勝手に設定作るなって言ってるでしょ!何度同じ事言わせんのよ!」
「アスカ、落ち着いて・・・」
「・・・とりあえず、もう少しなので説明を続けます。
翌5月8日、MO機動部隊・米軍機動部隊は双方ともほぼ同時にお互いの艦隊を発見しました。攻撃隊の編成は次の通りです。」
日本軍攻撃隊
零戦18機(制空)
九九艦爆23機(爆撃)
九七艦攻18機(雷撃)
アメリカ軍攻撃隊
F4F15機(制空)
SBD46機(爆撃)
TBD21機(雷撃)
「あれ?日本軍の攻撃隊って数減ってない?」
「そうなの?」
「うん。爆撃機と攻撃機ってのが少なくなってるよ。」
「どーせ、敵を過小評価してたんじゃないの?」
「・・・いいえ。MO機動部隊は5月7日の攻撃が空振りに終わった後、
熟練搭乗員による夜間攻撃隊を組織して出撃させていたのです。」
「ヤカン攻撃隊?」
「下らない事言うんじゃないわよ・・・。」
「エヘへ・・・」
「エヘへじゃない!」
「確かに夜襲は戦術の基本だが・・・そういえばこれまで夜間攻撃の話など出てこなかったな。何故だ?」
「夜間飛行はある程度の熟練度が無いと危険だからです。
しかし、危険性は高いものの奇襲には最適でもあり、成功したときの戦果は無視できるものでもありません。
言うなれば・・・賭けの様なものです。」
「で、その賭けはうまくいったのか?」
「・・・5月8日にアメリカ軍の機動部隊が健在な事と日本軍の攻撃隊機体数が減っている事が全てを物語っています。」
「失敗だったの?」
「そうです。」
「駄目じゃん・・・。」
「期待された夜間攻撃ですが、結果から見れば運に見放されていただけだったのです。経緯をご覧下さい。」
夜間攻撃隊発進
↓
接敵出来ず
↓
仕方なく爆弾・魚雷を投棄
↓
敵機動部隊に遭遇
↓
何も出来ずに帰還
「ちょっと気になったんだけど・・・」
「なんでしょう?」
「何で爆弾とかを棄てちゃったの?持って帰っても良かったような気がするんだけど・・・」
「敵戦闘機の襲撃を受けてしまったからです。
重い爆弾や魚雷を抱えていては、敵戦闘機から逃れる事も困難になってしまいますからね。」
「ふ〜ん・・・。」
「おまけに、この攻撃隊は味方空母と間違えて敵空母に着艦しようとした事もあったのです。
色々な偶然が重なり、着艦直前まで敵空母と味方空母の区別がつかなかったらしいです。
敵もこちらを敵機と認識していなかったらしく・・・珍事と言えば珍事ですね。」
「敵も馬鹿じゃないんだし、どーせ攻撃受けたんでしょ?」
「はい。この夜間攻撃で日本軍は13機の航空機と熟練搭乗員の多くを失ってしまいました。・・・残念な結果です。」
「賭けが裏目に出てしまった訳か・・・。」
「5月8日の日本軍の攻撃隊の数が減ってしまったのはこういった経緯です。
さぁ、5月8日の話に戻しましょう。出撃した日本軍攻撃隊は機動部隊を発見した偵察機の誘導もあり、
程なくアメリカ軍機動部隊に接敵、攻撃を開始しました。」
「今度は間違えてないわよね?」
「・・・偵察機の我が身を省みない誘導があったのです。間違いなどありません。」
「え?我が身をって・・?」
「索敵を終えた菅野兼蔵飛行曹長の索敵機が、そのまま攻撃隊の誘導を行ったのです。
長時間の偵察により機体の燃料が少なくなっていたにも関わらず・・・です。
・・・誘導を追えたその後、母艦への帰投中に行方不明となりました。」
「それって・・・」
「文字通り我が身を賭してです。
味方を確実に敵の下に導いたと言うこの話は美談とされ、当時の国民の感動を集めたそうです。」
「結局はプロパになっちゃうのね・・・。」
「彼の行為は間違いなく英雄的と言えます。その行為を利用してプロパにしたとするか、
彼の行為を無にしない為にも国民に知らせたとするか・・・そのあたりは言及しません。
さて、確実にアメリカ軍機動部隊に到達した日本軍攻撃隊はレキシントン・ヨークタウン2隻の空母に攻撃を集中、
攻撃隊の半分以上がレキシントンに襲い掛かりました。
レキシントンには爆弾5発、魚雷3本が命中。その後火災が発生、最後にはガソリンの気化ガスに引火し大爆発を起こしたのです。
手の付けられない状況になったレキシントンは総員退去命令が下され・・・午後6時に自沈処分されました。」
「もう一隻の方はどうなったの?」
「ヨークタウンに攻撃した機体が少なかったせいか、命中弾1発至近弾3発という結果でした。
喫水線にも損傷は与えていたものの・・・沈没は免れていたのです。」
「あと一押しって感じがするけど・・・」
「・・・残念ながら爆弾、魚雷の全てを使い果たした攻撃隊は引き上げるより他に手段はありませんでした。
最後の後一押しが出来なかったのです。しかも、攻撃隊は帰投中アメリカ軍戦闘機隊の襲撃を受けてしまいました。
零戦隊の援護が無かったため、11機が失われる結果となってしまったのです。」
「・・・なるほど、攻撃を終えた後も安心は出来んというわけか。」
「そういや、アメリカ軍の攻撃隊はどうなったの?日本の空母に向かったんでしょ?」
「日本軍の攻撃隊とほぼ同時に出撃したアメリカ軍攻撃隊ですが、
攻撃隊の半分近くが悪天候の為日本の空母を見つける事無く脱落してしまいました。
この点でも日本は恵まれていたのです。」
「でも、残り半分は攻撃してきたんだろ?」
「はい。攻撃を受けたのは翔鶴(正規空母)です。魚雷は全てかわせたものの450kg爆弾3発が飛行甲板に命中、
航空機の発着は不能となり火災も発生しましたが、どうにか火は消し止められました。
その後、巡洋艦に守られながら戦線を離脱したのです。
あと一隻の正規空母・瑞鶴はスコールの中に身を隠す事が出来たため、事なきを得ました。」
「て事は・・・日本側に沈没した船は無しなのね。」
「攻撃を終えた後、MO機動部隊には連合艦隊司令部から追撃命令が届きました。
しかし、攻撃隊の被害はかなりのものだったのです。この時点での日本軍の稼動機は次の通りです。」
零式艦上戦闘機×24
九九式艦上爆撃機×9
九七式艦上攻撃機×6
修理可能機×17
「これだけ?」
「はい。この数では攻撃隊の編成も無理と判断したのでしょう。
結局追撃命令は実行されず、MO作戦の指揮官井上中将はポートモレスビー攻略作戦の無期限延期を決定したのです。」
「作戦中止は分からなくないけど・・・ちょっといい?」
「なんでしょうか?」
「何で連合艦隊司令部は追撃を命令したの?
真珠湾の時はあっさり引き上げたってのに・・・現場の状況分かって無いんじゃないの?」
「・・・・・。」
「どーなのよ、そのあたりは?」
「・・・これは私見ですが、アメリカ軍機動部隊が出現、首尾よく接敵出来た事にあると思います。」
「どういう事だ?」
「開戦以来、アメリカ軍機動部隊はヒットアンドアウェイとも言える一撃離脱戦法をとっていました。
機動部隊を撃滅しようにも敵を捉える事が出来なかったのです。」
「で?」
「ここで会ったが百年目ってやつだろ?せっかく遭遇出来たんだから叩いて欲しいってのが本音だったんだろうな。」
「ムチャでしょ。飛行機の数が減ってるんだから・・・」
「でも、気持ちは分からなくはないですよ。日本にとってはようやく出会えたはぐれメタルみたいなモンでしょ?
そりゃ無理してでも倒したいとは思うのは当然でつよ。」
「はぐれメタルって・・・」
「何それ?」
「某有名RPGの敵ですよ。経験値が多くもらえるとか何とか・・・やった事はないですけどね。」
「憶測かい・・・。」
「・・・例えとしてはそれほど間違っていないと思います。
日本にとって米正規空母は、どうしても叩いておきたい相手なのですから。それでは珊瑚海海戦についてまとめたいと思います。」
1.戦術的には正規空母一隻を葬った日本軍の勝利
2.戦略的にはポートモレスビー攻略を諦めさせたアメリカ軍の勝利。
3.機動部隊同士の戦いでは攻撃隊の被害が増える事が判明。特に日本にとっては深刻な問題。
4.アメリカ軍が他の軍隊に比べて強力であるという事も判明。
「それだけじゃないでしょ。」
「まだ何かあるの?」
「日本軍はこの戦いでの戦訓が生かせなかったらしいじゃない・・・そのあたりはどうなのよ?」
「・・・その話は次のミッドウェー海戦と絡むので、ここでは止めておきます。」
「また先延ばしかい・・・。」