沖縄防衛戦

 

 

 

 

「・・・アメリカ軍は着実に日本本土へと近付いていました。次の攻略目標として検討されたのが台湾と沖縄です。」



「台湾?」

「・・・台湾にも他の地域と同様、日本軍の航空基地が多数存在し、緒戦のフィリピン攻略時には有効活用されました。」

「そうなの?でも台湾攻略なんて聞いた事無いんだけど。」

「アメリカ軍は元々、台湾も攻略する予定でした。
台湾攻略の目的は重爆撃基地としての台湾の取得と中国への補給基地の設置です。
しかし、仮に台湾を奪取したとしても途中の妨害が考慮されますし、アメリカの目標はあくまで日本本土です。
再考を重ねた末に台湾は攻略対象から外され、沖縄と硫黄島の攻略が決定されたのです。」

「あれ?硫黄島って・・・」

「上記の攻略目標選定の話は、硫黄島を攻略するはるか以前の話です。
先程も話しましたが、フィリピンや硫黄島守備隊の奮戦によりアメリカ軍のスケジュールはかなり遅れました。」

「そうなのか?」

「アメリカ軍は3月1日に沖縄本島に上陸する予定でした。
しかし、ルソン島攻略遅延・天候不良も相まって、最終的に4月1日に変更されたのです。」

「1ヵ月の遅れか・・・。やはり各地の奮戦は無駄ではなかったという事だな?」

「そう考えても差し支えは無いかと・・・
アメリカ軍による沖縄攻略作戦は氷山(ICE BERG)作戦と称されました。作戦のおおまかな流れは次の通りです。」


1.沖縄本島南部の攻略(慶良間島含む)
2.伊江島攻略及び沖縄本島北部の攻略
3.沖大東島、久米島、宮古島、喜界島、徳之島の占領


「どこが何だかよく解らないんだけど・・・」

「まぁ、そこまで難しく考える必要はありませんよ。
沖縄本島と周囲の島々にアメリカ軍が侵攻してくるというのを覚えて置いていただければ問題はありません。」

「で・・・、日本軍は?」

「日本の各地はアメリカ軍の攻撃を受けています。
当然、フィリピンの次に沖縄や台湾へアメリカ軍が攻めてくるというのは容易に想像出来ました。
しかし、兵力にあまり余裕の無い日本です。
間の悪い事に、日本軍は沖縄から台湾へ兵員を移動させてしまっていたのです。
以前にも説明したとおりアメリカは台湾の攻略を中止していますので、日本側の人員移送が裏目に出てしまったと言えます。」

「なにやってんだか・・・」

「・・・仕方ありません。防衛線を広げれば自然と防御は薄くなってしまいますし、
かと言って一箇所に戦力を集中したとしても、アメリカ軍にスルーされてしまえば何の意味も無くなってしまいます。」

「あちらを立てればこちらが立たずってヤツか?」

「そんな話ばかりですねぇ。」

「・・・まぁ、仕方ありません。
さて、防衛準備が進められる沖縄ですが、問題はまだありました。」

「問題って?」

「沖縄に住む民間人の方々の事です。
アメリカ軍の沖縄上陸が始まってしまえば、民間人を戦闘に巻き込んでしまうことは容易に推察されます。
これは、以前のサイパン島での出来事からもわかる事です。」

「なんだっけ?」

「サイパン島とはマリアナ沖での戦いの時にアメリカ軍が上陸を企図した島だ。
確か、民間人もかなり犠牲になった戦いだったはずだが・・・」

「サイパン島の陥落を受け、沖縄へのアメリカ軍の上陸が現実味を増してきました。
そこで、日本本土への住民の避難が始められたのです。・・・平たく言うなら疎開ですね。」

「そういうの授業で習った様な・・・」

「昭和19年7月から早速始められた疎開ですが、その前途は明るいものではありません。
それが、日本近海に出没するアメリカ軍潜水艦の存在です。
疎開が始まる以前の昭和18年頃から、沖縄の那覇と九州を行き来する輸送船が沈められるという出来事が増えていたのです。」

「駄目じゃん。何やってんのよ。」

「南方資源の輸送ですらままならない海軍です。
輸送作戦を軽視していたのではなく、手が回らないのだと何度言えば解って頂けるのですか?」

「ホントにそうなの?」

「前線の駆逐艦が足りなくて、空母の護衛すらままならなかったと言うのに
後方の輸送船に護衛を付ける余裕があると思いますか?無いもの強請りをしたところで何も解決しません。」

「むぅ・・・」

「アスカさん。」

「何よ?」

玉砕神とお呼びしましょうか?」

「何がよ!ひし形の分際でいちいちうるさいのよ!」

「ついに神の称号を得たか・・・。」

「うるさいっつってるでしょ!」

「昭和19年7月から進められた疎開ですが、その中である悲劇が起こりました。
それが疎開船対馬丸の撃沈です。」

「なにそれ?」

「昭和19年8月22日、学童767名を含め1667名の民間人を乗せた輸送船対馬丸がアメリカ軍潜水艦の雷撃を受け沈没。
生存者177名を残し多数の方が亡くなられるという出来事があったのです。」

「うわ!最悪!」

「・・・いちいち、私の方を見るんじゃないわよ。」

「だって、アスカさんもアメリカ国籍じゃないですか〜。」

るさい!アメリカ国籍だからって何でもかんでも難癖付けんじゃないわよ!
そもそも、潜水艦から輸送船を守れない日本が悪いんでしょうが!」

「・・・その点は弁解出来ません。
一応少数の護衛が付いていた様ですが・・・アメリカ軍の潜水艦から輸送船を守れなかった事に代わりはありませんから。」

「ほら見なさい!なんでもかんでもアメリカのせいにするんじゃないっての!」

「・・・マリアナで主力空母も守れないような状況だからな。」

「沖縄からの疎開船で唯一撃沈された対馬丸の事件は秘匿されました。
対馬丸の件が明らかになったのは戦後になってからだとか・・・」

「なんで?」

「・・・やはり、世論に与える影響を考慮した上での結果でしょう。
この大事な時に軍部に対する批判を高めさせても何も良い事はありませんから。」

「つまり、お偉方の責任逃れを容認するわけね。」

「・・・そうは言っていません。」

「じゃあ、どういう意味なのよ!」

「・・・そういう事は無事に終戦出来てからやってくださいという事です。
国が消えるかどうかの瀬戸際だというのに、そんな暇な事をしていて何になるというのですか?」

「暇な事って、をい。」

「21世紀現在でも党利党略で国策を見ていない政治家が多い現状です。
もしかすると、売国奴が公然と国家の中枢に入り込んでいる今の方が戦前より酷いのかもしれません。
一時期に比べると最近は良くなって来た方だとは感じますが・・・
今、思い直してみると1990年代半ばに日本がよく滅びなかったものだと思います。」

「話ズレてるって・・・」

「・・・失礼しました。
とにかく対馬丸の一件が秘匿されたという事は頭の片隅に止めておいて下さい。」

「で、他は?」

「他とは?」

「日本軍の事だもの。他にも疎開船が沈められてるのが普通でしょ?」

「また、ミもフタもない言い方を・・・」

「・・・先程も言いましたが、疎開船178隻の内撃沈されたのは対馬丸一隻です。
危ない橋でしたが、7万人程の民間人の方々は無事に内地へ疎開する事が出来たのです。」

「あら、意外と少ないのね。」

「・・・どういう意味ですか?」

「いちいち食ってかかるんじゃないわよ。
単純に今までの日本軍のオチから考えたら少ないって思っただけなんだから。」

「・・・・・。」

「何か不満?」

「うわ・・・」

「ちょっと!なんでアンタがそんな露骨に変なモノを見るような顔してんのよ!」

「だって〜。」

「だってもへったくれもない!」

(どうして表情が解るのかしら・・・?)

「話を戻すが・・・民間人は避難出来たのだろう?ならば問題は無いのではないか?」

「疎開は行われましたが、沖縄本島にはまだ十万人以上の民間人が残っていました。
彼らにも比較的危険の少ない沖縄本島北部への疎開が進められましたが、様々な事情から疎開は思うように進みませんでした。
結果的に、民間人が各地に残ったままアメリカ軍の上陸を迎える事になってしまったのです。」

「何やってんのよ。」

「あまり無茶を言わないで下さい。
仮に避難するにしても避難先での生活が保障されているわけではありません。
沖縄北部への疎開が思うように進まなかったのは経済的な理由というのも原因の一つなのです。」

「色々大変なんだな。」

「3月下旬になると各地からアメリカ軍が沖縄周辺に集結し始めました。
大まかな兵力数はこちらになっています。」


アメリカ軍
艦艇・約1300
航空機・約1800
戦車・約500
地上兵力・約18万


「・・・アメリカ軍の兵力は相変わらずだな。」

「対する日本軍の兵力はおよそ10万人。人員も倍近くの差があり、装備の面でも劣勢は免れません。
ここ沖縄でも硫黄島と同様、持久戦でアメリカ軍の侵攻を遅らせる事が目的とされていました。」

「また?」

「他に方法はありません。」

「そういえばさ、沖縄戦のドラマってあったよね。」

「ざわわざわわざわわ〜♪」

「音程ズレてるって・・・。」

「何の話だ?」

「何年か前に放映された沖縄戦にちょっとしたアレンジを加えたフィクションドラマの事でしょう。
本家でも説明されていましたが・・・時代考証がメチャクチャでしたね。」

「まさか、戦車がどうたらなんて言うんじゃないでしょうね。」

「・・・戦車及び陸軍の兵装については詳しくないのでその辺りは言及しません。
強いて不満を挙げるとすれば、あの沖縄のおだやか過ぎる光景でしょうか。」

「なにそれ?」

「アメリカ軍が沖縄本島に上陸したのは4月1日。
しかし、アメリカ軍が沖縄近海に姿を見せたのは3月下旬・・・25日には艦砲射撃を開始しています。
同時に掃海艇が機雷の除去を行いつつ艦載機による支援爆撃も行われています。
あのドラマにそんなシーンありましたっけ?

「私に聞くんじゃないわよ。知らないって・・・」

「本家でも言われていた事ですが・・・あのドラマの沖縄は本当に穏やかですよね。
鉄の暴風と呼ばれた艦砲射撃や艦載機による支援爆撃等がほとんどありませんから・・・
上陸開始前に行われた艦砲射撃ですら12万発以上と言われているのに、そんなものは影も形も無く・・・不思議な話です。」

「しょーがないんじゃないのか?しょせんドラマなんだし。」

「そーよ。どーせ、予算が少ないんだから細かい事ツッコんだってしょうがないでしょ。」

「・・・いえ、私が不満なのは特攻隊の方々の描写がまるで無かった事です。
先程も申しましたが、沖縄に対するアメリカ軍の支援砲爆撃は苛烈を極めました。
その苛烈な艦砲射撃がほんの一時、別の方向に向けられる事があったのです。」

「別の方向って・・・攻撃してんのに?」

「沖縄への砲撃より優先しなければならない目標・・・特攻隊が来襲したからです。
沖縄戦においても本土から特攻隊が出撃、アメリカ軍に少なからず損害を与えました。
また、特攻隊のおかげでアメリカ軍の沖縄への艦砲射撃が収まり、その間に水を汲みにいけたという話もあります。」

「特攻隊か・・・。」

「でもさ、なんで特攻だと攻撃が通じるようになったの?特攻始める前って全然ダメダメだったじゃん。」

「そういえばそうですよね。例えば七面鳥とか七面鳥とか七面鳥とか。」

「ですから、爆弾を積んだ戦闘機が身軽な戦闘機に勝てる訳が無いと何度言えば・・・」

「まぁまぁ。んで、通常攻撃と特攻と何が違うんだ?」

「・・・対空砲の目的はあくまで敵攻撃機の攻撃を防ぐ事です。
撃ち落す事が出来れば万々歳ですが、敵に射線を取らせないというのも重要なのです。
つまり、敵を撃ち落とせなくても相手に攻撃さえさせなければある程度は防げるという事になります。
ですが、相手が特攻となると話はまるで違ってくるのです。」

「よく解らないんだけど・・・」

「何度も言いますが、特攻兵器に乗っているのは人間です。
個人の技量にもよりますが基本的には最後の最後まで操縦されて体当たりをしてくるのです。
この時点で、相手に射線を取らせないという防御方法はその意味をほとんど失います。
最初から体当たりを目的として向かってくるのですから、体当たりを防ぐには撃ち落す以外に方法は無い訳です。」

「なら、撃ち落せばいいじゃない。VTなんたらだってあるんでしょ?」

「VT信管も確かに効果はありますが、被弾させる事は可能でも撃墜するとなると困難になってくるはずです。
通常攻撃と特攻とでは攻撃方法そのものが完全に別物になっていますからね。
アメリカ軍は戦争後期、特攻隊の対策に苦慮していたという話もあるくらいですから・・・」

「いつの間にか特攻の話になってしまったな。」

「・・・沖縄での特攻作戦については後で説明を行うつもりなのでこの辺で止めておきます。
とにかく、日本のTVドラマに期待するのは無駄です。もしご覧になるなら話半分に見る事をお勧めします。」

「あんたも、思いっきり脱線させてんじゃないわよ。」

「・・・失礼しました。先程も説明した通り、アメリカ軍の上陸は昭和20年4月1日に沖縄本島への上陸を開始しました。
時刻は08:30の事だったそうです。」

 


沖縄本島


「アメリカ軍は上陸地点近くにある嘉手納、読谷の両飛行場を制圧。
その日の内に東海岸にまで到達し、沖縄の日本軍は南北に分断される事となりました。」

「いきなりか?」

「今回の沖縄では日本軍はアメリカ軍の上陸を見守るだけでした。
硫黄島の時は、アメリカ軍が上陸を終えた後で反撃を開始していましたが、今回はそれすらありません。」

「なんでよ?あんた、兵法がどうたらって言ってたじゃない。」

「・・・基本を全てに当てはめようとされても困ります。
日本軍が反撃を控えたのは、アメリカ軍の苛烈な反撃が予想されたからに他なりません。
上陸したアメリカ軍に対し砲兵隊で反撃を加えたとしても、発砲煙や閃光から日本軍の位置が悟られる可能性が高いのです。
日本軍の位置がアメリカ軍に知られれば・・・どうなるかは想像できるでしょう?」

「どうなんの?」

「・・・少しは考えろ。アメリカ軍は間違いなく砲爆撃を加えてくるはずだ。
自らが放つ何倍もの砲弾が日本軍陣地に雨の様に降り注いでくるだろう。」

「それじゃ、反撃になってないじゃん。」

「だからこそ安易な反撃を控えたのです。
海岸近くの飛行場をアメリカ軍にあっさり占領されても反撃しなかったのもそういった理由です。
沖縄守備隊の目的は、あくまで持久戦を行い本土決戦の時間を稼ぐ事なのですから。」

「それじゃ、本土の為に犠牲になれって事?」

「・・・以前に話しませんでしたか?日本本土に攻め込まれたら、その後がどうなるか解らないと。
日本という国家が無くなってしまえば沖縄や他の地域が無事だったとしても意味が無いのです。
極論ですが、沖縄が無事なまま本土が連合国に対し無条件降伏したと仮定しましょう。
その後、沖縄がソ連の管理下に置かれるという状況になったとしたら・・・それが幸せだと思いますか?」

「なんでソ連を持ってくんのよ・・・。」

「ソ連が駄目なら中共でも良いですよ。」

「だから何で最悪な国ばっかり例えに出すのよ。史実みたいに、アメリカの統治下になるって可能性だってあるでしょうが。」

「もちろん。ですが、逆も然りです。アメリカの統治下なら少しは好条件かもしれませんが
ソ連や中共の管理下に置かれたりしたら沖縄はより悲惨な末路を辿る事になります。
降伏しても大丈夫かもしれないなんて希望的観測で決断を下す政治家など役に立ちません。
常に最悪の事態を想定しつつ慎重に決断してもらわなければ困ります。」

「プw」

「何よ!その笑いは!」

「だって、反撃したら逆に集中砲火を浴びるなんて面白いんですもん♪」

「誰が集中砲火を浴びてるってのよ!誰が!」

「・・・お前以外に誰がいる?」

「うるっさいわね〜!まだ、沖縄を見捨てるって事の弁解は何もしてないでしょうが!」

「誰が沖縄を見捨てているんですか?」

「はい?あんた、沖縄を時間稼ぎにするって言ってたじゃない。」

「・・・時間稼ぎと言えど、見捨てている訳ではありません。
事前に沖縄防衛の準備は進めていましたし、アメリカ軍が上陸してからも特攻隊として攻撃隊を出撃させています。
決して沖縄を見捨てた訳では無いのです。本当に見捨てるつもりなら、貴重な燃料と搭乗員を犠牲にしてまで特攻は行いません。」

「む・・・」

「(・∀・)ニヤニヤ」

「く〜!ムカつくわね〜!」

「また玉砕か?」

またってどういう意味よ!それに本土決戦の為に戦力を温存してたって話もあるじゃない!」

「・・・それは当然の話ですよ。沖縄防衛も大事ですが、本土の防衛もまた大事なのですから。
いざ敵が本土に迫ったという時に抵抗出来なければ意味は無いでしょう?」

「・・・・・。」

「ソッコーで返り討ちでつか?」

「うるさいっ!」

「・・・話が逸れすぎました。
とりあえず、アメリカ軍の上陸当初は日本軍も全くと言って良いほど反撃を行わなかったという事です。
もちろん最前線では戦闘が行われていますけどね。」

「戦闘してるって・・・差がすごくあるんでしょ?」

「最前線で防衛戦を行っていたのは第64師団でした。
彼らは堅固な防御線を構築、物量に勝るアメリカ軍の進撃を食い止めていたのです。」

「スゴイじゃん。」

「ですが、日本軍の損害も無視できるものではありませんでした。
4月下旬になると第64師団の兵力は3分の1近くまで減少してしまったのです。」

「駄目じゃん。」

「そうは言われましても・・・1ヵ月でのアメリカ軍の侵攻を5km程に押さえ込んでいるのです。
地形を利用した防御戦闘で敵戦車を何両も頓挫させるなど、アメリカ軍に与えた損害は決して少ないものではありません。
褒め称えられて然るべき奮戦だと思いますが。」

「へ、1ヶ月で5kmしか進んでねーのか?」

「そうです。」

「何倍もの敵を相手に防戦か・・・防御側が有利とは言え、日本軍の奮戦は相変わらずだな。」

「それにしても、よくアメリカ軍の戦車を破壊出来てるわね。日本の戦車ってロクなのないのに。」

「∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃーい!」

「・・・沖縄戦において日本軍の戦車はまだ戦線に投入されていないはずです。
この時は歩兵による攻撃で戦車を頓挫させたと聞いています。」

「へ、歩兵なの?」

「何か?」

「だって・・・戦車って兵隊さんより強いようなイメージがあるから。」

「・・・戦車にとって最大の敵は歩兵です。
十分な対抗策を準備しているという前提は必要ですが、戦車にとってやっかいなのはやはり歩兵なのです。」

「そなの?」

「そういえばそうですねぇ。
ほら、ライアン二等兵探す話でもインチキティーガーが歩兵の皆さんの手で壊されてたじゃないですか。」

「映画と現実をごっちゃにすんじゃないっての。」

「効果的に反撃を行い、アメリカ軍の侵攻を遅らせていた日本軍ですが、
大規模攻勢をかけてきている相手に防御を繰り返すという戦術に日本軍の中から不満が出てきました。
現地の第32軍としては持久戦の方針だったのですが、各部隊から攻勢をかけたいとの要望が徐々に高まってきたのです。」

「攻勢って・・・無茶じゃないの?」

「・・・当然です。司令部では攻勢か持久かで意見が分かれ、議論が繰り返されました。
しかし、最終的には攻勢で話が決定。5月4日にアメリカ軍に対し総攻撃をかけるという事が決定されたのです。」

「何よ、なんだかんだ言って結局突撃じゃない。」

「・・・総攻撃だからと言って、必ずしも突撃だけという訳ではありませんが。」

「で、うまくいったのか?」

「・・・全体的には5月4日の日本軍の攻勢は失敗に終わりました。
虎の子の戦車まで動員した日本軍ですが、アメリカ軍の苛烈な火力の前に全滅する部隊が続出。
伊藤大尉率いる部隊が棚原高地を占領するという戦果もありましたが、
他の戦線の劣勢はどうしようもありません。予備兵力を動員しても戦況に好材料は現れず・・・
5月5日の18:00、牛島司令官は作戦中止を命令。進撃した各部隊は旧陣地へ戻る事を余儀なくされたのです。」

「つまり、失敗したって事か?」

「そうです。」

「言わんこっちゃない・・・。」

「一部の部隊が突出しつつも結局は攻勢を断念か・・・。以前のガダルカナルでも似たような話があったな。」

「川口支隊のヘンダーソン飛行場守備隊に対する総攻撃の話ですね。懐かしい話です・・・。」

「マシュマー様、よくそんな細かい事覚えてるね〜。」

「・・・お前、私を馬鹿だと思ってないか?」

「え、違うの?」

誰がだ!私は指揮官だというのに・・・上官を敬うという心が無いのか!」

「だって〜、あたし部下じゃないし〜。」

「ね〜♪」

「アメリカ軍に与えた損害も、初期の防衛戦の時より少ないくらいです。
戦術的にも今回の大攻勢は失敗に終わってしまったのです。
司令部では組織的戦闘の継続は後二週間程が限度と判断、とにかく首里周辺の防備を固める事となりました。」


 

「そんなんで大丈夫なんですか?」

「・・・大丈夫ではありません。今回の攻勢で砲兵隊はかなりの弾薬を消費してしまいました。
後々の事を考えれば日本軍守備隊に明るい材料は何もありません。」

「だから言ったんですよ。総攻撃なんか無駄だって。」

「あんた、何も言ってなかったでしょうが。」

「この頃です。同盟国ドイツの降伏の報が日本に届いたのは・・・
これで日本は本当に孤立する事になってしまいました。」

「・・・散々だな。」

「・・・五月末になると、首里近郊にまでアメリカ軍が現れるようになりました。
ここでも様々な迎撃プランが検討されましたが、結局第32軍司令部は玉砕戦法を取らず摩文仁への撤退を決定。
折からの豪雨という天候にも恵まれ、撤退はほぼ滞りなく行われました。
もっとも、海軍陸戦隊への情報伝達の不備から多少の混乱はありましたが・・・」

「なにやってんだか・・・」

「後退しながら・・・しかも敵の攻勢を受けている状況だ。多少の混乱は止むを得まい。」

「この時点で、日本軍守備隊の継戦能力は限界近くに達していました。
後退した海軍部隊は小禄地区でアメリカ軍の包囲に遭い、陸軍との合流は不可能となりました。
6月6日に訣別と辞世の句を打電。沖縄県民の方々がいかに献身的に協力してくれたかを事細かに述べるとともに、
最期は沖縄県民かく戦えり、県民に対し後世特別の御高配を賜らんことを。と、結ばれていました。」

「その後は・・・?」

「6月13日、指揮官の大田少将以下司令部や傷病兵の方々は自決。
海軍部隊の組織的な抵抗はここで終わりを告げました。」

「で、陸軍は陸軍でなにやってんだ?」

「・・・状況はあまり変わりません。
6月18日になると、摩文仁司令部周辺にまでアメリカ軍が迫ってきていました。翌19日、牛島司令官は
局地における生存中の上級者これを指揮し、
最後まで敢闘して悠久の大義に生くべし
と下令しています。」

「なにそれ?」

「・・・つまり、以降は現場指揮官の指示に従い今後も持久戦を続けろという事だ。」

「・・・各地との連絡はほとんど遮断されつつありましたからね。
前述の最期の命令を行った後、司令部では缶詰とお酒で訣別の宴が行われました。
6月23日に牛島司令官は自決。その他の指揮官の方々も自決し、日本軍の組織的な抵抗はここで終わりました。」

「2ヶ月以上も持久戦を継続したか・・・。」

「沖縄の一部ではその後も抵抗は続けられ、完全に戦闘が終結したのは戦後です。
沖縄戦の持久戦があったからこそ本土決戦が避けれられたと言っても決して過言ではありません。」

「ふ〜ん、日本軍ってやっぱり凄いんだね。」

「日本軍でも階級が上の方々の評価はかなり別れますが、
末端の方々の不評はほとんど・・・と言うより全く聞きませんからね。
もちろん個人レベルでは色々と不満は聞きますが、全体的にはかなり優秀だったのでは無いかと・・・」

「で、またベタ褒め?」

「・・・またとは何ですか。制空海権を完全に奪われた状況で戦うなんて、並大抵の事ではありません。
当時の沖縄は援軍の見込みも無い絶望的な状態なんですよ。当然、その奮戦は褒め称えられて然るべきでしょう。」

「でも、沖縄の民間の人たちがたくさん犠牲になったって・・・」

「・・・そうですね。この沖縄戦で民間人約10万人が犠牲になったと言われています。
撤退中、軍と民間人同じ壕に避難し壕から民間人を退去させたりとか、民間人の幼児の鳴き声を止める為に
母親自ら幼児の口をふさいでしまったとか・・・不幸な出来事が多かったのもまた事実です。」

「ほら見なさい!やはり日本軍は極悪集団なんでつ!」

「・・・沖縄の方々が本気で日本軍を恨んでいるなら、戦後日本への復帰運動が行われたりなんかしませんよ。
もちろん、当時の日本軍に対する不満が無かったとは言いませんが
よく某報道機関が喧伝するような日本軍=極悪非道な集団と考えるのも無理があるというものです。
もちろん、私は当時の沖縄を生きたわけではありませんから実際のところはわかりません。
ただ、話で聞く限りではそれほど酷くなかったのではないかと・・・現に県民の方々は日本軍に協力してくださっていたわけですしね。
それは、先程の大田少将の電文内容からも解るはずです。」

「だって〜、ドラマの中じゃ日本軍の指揮官の人が主人公を射殺したっぽいじゃないですか〜。」

「・・・あの主人公は性格的に問題ありでしょう。敵前逃亡に嘘八百・・・挙句は命令無視ですよ?
私の目には、彼は独善的な人間としか映りませんでした。
しかも、行軍中に歌を歌うなど・・・番組スタッフに前述の母親の話を知っているのかと小一時間問い詰めたい気分です。
もっとも、主人公に限らずアレに出てくる登場人物は思考が戦後の人だらけなのですが。
まぁ・・・、アレは沖縄戦のドラマではありませんからどうでもいい話なんですけどね。」

「どうでもいい割にはしっかり語ってるじゃない・・・。」

「今回の一連の沖縄地上戦での双方の死傷者数は次の通りです。」


日本
約94000名
(軍人・軍属、沖縄出身者含む)
約94000名
(住民)

アメリカ
約11000名

 

「他、少年兵やひめゆり部隊の方々など、地上戦ゆえの悲劇は多々あるのですが・・・
まぁ、沖縄の陸上戦についての説明はこんなところでしょうか。」

「なんでそういう大事な話を端折るのよ。」

「・・・検索すればすぐに見つかるからです。残念な事に、沖縄戦の出来事はその悲劇性ゆえに
ある特定の思想の方々に利用されやすいという要素も秘めているのですが・・・その辺りの判断はお任せします。」

「某新聞社とか某TV局とか某政党とか♪」

「まぁ、今はそういった方々は落ち目になっていますから油断さえしなければ問題はありません。
戦いの基本は情報・・・一昔前と違い、ある程度の情報が供給され吟味できる環境が整えられた現在なら、
情報戦において負ける事は万に一つも無いでしょう。」

「次は何の話なのだ?」

「沖縄周辺の敵艦隊に行われた特攻作戦についてです。」

 

 

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