菊水作戦
「・・・皆さん、長時間の講義お疲れ様でした。」
「ふぅ、ようやく終わり?」
「もうすぐです。今回と次回の講義とで、帝国海軍の大掛かりな作戦の説明は終わります。」
「長かった様な短かった様な・・・振り返ってみるとあっという間だったな。」
「あっという間じゃないわよ。十分長すぎたでしょうが。」
「そーだね。あたしなんか全然話についていけなくなっちゃったし。」
「なるべく解りやすく説明してきたつもりですが・・・、最期くらいはちゃんと解っていただける様に説明するつもりです。」
「でも、どーせ特攻でしょ?」
「・・・そうですね。全部が全部ではありませんが、説明のほとんどが特攻の話になります。」
「ほら、やっぱり。」
「・・・前回説明したとおり、4月1日にアメリカ軍は沖縄へ上陸を開始しました。
これに対抗する為、第三、第五、第十航空艦隊は総力を挙げて沖縄周辺の敵艦隊へ航空攻撃を開始したのです。
4月6日から11日にかけて行われた菊水一号作戦で投入された航空機は次の通りです。」
菊水一号作戦
零戦21型×58
零戦52型×40
天山艦攻×10
彗星艦爆×30
97艦攻×27
99艦爆×38
銀河×14
「上記の数は突入した機体だけですので、直援機を含めればもう少し多くなると思います。
また、例によって陸軍機については省略してあります。」
「いい加減ねぇ・・・。」
「4月6日には水上部隊も沖縄に向けて出撃していますが、その話は後にしたいと思います。」
「また?あんた、本当に後回しにしてばっかね。」
「・・・楽しみは後にとっておくものです。
さて、4月6日の菊水一号作戦は沖縄方面の制空権確保から始められました。
海軍の第五航空艦隊から制空戦闘機が出撃していますが、陸軍からも四式戦闘機疾風48機が出撃。
また、陸軍の偵察機百式司偵が電探欺瞞紙の散布を行っています。」
「4様キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!」
「前もやったでしょ、それ。」
「ねぇ、百式ってアレ?」
「金ピカド派手なMSでつ。」
「・・・いいえ。陸軍の偵察機です。速度等に優れていた為重宝されたとの事ですが。」
「結局は知らないんでしょ。」
「はい。」
「即答すんじゃないわよ・・・。」
「ねぇねぇ、それじゃ電なんとかってなに?」
「以前にも少し紹介しましたが、敵レーダーを撹乱するために作られた兵器の一つです。」
「ミノフスキー粒子みたいなモンかな?」
「・・・まぁな。以前にも似たようなやりとりがあった気がするが。」
「で、役に立ったの?」
「手元の資料によると、敵機動部隊を撹乱できたとあります。
この日の特攻機の多数が沖縄の敵艦隊に到達しているという点を考慮すると、十分役立っていたのではないかと・・・」
「ホントかしら。」
「・・・また、水上部隊が敵主力を引きつけていたというのも
特攻隊の多くが沖縄周辺に到達できた要因の一つです。
今回は囮の役割があったわけではありませんが、結果的にそうなってしまった事は否定しません。
さて、菊水一号作戦初日の4月6日、特攻は早朝から夕暮れまで丸1日に亘って続けられました。戦果は次の通りです。」
駆逐艦×3(沈没)
特務船×3(沈没)
他19隻に損傷
「これって・・・スゴイの?」
「・・・マリアナ沖や台湾沖での戦いに比べれば。」
「アレと比較すんじゃないわよ。あのショボイ戦果と比べたら何だって大戦果になるっての。」
「だが、他に比較になるような戦いはあるまい。戦争初期では技術格差もさほど問題では無いからな。」
「そういや、序盤は気合と根性が通用してたっけなぁ。」
「ですから、気合は気力+10ですし、根性ではHP30%回復なので・・・」
「るさいっ!」
「菊水一号作戦は大戦果を挙げたとされ、大々的に報じられました。実際の戦果と比べるとかなりの差がありましたけどね。
もちろん、発表には戦意高揚の意味合いが含まれている事も忘れないで下さい。」
「大戦果とか言って、戦果水増ししてどうすんのよ。」
「ですから、こういうのはよくある話だと何度言えば・・・
アメリカだって、大戦初期にB-17喪失の事実を隠し、ありもしない艦船を撃墜したという戦果を発表しているのですよ。
しかも、戦後になっても中々訂正しなかったとか・・・何度も言いますが、情報操作というのはよくある話なんです。」
「だからって嘘ついてどーすんのよ。」
「嫌なら、国民自身が賢くなるしかないですね。
政府の意を酌めるくらいに国民の判断力が高ければ何も問題は無いのですから。」
「そりゃまた・・・随分極端な意見だな。」
「そうですか?」
「私にはちょっとわからないけど・・・」
「まぁ、いいでしょう。さて、次は菊水二号作戦です。」
「二号?」
「弐号と聞くと、なんか威勢ばっかり良い人を思い出しますネェ。」
「・・・・・。」
「うわっ!居たんですか!」
「さっきから居るっての。あんた・・・フザけた事ばかり言ってると粉々にするわよ。」
「ふむ・・・、威勢が良いと言うのもあながち間違いでは無いか。」
「そだな。」
「ほら♪」
「あんたは〜!」
「イタタタタ!暴力反対〜!」
「ほんとに仲が良いのね・・・。」
「そーだね。こういうのを竹馬の友って言うんだっけ?」
「微妙に違うと思うが・・・」
「・・・菊水二号作戦は4月12日から15日まで行われた作戦の事です。
二号も前の作戦と同様に零戦、九九艦爆、九七艦攻等が使用されました。」
「数は?」
「数えるのが面倒になったので・・・省略します。」
「をい・・・」
「今回と前回の違いを挙げるとすれば、桜花が投入され始めたという点ですね。」
「桜花って・・・」
「確か、人間が乗ったロケットだったよな。」
「まだ使ってんの?」
「4月12日に出撃した桜花は8機、
内1機がアメリカ軍の駆逐艦マンナート・L・エーブルに命中。これを葬り去る事に成功しています。
桜花の命中が確認されているのは大戦を通じてこの一度だけです。」
「一度だけ?」
「・・・そうですね。沖縄に突入した桜花はもっとたくさんありますが、体当たりに成功したのは上記の1機だけと聞いています。」
「・・・大変なのだな。」
「ただ、通常の雷撃とは違うので、母機の一式陸攻のごく一部は帰還出来ています。
帰還出来る可能性は極端に低いので稀有な例かと思いますが・・・」
「帰ってくるのが珍しいって・・・さらりと酷い事言ってんじゃないわよ。」
「・・・桜花は通常の魚雷よりも航続距離が長いとは言え、敵艦隊に十分近寄らなければならない事に代わりはありません。
一式陸攻が無事に帰ってくるというのは、やはり難しい事だと思います。」
「でもさぁ、そんなに射程云々言うんだったら酸素魚雷にすれば良いんじゃないの?」
「・・・いきなり、何を言い出すのだ?」
「だ〜か〜ら!ファーストが前に言ってたじゃない。酸素魚雷は射程が長いって。
桜花積んで射程を延ばすんだったら、酸素魚雷積んで射程延ばしたほうがよっぽど人道的だと思わない?」
「う〜ん、言われてみれば。」
「一理ありますねぇ。」
「あるのか?」
「え?あの、私に聞かれても・・・」
「ふぅ・・・」
「だから、その溜め息止めなさいっての!ムカつくっつってるでしょうが!」
「・・・どこから説明すれば良いものか。少し頭が痛くなってきました。」
「あんたは〜!人をおちょくってんの?」
「今までの説明が不十分だったのでしょうか・・・。まさか、そんな発想が出てくるとは思いませんでした。」
「フン、あんたみたいに思考が硬直してないもの。少し考えれば解りそうなモンでしょうが。」
「考える以前に、あまりにも問題点が多すぎてどこから訂正すれば・・・」
「ならば、お前は少し休んでいろ。この程度の事なら私にまかせておけ。」
「え?なんであんたが出てくんの?」
「言ったはずだ。その程度の事なら説明出来ると。
アスカとやら・・・発想の着眼点は中々良いが、一つ肝心な点を忘れているぞ。」
「え、なんかあんの?」
「航空機用の酸素魚雷は調整が難しく、早々に使われなくなったというのを忘れている。
航空機での魚雷攻撃では酸素魚雷の長射程を生かせないというのがその理由だったはずだ。」
「そういえばそうだったっけか。」
「だ〜か〜ら!ちゃんと調整すりゃ良いでしょうが!桜花積むよりよっぽど良いでしょ!」
「・・・仮に酸素を燃料とした航空魚雷を積んだとしても、どうやって狙うつもりだ?」
「へ?」
「くどい様だが、桜花とやらには人間が乗っている。
衝突のその時まで搭乗員が操縦するからこそ、遠距離からの攻撃が可能となっている訳だが・・・無人の魚雷をどう当てる?」
「む・・・」
「考えてなかったんでつか?」
「うるさい!ちゃんと考えてるっての!え〜と・・・」
「・・・・・。」
「そう!公算射撃みたいな事をすれば良いじゃない!」
「は?」
「鈍いわね〜!遠距離から数を集めて敵艦隊に魚雷をたくさん撃ち込むのよ!
そうすれば、ちゃんと狙いをつけなくても何発かは当たりそうなモンでしょうが。」
「言われてみれば・・・」
「そっか、そうすればよさ気だね〜♪」
「待て待て。たくさんと簡単に言うが、どれほどの数の飛行機を集めるつもりだ?」
「特攻に使う魚雷搭載可能な飛行機全部。
通常攻撃なら特攻に出すよりは帰ってこれるでしょうから、よっぽどマシな数は用意できるでしょ。」
「そんな戦術執れる訳があるまい。燃料や搭乗員に余裕があるなら話は別だろうが・・・
第一、特攻以外に良い選択肢があるのなら、史実で考慮されていてもおかしくないだろう。」
「思いつかなかっただけかもしんないでしょ。思考が硬直してたんじゃどーしようも無いっての。」
「・・・ふぅ。」
「ムカつくー!止めなさいって言ってるでしょ!言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!」
「・・・燃料に余裕が無いのだと何度言えば解っていただけるのですか?
戦果が得られるかどうか解らない暇な事をしている余裕は当時の日本には無いのです。」
「暇な事って何よ!ちゃんと通常攻撃で戦うって言ってるでしょ!」
「戦果の見込みが無ければ、遊んでいるのと変わりありません。
ましてや、貴重な燃料、弾薬、搭乗員・・・それらを投入してまで遂行するほどの作戦ではありません。」
「よく解らないんだけど・・・なんでダメなの?」
「・・・先程も申しましたが、戦果の見込みが無いからです。
酸素魚雷が長射程と言えど桜花と比べれば大した差はありません。命中率という点で考えるのなら桜花に分がある事は明白です。」
「だから、公算射撃っつってんじゃん。」
「・・・無理です。当時の日本では数が揃えられません。
それに、雷撃地点に到達する前に敵戦闘機の迎撃は確実に受けます。そんな状況で戦果が得られると思いますか?」
「う〜ん・・・」
「ムリぽ。」
「随分話が逸れてしまったな。」
「・・・悪かったわね。」
「別に悪いとは言っていまい。以前、プルにも言ったが意見するというのは良い事だ。
熟慮する事によって知識が自分のものとなっていくのだからな。」
「別にあんたに褒められても嬉しくないんだけど・・・」
「・・・多数の魚雷で公算射撃を行うというアスカの意見も、戦術としてそれほど間違っている訳ではありません。
状況次第、国力に余裕のあるアメリカなら十分可能でしょう。まぁ、日本にはまず無理ですが・・・」
「何よ、間違ってないんじゃん。」
「・・・当時の日本に求めるのは酷ですけどね。」
「な〜んだ、今度も結局玉砕ですかぁ〜(´・ω・`)ショボーン」
「うるっさいわね〜!あんただって同意してたでしょうが。」
「フッ、これから沈もうという泥舟に誰が乗ろうというのでつ?」
「な!誰が泥舟よ!」
「・・・話を進めますよ。次は4月16〜17日に行われた菊水三号作戦です。」
「へ、まだあんの?」
「それはまぁ・・・菊水作戦は全部で十号までありますから。」
「ちょっと待ちなさいよ!まさか、それ一個一個説明していくつもりじゃないでしょうね!」
「・・・その予定ですが、それが何か?」
「何かじゃないわよ!ただでさえ長いっつーのにそんな無駄な事をして何が楽しいのよ!」
「無駄とは何ですか、無駄とは。」
「でも、あんまり長いと飽きるよな。」
「うんうん。」
「同志エルピー・プルがそう仰るのなら同意でつ。」
「まぁ、菊水三号作戦、及び4月22〜30日にかけて行われた菊水四号作戦について特筆すべき事はあまり無いのですけどね。
投入された機体はこれまで通り。四号作戦では水上機も投入されていますが、これといった特徴はありません。」
「で、戦果は?」
「・・・特筆すべき戦果はありません。」
「駄目じゃん。」
「それだけ、敵の迎撃が苛烈という事だろう。
制空戦闘機に対空砲、いくつもの壁を突破しなければ敵艦隊には到達出来んのだからな。」
「昭和20年5月3日〜9日まで菊水五号作戦が行われました。
作戦初期と違い、徐々に作戦に投入する機体も欠乏し始めてきました。」
零式練習戦闘機
「これ何?」
「練習用として、複座型に改造された零戦です。
通常の零戦同様良質な飛行機だったようですが、今回の菊水作戦に投入されました。
複座とは言え、戦闘機ですので特攻時に搭乗したのは各機に1人ずつのはずですが・・・」
「練習機まで投入しなければならなくなったか・・・。」
「練習機だけではありません。一世代前の爆撃機も投入されています。
写真は見つかりませんでしたが、九六式艦上爆撃機という爆撃機です。」
「へ?九なんとかって・・・普通に使ってなかったっけ?」
「それは九九艦爆の事だろう。今回のは九六式艦上爆撃機とやらだ。
もっとも、それが何なのか私には解らんが・・・。」
「九六式艦上爆撃機は九九艦爆以前に使われていた艦上爆撃機です。
以前紹介した、赤城や加賀の飛行甲板が三段だった頃によく運用されていた機体です。」
「写真が無いからイマイチわかんないけど・・・」
「以前紹介したソードフィッシュを覚えていますか?」
「なんだっけ?」
「紳士の国が使ってた二枚羽の古風な飛行機でつ。」
ソードフィッシュ
「ちゃんと、複葉機って言いなさいよ・・・。」
「大体、あんな感じの飛行機だと思っていただければ・・・」
「んなモン、今さら持ち出してどうすんのよ。」
「・・・苦肉の策です。」
「策になってないでしょ!今さら時代遅れの飛行機持ち出してどうすんのよ!」
「イギリスが同じ事をしていても何も批判されないのに、日本軍が複葉機を出撃させただけで非難される・・・。
この差は一体何なんですか?今さら時代遅れの脱亜入欧主義なんか流行りませんよ?」
「つーか、イギリスは関係無いでしょ。体当たり攻撃に複葉機なんて使ってんじゃ非難されて当然でしょうが。」
「アスカさんは何だって難癖つけますから仕方ありませんよん。」
「うるさいっ!」
「昭和20年5月11〜14日にかけて菊水六号作戦が実行されました。
突入した機体は様々ですが、5月11日に行われた攻撃により明確にアメリカ軍に損害を与える事が出来ました。」
炎上する空母バンカー・ヒル
「この日、彗星と零戦が正規空母バンカー・ヒルへの体当たりを成功させました。
大爆発を起こした同艦は多数の戦死者を出したものの、どうにか沈没は免れ戦線からの離脱には成功しました。
特攻という方法は肯定出来ませんが、旗艦に大打撃を与えるという戦果を得られたのも事実です。」
「大打撃とか言ったって・・・沈んでないじゃん。」
「・・・空母は大型艦ですから、沈没させるには喫水線下へ攻撃しなければなりません。
体当たりである特攻にそこまで望むのは酷かと思いますが・・・」
「沈めなきゃ意味無いでしょうが。修理して元に戻っちゃうもの。」
「うわっ!死者に鞭打つその態度・・・鬼でつね♪」
「るさい!誰が鬼よ!」
「有名なミッドウェーでも、爆撃を受けた空母は即沈没した訳ではありません。
空母というのはそう簡単に沈む船ではないのです。もちろん、多少の例外はありますが・・・」
「例外って、即沈んだ蒼龍さんの事でつね♪」
「あんたは〜!」
「誰もアスカさんのことなんて一言もうわなにするだやめ(ry」
「通常攻撃で、ここまでの打撃を与えるのは難しいでしょう。
既出ですが、マリアナ沖や台湾では敵機動部隊に近づく事すら難しかったのですから。」
「だから認めろっての?」
「・・・特攻という方法は認められなくても構いませんが、結果だけは考慮して頂きたいものです。
特攻は非人道的ではあっても、当時の日本にとって有効な手段の一つ・・・いえ、他の手段は無いに等しかったのです。
もちろん、多少の例外はありますが・・・日本は時間とも戦っていた訳ですからね。」
「まぁ、体当たりを軍隊が命令するなど、あまり容認されるべき戦術では無いからな。」
「あまり・・・と言うか、特攻は使われるべき戦術ではありませんけどね。
願わくば、二度と使う機会が訪れる事があって欲しくはありません。二度と再び・・・」
「でも、こんなのがいる国でつよ?」
「うるさいわね!人を指差すんじゃないっての!第一、なんで私を持ってくんのよ!」
「だってアスカさんだって日本人の血を引いてるでしょ。それにほら、よく特攻してるから。」
「誰がよ!」
「そういや、最強の使徒が出てきたとき特攻してたよな。」
「つまんない事蒸し返すんじゃ無いわよ。あれは、私が敵を止めなきゃならなかったんだからしょーがないでしょうが。」
「でも、中途半端なトコで特攻止めてましたよね。たかがメインカメラがやられたくらいで。」
「メインカメラじゃないっての!首よ首!
神経接続されてたら下手すりゃ死んじゃうでしょうが!あんた私に死ねっつってんの?」
「当たらずとも遠からず・・・」
「をい!」
「菊水七号作戦は5月24〜25日にかけて行われました。
陸海合同で行われた航空総攻撃にも拘らず、沖縄方面の戦局に明るさは見えてこなかったのです。
4月から連続して行われてきた菊水作戦ですが、この頃になると作戦に使用できる航空機の損耗が目立ち始め
稼動機にすら事欠く日本軍は次の様な練習機まで、特攻作戦への投入を始めたのです。」
機上作業練習機 白菊
「これも特攻機?」
「操縦者以外の訓練生が練習するための飛行機です。
馬力も零戦の半分以下ですので最高速度も200kmそこそこという性能に過ぎません。
前線に出すには力量が明らかに不足している機体です。」
「こんなモン持ち出してどーすんのよ。」
「・・・苦肉の策です。白菊は夜間攻撃を前提として編成されました。
菊水七号作戦、5月27〜29日に行われた菊水八号作戦では主力のほとんどはこの白菊となってしまったのです。」
「200km程度の速度しか出ない飛行機で勝算はあるのか?」
「・・・白菊が戦果を挙げたという話は聞きません。
夜間故、戦果確認が困難という事もあるかもしれませんが・・・速度の遅い練習機が突入出来るほど甘くは無いと思われます。
6月3〜7日に行われた菊水九号作戦では、少数の零戦と九九艦爆が投入されましたが
戦力は消耗を極め、ごく僅かな航空機が投入されたに止まりました。」
「なんか、やるだけ無駄って気がするけど。」
「菊水十号作戦は沖縄地上軍による地上戦終結間際に行われました。
爆装零戦、桜花、白菊・・・数少ない稼動機が投入されましたが、戦果が得られたという話は聞きません。
沖縄地上戦の組織的抵抗が終わった事から、日本軍はアメリカ軍の本土進攻に備えた決号作戦の準備に入りました。
以前にも話しましたが、菊水作戦は十号を持って終わりを告げたのです。」
「終わっちゃったの?」
「沖縄周辺の敵艦隊に対する特攻はその後も少数機で行われています。
水上偵察機も使われましたが、特に有名なのが九三式中間練習機による特攻です。」
九三式中間練習機(通称・赤トンボ)
「何コレ・・・」
「・・・練習機です。沖縄周辺に述べ数で8機程が特攻を行っています。」
「イギリスも使っていたとは言え・・・複葉機か。」
「んなモン役に立つ訳無いでしょうが。」
「7月27日に出撃した九三式中間練習機は駆逐艦キャラガンの撃沈に成功しています。」
「へ、撃沈?」
「布張りの複葉機ですから、
VT信管付きの砲弾が炸裂しても破片は突き抜けるだけで、それほどの損傷を与えられなかったとか・・・
意図した状況でなかったとは言え、うまくいった例でしょうね。
複葉機が駆逐艦を追い回しているという報告を受けた日本軍は、我が耳を疑ったとかなんとか・・・」
「へ〜、スゴイじゃん♪」
「希な話を全体の話にしようとすんじゃないわよ。結局、特攻なんて大した役に立ってないじゃん。」
「・・・アメリカ軍に少なからず損害を与えています。」
「だから、特攻なんかやるくらいなら通常攻撃してたほうが良いっての。
通常攻撃だってやり方を工夫すれば、いくらでもやれそうなモンでしょ。実際、通常攻撃をメインでやってた部隊だってあるんだし。」
「そんな部隊があったの?」
「美濃部少佐って人が作った芙蓉部隊ってのがあったらしいのよ。
特攻するくらいなら通常攻撃でって、ホントに通常攻撃で戦果を挙げてたみたいだけど。」
「・・・あの部隊は例外です。
彼らの乗機は水冷エンジンの彗星、他の部隊で使われなくなった余剰物資を活用したからこそ資材が集められたのです。
他の部隊でも同じ事を始めたら余剰物資が余剰でなくなってしまうでしょう?」
「そーいう事を言ってんじゃないの!工夫しだいでどうにでもなるって話でしょうが!」
「・・・美濃部少佐は戦後こうも言っていますよ。」
戦後よく特攻戦法を批判する人があります。
それは戦いの勝ち負けを度外視した、戦後の迎合的統率理念にすぎません。
当時の軍籍に身を置いた者には、負けてよい戦法は論外と言わねばなりません。
私は不可能を可能とすべき代案なきかぎり、特攻またやむをえず、と今でも考えています。
戦いの厳しさは、ヒューマニズムで批判できるほど生易しいものではありません。
「む・・・」
「(・∀・)ニヤニヤ」
「うるさいっ!」
「私なにも喋ってませんけど。」
「うるさいっつってるでしょ!ひし形は引っ込んでなさいよ!」
「まぁ、ソッコー返り討ちってのは悲惨と言えば悲惨だが・・・」
「うむ。」
「あんたらもうるさい!」
「さて、特攻機による菊水作戦についてはこんなところでしょうか。
次は時間を少し遡り、菊水一号作戦と同時に行われた水上部隊による作戦について説明します。」
「まだ、続けんの?」
「大掛かりな作戦の説明は次で最期です。もう少しお付き合い下さい。」