南太平洋海戦
「それでは次の海戦に移りましょう。」
「・・・あんた、いつまで話すつもりなの?」
「終わるまでに決まってるじゃないですか。」
「至極、当然な意見だな。」
「当たり前っちゃ当たり前だが・・・そういう意味じゃないんだろ?」
「そーよ。話し始めて随分経つけど、未だに終わりが見えないじゃない。」
「・・・戦争開始からまだ1年も経っていませんからね。ですが、ご安心下さい。」
「はぁ?」
「あと3年以内に戦争は確実に終わりますから。」
「うそ・・・、まだそんなに残ってんの?」
「次の海戦は南雲機動部隊を中心とした戦いになります。
この戦いは日本では南太平洋海戦(アメリカではサンタクルーズ諸島海戦)と呼ばれています。」
「南雲さんの部隊かぁ。ちょっと思ったんだけど、最初の頃に比べるとあんまり強くないよね。」
「・・・機動部隊の強さは航空機搭乗員の技量によるところが大きいのです。
戦闘を繰り返せば航空隊の被害は増え、熟練搭乗員の数も減っていくのです。それは戦力の弱体化を意味します。」
「兵員の層の厚さの問題か・・・。小国は厳しいものだな。」
「・・・話を戻します。帝国陸軍によるヘンダーソン飛行場への総攻撃・・・
10月24日に行われた戦闘ですが、南太平洋海戦もほぼ同時期に行われていました。」
「綾波さん、ちょっといいですか?」
「何でしょう?」
「南雲機動部隊の中の人・・・え〜と、飛行気乗りの人達なんですけど、
彼らって日の丸のハチマキとかフンドシとか本当にしてたんですか?彼らって一族の誉れの為に戦ってたんですか?
ほら、少し前に話した某パールハーバーなんですけどね。あの映画の中の日本人がそんな事を言ってるんでつけど。」
「あれはただのB級映画でしょうに。」
「真珠湾攻撃の日本軍なのに、
空母の甲板がアングルドデッキだったり後期型の零戦52型が飛び回る映画です。
速やかに忘れて下さい。・・・まぁ、真珠湾攻撃の映像そのものは良く出来ているので、そこだけは評価しますけど。」
「でも、海上に逃げた水兵を機銃掃射してましたよ?やっぱり日本軍は極悪じゃないですか。」
「・・・前に話しましたが、帝国海軍にそんな暇な事をする余裕はありません。なにより弾薬が勿体無いじゃないですか。
それに、零戦の20mm機関砲を人間が受けたら木っ端微塵だと思います。
・・・嘘を嘘と見切れない人には映画を見るのも難しいですね。」
「ま、映画は勉強に使うものじゃなく楽しむものだからな。」
「そりゃそーでしょ。どこをどうやったら映画で歴史を勉強出来んのよ。」
「・・・話を戻します。ヘンダーソン飛行場奪回の為、日本軍は第二師団をガ島に送り込んでいました。
総兵力はおよそ22000、アメリカ軍の当時の兵力は23000程だったそうなので、兵数そのものは一応互角の状態でした。」
「兵力は・・・か。前回の輸送作戦の失敗を考えると日本にとってあまり分が良いとは思えんが。」
「・・・確かにその通りです。ガ島の制空権はアメリカ軍が握っていたため日本側は不利でした。
加えて、総合火力を考えてもアメリカ軍に比べて日本軍の劣勢は明白。
準備を整えるにしろ総攻撃するにしろ・・・日本側に良い材料など何もありません。」
「そうまでして、何でその飛行場にこだわってんの?どう考えても、奪回はもう無理でしょ?」
「そりゃま、日本だからな。」
「どういう事?」
「ほれ、大本営ってのが前線の状況をいまいち理解しきれてなかったからこんな状況になってんだろ。
事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!とか・・・
そういう台詞が何かの映画であったよな。何だっけ・・・?」
「熱血刑事さんの映画ですよ。もっとも私は見てないんですけどね。」
「・・・・・。」
「あら〜?あんた日本を擁護しないの?珍しい事もあるものね〜。」
「内地に篭っている人間では、最前線の状況を理解するのは難しいと思います。
もっとも、大本営の状況の読めなさを擁護するつもりはありませんが・・・。」
「と言う事はやっぱり日本軍は悪ですね。そんなだから南京で大虐殺したりとかするんでつ。あぁ、恐い恐い。」
「ですから、弾薬が勿体無いと何度言えば・・・」
「つーか、ひし形。あんたの『と言う事は』は前後の話と繋がってないでしょ。」
「解ってないですねぇ、アスカさんも綾波さんも。当時の日本は帝国ですよ?
大 日 本 帝 国!
帝国と言えば悪の象徴!民主主義国とか自由とか正義の敵じゃないですか?
よくある物語だって映画だって帝国軍=悪というのがおおよその相場でしょ。これは世界の常識でつよ?」
「どこの常識なのよ・・・。」
「・・・悪質な印象操作は止めて下さい。日本は日本の自主独立、自分達の生存の為に戦っていたのです。」
「そんな言い訳で日本のした事が正当化されると思っているんですか?
真珠湾での日本軍の騙し討ち、あれでアメリカの若者の血がどれほど流された事か・・・」
「・・・悲しい事ですが、戦争とはそういうものです。日本だけが非難される理由はありません。」
「と言うより、今は南太平洋海戦の話ではなかったか?話が脱線し過ぎている気がするぞ。」
「そーよ。どうでもいい方向に逸れすぎ。」
「ムシャクシャしてやった。今は反省している。」
「あんたはどこぞの自己中犯罪者か!」
「・・・気を取り直して先に進みます。
とは言っても、陸軍の行動についてそれほど言及するつもりもありません。長くなってしまいますし・・・」
「そういえば、陸軍の攻撃って散々だったって言ってたよね。そんなに酷かったの?」
「・・・10月24日に行われた帝国陸軍による総攻撃は失敗に終わりました。
元々は十分装備を整えてから白昼強襲作戦を行う予定だったのですが・・・
既出な出来事により夜間の白兵奇襲作戦に変更されたのです。」
「既出な出来事って・・・何だっけ?」
「補給の失敗でしょ。アメリカ軍の攻撃で日本は装備品とか食べ物とか色々無くしちゃってるみたいだしね。」
「ふむ、白昼強襲に夜間白兵奇襲か・・・。」
「どした?」
「いや・・・、強襲作戦は力押しの戦術。一方の白兵奇襲は夜間とは言え非常に危険だ。
結局、どちらの戦術が正しいのだろうと思ってな。」
「う〜ん、どうなんだろ・・・。」
「どっちもどっちって気がするけど・・・」
「・・・確かに。戦術の基本として、攻撃側と防御側では攻撃側の方が有利とされています。
何故なら、防御側が兵力を均等に配しなければならないのに対し、攻撃側は戦力の重点を自由に決められるからです。」
「え?それだと、攻める日本が有利って事になるんじゃないの?」
「しかし、対城塞戦となると話はまるで違ってくるのです。」
「城塞じゃなくて相手は飛行場でしょ。」
「城壁はありませんが、強固な陣地を築いている時点で城塞といっても差し支えは無いと思います。
さて、城塞・敵陣地・飛行場・・・言い方は何でも構いませんが、日本にとってこの戦いは非常に不利な状況でした。
・・・これはあくまで一般論ですが、篭城した敵を相手にするには敵より3倍の兵力が必要とされています。
守る側は、あらゆる攻撃に対処出来る様に陣地を組むもの・・・。
防御を整えた陣地に挑むというのは、自分で虎の口に飛び込む行為と言っても差し支えはありません。」
「そんな事言ってたら、陣地を攻める方法なんて無いって言ってるのと同じじゃない。何かしら方法はあるんでしょ?」
「だから、その少女は言っているだろう。敵の3倍の兵力を用意しろと。」
「・・・その通りです。もし、力押しで敵陣を攻めると言うのであれば数で押し切る以外に方法はありません。
敵に勝る数の兵を集め、敵に勝る火力を持つ・・・これが最も有効な戦術です。」
「そりゃ無理な相談だわな。日本軍ってのは補給が滞ってたんだろ?
兵数だってようやく互角程度・・・分が悪いって言うのもうなずけるわな。」
「あんた、情報小出しにしてるでしょ?何か一つくらい方法あるんじゃないの?」
「あるにはありますが・・・」
「ほら、やっぱり!いい加減もったいぶるの止めなさいよ!」
「方法があるのと実行出来るかというのは天と地ほどの開きがあります。言っても虚しくなるだけなのですが・・・」
「いいから言ってみなさいっての。」
「・・・敵を完全に包囲し補給路を遮断、持久戦に持ち込むという方法です。
これなら、先ほど話した数の戦術より自軍の被害を抑える事も可能です。」
「な〜んだ、そんな良い方法があるんじゃん。」
「プル、少しは考えてからモノを言え。どう考えても無理な相談だ。」
「なんで?」
「持久戦というのは、自分達の補給路を確立出来て初めて実行できるのだ。
どう考えてもアメリカとやらより先に日本軍が絶ち枯れるぞ。」
「あ、そっか・・・。」
「だから言ったでしょう?虚しくなるって。」
「他には?」
「ありません。私が知らないだけかもしれませんが・・・」
「でも、結局は総攻撃しちゃったんですよね?やれやれ・・・、帝国陸軍は相変わらず無茶・無策・無鉄砲ですねぇ。」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。不利な状況を改善するための手段は講じてあります。
それが、南雲機動部隊による航空支援です。真珠湾やミッドウェーの頃より戦力は落ちていますが、
それでも頼りになる部隊である事に変わりはありません。」
「ふむ、そう考えると・・・一応日本もやれる事はやっているのか。」
「正直、陸軍の夜戦白兵突撃はどうかと思いますが・・・かと言って、総合火力で劣る日本では正攻法も不可能。
完全に八方塞の状況なのでどうにもなりませんね。」
「突撃は日本の伝統ですからねぇ。」
「そっかぁ〜、伝統じゃしょうがないよね〜。」
「突撃って伝統なの?」
「そうでつよ。さっきちょっと話に出てた日露戦争の旅順攻略戦なんか、
無謀な突撃を何度も繰り返してたじゃないですか。だから日本は無謀なんですよん。」
「・・・・・。」
「何か言いたそうだな。」
「旅順攻略戦を無謀と言うのなら、旅順を落とすと言う戦略目標そのものが無謀なのです。
それを言い出したら、ロシアと戦うという行為そのものが無謀と言う結論に至ります。
日本も好きで無謀な事してる訳ではないのです。」
「そうですか?でも、旅順攻めた乃木さんは何かの小説で酷評受けてるみたいでつよ。」
「話で聞いた限りですが、小説は小説です。
突撃を繰り返させたのも事実ですが、彼は突撃を成功させる為の方策も色々と施しています。乃木さんは決して無能ではありません。」
「ふ〜ん、どうだか。」
「あんた・・・、何か非難出来る部分があると問答無用で攻めんのね。」
「強きを助け弱気を挫く、これが私の正義!」
「うわ、サイアク・・・。」
「まったくだ・・・。お前には騎士道精神のカケラも無いのか。」
「フッ。世の中は大なり小なりそんなモノでつよ。」
「利いた風な事を言うんじゃない!」
「それで、日本軍が無謀だったっていうのはホントなの?」
「確かに無謀でした。しかし、まともな戦術を執りたくても出来なかったのも事実・・・
帝国陸海軍は出来るだけの事はしてました、としか言い様がありません。」
「ふ〜ん・・・、どっかの誰かさんよりは一生懸命に頑張ってたんだね〜。」
「誰かさんって誰の事だ?」
「この人。」
「だから、人を指差すなと言っているだろう!」
「とりあえず、ここは陸戦を話す場所ではないのでこの辺で止めておきます。
次は、アメリカ軍の状況について簡単に説明します。」
「アメリカ軍?アメリカなら、別にのほほんとしてても負けるこたぁねーだろ。」
「それを言ったらミもフタもありません・・・。」
「何かあったの?」
「・・・日本軍の輸送作戦や飛行場への攻撃から、アメリカ軍は日本軍の大規模な反撃が近い事を予想していました。」
「予想?暗号はどうしたの?」
「さぁ?私に聞かれても困りますが・・・今回はそういった話は無いようです。
さて、この時期アメリカ軍ではちょっとした人事変更がありました。
南太平洋地域作戦司令官がウイリアム・F・ハルゼー中将に代わったのです。」
「誰それ?」
「・・・ハルゼー中将です。彼は戦争初期に機動部隊を率い、日本軍に対しヒットアンドアウェイ戦術で翻弄していました。」
「そういえばそんな話があったな。
見方を変えれば、アメリカの機動部隊を叩く為にミッドウェーを攻めさせ、それが戦争の転機となった・・・。
そのハルゼーとやらがアメリカを勝利に導いたとも言える訳だな。」
「・・・確かにそうとも言えますね。運命とは皮肉なものです。」
「ムリヤリこじつけた様な気もするけど・・・」
「うるさい!」
「で、そのハルゼーって人は有能なの?」
「だと思いますよ。戦争初期の日本軍への作戦でも空襲を終えた後、日本軍の追撃を振り切り見事に撤退させていますから。」
「ふ〜ん・・・。」
「それに彼は別の意味でも特徴がありました。彼にはある口癖があったのです。
kill the Jap!と言うもので、何と言ったら良いのか・・・正直、コメントに苦しみます。」
「それってどういう意味?」
「日本人を殺せって言ってんでしょ。当時は人種差別が酷かったみたいだし・・・」
「ふ〜ん、それじゃ今と変わらないね。ギレン閣下だって似たような事言ってたもん。ね?」
「何故、私に同意を求める?」
「だって優良種たる何とかって言ってたじゃん。あ、そーするとマシュマー様も人種差別してんの?」
「・・・どうしてそういう話の流れになる。人種差別など下らん行為に過ぎん。」
「え〜、だってマシュマー様の大好きなハマーン様だって俗物がどうとか言ってるじゃん♪」
「な、何を言う・・・!」
「ふ〜ん、ハマーン様に恋しちゃってるんでつか?まるで思春期の中学生みたいですねぇ〜。」
「ば、馬鹿者!不穏当な発言をするな!」
「・・・いい歳してなに赤くなってんのよ。」
「ん〜、青春だねぇ。」
「いいなぁ・・・。」
「黙れ!」
「私の部下はまだ若い。実戦の経験も不足し地球圏そのものにも不慣れである。
しかし、その中でもお前はよくやってくれている。」
「な、なぜお前がその言葉を知っている・・・!」
「お前こそまことの騎士だ。励んで欲しい。私のために。」
「プル、ハマーン様の真似はやめんか!」
「アーガマを無傷で手に入れハマーン様に献上すれば、ハマーン様はこのマシュマーに微笑を下さるだろう。」
「・・・待て。」
「何です?」
「なぜ、お前が私の台詞を知っているのだ?誰から聞いた!」
「さぁ、誰でしょうねぇ?あんまり頭に血を登らせると疲れますよん。」
「そうだ。疲れは判断を間違わせる。急ぐと敵にしなくてもよい人民まで敵に回す。くれぐれも気をつけるのだ。マシュマー。」
「ええ〜い、ハマーン様の真似は止めろ!貴様、不敬罪を知らんのか!」
「不経済?」
「つまんないボケは止めなさいって・・・聞いてるこっちが悲しくなるから。」
「オブイェークト!」
「ワケ解んないって・・・。」
「あの、話のコシを折るようで恐縮ですが・・・ハマーンさんがどうかされたのですか?」
「え、何が?」
「何が?じゃない。元を辿れば、お前が原因だろう。」
「えっと・・・何の話だっけ?」
「私が知る訳なかろう。」
「人種差別についての話の途中だったと思いますが・・・」
「あ、そうだった〜!え〜とね・・・、ほらハマーン様も差別っぽい事を言ってたりするじゃん。」
「そうだったっけ?」
「よくもずけずけと人の中に入る・・・恥を知れ!俗物!」
「なに、その台詞・・・俗物って。」
「あんた馬鹿ぁ?と同義語でございます。」
「うるさいっ!どーしてそこで私の話が出てくんのよ!」
「関係の無い話題が続くようなので、そろそろ話を本筋に戻したいと思うのですが・・・」
「どの話してたんだか忘れちまったな。」
「ハルゼー中将の日本人に対する暴言についてまでです。
彼は今後、幾度も登場するので記憶の片隅にでも留めておいて下さい。」
「kill the
Jap!くらいしか説明してないじゃない。今後も出てくるならもう少し説明した方が良いんじゃないの?」
「・・・そうですね。ハルゼー中将の性格と傾向を一言で言うと直情型という分類で差し支え無いと思います。
粗野な性格をしていたそうですが、卓越した戦術眼があり人を見る目もあります。
部下からも慕われていた様で・・・敵にするには手強い相手と言えるでしょうね。」
「ハマーン様には遠く及ばぬが・・・どうやら、かなり有能な人物の様だな。」
「ふ〜ん・・・、誰かさんとは大違いだね。」
「まったくでございます。」
「フッ、挑発するならもう少し考えて実行しろ。その程度では誰も釣れんぞ。」
「今まで散々引っかかってたくせに・・・」
「ええ〜い、うるさい!」
「結局、釣られてんじゃない・・・。」
「着任したハルゼー中将は3つの任務部のうち2つを合流させました。
日付は10月24日・・・サンタクルーズ諸島沖で機動部隊を待機させ、南雲機動部隊迎撃の準備を整えたのです。」
「随分と手際が良いな。3つの任務部隊って事は・・・敵空母は何隻だ?」
「今回の海戦に投入された空母は2隻だった様です。」
「2隻・・・てゆーかアメリカの空母ってあとどれくらい残ってんの?」
「太平洋に配属されていたアメリカ軍の正規空母は次の通りです。」
エンタープライズ
ホーネット
サラトガ(修理中)
「それだけなの?」
「繰り返しになりますが、昭和17年はアメリカの準備がまだ整っていなかった時期なのです。
日本に僅かでも勝ち目があったとすれば・・・やはり、昭和17年初頭くらいでしょう。」
「と言うと・・・日本軍もうだめぽ?」
「疑問系?」
「だめぽって何よ・・・。」
「・・・早とちりしないで下さい。日本はまだ戦えます。」
「そうか?話を聞いてると段々劣勢になり始めてる気がするぜ。」
「・・・そうでもありません。正規空母4隻と航空機多数を失ったのはかなりの痛手ですが、
戦艦は全て残っていますし巡洋艦、駆逐艦等も一応の数はあります。」
「巡洋艦とか駆逐艦はともかく、戦艦なんかあっても無くても変わんないでしょ。」
「・・・無いよりは良いと思いますよ。一応の戦力としては使えるでしょうから。そう思っておきましょう。」
「自己暗示かい・・・。」
「さて、陸軍支援に向かった南雲機動部隊ですが・・・
例によってこの部隊には機動部隊が進出して来た場合撃滅するという任務も課せられていました。」
「前も似たような事ありましたよねぇ。二兎追うものは一兎も得ず・・・昔の人はうまい事を言うものです。」
「・・・過ぎた事を悔やんでも仕方ありません。その経験で得られた教訓を次に生かすしかないのです。」
「うむ、前向きなのは良い事だ。苦境に立たされた人間を前進させるのは前向きな精神なのだからな。」
「前向きすぎても困るけどね〜。」
「まったくでございます。」
「・・・挑発しても無駄だ。何度も同じ手は通じんぞ。」
「南雲機動部隊ねぇ・・・。前より戦力が落ちてるんだから、
支援やら機動部隊の撃滅やらたくさん目的を与えるのもどうかと思うぜ。」
「・・・仕方ありません。もっとも、敵機動部隊の撃滅については敵が出てくればの話ですからね。
何事も無ければ陸軍の支援だけで終わりますから。」
「でも、結局はアメリカ軍が出てきたんでしょ。そんなんで陸軍の支援なんか出来んの?」
「・・・南雲機動部隊は陸軍の動きと呼応して作戦行動を開始する予定でした。
しかし、陸軍の度重なる総攻撃決行日延期により、
南雲機動部隊は南下しては反転北上を繰り返す・・・という行動を執らざるをえなかったのです。」
「作戦が延び延びか・・・。軍事行動なら予定通り事が運ばないというのも珍しくはないだろうが・・・。
何故、それほどまでに作戦開始が遅れたのだ?」
「ガダルカナル島がジャングルで覆われていたからです。
地形の影響を受け、陸軍は中々攻撃態勢を整えることが出来なかったのです。」
「地形効果ってやつかな。森林だと・・・どうなるんだっけ?」
「防御+20くらいじゃありませんでしたっけ?まぁ、私は浮かんでいるだけですからどうでも良い事なんですけど〜。」
「何の話なのよ・・・。」
「森の中を移動するのって、結構大変なんだね。もし、ジャングルじゃなかったら日本も有利になってたのかな?」
「・・・そうでもありません。日本軍が密林でその身を隠す事が出来るというのもまた事実ですから。
もし、密林でなければ日本軍は総攻撃の体制を整えることすら出来なかったでしょう。
ですが、ジャングルと言う環境は想像以上に苛酷だった様です。
高温多湿に加えて様々な伝染病を媒介する虫等・・・補給の滞っていた日本軍にとっていい環境とは言えません。」
「どんなトコなのか、良く解らないんだけど・・・」
「人は生まれ育った環境と大きく違う場所では体調を崩しやすいものなのです。
また、熱帯では厄介な風土病も存在します。あらかじめ予防接種を受けているのなら話は別ですが・・・
当時の日本に期待するのは酷でしょうね。」
「そうなんですか?
せっかく医学薬学世界イチィィィー!の国と同盟組んでるんですから、何とかなりそうな気もしますけど・・・」
「世界一って・・・んなアホな事言ってる国があんの?」
「戦時中にドイツと日本を往復するのは大変なんです。
私の知っている限りでは数えるほどしか成功していなかったはずですし・・・」
「数えるほど?古代や中世じゃあるまいし、なんでそんなに大変なんだ?」
「日本とドイツを行き来していた主な船は潜水艦でした。
しかし、その多くが連合国に察知されてしまい・・・ほとんど沈められてしまっているのです。」
「ちょっと待った。」
「どしたの、アスカ?」
「さっきひし形が言ってた世界一がどうたらって・・・ドイツの事だったの?」
「そですよん。それが何か?」
「科学力は世界一ィィィ〜!な国だったんだよね。」
「それは漫画の話でしょ!現実と架空の世界をごちゃ混ぜにするんじゃないわよ!」
「え〜、面白いのに〜。」
「のに〜。」
「あんたら、いい加減にしなさいよ。ぜんっぜん話が進まないでしょうが。」
「それにしても、シュトロハイム少佐はスターリングラード戦線で戦死されたんですよね。
体が真っ二つになってもピンピンしてる強靭な方が、なんで死んじゃったんでしょう?」
「あ、そーいえばそうだよね。あの人なら生身でMS倒せそーだしね。何でなんだろ?」
「聞きなさいよ、人の話・・・。」
「・・・単純に考えて補給の問題でしょう。それ以外に理由は見当たりません。」
「何の話なのかさっぱり解らんが・・・」
「同感だな。」
「・・・彼の身体のどの程度が機械化されているのかは解りませんが
戦闘ごとのメンテ、定期的なオーバーホールは必要かと思われます。何もしなければ稼働率に影響しますからね。」
「あんたも脱線に燃料追加するような事するんじゃないわよ!」
「それとシュトロハイム少佐の戦死と何の関係があるんですか?」
「スターリングラードはドイツ軍にとって地獄でした。詳しい話はソフィア先生のところで勉強していただくとして・・・
補給が滞った状況で、彼のみに十分な物資が使われるとは思えません。
したがって、彼は戦死ではなく老朽化により壊れたのではないかと推察され・・・」
「待たんかい!」
「何か?」
「あんた、やる気あんの?さっきから話逸れてばっかじゃない!」
「先ほどの話も本筋からそれほど離れているとは思いません。
私が言いたいのは補給はとっても大事という事実なのですから。特に自国から離れての侵攻戦というのは難しいものなのです。」
「なるほど、確かに。」
「一理あるわな。」
「無いわよ!」
「ま、あたしはどっちでもいいや。シュトロハイム少佐の死因が解っただけでも。」
「ですねぇ。」
「・・・あくまで推論なので、あまり信用されても困ります。まぁ、結果的に戦死である事に変わりはないでしょうけどね。
さて、アメリカ軍に唯一勝る点がガッツだけという、
希望など無い状況で行われた総攻撃がアメリカ軍に通用するはずもなく・・・陸軍の総攻撃は失敗に終わりました。」
「そうですか?ガッツさん1人で100人は相手出来ますから、悲観的になる必要は無いでしょ。」
「つまらないって言ってるでしょ!何度言えば解んのよ!」
「う〜ん、やっぱり狂戦士の甲冑が無いとキツイと思うけど・・・」
「プルも話を合わせるの止めなさいって。」
「作戦失敗が予想通り・・・何故、そんな状況で飛行場の奪取を目指す?ただ攻めるだけでは無駄に戦力を失うだけだろう。」
「あんたと同意見ってのも何なんだけど・・・私もそう思うわ。いい加減、無駄だって分かりそうなもんじゃない。」
「・・・そうですね。ヘンダーソン飛行場の砲撃が成功したとは言え、奪還するにしても時間が経ち過ぎています。
制空・制海権を奪われた状況では勝ち目などあるはずも無いのです。」
「あら、珍しい。あんたが日本軍擁護しないなんて・・・」
「・・・前回の川口支隊の作戦終了後、
川口少将はガ島における日本軍の現状を第17軍司令部にありのまま伝えていたのです。
しかし、司令部がその意見を聞き入れる事はありませんでした。」
「何でまた?」
「私に聞かれても困りますが・・・川口少将は今回の総攻撃にも参加していました。
前回の反省に基づいて迂回攻撃を主張しましたが、攻撃直前になって罷免されてしまったのです。」
「罷免って・・・なんの事?」
「司令官の任を解かれたという事だろう。」
「余計に分からないんだけど・・・」
「平たく言うならクビという意味だ。」
「な〜んだ、マシュマー様と一緒じゃん。」
「誰がクビだ!誰が!」
「ウホッ、釣れますたね。」
「ね〜。」
「黙れ!」
「彼が罷免されたのは、司令部に弁解過多と見られたためだそうです。また、作戦に批判的だった事もあるでしょうね。
もっとも、作戦に否定的という事で罷免というのも分からなくはありません。作戦を円滑に進ませる事は重要ですから・・・」
「でも、円滑に進んだところで勝てるわけないんじゃないの?」
「それは別問題です。この時期において、
今さら飛行場を奪回するという作戦そのものが無謀なのです。
後方の大本営が前線の状況を理解出来ていなかった事がそもそもの原因ですが・・・時代が時代ですからね。
あまり多くを求めるもの酷でしょう。」
「やっぱり擁護すんのね・・・。」
「しかし、軍人というのは上官の命令に従わねばならんものだ。
飛行場を奪回しろと言われているのだから、その目的を達成しなければなるまい。」
「さて、それではそろそろ本題に入りましょうか。」
「南雲さんの出番だね。」
「ふと思ったんだが、だんだん前フリが長くなってきてるよな。」
「まったくでございます。」
「誰のせいだと思ってんのよ。」
「ホントホント、少しは自覚してくださいよ?」
「ん?私に言っているのか?」
「そーだよ。」
「つーか、違うでしょ。私が言ってるのはひし形の事よ。」
「そうやって、率先してるのはアスカさんじゃないですか!貴女も少しは自覚してください!」
「あんたが言うな!」
「・・・話、進めますよ?帝国陸軍の総攻撃が失敗した翌朝の10月25日
南下と北上を繰り返していた南雲機動部隊は、エスピリトゥサント島から飛び立ったPBY飛行艇に発見されてしまいました。」
「飛行艇・・・何それ?」
「お前は学習するという言葉を知らんのか?」
「え〜、だって飛行艇なんて聞いた事ないもん。知らないんだから聞いたっていいじゃん。」
「確かに、飛行艇についての説明はまだでしたが・・・」
「分からない事があれば、まず調べろと言っただろう。何度言えば分かるのだ?」
「ひっど〜い!分からない事があるから質問したのにそんな言い方サイッテー!」
「サイッテー!」
「・・・すみません。話が止まると本当に困るのでこちらで説明します。
アメリカ軍のPBYカタリナ飛行艇は優れた性能だった様です。
主な任務は洋上哨戒、雷爆撃、輸送、グライダー曳航・・・航続距離も長いので使い勝手はかなり良かったみたいですね。」
「ふ〜ん・・・、ところで飛行機と飛行艇の違いって何?」
「飛行艇は飛行機と違い、船と飛行機の両方の特性を持った機体です。
水上への着水が可能な飛行艇は飛行機と違い、海上に不時着したパイロット等の救助も可能なのです。」
「ふ〜ん、飛行艇って便利なんだね。なら飛行機なんかいらないんじゃないの?」
「・・・極端過ぎるぞ。発言するのは良い事だが少しは考えろ。」
「そういや、前に陸上砲台がどうたらってあったな。」
「・・・だって、飛行艇なら水の上に着陸出来るんでしょ?
それなら、空母が無くても飛行艇がたくさんあれば、何とかなりそうな気がするんだけど。」
「・・・すみません。プルさんの言っている意味が、よく分かりません。」
「え〜・・・いい考えだと思うんだけど。」
「・・・どこがいい考えなのだ。」
「だって飛行艇って性能良いんでしょ?
いろんな作戦に使えるんだし、飛行距離も長いんだし・・・いちいち手間かけて空母率いていくより
飛行艇で編成した方が安上がりじゃないのかなって。
それに飛行艇なら空母を気にする事も無いから、楽なんじゃないかなって。」
「・・・お前、もしかして勘違いしてないか?」
「え、何が?」
「・・・飛行艇には飛行艇の、飛行機には飛行機の良さがある。
飛行艇の性能が良いからと言っても飛行機より飛行艇の方が性能が良いとは限らん。
第一、水上に着水出来るのは良いとして、どうやって飛行艇で前線に出向くのだ?」
「え、だって飛行艇って船の特性もあるんでしょ?だから、プカプカ浮かんでいけるんじゃないの?」
「PBY飛行艇はこういう機体です。プルさんの参考になれば良いのですが。」
PBY飛行艇(カタリナ)
「え、飛行艇ってこんなのなの?」
「こんなのって・・・どんな機体だと思ってたの?」
「え、エヘへ・・・飛行機と船を足したようなものって言うから、
もっと凄いモノだと思って・・・写真のじゃ無理だよね。アハ、アハハハ・・・忘れて忘れて。」
「人間ですから間違いはあります。その間違いを繰り返す事で人は前進していくのです。恥じる事などありません。」
「・・・まぁな、発言内容はともかくとしてその姿勢は評価できるからな。」
「・・・次からは誤解を生まない様な説明をしますね。」
「あ、ありがと〜。」
「ふ〜ん、ひし形にしては良い事言うじゃない。」
「プルさん、誰かさんみたいな間違いだらけの厚顔無恥な人になってはいけませんよ?ねぇ、アスカさん。」
「るさい!あんたはいつも一言多いのよ!」
「・・・南雲機動部隊を発見したアメリカ軍は直ちに攻撃隊を向かわせました。
しかし、南雲機動部隊は所在撹乱のため針路を変更。結局、アメリカ軍の攻撃隊は南雲機動部隊を発見できずに帰還しました。」
「編成は説明しないの?」
「・・・面倒なので省略します。
さて、アメリカ軍は攻撃隊の接敵には失敗したものの、PBY飛行艇は南雲機動部隊に接触し続けています。
偵察機からの連絡を受け、アメリカ軍機動部隊は南雲機動部隊との距離を徐々に詰めていきました。」
「ところでさ、ちょっと質問があるんだけど・・・」
「どうしました?」
「何でアメリカ軍は日本軍に近付いてってんの?
ほら、空母って距離開けて攻撃するのが基本なんでしょ。何かヘンじゃない?」
「・・・・・。」
「どうしたんです?意外そうな顔して・・・」
「いや・・・プルにしてはあまりにマトモな質問をしているのでな。」
「え〜、悪い?」
「・・・そうは言ってない。ただ、お前が的を得た質問をしていたのが不思議に思えただけだ。」
「・・・褒められてんだかなんだかよく解んないんだけど。」
「・・・アメリカ軍が日本軍との距離を詰めたのは、着任したハルゼー中将の性格によるところが大きいと思われます。」
「ハルゼーさんって・・・さっきの話の?」
「何よ?その性格って。」
「・・・ハルゼー中将は自身がパイロットの資格を持っています。
その為、航空機搭乗員の長時間飛行は身体を疲労させるという事実が分かっていたのです。
疲労すれば航空機搭乗員の集中力も減衰します。気力が低いと役立たずなのは以前話しに出ましたよね。
気力50と気力150のパイロットでは雲泥の差があるのですから。
つまり、距離を詰める事で高い集中力を維持した状態で敵を叩くのが彼の基本思想であったと思われます。
もちろん、敵に近づく事は空母を危険にさらす事にも繋がるのですが・・・」
「ふ〜ん・・・、さすが直情型だね〜。」
「気力って・・・いい加減、話を混ぜるの止めなさいって。」
「本質は変わらないでしょう?基本的には同じ事なのですから。」
「ハルゼーさんはスーパーロボット系ですねぇ。甲児さんとか豹馬さんとかと話が合うかもしれません。」
「だな。ロンド・ベル隊は熱いヤシらが多いからねぇ。」
「熱いんじゃなくて暑苦しいだけよ。なんでここは熱血バカが多いのかしら。」
「冷静な人ならヒイロさんとかトロワさんとか居るですよ?」
「極端すぎ!熱血バカに比べたらあいつらの方が余計にワケ分かんないわよ!」
「やれやれ、好みがうるさいですねぇ。そんなだから嫁き遅れなんですよ。」
「るさい!誰が嫁き遅れよ!」
「・・・一方の南雲機動部隊ですが、アメリカ軍の偵察機に接触されている事には気付いていなかったそうです。
10月26日の00:50、空母瑞鶴の前方300m付近に突然水柱が立ち上りました。」
「何かあったのか?」
「PBY偵察機から爆弾が投下されたのです。
攻撃するつもりで落としたのか、帰投するのに邪魔だったから棄てたのかは解りませんが・・・」
「にしても、日本軍はなにやってんのよ。
朝から偵察機にくっつかれてたんでしょ?そのまま深夜まで気付かないって・・・アホ?」
「私に言われても困りますが・・・。
偵察機に接触されていながら何もしないというのも考えにくいので、気付いていなかったと考えるのが妥当でしょうね。
南雲機動部隊は所在を眩ませるため、前衛部隊とともに反転北上。
しかし、数時間後には別の偵察機に接触されています。そして報告を受けたハルゼー中将は攻撃を指示。
この時点(05:00)ですでに、アメリカ軍の正規空母エンタープライズは16機のSBDドーントレスを飛び立たせていました。」
「アメリカも手際が良いねぇ。最初の頃と違って慣れてきてるって気がするな。」
「慣れていくのね・・・自分でも分かる。」
「それ、セイラさん?」
「お、よく分かりましたね。」
「日本軍・・・何やってんの?」
「・・・誤解しないで下さい。日本軍もほぼ同時刻に偵察機を20機ほど飛ばしていますよ。」
「ふむ、20機もか・・・。」
「どしたの?」
「いや、慣れているのはアメリカだけでは無いと思ってな。最初の頃の偵察機数と比べれば、日本も進歩しているだろう?」
「まぁ・・・そうね。」
「だから、南雲さんもマシュマー様には言われたくないと思ってると思うよ〜。」
「・・・・・。」
「夜が明けた06:58、翔鶴から偵察に出ていた8機の艦攻の内の1機から情報がもたらされました。」
敵大部隊見ユ サンタクルーズ島北100浬
空母1・その他15、空母はサラトガ型
「その報告は南雲機動部隊がずっと待ち望んでいたものでした。
前日も偵察機は飛ばしていたものの、敵機動部隊を中々発見出来ずにいましたからね。
司令部は直ちに第一次攻撃隊の出撃を命令しました。編成は次の通りです。」
零戦21機
九九艦爆21機
九七艦攻20機
「う〜ん、前に比べるとやっぱり少ない気がするな〜。」
「簡単に空母や航空機を補充できれば苦労はありません。・・・これでも大変なんです。」
「そうなの?手元の資料だと、アメリカは珊瑚海とかでの教訓を生かしてパイロットの育成に力を入れてたのに
日本軍はそれほどでもなかったって書いてあるけど・・・」
「アメリカと日本を比較するのが間違いです。
日本だって決して搭乗員?(゚听)イラネという姿勢ではなかったのですから。
さて、第一次攻撃隊を発進させたからと言っても、のんびり出来る訳ではありません。
各空母は第二次攻撃隊の発艦準備に追われることになります。
ちょうどその時、SBDドーントレスの一隊が襲い掛かってきました。これは先ほど話した偵察に飛ばした部隊です。」
「いきなり奇襲かい。いつぞやの戦いを彷彿とさせるが・・・。」
「しかし、今回は早期に発見出来ていた事が幸いしました。
直ちに総員配置につけ!対空戦闘用意!との命令が発せられます。
また、直衛の零戦9機も奮戦もありSBDドーントレスは次々と撃ち落されていきました。
残念な事に軽空母・瑞鳳が被弾し戦線離脱してしまいましたが、以前の様な悲劇を繰り返す事はありませんでした。」
「何をしている!対空砲で蹴散らせ!」
「その台詞、またハマーン様の真似か?」
「戦力は圧倒的にこちらの方が上だ。最初の攻撃さえしのげばよい。」
「人の話を聞け!」
「・・・・・。」
「どうしたんです?」
「別に・・・何でも無いわよ。」
「さて、日本軍が第一次攻撃隊を発進させていた頃、アメリカ軍も同様に発進させました。編成は次の通りです。」
F4Fワイルドキャット×8
SBDドーントレス×15
TBFアベンジャー×6
「あれ、アメリカもずいぶん少ないね。」
「ホーネット一隻から飛び立った攻撃隊ですからね。
もう一隻の正規空母エンタープライズからは30分後の08:00に飛び立っています。」
F4Fワイルドキャット×15
SBDドーントレス×12
TBFアベンジャー×17
「てぇと・・・さっきのと合計すると73機か。やっぱりなんだかんだ言って結構な数だな。」
「さて、同時刻にほぼ同時に同じ様に出撃した日米の攻撃隊です。
海は広いですがお互いに敵空母目指して進んでいる以上、途中で遭遇する可能性は高いと言えます。
事実、今回の南太平洋海戦では攻撃隊同士遭遇する事が幾度かありました。」
「ふ〜ん・・・。」
「それがどうかしたの?」
「・・・皆さんが当事者になったと仮定して、次の設問を考えてみてください。」
設問
あなたは戦闘機隊の隊長です。
前方から敵攻撃隊がやってきました。
あなたの任務は味方攻撃隊の護衛です。
しかし、このまま敵を見過ごせば
友軍の空母が敵の攻撃を受け、最悪沈没と言う危険性すらあります。
あなたならどうしますか?
「どうしますかって言われても・・・よく分からないんだけど。」
「つまりだな。自らの任務を優先して攻撃隊の援護に徹するか
自軍の空母を助ける為、任務放棄してでも敵攻撃隊を叩くか・・・お前ならどちらを選ぶかという事だ。」
「でも、なんでまたいきなりそんな質問するんです?」
「当時の日本軍の攻撃隊、瑞鳳の戦闘機隊隊長の日高大尉が同様の選択を迫られたからです。
彼がどのような行動をとったかは後で話すとして・・・皆さん、少し考えてみて下さい。」
「考えろって言われてもねぇ・・・。ん〜、俺ならビーム砲で殲滅するね。」
「私は加粒子砲で敵の空母を真っ二つ!ですなぁ。」
「ファーストは当事者だったらどうするかって言ってるでしょうが。あんたらの感覚で考えてどうすんのよ。」
「あたしだったらキュベレイのファンネルで攻撃するかな〜。」
「だから、当時の人間になったつもりで考えろと言ってるだろう。」
「このキュベレイを見くびってもらっては困る!」
「それ、あんたの台詞じゃないでしょ。」
「じょーだんじょーだん、ん〜・・・そーだね。あたしだったら味方の援護を続けると思うなぁ。一応、任務だもんね。」
「我が同志、エルピー・プルがそうおっしゃるのなら私も同意致します。」
「でも、そうすると味方の空母が危険にさらされるだろ?敵をそのまま放って置いていいもんかね。」
「私なら敵の攻撃隊を叩くな。母艦をやられてしまったのでは、
例え敵空母への攻撃を成功させたとしても痛み分けになってしまう。帰るところが無くなっては元も子もない。」
「ん〜、俺もその意見に賛成だな。」
「それじゃ任務放棄するの?ハマーン様から命じられた任務でも放棄しちゃう?」
「む・・・確かに。任務放棄は騎士として許されない行為だ。」
「じゃ、どーすんの?」
「・・・命令は絶対だ。だが、母艦を守るという事は自軍の中枢を守るも同然。
ネオジオンで言うならハマーン様、ミネバ様を守る事に他ならない。
騎士として任務放棄はあるまじき行為。・・・だが、大儀の為、私は攻撃隊の援護より敵を討つ事を選ぶ。」
「結局、命令無視するんだね。ハマーン様に言っちゃおうかな〜。」
「フッ、何とでも言え。
私にとってはハマーン様やミネバ様の剣となる事こそ全て。立ちふさがるものは全て斬る!」
「ふ〜ん・・・、どうでもいいけど意見分かれちゃってるわね。」
「そだな。なぁ、結局どっちが正解なんだ?」
「どちらも正解であり、どちらも間違いであると言えます。」
「訳分からないって。」
「戦闘機隊隊長だった日高大尉はバンクを振り僚機に合図を送ると、8機の零戦を率いて敵攻撃隊への追撃を行いました。」
「じゃ、命令無視しちゃったって事?」
「・・・そうなりますね。速度で勝る零戦はあっという間に追いつき、太陽を背にした奇襲でF4FとTBFを4機ずつ撃墜しました。」
「どうだ?私の判断は正しかっただろう。」
「・・・しかし、零戦隊の被害も無視できるものではなく、自爆2機、未帰還2機、被弾大破1機と戦力の半分を喪失。
また、残った4機の零戦も機銃弾を撃ちつくしてしまったため、母艦に帰投せざるをえませんでした。
それに、日本軍の攻撃隊も護衛の零戦が約半分にまで減少してしまった事で敵機動部隊上空で苦戦を強いられる事になります。」
「む・・・、そうか。」
「と言うと、やっぱり同志エルピー・プルのおっしゃる通り、護衛を優先した方が良かったって事ですかねぇ。」
「大体、軍人なのに命令無視するって言っちゃってる時点でダメダメだよね〜。」
「・・・そうとも言い切れません。敵攻撃隊を減らした事で敵の攻撃力を弱めた事もまた事実です。
一概にどちらが正しくどちらが間違っていると断言できるものではありません。」
「で、あんたの意見はどうなの?」
「私としては・・・命令無視を推奨するつもりはありませんが、日高大尉の決断も間違ったものでは無いと思っています。
後年、この時の日高大尉の行動は批判の的になったそうですが・・・
個人的な意見を言わせてもらえばその批判は的外れであるとしか言えません。
仮に、攻撃隊をそのままにしておいては母艦が大きな被害を受けていたという可能性も否定は出来ないのです。
ましてや、日本軍は以前に母艦を4隻も失うと言う悲劇を味わっています。・・・私には彼の行動を非難する事は出来ません。」
「という事だ。その士官も命令無視を好んで実行したのではなく
やむを得ず行ったに過ぎんのだろうからな。決して間違いではない。」
「・・・もちろん、命令無視は駄目なのですけどね。」
「う〜ん、そんなものなのかなぁ・・・。」
「そういうものなのです。こういった物事の正解は決して一つではないのですから。」
「・・・・・。」
「どうしたのだ?そういえば、お前が何の意見も言わないとは珍しいが・・・」
「別に・・・、ファーストの事だからこんな答えだとは思ってたけどね。」
「ホントでつか?」
「今までの傾向を見てれば分かりそうなモンよ。大体、ちゃんとした正解なんて用意してないんだから。」
「ちゃんとした答えなどありません。こういった事は━━━」
「はいはい。考える事が重要なんでしょ。もう、耳タコで覚えちゃったわよ。」
「それはともかく、アスカさんだったらどうするんです?」
「え?え〜と、そうね・・・。」
「何だ、何も考えてなかったのか。」
「違うわよ!」
「では、どうするのだ?」
「え〜・・・私なら敵攻撃隊を叩いた後で護衛に戻るわね。
どっちかじゃなくてどっちもこなせば良い事じゃない。」
「・・・・・。」
「・・・何よ。」
「二兎追うものは一兎も得ず・・・知ってます?」
「うるさい!出来る出来ないじゃなくて出来なきゃ駄目なの!」
「・・・後からなら、何とでも言えますね。
さて、第一次攻撃隊はアメリカの機動部隊上空に到達しました。時間は08:55、出撃から一時間半ほど経過した頃です。」
「一時間半か・・・時間的にはそれほど経ってないな。パイロットの集中力は落ちて無さそうだ。」
「アメリカ軍機動部隊は見事な輪形陣を布いていました。
おまけにF4F戦闘機が38機も待ち構えていたのです。指揮官の村田少佐は全軍突撃せよ!と下令。
攻撃隊は艦隊中心部の正規空母、ホーネット目掛け命令どおり突撃を開始したのです。」
「いつも通りと言えばいつも通りか。だが確か、零戦隊は数が少なくなっていたはずだが・・・。」
「・・・確かに零戦隊が約半分に減ってしまっていたのは大きな痛手でした。
零戦12機ではF4F38機の攻撃を防げるはずもなく、艦爆隊の九九艦爆は次々と火を吹いていきます。
また、雷撃隊もホーネット目掛けて突入していきましたが魚雷発射位置に付く前に約半数が撃墜されていったそうです。」
「けっこう散々な状況だね。さすがのロンド・ベル隊も苦戦しちゃってるんだ。」
「ま、流石に無敵って訳じゃないでしょうからね。」
「・・・私達の状況に例えるなら、序盤から無改造で戦っていく様なものです。
戦争が進むに従って敵も強力になっていくものですから、いつまでも無改造のままでは遅かれ早かれ力不足にはなるでしょう?
しかも撃墜されたパイロットは助からない事が多いというシステムだったら・・・どういう事になるかは分かりますよね?」
「アスカさんが常に序盤で退場しちゃう事になっちゃいますよね。」
「るさい!なんで私を引き合いに出すのよ!」
「ん〜、ちょっと質問していい?」
「はい、何ですか?」
「さっき話に出てきた輪形陣って何?」
「以前に少し話したかもしれませんが、艦隊が執る陣形の一つです。
輪形陣とは主力艦を中央に据え、周囲を護衛艦で固めるという陣形です。防空や対潜等に有効と言えますね。」
輪形陣
「ふ〜ん・・・、そうなんだ。」
「さて、アメリカ軍の苛烈な迎撃を受けた第一次攻撃隊ですがただ負けている訳でもありません。
弾幕を掻い潜った攻撃・爆撃機がホーネットに命中弾を与えました。」
250kg爆弾×6
魚雷×2
「何だかんだ言ってもちゃんと命中させてんのね。」
「上記以外にも、攻撃態勢で被弾しそのまま飛行甲板や砲塔に体当たりした機体もあった様です。」
「体当たりとは・・・特攻とやらの事か?」
「いいえ、少し違います。特攻については後で話しますが
被弾して体当たりするのと始めから体当たりを考慮しているのとでは結果は同じでも過程は違ってきますから・・・。」
「それにしても、随分攻撃を当ててるんだな。それだけ当たれば空母も無事では済まんだろ。」
「・・・はい。一連の攻撃によってホーネットは大破炎上、沈没こそ免れているものの程なくして停止しました。」
「一度の攻撃で正規空母を戦闘不能にまで追い込むとは・・・
力が衰えているとは言え、南雲機動部隊とやらの攻撃力は健在だな。」
「・・・しかし、日本側の被害も無視できるものではありませんでした。日本軍の第一次攻撃隊の損害は次の通りです。」
零戦9機
九九艦爆17機
九七艦攻16機
「あらあら、ずいぶんと損害が大きいですねぇ。損耗率は約6割ですか。」
「続いて、第二次攻撃隊の説明に移ります。編成はこちらです。」
第二次攻撃隊
先発(翔鶴隊)
零戦5機
九九艦爆19機
後発(瑞鶴隊)
零戦4機
九七艦攻16機
「翔鶴隊の発進は第一次攻撃隊発進から約30分後の06:10、瑞鶴隊はそれから35分後の06:45です。
第二次攻撃隊がアメリカ軍機動部隊上空に到達したのは約1時間と少し経った08:20。
黒煙を上げ停止しているホーネットは特に目立ちますから発見に苦労は無かった様です。
しかし、そこから20浬離れた場所にもう一隻の空母を視認。
第二次攻撃隊は迷わず無傷の空母エンタープライズに照準を合わせ突撃を開始しました。」
「なぁ、ちょっといいか?」
「何でしょう?」
「なんつーか、説明急いで無いか?さっきから脱線のだの字も無いんだが。」
「・・・これまでが脱線しすぎなのです。私にとってはシュトロハイム少佐がどうなろうと、あまり関係はありませんから。」
「あれは、あんたが率先して脱線進めてたでしょうに。」
「正直、ここまで話が延びるとは思いませんでした。私の中ではすでにマリアナ沖まで進んでいる予定なのですが・・・。」
「マリアナ沖って?」
「それは後で話します。さて、エンタープライズを発見し攻撃に移った第二次攻撃隊の翔鶴隊ですが・・・
やはり、アメリカ軍も無能の集団ではありませんね。一筋縄ではいきませんでした。」
「その口ぶりからすると・・・相当苦戦したようだな。」
「はい。エンタープライズはレーダーにより日本軍の接近に気付いていました。
その為、第一次攻撃隊が接近していた時点でスコールの中に身を隠し、この時点では全くの無傷だったのです。
もっとも、第二次攻撃隊が到達した頃にはスコールは去っていた様ですが・・・
突撃体制に移った攻撃隊を待っていたのはF4Fワイルドキャットでした。」
「う〜ん、お約束だね。」
「しかし、それ以上に脅威となったのが対空砲です。
この時、正規空母エンタープライズと護衛の戦艦サウスダコタには
スウェーデン・ボフォース社の40mm4連装機関砲が装備されていたのです。
これによって、突撃した九九艦爆は次々と撃ち落とされてしまいました。」
「まぁ、仕方ありませんねぇ。日本軍の機体は貧弱貧弱ゥゥゥゥでつから。」
「続くか?続くか?続くかぁ〜?」
「だから、訳分からないって。」
「少なくとも、日本軍の機体は頑丈ではありませんでした。しかし、それは仕方の無い事なのですけどね。
ですが、そんな状況でも攻撃隊は命中弾を与えていました。」
250kg爆弾×3
「それだけなんだ・・・。」
「はい。アメリカ軍の対空砲火の苛烈さがうかがえます。
翔鶴隊の九九艦爆19機のうち12機が未帰還となってしまいました。
その後、30分程遅れて到着した瑞鶴隊の九七艦攻も攻撃態勢に移ります。」
「ところでさ、その命中させた爆弾ってやっぱり致命傷にはならなかったの?」
「その様です。瑞鶴隊が到達した時には火災が消し止められ、また飛行甲板の応急処置も済んでいた様ですから。」
「さしずめ、宇宙怪獣相手に光子力ビームで攻撃してるようなもんですかねぇ。」
「だから、マジンガーで例えるの止めなさいって。」
「え〜、それじゃザクU相手に弐号機の格闘で挑んでる様なもんで━━━」
「うるさいっつってるでしょ!大体、何で私がザクUごときに苦戦しなくちゃなんないのよ!」
「その台詞、聞き捨てならんな。ジオン公国の誇るMSを愚弄する事は許さん。」
「うるさい!余計なトコに首突っ込んでくるんじゃないわよ!騎士ヲタは引っ込んでて!」
「そうやって火に油を注ぐような事を言うから・・・」
「騎士ヲタとは何だ!この私を愚弄する気か!」
「・・・こちらはこちらで粛々と進めます。攻撃体制に入った九七艦攻も対空砲に次々と撃ち落されていきました。」
「対空砲ってそんなに有効なモンなのか?」
「詳しい事は分かりませんが、先ほど話したスウェーデン製の対空砲はかなり性能が良かったそうです。
第二次攻撃隊(翔鶴・瑞鶴隊)の20数機程が対空砲によって撃墜されてしまいました。」
「日本軍はどうなっちゃったの?」
「突撃体制に入った時点で艦攻隊の7機が撃墜されました。
残り9機は二手に分かれて左右から同時に攻撃したものの命中弾は無し、外れた魚雷の内の1本が重巡ポートランドに命中。
また、被弾した艦攻の一機が駆逐艦スミスに体当たりし同艦を大破させました。」
「ふ〜ん、日本軍って体当たりが多いんですねぇ。」
「ん?お前、ヤシ等と口喧嘩の最中じゃないのか?」
「ひょっひょっひょ。怒りの矛先が私に固定される前にマシュマーさんに向けさせる事に成功したので、
私は事なきを得ましたんです。代理戦争は戦の基本でつ。」
「越後屋、そちも中々のワルよのぅ。」
「いえいえ、お奉行様ほどでは・・・」
「オブイェークト!」
「それは違うと思うが・・・」
「・・・・・。」
「ヒカリ、どうしたの?」
「え?ううん。私、全然話についてけないから・・・」
「まぁ、ここには妙な人がたくさん居ますからねぇ。特にあの2人。」
「お前が言うな!」
「ちゃんと聞いてるんだな。」
「・・・一応、アメリカ軍の攻撃隊の話もしておきますね。
彼らが南雲機動部隊を発見したのは07:14。日本軍もアメリカ軍同様、機動部隊直衛の零戦15機が迎撃を開始しました。」
「どっちも似たような事してんだな。」
「・・・そういうものですからね。
さて、零戦による迎撃と対空砲により3機のSBDドーントレスが撃墜されましたが
零戦隊を潜り抜けた12機が翔鶴に襲い掛かりました。必死の回避運動も間に合わず爆弾が命中してしまいました。」
450kg爆弾×4
「あれ、日本の爆弾と違うね。確か日本のって250kgだったよね?」
「・・・そうです。役割は同じでも仕様は違いますから。
正規空母翔鶴の艦上は地獄の様相でした・・・が、どうにか火災を消しとめ喪失は免れました。
しかし、空母としての機能を失っている状況ではどうしようもなく、程なくしてトラックへの帰投が命じられました。」
「まぁ・・・役に立たないなら戻しちゃった方が良いわよね。」
「うむ、損傷した艦をいつまでも前線に出しておいても仕方がないからな。」
「あ、戻ったの?」
「別に、この騎士ヲタと言い争う理由なんか無いもの。元はと言えばひし形が元凶なんだから。」
「不毛な事を続けても意味は無いからな。」
「・・・アスカやマシュマーさんの言う事はもっともですが
空母翔鶴の艦長有馬正文大佐は翔鶴を現場に残すよう、南雲中将に意見具申しています。」
「何で?もう空母としては使えないんでしょ?」
「・・・戦場に残しておく事で囮の役を果たしたいと言うのが有馬大佐の意向でした。
しかし、結局その意見具申が通る事は無く、翔鶴は命令通りトラックへ帰投したのです。」
「盾の役割くらいは果たせたか・・・。」
「それ、ヘンケン艦長?」
「よく分かりますねぇ。こんなマイナーな台詞。」
「え〜、だってエマさんのために自分を盾にしたんじゃなかったっけ?凄く良い人じゃん。」
「ふむ、エゥーゴとやらにも骨のある軍人はいるのだな。敵ながら・・・中々のものだ。」
「・・・今海戦において、アメリカ軍攻撃隊が日本の機動部隊に攻撃したのはここまででした。」
「あれ、そんなモンか?」
「南雲機動部隊に向かってくる攻撃隊はまだ居ました。
しかし、空母を発見する事が出来なかったのか、盾の役割の前衛部隊を攻撃していたのです。」
「なんだ、前衛部隊も役に立ってるんじゃない。誰?前衛部隊は役に立たないって言ったのは。」
「私としては、たまたまうまくいっただけ・・・としか思えないのですが
前衛部隊が攻撃を吸収したのは紛れも無い事実ですね。」
「その前衛部隊とやらは大丈夫だったのか?」
「重巡洋艦筑摩が命中弾多数を受け大破しています。
もう少しで沈没するところだったのですが・・・古村艦長の采配でどうにか沈没だけは免れました。
さて、アメリカ軍は空母が損傷しているので攻撃隊を出撃させる事は困難ですが、一方の日本軍はまだ余裕があります。
空母瑞鶴、そして前衛部隊に編入されていた隼鷹です。」
空母・瑞鶴 空母・隼鷹
「ふ〜ん、アメリカは空母が2隻なのに日本軍はまだ余裕があるんだ。」
「はい。隼鷹を率いていた角田少将は闘将として知られていた人物です。
彼は南雲機動部隊への復帰を打電すると同時に敵機動部隊方向へ艦を全速で進めていたのです。」
「艦を敵の方向にって・・・ハルゼーとかってのと一緒の思考回路してんだな。」
「性格は別として、戦術的には同じですね。
敵との距離を詰めて一気に叩く・・・それは部下の事を考えての選択でもあります。
隼鷹から攻撃隊が発進したのは07:14。
時間的には・・・南雲機動部隊本隊から飛び立った第一次攻撃隊がホーネットを叩いている頃ですね。編成は次の通りです。」
零戦12機
九九艦爆17機
「これらの攻撃隊が敵機動部隊上空に到達したのは09:40。炎上するホーネットはすぐに発見出来ました。
しかし、索敵機からの情報によりエンタープライズの位置を知った角田少将は迷わずエンタープライズへの攻撃を命じたのです。」
「それはそうだろう。
戦闘力を失い航行すら困難な空母をわざわざ攻撃するより、無傷な艦を叩いておいた方がよほど有益だからな。」
「しかし、エンタープライズの防御火力は健在です。また護衛のF4Fも無視する事は出来ません。
エンタープライズへの至近弾×1、戦艦サウスダコタと巡洋艦サンファンへの命中弾各1に留まりました。
日本側の被害は次の通りです。」
九九艦爆11機
「ちょっと待った。確か出撃した艦爆って17だったわよね?」
「・・・はい。それが何か?」
「ほとんど撃ち落されちゃってるってどーゆー事よ!いくらなんでも被害多すぎじゃない!」
「・・・私に言われても困ります。それだけ防空火力が凄まじいものだったとしか言い様がありません。」
「もう少し頑丈な機体で送り出せばいいのに・・・これだから人命軽視なのよ。」
「・・・反論はしません。不毛ですからね。
角田少将による攻撃はまだ続きます。帰還した日本の攻撃隊は瑞鶴、隼鷹に収容され再編成、11:06に出撃しました。」
零戦8機
九七艦攻7機(雷装)
「こんな事を言うのもなんだが・・・ずいぶん貧相になってしまったな。」
「・・・仕方ありません。多くが撃墜されてしまっているのですから。
しかし、上記のは隼鷹の攻撃隊で、もう一隻の瑞鶴からも攻撃隊を出撃させています。」
零戦5機
九九艦爆2機
九七艦攻6機(爆装)
「なんか・・・必死に戦力をかき集めてるって感じだな。」
「ほんと。まるっきり消耗戦になってるじゃない。」
「傷付き、重巡に曳航されているホーネットを探すのに苦労はありませんでした。
まず、隼鷹の攻撃隊により魚雷×1が命中。また瑞鶴の攻撃隊により爆弾×1が命中。
その爆発により、退艦中のアメリカ兵多数が命を落としました。」
「やっぱり大勢の人が死んじゃうんだね。なんか複雑・・・。」
「・・・そう思う心は大事にしておけ。それこそが人である証でもあるのだからな。」
「私も・・・敵を哀れんで良いですか?私も・・・人の証があるですよ?」
「なんだ、その幽霊が囁いている様な妙な声は。」
「つーか、あんたにそんな心があるの?見るからに無機物の分際で。」
「失礼な!私は加粒子砲で敵をなぎ倒すたびに心を痛めているのでつよ?」
「・・・戦争なのです。爆弾が当たっても機銃掃射を受けても人は亡くなります。
沈没する艦から脱出出来ずに溺死というのも珍しい話ではありません。そういうものなのです。」
「やっぱり戦争っていけない事なんでしょ?」
「そりゃそうだろ。だが、世の中にゃ不可抗力ってのがあるからねぇ。難しいモンだ。」
「そうでつよ。私はこれでも平和主義者なんですから。加粒子砲を当てるたびに
ハッハーッ、貴様に止めを刺せると思うとスカッとするぜぇぇぇ!と、
内心胸を痛めながら粛々と任務遂行してるんです。」
「最悪・・・、あんたのどこが平和主義者なのよ。」
「私は攻撃圏内に敵が入らなければ攻撃しませんもん。いわば自衛の為の戦いだったんですよ?それなのに・・・シクシク。」
「・・・嘘泣きは止めなさいっての。大体、第3新東京市に侵攻しといて自衛ってのはどういう了見よ。」
「・・・話を戻します。日本軍は使える機体をかき集め、再び攻撃隊を送り出しました。」
零戦9機
九九艦爆4機
「ついにそこまで数が減ったか・・・。」
「はい。ですが傷付いた空母相手なら十分でしょう。
上記の攻撃隊も爆弾1発を命中させています。また、前衛部隊の駆逐艦数隻もようやくホーネットを捕捉しました。」
「あれ、空母の周りって護衛艦がいるんでしょ?何やってるの?」
「日本の攻撃隊が去った後、アメリカ軍の駆逐艦はホーネットを処分するため魚雷を撃ち込んでいます。
しかし、頑として沈まず・・・日本軍の駆逐艦が到達したのは丁度その頃だったそうです。
日本の艦隊を発見したのか、アメリカ軍は戦場から離脱していきました。」
「そうか・・・、アメリカ軍も艦を処分するつもりだったのか。」
「駆逐艦巻雲・秋雲の雷撃によりホーネットはようやく沈没。
無差別爆撃を行ったドゥーリットル隊を運んだ因縁の空母、ホーネットを討つ事が出来たのです。」
「だから、そういう鬼畜米英的な発言は止めなさいって・・・」
「・・・こうして南太平洋海戦は終わりました。
そして、この戦いは南雲機動部隊にとって最期の戦いであり最期の勝利でもありました。」
「最期って?」
「南雲中将はこの後、転属となり佐世保鎮守府へ転出しているのです。
ですから・・・この戦い以降、南雲機動部隊の名が歴史に出てくる事はありません。」
「そうなんだ・・・。なんか、南雲さんがいなくなっちゃうんじゃ少し寂しい気がするけど・・・。」
「まぁ、最初から出番多かったものね。」
「マジンガーからマジンカイザーになった時の心境に似てますかねぇ。」
「似てない!」
「ところで、日本とアメリカ双方の被害はどの程度だったのだ?話で聞いた感じでは日本側の勝利の様な気がするが・・・」
「・・・そうですね。両軍の損害は次の通りになっています。」
日本軍
正規空母・翔鶴(中破)
軽空母・瑞鳳(中破)
重巡洋艦・筑摩(大破)
駆逐艦・秋月、照月(小破)
航空機損失・92機
アメリカ軍
正規空母・ホーネット(沈没)
正規空母・エンタープライズ(中破)
戦艦・サウスダコタ(中破)
軽巡洋艦・サンファン(中破)
駆逐艦・ポーター(沈没)
駆逐艦・スミス(大破)
駆逐艦・ヒューズ(大破)
航空機損失・74機
「あらら・・・こうして並べてみると一目瞭然だわな。」
「この時、アメリカのラジオは史上最悪の海軍記念日を迎えたと報じました。
結果だけ見ればその通りですね。日本側に沈没艦はありませんから。」
「ちょっといい?」
「はい、なんですか?」
「確かに艦船だけみれば日本の勝利だけど・・・航空機の被害は日本の方が多いでしょ?
多くのベテランを失ったから必ずしも日本の勝利とは言えないって、手元の資料に書いてあるんだけど。」
「・・・それはただの負け惜しみですね。」
「はい?」
「確かにアスカの言うとおり、多数の航空機と145名ものパイロットを失った事は大きな痛手です。
しかし、正面から戦って被害を少なく出来るほど戦争は甘くありません。
これらの損失は・・・失うべくして失われてしまったのです。
実際に、アメリカ軍の艦船多数が損害を受けているのですから今回は日本の勝利と見て良いでしょう。」
「だから、勝利じゃないでしょって。」
「食い下がるねぇ。」
「だってそうでしょ。
日本の艦隊は陸軍の支援もできない状況になっちゃってるじゃない。そんな状況でどうして勝利なんて言えんのよ。」
「・・・・・。」
「ほらほら、弁解があるなら言ってみなさいよ。」
「・・・うわ、悪女系。」
「るさい!」
「では、こうしましょう。南雲機動部隊は陸軍支援を行えなかった。
そして、アメリカ軍は日本艦隊の迎撃は成功しても多数の艦船に被害を受けた・・・差し引いて引き分けという事でいかがですか?」
「ひ、引き分け・・・?」
「落とし所としては妥当な線かと・・・」
「そういう問題じゃないでしょうが。」