第三次ソロモン海戦
「・・・それでは次です。
次は前々回のヘンダーソン飛行場砲撃から約1ヵ月後の11月12日〜14日に行われた第三次ソロモン海戦になります。」
「大惨事?」
「だから、つまらないって言ってるでしょ。大惨事じゃなく第三次よ。」
「ちょっとお茶目な部分を見せて可愛さをアピールしただけなのに・・・酷いです。」
「可愛さって・・・をい」
「まぁ、意外な一面を見せるってのは中々有効だからなぁ。そいつが可愛いかどうかは別にして・・・だが。」
「・・・そういうものなのかな。」
「そういうものなの?」
「さぁな。私はそういった事は知らん。聞くなら他の連中に聞け。」
「だって、この中だとマシュマー様が一番年上じゃん。ほら、よく言うじゃない。亀の甲より年の功・・・だっけ?」
「む・・・一応、人間では年齢が一番上かもしれんが・・・知らんものは知らん。それに知識に年齢は関係無いぞ。」
「確かにうちらは年齢不詳だよな。いくつなんだ?俺ら。」
「さぁ、知らないならテキトーでいいんじゃないですか?う〜ん・・・14歳って事にしときましょうか。」
「・・・あんたらのドコが14歳なのよ。」
「酷っ!人を見た目で判断するなんて・・・最低です。」
「見た目も何も・・・あんた人間じゃないし。」
「そりゃそーなんだがな。」
「・・・・・。」
「もっとも、年齢なんて私にはどうでも良い事です。では、私は1歳未満という設定でいきましょうかねぇ。」
「どこからその数字を持ってきたのだ?」
「ほら、サキエルさんが第三新東京市に来てから私の出番まで一年は経ってなかったじゃないですか。
だから、私が生まれたのもその辺りの時期かな〜って。」
「だからって私らより年下になってどーすんのよ!」
「おや、若さに嫉妬してるんですか?アスカさんも年配だからって目くじら立てなくても・・・」
「るさいっ!誰が年配なのよ!大体、あんたは━━━」
ウイィィン(ドアの開閉音)
「あれ、誰か来たみたいだよ。」
「・・・ここにもいない。どこに行っちゃったのかしら。」
「伊吹二尉!どうしたの?」
「あ、アスカ。シンジ君見かけなかった?」
「馬鹿シンジ?ここにはいないはずだけど・・・」
「そう・・・、困ったわね。」
「どうかしたの?」
「え?ええ。初号機F型のテストの予定が入ってるんだけど・・・急に姿が見えなくなっちゃって。」
「あ、彼なら甲児さんに連れてかれましたよ。理由は知りませんが、人格改造でもされてるんじゃないですかねぇ。」
「そうなの?でも、丁度良いかもね。あの馬鹿、男のくせにウジウジしちゃって・・・良い薬よ。」
「そう、ありが・・・え?」
「どうしたんだ?顔が真っ青だが。」
「あなた達、使徒じゃ・・・どうしてここに?」
「・・・娘。何を驚いている?」
「そりゃ驚くでしょ。いくらキワモノぞろいのロンド・ベルだって、いきなり使徒が部屋の中に居れば。」
「あの・・・、アスカ。どうしてそんなに平気にしてられるの?その人達・・・いえ、使徒達って敵のはずじゃ・・・」
「だって・・・今さらツッコミ入れても虚しいだけだし。」
「それに、もう慣れちゃったしね。」
「慣れたって・・・そんな・・・」
「ま、話せば長くなるんだが、俺の場合は第三新東京市で自爆した後・・・」
「・・・時間が無いので、昔話は別の機会にお願いします。」
「あ、心配しなくても大丈夫ですよ。ブライト中佐と葛城三佐の許可は一応貰ってますから。」
「・・・葛城三佐から?・・・とにかく、こ、ここにはシンジ君は居ないのね?・・・それじゃ・・・失礼するわ。」
ウイィィン(ドアの開閉音)
「・・・逃げる様にして行っちゃったわね。」
「そりゃそうでしょ。フツーに考えたらこの光景は異常以外のなにものでもないもの。」
「その原因のほとんどはアスカさんなんですけどね。」
「うるさいって言ってるでしょ!」
「・・・・・。」
「あれ、マシュマー様・・・どうしたの?」
「いや・・・、この艦にはあの様な純朴な娘も乗っているのだな。いくら戦時とは言え、あまり良い傾向とは思えん。」
「あ〜、マシュマー様、もしかして浮気?」
「な・・・!」
「ハマーン様だけじゃ飽き足らず今度は伊吹二尉ですか?意外と気が多いですねぇ。」
「そういう問題では無い!
いいか?乱れた社会が彼女を戦場へと追い込んだのだ。彼女には暗い未来しか見えていないのだぞ。」
「おいおい、そこまで言い切っちゃうのはどうかと思うが・・・」
「何を言う?人に対して用心深くという奥ゆかしさ・・・あの様な普通の娘に戦場は似合わん。」
「ねぇ、どうでも良い事なんだけどさ・・・」
「どうした?」
「伊吹二尉ってあんたより年上よ。多分、あんたが好きなハマーンとかって人よりも上だと思うけど・・・」
「な、なんだと!馬鹿な・・・!あの容姿でハマーン様より年上?・・・し、信じられん。」
「そんなに驚く事じゃないですよ。ほら、日本人って外国の方から見ると幼く見られる事が多いらしいですし。」
「日本人は戦闘民族だ。戦う為に若い時代が長いんだ。」
「・・・それは違うでしょ。」
「ふむ・・・、人とは見かけだけで判断は出来ぬものだな。」
「そうですよ。人を見た目で判断してはいけないんです。分かりましたか?」
「・・・なんで私に言うのよ。」
「そういえばさ、ちょっと気になったんだけど・・・」
「どした?」
「どうして、ネルフの人達って他の人達と呼び方が違うの?
三佐とか二尉とか・・・普通にアムロ大尉とかと一緒にしちゃえばいいのに。」
「さぁねぇ。組織が違うんだから別に良いんじゃねぇの。わざわざ統一しなくたって減るもんじゃないし。」
「それはそうなんだけど・・・ちょっと気になっちゃってさ。・・・あれ?」
「・・・今度は何だ?」
「マシュマー様って・・・階級何?」
「そういえばそうね・・・。言われてみれば確かにあんたの階級、知らないわ。」
「・・・私に聞かれても困る。我々アクシズの組織体系は特殊なのだ。
一応騎士階級という事にはなっているはずだが・・・他の組織と比べる事など何の意味も無い。」
「とか何とか言っちゃって・・・ホントは二等兵とかじゃないの?」
「誰が二等兵だ!私は幾多の戦いで指揮を執ったのだ、二等兵などありえん。」
「プルさん、失礼な事言っちゃいけません。彼は三等兵なんでつから。」
「黙れ!」
「・・・脱線はその辺にしておいて下さい。いい加減、先に進まないと前回の戦いすら忘れ去られてしまいそうですから。」
「・・・それもそうだな。」
「つまんな〜い!」
「・・・そういう問題ではなかろう。」
「・・・前回の南太平洋海戦で、日米の機動部隊決戦はひとまず終了しました。
一方のガダルカナル島での戦いは、日本側にとって明るい兆しがまるで見えてきません。
飛行場は奪回出来ず、補給もままならず・・・」
「・・・あんた、ずっと前からそんな事言ってばかりじゃない。いい加減飽きない?」
「・・・飽きますよ。しかし、説明する方としては楽ですね。」
「なんで?」
「時代背景、状況説明をする手間が省けるからです。」
1.ガダルカナル島において将兵達は飢えと病に苦しんでいる。
2.総攻撃どころか補給すら困難な状況が続いている。
3.戦闘可能な兵力は僅か7000程。
「戦死した人数より、飢えと病で亡くなっていく方が多い・・・ガ島が飢島と呼ばれる所以です。
その不利を挽回する為に実行されたのが挺身攻撃隊による、ヘンダーソン飛行場への直接攻撃計画です。」
「それって前にもあったよな・・・。」
「つーか同じ事の繰り返しでしょ。そんな安易な考えでうまくいくと思ってんの?」
「・・・前回の戦艦は金剛と榛名ですが、今回は霧島と比叡ですよ。前回と全く同じという訳ではありません。」
「戦艦の名前の違いなんかどうでもいいわよ!そーじゃなくて、作戦そのものが一緒でしょって言ってんの!」
「・・・それがどうかしましたか?」
「どうもこうも無いでしょ!前回はたまたまうまくいったから良い様なものの・・・何度も同じ手が通用する訳ないでしょうが。」
「・・・そうですね。いかに優れた戦術と言えど、同じ事の繰り返しでは手の内も予想されてしまいますからね。」
「なら、なぜ同じ作戦を立てたのだ?」
「他に方法が無いからです。
ラバウルやブイン等の航空基地から攻撃してものれんに腕押し、ぬかに釘・・・成果らしい成果が得られなかったのです。
頼みの綱の日本軍の機動部隊は再建中ですからしばらく使用不能・・・。となると手段は限られてくる訳です。」
「だから、同じ事の繰り返しなんですか?」
「・・・そうです。
挺身攻撃隊の攻撃で一時的にでもヘンダーソン飛行場を無力化に追い込み、その間に輸送船による補給を行い陸軍の戦力を補充。
その後、総攻撃を行いヘンダーソン飛行場を奪回する・・・これが今回の作戦の基本概要です。
それでは、実際の海戦の説明に移りましょうか。」
「今回はずいぶん展開が早いな。前フリが全然無いってのもヘンな感じだが。」
「・・・その必要がありませんからね。
第二次ソロモン海戦や南太平洋海戦の辺りで、ほとんどの状況説明は終わってますから。」
「ふむ・・・、それもそうだな。」
「平たく言えば、手を抜いてるって事よね。」
「・・・その通りですが何か?それとも、また列車砲の説明でもした方がよろしいですか?」
「止め止め止め!分かったから、さっさと説明を続けなさいよ!」
「よく他人に突っかかる人です、まったく・・・。DQNと言われるのも頷けますじゃ。」
「るさいっ!」
「こちらが11月12日分の挺身攻撃隊の編成になってます。」
挺身攻撃隊
第11戦隊・比叡、霧島(戦艦)
第10戦隊・長良(軽巡)
第16駆逐隊・天津風、雪風(駆逐艦)
第4水雷戦隊
第2駆逐隊・村雨、五月雨、夕立、春雨
第27駆逐隊・時雨、白露、夕暮
第6駆逐隊・暁、雷、電
第61駆逐隊・照月(駆逐艦)
「ここまでで何か質問はありますか?」
「ん〜・・・、今のところはだいじょーぶだよ。」
「だそうだ。俺も別にこれといって質問は無いしな。」
「・・・了解です。11月9日、全軍の期待を一身に受けた挺身攻撃隊はトラック泊地から出撃しました。
挺身攻撃隊は比叡・霧島の2隻の高速戦艦を中心に駆逐艦数隻を直衛に傘状に配置、
残りの駆逐艦を10km前方に配置して警戒に当たらせました。」
「エヘへ・・・ねぇ、ちょっと分からないんだけど・・・」
「・・・簡単なものですが、図を用意しました。ご覧下さい」
「中心部にある大型艦が戦艦、周囲を駆逐艦等の護衛艦で固めていると見ていただければ幸いです。」
「1・・2・・・ねぇ、数が全然合わないんだけど。」
「細かい事を気にしてはいけません。その辺は大目に見てください。」
「をい・・・」
「・・・出撃から3日後の11月12日、挺身攻撃隊は付近を哨戒中のB17に発見されてしまいました。」
「また?」
「敵地に近付けば見つかるのは当然の出来事です。その部分を指摘されても困るのですが・・・」
「困るです♪」
「うるさいっ!」
「・・・日本軍の目的地がガ島であると予測したアメリカ軍は、
輸送船護衛任務に就いていた巡洋艦・駆逐艦を抽出して迎撃部隊を編成。来るべき日本軍との夜戦に備えました。」
「ん?アメリカの機動部隊は・・・ふむ。そういえばアメリカ側も痛手を受けていたのだったな。」
「何、1人でブツブツ言ってんの?」
「いや、いつもならアメリカ機動部隊の迎撃を受けていたではないか。それが無いというのも珍しいと思ってな。」
「ん〜、言われてみればアメリカ軍の攻撃受けるのっていつもの事だったからね。」
「・・・南太平洋海戦で無理をしてでも敵空母を叩いておいたおかげです。
日本に比べて戦力としては劣勢なアメリカ軍の迎撃部隊はT字戦法を持って日本軍を迎え撃つ予定でした。
指揮官のキャラハン少将はソロモン海に転出して日が浅い人物。単純に比較するなら日本軍の方が有利と言えますね。」
「エヘへ・・・」
「・・・どうしました?」
「いつもの事だろう。さしずめT字戦法についての事では無いのか?」
「すっご〜い!良く分かったね〜。マシュマー様ってニュータイプじゃないのに・・・何で?」
「・・・ニュータイプは関係無い。お前の言動と行動を見ていれば分かりそうなものだ。」
「・・・・・。」
「どうした?」
「・・・我が同士マシュマー・セロ。あなたもT72神の教えに目覚めたのですか?」
「神は言われた。我々にかたどり、我々に似せて、戦車を造ろう。
そして海の船、空の戦闘機、戦車、自走砲、地を這う歩兵すべてを支配させ━━━」
「待て待て待て。どこからそんな話が出てくるのだ?」
「偽りを好み敵に通じた者は皆、車外に放り出されるのでつよ。
ああ、あなたもここまでの人でしたか。どうぞ、車外に放り出されて虎や豹の砲火を浴びて下さいませ。」
「訳の分からん事を口走るな。」
「しょーがないよ。だってこの人、ハマーン様教に心酔してるもん。今さら改宗するのは無理だと思うよ。」
「誰がだ!」
「そうでしたか・・・。新たな信徒になるかと思ったのに。まぁ、良いでしょう。
どうぞ、車外に放り出されてください。神の加護が無ければM1によって撃ち抜かれる事でしょう・・・オブイェークト。」
「オブイェークト。」
「そろそろ、T字戦法について説明したいのですが・・・。」
「あ、ゴメンゴメン。」
「あんたら、脱線させんのも程ほどにしなさいよ。ホントに話が進まないでしょうが。」
「ゴメンね。最初はそんなつもりはなかったんだけど、いつの間にか・・・ね。」
「あれは不可抗力でした。
我々は歴史の大きな流れに巻き込まれてしまっただけ・・・仕方の無い事だったのですよ。ねぇ、綾波さん。」
「なぜ、私に同意を・・・?」
「ほら、綾波さんもよくそういう事を言ってるじゃないですか。仕方の無い事だったと。」
「・・・申し訳ありませんが似て非なるものです。さて、本題に戻りますよ。」
「さらりと流されたな。」
「では、こちらの図をご覧下さい。」
「何これ。」
「上記の図では、赤い方の部隊がT字戦法を執っていると見てください。さて・・・一見してどちらが有利に見えますか?」
「どっちかって・・・そのなんとかって方法使ってるんだから、赤い方が有利なんじゃないの?」
「・・・そうですね。ではその理由は?」
「・・・え?」
「いきなりそんな事言うから、我が同志エルピー・プルが混乱してますよ。もうちょっと分かりやすくお願いしまつ。」
「・・・少し考えてみて下さい。答えをあっさり知ってしまっては面白く無いでしょう?」
「・・・もったいぶらないで答え言っちゃいなさいよ。どーせ、こんなマニアックな事はあんたしか分からないって。」
「いやいや、もしかしたら知ってるかもしれないぜ。なぁ?」
「・・・私に言っているのか?」
「あ、そういえばそうだよね。なんたってお偉い士官様だもん。分かって当然だよね〜。」
「ですねぇ。もっともマシュマーさんが三等兵じゃなければ、ですけどねぇ。」
「黙れ!」
「それじゃ・・・分かるんですか?」
「当然だ。その程度の設問など・・・ハマーン様より頂いたこの薔薇にかけて華麗に解いてくれるわ。」
「ずっと気になってたんだが・・・それ薔薇だったのか。」
「そうだ。この香りに応える為に私は闘っているのだ。」
「・・・・・。」
「どうしたの?」
「別に・・・なんか一気に疲れが出てきただけ。」
「やっぱり歳ですからねぇ。長時間の講義は堪えるんじゃないですか?」
「誰が歳なのよ!大体私はまだ14歳だっての!」
「おや、人を判断するのは実年齢だけではなく、精神年齢も重要なんじゃないですか?
ほら、歳の割りに若かったりとかその逆だったりとかってよく聞くでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・それと私と何の関係があんのよ。」
「歳の割りにオバサンくさいから・・・」
「誰がよ!」
「・・・では、マシュマーさん。答えをお願いします。」
「任務了解。」
「ぜんっぜん似合わないんだけど・・・」
「上に同じ〜。」
「・・・細かい事にツッコミを入れるな。いつだったか、単縦陣の話が出たのを覚えているか?」
「え、あたし達に言ってんの?」
「それはそうだろう。解らない者に説明しなければ意味は無いからな。で、覚えているのか?」
「え、え〜と・・・」
「第一次ソロモン海戦の時でつよね?三川中将の執った陣形だと記憶しておりますです。」
「あんた・・・よく覚えてるわね。」
「私のS2機関を侮ってもらっては困りますね。この程度の事など造作も無い事ですよん。」
「ふ〜ん。ま、どうでもいいけど・・・。」
「それとこれと何の関係があるの?」
「単縦陣の利点の一つはその容易さだ。一列に並んで進めば良いのだからそれほど難しいものではない。分かるな?」
「ん〜、まぁ・・・なんとなく。」
「・・・単縦陣による艦隊の動きは、
某RPGの勇者ご一行様の動きを思い浮かべてもらえば分かりやすいかと思います。
先頭の人が方向を変えた地点まで後続の人が進み、そこで方向を変える・・・単縦陣の動きもそれと同じです。」
単縦陣
「それってそのT字なんとかと何か関係があるの?」
「・・・単なる説明の補足です。」
「単縦陣のもう一つの利点は覚えているか?」
「え、う〜ん・・・何だっけ?」
「何でしたっけ?」
「私に聞かれても・・・」
「・・・確か攻撃力だったよな。ほれ、戦艦とかってのは相手に側面を向けたほうが攻撃力を生かせるんだろ?
それに、駆逐艦とかだと側面じゃないと魚雷使えないしな。」
「そうでしたっけ?忘れちゃいました。」
「あんた・・・」
「つまり、T字戦法とは進撃してくる敵の正面で、単縦陣の側面を向けた状態で攻撃する方法だ。
そうする事で各艦の攻撃力を最大限に発揮する事が出来る。
誰が考えたか知らんが、中々有効な方法と言えるだろうな。」
「ちょっとしつも〜ん。」
「何だ?」
「横向きが有利なのは分かったんだけど、相手も横向いてたらどうすんの?」
「馬鹿かお前は!」
「ひっど〜い!馬鹿って言った〜!」
「少しは考えてからモノを言え。何のための艦隊運動だと思っているのだ?」
「おいおい・・・、キツく言うとまたメンドーな事になるぞ。」
「構わん。いいか?こちらも動けば相手も動く、有効な射点をいかに確保するかが重要なのだ。
・・・のんびり待ち構えているだけで敵が都合良く網に掛かるのなら苦労は無い!」
「ひどいよ〜、一生懸命考えたのに・・・」
「マシュマーさん!我が同志エルピー・プルが哀しんでいらっしゃるじゃないですか!」
「・・・その程度の事で哀しむようでは先は無い。
まずは考えろと言っているのだ。浅はかな行動が身を滅ぼす事もあるのだぞ?」
「まぁ・・・分からなくはないけど。」
「お前達ロンド・ベル隊は恵まれている。
危機的状況に陥った時も必ず危機回避する方法が残されているのだ。それに引き換え我々は・・・」
「まぁ・・・、滅多な事じゃ全滅なんかしねぇからなぁ。さすが特機の混成部隊だけあるぜ。」
「なら別に良いじゃん、適当だって。」
「・・・やはり嘘泣きか。
何事も油断は禁物なのだ。全滅は無くとも考え無しに戦闘を進める事によって危機に陥る事はあるものだ。
お前にも何か思い当たるフシはあるだろう。」
「え〜と、何かあったかな。ん〜・・・プルツー説得する前に撃墜されちゃった事とか?」
「ヤシマ作戦の時に私の射程圏内に入ってきたお馬鹿さんがいたですよ、クスクス・・・」
「・・・ボルテスXの強制分離イベントの最中に1機落とされてそのまま終わった事があります。」
「あんたら、いきなりなに言ってんの?」
「それ以来ボルテスXはお蔵入り・・・」
「話が分からないってば。」
「つまりはそういう事だ。あらかじめ注意を払っていれば回避出来た事態なのだ。
状況を理解し考え対処するというのは、これからのお前達にも十分役立つ事なのだぞ?」
「あんたにしちゃ珍しくマトモな意見だな。」
「T字戦法についてはこんなところか・・・。」
「・・・そうですね。概ね合ってますから問題は無いでしょう。」
「あのさぁ、ちょっと思ったんだけど・・・」
「また、くだらない事を言うんじゃないだろうな。」
「ひっど〜い!あたしだってちゃんと考えてるもん!」
「で・・・何だ?」
「横向けなくても攻撃力が生かせるような船を造れば良いんじゃないの?例えば・・・ムサイみたいな感じの。」
「いきなり何を言い出すのかと思ったら・・・あの配置じゃ後ろからの攻撃に弱すぎるだろ。」
「・・・実際、イギリスにネルソン、ロドネイという戦艦がありました。形としては通じるものがあります。
しかし、別にT字戦法に対処する事がメインで設計されたのではなく、条約に適合した戦艦を造るために試行錯誤した結果の様です。
極端な配置のせいか色々と弊害もあったようですが・・・まぁ、どうでも良い事ですね。
T字戦法については十分だと思うので、そろそろ次に進みます。」
「その戦艦の写真とかはないの?」
「探してはみたものの・・・良いのが見つかりませんでした。すみません。」
「長々と説明してたけど、Tなんとかを持ち出して何が言いたかったの?」
「そういう戦法があるという、ただの予備知識に過ぎません。今後の説明を分かっていただく為に必要な事なのです。」
「・・・ホントかしら。」
「知らないよりは良いかと・・・では、本筋に戻しましょう。では、もう一度挺身攻撃隊の陣形をご覧下さい。」
「この陣形なら、敵艦隊が出現しても戦艦霧島・比叡は先頭の駆逐艦から10km程の距離
時間にすれば5〜6分の余裕があったそうです。
飛行場砲撃の為、主砲には三式弾が準備されていますが、四斉射目からなら鉄甲弾に変えることが出来ます。
ですから、アメリカ軍の迎撃を受けても十分対処できる予定でした。」
「またマニアックな話を・・・」
「予定だったって・・・実際は違っちゃったって事?」
「ガ島周辺に到達した挺身攻撃隊ですが、激しいスコールに遭いガ島砲撃を断念せざるを得なかったのです。
その為、攻撃を諦め反転北上するしかありませんでした。撤退を開始したのは22:05。
しかし22:38にスコールが止んでしまい、ガ島にからも天候良好の報告が入ました。
挺身攻撃隊は再びガ島へと向かったのです。」
「あっちに行ったりこっちに来たり・・・大変だな。」
「・・・大変です。しかし、一連の艦隊運動の影響で陣形が崩れてしまったのです。
前衛の駆逐艦数隻が後落。結果、前方警戒の為の駆逐艦が減ってしまったという事になります。
しかし、挺身攻撃隊は陣形を直す事なくガ島のルンガ湾に突入していきました。」
「なんで、ちゃんと直さなかったのよ。危ないでしょ。」
「・・・時間的な関係だと思います。今ここで陣形を整えるのに時間をかけてしまえば
砲撃を成功させたとしてもその後、確実に追撃を受けてしまう事になりますから。
ヘンダーソン飛行場の砲撃位置に到達したのは23:30。前衛の駆逐艦からは何の連絡もありませんでした。
その為、挺身攻撃隊司令部は敵の艦隊はいないと判断していたそうです。
しかし、この時点ですでに挺身攻撃隊はアメリカ軍のSCレーダーに捕えられていたのです。」
「レーダーってそんなに凄かったの?」
「人の力には限界があります。
いくら日本人の夜目が効くといっても・・・レーダーの力はその上を行きますから。性能が上がれば尚更です。」
「となると・・・話の流れから考えると奇襲でも受けたか?」
「いえ、砲撃の3分前・・・23:42分に日本側もアメリカ軍の艦影を確認しました。
駆逐艦夕立が無線封止を破り全艦に打電したのです。
・・・一方のアメリカ軍は前述のT字戦法を実行するため、単縦陣で挺身攻撃隊に接近してきました。艦種は次の通りです。」
アメリカ軍
重巡×2、軽巡×1、防空巡×2、駆逐艦×8
「名前は出さないんですか?」
「・・・面倒なので省略します。
さて、日本より早くその存在を察知していたアメリカ軍ですが、ここでトラブルが発生しました。」
「どしたの?」
「アメリカ軍の駆逐艦カッシンが2700mの近距離に日本軍の駆逐艦夕立・春雨を発見したのです。
衝突を避ける為カッシンは左に緊急回避。
これにより後続艦も味方の船を避けようと右に左に変針し・・・アメリカ軍の陣形は完全に崩れてしまいました。
・・・これは単縦陣の弱点といえば弱点かもしれませんね。また、アメリカ軍の混乱に拍車をかけたのが日本の駆逐艦夕立です。
夕立は単艦で敵艦隊の深部に突入し魚雷を発射、見事に命中させました。
その後も手当たり次第に砲撃を行い目覚しい働きを見せたのです。」
「単艦で突撃とは、豪気と言うか無謀と言うか・・・凄いものだな。」
「戦艦比叡も探照灯を照射すると同時に砲撃を開始。
対空迎撃用の三式弾ではあったものの防空巡アトランタの艦橋に命中させました。
しかし、探照灯を照射した事で敵の攻撃が集中、艦上の建造物のほとんどに砲撃を受けてしまいました。
傷を負いながらも比叡は奮闘し駆逐艦を撃退。
この後、ソロモン海は敵と味方が入り乱れる大混戦の様相を呈してきます。」
「大混戦って・・・統制は執れなかったの?」
「どちらも混乱していた様ですね。
双方とも味方撃ちまで発生していたようですから、その混乱は相当なものだったようです。」
「主砲はアーガマを狙ったのであろう?艦長。アーガマを狙ったビームが逸れてグリプス2に当たったとは不幸な事件だ。」
「いきなり何を言い出すのよ・・・。」
「先日は不手際があり、大変遺憾に思っております。グリプス2の件は私の部下の・・・」
「前置きはいらん。そちらは何を望んでいるのだ?理由によってはグワダンを破壊するかもしれん。」
「だから脱線すんのを止めなさいって。」
「何の話なのやら・・・」
「・・・ルンガ湾が静かになったのは戦闘開始から約35分後の事でした。双方の損害は次の通りです。」
日本軍
戦艦・比叡(大破)後に自沈処分
駆逐艦・夕立(沈没)
駆逐艦・暁(沈没)
他4隻損傷
アメリカ軍
重巡洋艦・サンフランシスコ(大破)
重巡洋艦・ポートランド(大破)
防空巡洋艦・アトランタ(大破)後に自沈処分
防空巡洋艦・ジュノー(大破)離脱中に沈没
軽巡洋艦・ヘレナ(小破)
他4隻沈没、3隻損傷
「沈没したアメリカの駆逐艦の名前は出さないの?」
「・・・アメリカの駆逐艦が全部で何隻あると思っているのです?
正直、調べようという気も失せるほどの多さなのです。ご了承下さい。
・・・水雷戦の訓練に力を入れていただけあって、戦闘そのものは日本側の勝利でした。
しかし、ヘンダーソン飛行場の砲撃は断念せざるを得ず・・・引き上げるより他に方法はありませんでした。」
「・・・戦略目標を達成する事は出来なかったか。これでは日本軍の負けと見られても仕方ないな。」
「・・・そうですね。いくら敵艦を沈めても日本側の目的はあくまで飛行場砲撃であり輸送支援ですから。
今回の戦いはアメリカ軍が身を挺して日本軍の進撃を止めたと言ったところでしょう。」
「今回は珍しく早く説明が終わったわね。なんだかんだ言っても急げば何とかなるものね。」
「次は第三次ソロモン海戦の後半戦です。」
「え、まだ説明があんの?」
「・・・当然です。第三ソロモン海戦の1日目が終わっただけですから。
続いて第2日、11月13日の戦闘について簡単に説明します。この日は主にアメリカ軍の航空部隊がメインとなった戦いでした。」
「あれ?アメリカ軍って飛行機無くなってたんじゃなかったっけ?」
「それは機動部隊の・・・空母の話だろう。日が昇ればヘンダーソン飛行場の部隊が有効に使えるだろうからな。」
「・・・いえ、この日の攻撃にはアメリカ軍の空母エンタープライズの艦載機も加わっていたそうです。
修理中の空母を引っ張り出す辺り・・・ハルゼー中将の性格が伺えます。」
「ん〜、さすがは直情型だな。」
「誰かさんに似てるね。」
「アメリカ軍の航空部隊は前日深夜に傷付いていた戦艦比叡を攻撃、日本側に復旧を断念させました。
また、13日の深夜にガ島を砲撃した日本軍の重巡を追撃。早朝に重巡衣笠を撃沈しています。」
「あれ?ガ島砲撃って・・・成功してんの?」
「重巡鈴谷・摩耶による砲撃です。
アメリカ軍の虚を突くことで成功はしたものの、重巡洋艦の20cm主砲弾では効果はありませんでした。」
「やっぱり戦艦じゃないと駄目って事か。」
「・・・そうです。効果が無かった事を示すように
翌14日にはショートランド基地から出発した日本軍の輸送船団に対し、アメリカ軍が航空機による反復攻撃を行っています。
輸送船11隻のうち6隻が沈没、1隻が損傷という大損害を被った日本軍ですが
残った4隻の輸送船を送り届ける為、再びヘンダーソン飛行場への砲撃を計画。挺身攻撃隊は第2艦隊と合流し再び編成されました。」
前進部隊
射撃隊・霧島(戦艦)
愛宕、高雄(重巡)
直衛隊・長良(軽巡)
駆逐艦・雷、五月雨、朝雲、白雲、初雪、照雪
掃討隊・川内(軽巡)
駆逐艦・浦波、敷波、綾波
「・・・陣形そのものは前回説明したものとそれほど違いはありません。ここまでで何か質問はありますか?」
「別に、何も無いわよ。」
「もう、ずっと話についていけなくなっちゃってるから・・・」
「一方のアメリカ軍ですが、一昨日の戦いにより迎撃部隊はほぼ壊滅状態でした。
そこで、ハルゼー中将はエンタープライズの護衛に就いていた
戦艦ワシントン・サウスダコタと駆逐艦4隻をヘンダーソン飛行場の防衛に向かわせたのです。」
「たった6隻だけか?いくらなんでも貧相過ぎだと思うが。」
「私に言わないで下さい。おそらく、この時期はアメリカも一杯一杯だったのでしょう。
単純な兵力差で考えるなら、やはり日本軍の方が有利です。夜戦なら航空隊による攻撃を考慮する必要はありませんからね。」
「ふ〜ん・・・。」
「14日の19:30、ガ島砲撃に向かった前進部隊は
哨戒中の水偵から敵味方不明艦発見の一報を受けました。距離はおよそ90km。
近藤中将率いる前進部隊は戦闘体制に移行。判断に間違いはありませんが、水偵からの報告に少し誤りがありました。
報告では巡洋艦×2、駆逐艦×4だったのですが、この部隊は前述の通り戦艦を有する部隊です。
この誤報により、指揮官の近藤中将は戦闘開始まで敵に戦艦はいないと思い込んでいたそうです。」
「それって情報軽視じゃないの?」
「事あるごとにその結論に結び付けないで下さい。見間違いというのはよくある話なのですから。」
「よくあってどうすんのよ!仮にも軍隊でしょ!」
「仕方ないですよ、夜なんですから。見間違いの一つや二つありますって。」
「む・・・。」
「アメリカ軍は駆逐艦4隻の後に戦艦2隻が続く単縦陣で進撃していました。
戦闘開始は21:00頃、戦艦ワシントンのレーダーが接近する日本艦隊を発見。21:17に主砲第一弾を発射しました。」
「アメリカの先制攻撃だね。」
「・・・しかし、アメリカ軍が発見攻撃したのは前進部隊の掃討隊
そして射撃隊の前路索敵に当たっていた駆逐艦3隻でした。
この内、アメリカ側が発見していたのはサヴォ島を北周り航路で索敵していた浦波、敷波の2隻のみ。
残りの綾波は南回りの航路を進んでいたので、この時点ではまだアメリカ側に発見されていなかったのです。」
「綾波さんですか?」
「・・・一応言っておきますが、私の事ではありませんよ。
結果的に単艦で挑む事になってしまった綾波ですが、そうなってしまったのなら仕方ありません。
艦長の作間中佐は駆逐艦×4、重巡×1発見の報を後方の近藤中将に伝えるとアメリカ艦隊に対し単艦で攻撃を仕掛けたのです。」
駆逐艦 吹雪
(綾波・浦波・敷波の同型艦)
「・・・確か、前日も単独で敵艦隊に突っ込んだ艦があったな。単独突撃は日本軍のお家芸なのか?」
「・・・さぁ、私に言われても困りますが。
距離を詰める綾波ですが、アメリカ艦隊もその姿を発見しました。アメリカ艦隊は確認の為に星弾を発射。
5000mの距離まで間合いを詰めた綾波もアメリカ軍の星弾発射とほぼ同時に主砲を一斉射撃、
敵駆逐艦に対し初弾を命中させました。」
「・・・・・。」
「命中弾を受けたアメリカ駆逐艦には火災が発生。
一方の綾波は続けて後続の駆逐艦に向けて再び主砲斉射、これも命中させ火災を発生させたのです。」
「日本の駆逐艦ってのは良い動きするよな。ほれ、あのミッドウェーの時だって密かに大活躍してただろ。」
「ん〜、そういえばそうだね。」
「しかし、いつまでもアメリカ軍が呆けている訳でもありません。
後方のアメリカ戦艦からの火線が綾波に集中したのです。命中弾多数を受け火災が発生
運の悪い事に魚雷発射管も損傷しその周囲で火の手が上がりました。
魚雷発射管の損傷により魚雷の海中投棄も不能・・・魚雷に火が回れば爆発、沈没は免れません。
綾波の沈没はもはや時間の問題となったのです。」
「・・・火災が発生すれば戦闘不能だろう。ここまでだな。」
「いえ、沈没までまだ時間はあります。残る2基6門の発射管を旋回させ魚雷発射。
綾波から放たれた九○式魚雷はアメリカ駆逐艦ウォーク・ベンハムを撃沈しました。
また、砲撃により火災を生じていた駆逐艦プレストンが沈没。残る駆逐艦グウインにも損傷を与えこれを退けたのです。
アメリカ軍の駆逐艦4隻を撃退した綾波ですが、損傷が激しく━━━」
「ちょっと待った!」
「何です?」
「あんた、ひいきしてるでしょ!何で駆逐艦1隻の説明がそんなに長いのよ!どう考えてもヘンでしょうが!」
「兵力差1:4で勝利を収めたのです。これくらい説明しても問題は無いかと思いますが・・・」
「そんな言い訳、信じられるわけないでしょ!」
「奮戦した綾波も火災は手の付けられない状況にまで拡大していました。
機関も破壊され完全に航行不能となってしまったのです。
作間艦長は総員退艦を下令、乗組員の多くが救助にやってきた浦波に助けられましたが
無人となった綾波は程なくして、ソロモン海にその姿を消していきました。」
「だから、何でそこまで詳しく説明してんのよ!あんた、蒼龍の時にはほんのちょっとしか話さなかったくせに!」
「おや、まだ根に持ってたんですか。執念深いですねぇ。そんなアスカさんを昼ドラの女王と呼んでさしあげましょう。」
「うるさいっ!」
「昼ドラの女王って・・・?」
「ま、気にすることはないさ。そのうち解る様になると思うぜ。」
「・・・綾波の救援に駆けつけた前衛隊や掃討隊がアメリカ軍の戦艦と砲撃をしている頃、
近藤中将の直率の射撃隊はサヴォ島の南からそのままルンガ湾に進入しようとしていました。」
「はい?戦艦ほったらかしにして飛行場の攻撃に向かうの?」
「・・・近藤中将は戦艦だと考えてはいなかったそうです。
この時点でも、敵の編成は駆逐艦×4、巡洋艦×1と思っていたそうですから。先入観とは恐ろしいものです。」
「それ、まずいんじゃねぇのか?戦艦を巡洋艦だと思い込んでるならいざ知らず・・・完璧に誤認だろ。」
「・・・そうですね。この後、その間違いが致命的な事態になるのですが・・・仕方ありません。
敵が駆逐艦や巡洋艦程度なら、味方の水雷戦隊のみで片付くと考えていたのだと思われます。
しかし、20:00頃日本軍は右方約6000mの距離に浮かび上がった艦影に探照灯を照射
と同時にアメリカの新型戦艦サウスダコタが現れたのです。」
「言わんこっちゃ無い・・・。」
「探照灯で照らすと同時に日本艦隊は砲撃を開始しました。
しかし、射撃隊の砲弾の多くが三式弾であった事が災いしました。
艦上の建造物には損傷を与えましたが艦そのものには影響が無かったのです。」
「だが、数から考えれば日本のほうが有利だろう?致命的な事があったというが・・・何かあったのか?」
「・・・日本側が、敵巡洋艦を1隻だと思い込んでいた事が全ての原因です。
この時点で日本軍はサウスダコタしか確認していませんでした。日本軍にその存在を悟られていなかった戦艦ワシントンは霧島めがけ射撃開始。
霧島には40cm主砲弾が9発以上命中、火災発生に加えて後部砲塔の損壊。電信室は全滅し舵も故障・・・
手の施しようの無くなった霧島は翌日01:25に沈没してしまいました。」
「なんか・・・あっさり沈んじゃったね。」
「・・・ワシントンの攻撃は完全な奇襲になってしまいました。
また、レーダー射撃に精通していたリー少将の存在も一つの理由かと思われます。」
「ふ〜ん・・・。」
「だが・・・今回の作戦もここまでだろう。戦艦がやられてしまっては飛行場を砲撃するにしても力不足だからな。」
「結局、失敗か・・・。」
「大破したサウスダコタも動力に異常は無く、戦線を離脱。また、ワシントンも日本軍の追撃を振り切って離脱しています。」
「これは・・・どっちの勝ち?」
「第三次ソロモン海戦14日分の両軍の損害は次の通りです。」
日本軍
戦艦・霧島(沈没)
駆逐艦・綾波(沈没)
アメリカ軍
戦艦・サウスダコタ(大破)
駆逐艦・ウォーク(沈没)
駆逐艦・ベンハム(沈没)
駆逐艦・プレストン(沈没)
駆逐艦・グウイン(大破)
「・・・日本の勝ちの様に思えるが。」
「前日と一緒です。アメリカ軍は身を挺して日本軍を止めたのです。」
「まぁ・・・そうなるわよね。結局、日本軍はなんたら飛行場を攻撃できなくなっちゃったんだから。」
「ヘンダーソン飛行場砲撃の目的は輸送船を無事ガダルカナル島まで送る事でもありました。
ガ島に向かっていた輸送船4隻は一応、14日の深夜に目的地に到着する事は出来ています。」
「あれ、ちゃんと辿りつけたんだ。」
「しかし、早朝からヘンダーソン飛行場のアメリカ軍機からの銃爆撃を受け輸送船は全滅。
揚陸した弾薬や食料などの補給物資のほとんどが焼き払われてしまったのです。」
「って事は・・・」
「作戦失敗です。今回の日本軍による陸軍支援も失敗に終わったのです。」
「どーすんのよ。何度も失敗しちゃって。」
「・・・どうしようもありません。海軍としても手を抜いている訳はないのですから。」
「だが、そんな悠長な事を言っている余裕もあるまい。ガ島とやらに残る将兵達の命が懸かっているのだぞ?」
「・・・・・。」
「・・・何だ?」
「え〜、だってマシュマー様がそういう事言うのって似合わないんだもん。
いつも通り薔薇をくわえながらハマーン様ハマーン様って言ってるほうがマシュマー様っぽいんだけど。」
「私は救いを求める哀れな子羊です。どうかこの子羊に知恵と勇気をお与え下さい。ハマーン様ハマーン様・・・」
「黙れ!」
「今回の一件で輸送艦による大規模輸送が事実上困難である事が露呈されてしまいました。そこで・・・」
「我が方は危ないのか?」
「いえ、戦いはまだまだ続くのです。ここで消耗しきってはティターンズの二の舞になりましょう。」
「話に脈絡の無い脱線は止めんか!」
「なら、脈絡があればいいの?」
「四の五の抜かすな!何度も何度も話のコシを折るんじゃない!」
「え〜ん・・・、マシュマー様が怒った〜。」
「嘘泣きも無駄だ。何度同じ事を繰り返せば気が済むというのだ。」
「これで終わりにするか、続けるか!マシュマー!」
「だから、ハマーン様の真似は止めろと・・・」
「んで、輸送艦が何だって?」
「・・・今は止めておきます。次の海戦の説明の時に話せば良いだけですから。」
「プルもひし形も、いい加減にしなさいって。話が進むどころか完全に止まっちゃってるじゃない。」
「え〜、だっていつもいつも真面目じゃ飽きちゃうじゃん。たまには息抜きしないとね。」
「そうですよ。我が同志エルピー・プルは、皆さんに心の平安を与えてくださっているのですよ。
感謝こそすれ・・・非難などもってのほかです。」
「あんたもヘンな狂信者みたいな事言ってんじゃないわよ。あんたがそういう態度とってるから・・・」
「狂信者はそちらの方です。熱烈なハマーン様教の信者様ですから。」
「誰がだ!」
「そういや、今回の海戦のまとめでもしといた方が良いんじゃないか?一応な。」
「・・・そうですね。今回の第三次ソロモン海戦によって
日本軍の陸軍は総攻撃どころか陣地を確保する事すら困難になってしまいました。」
「困難って・・・そんなに酷かったの?」
「以前も少し話しましたが、ガ島の別称飢島が全てを物語っています。
1日にほんの少しの粥と耳掻き一杯ほどの味噌が摂れれば良い方で、絶食数日の部隊も珍しくは無かったそうです。
食料だけではなく、連絡に必要な紙すら無くなり、タバコの包装紙の裏に命令を書き記したなど・・・とにかく悲惨な状況だったのです。」
「紙がなけりゃ携帯使えば良いんじゃない?」
「それなんてマリー・アントワネット?」
「携帯なんて・・・んなモン無いわよ。」
「少し先の話になりますが、約1ヵ月半後の御前会議によってガ島からの撤退が決定されました。
第三次ソロモン海戦が失敗した事によって輸送作戦も失敗・・・
結果的に見れば第三次ソロモン海戦の結果が、大本営にガ島からの撤退を決断させたとも言えます。
・・・そう言った意味では第三次ソロモン海戦で日本は負けたという事になりますね。」
「それもそうだな。いくら敵艦を沈めても結果的に目的を果たせなきゃ意味がないもんな。」
「・・・いえ、意味はあります。
輸送任務が成功しなかったと言ってもアメリカ海軍の力を多少なりとも削いでいる事に違いはありません。・・・そう考えましょう。」
「・・・そうね。」
「で、次は何なんだ?」
「次は、ルンガ沖夜戦になります。」