マリアナ沖海戦 後

 

 

 

 

「・・・昭和19年6月15日、アメリカ軍はサイパン島への上陸作戦を開始しました。
昭和19年・・・1944年6月と言えば欧州方面でも大きな変動が起きた年であると言えますね。」

「何かあったのか?」

「・・・Dデイと呼ばれる、連合軍によるノルマンディー上陸作戦が決行された月です。
東部戦線で劣勢に追い込まれたドイツ軍は西部フランスにおいても連合軍の上陸を許してしまっているのです。」

「ふ〜ん、何がなんだかよく分からないけど・・・」

「この年の6月は枢軸国にとって一段と分が悪くなった月だと覚えておいて下さい。詳しい話は本家でお願いします・・・。」

「ノルマンディーと言うと、アメリカ軍の1小隊が行方不明になった二等兵を捜索してるころですかねぇ。」

アパム!弾持ってこい、アパ〜ム!

「・・・映画ネタはいいから。」

「・・・考えてみると、ノルマンディー上陸作戦から一年近くはドイツも持ちこたえているんですよね。
ドイツの奮戦があったからこそ、現在の日本があると言っても過言は無いでしょう。」

「何で話がそっちの方向に進むのよ。」

「ドイツが早々に降伏してしまったら次に標的になるのは日本です。
ただでさえ一杯一杯なのに・・・これ以上敵が増えたら本当にお手上げです。まぁ、細かい話については後ほど・・・」

「つーか、今の時点でもお手上げじゃないのか?」

「・・・そうでもありません。日本軍にはまだ起死回生の希望はあります。
その為の第一機動艦隊でありアウトレンジ戦術なのです。」

「どーだか。大見栄切って紹介してた第一航空なんたらなんて、何もせずに壊滅しちゃってたじゃん。」

「・・・それは、そうですが。」

「しかし、1600もの航空機が決戦前に壊滅とは・・・」

「決戦前に壊滅と言うよりは、準備が整ったからアメリカ軍が上陸を開始したと言った方が正確ですね。
作戦そのものは3月に決定されていましたが、
上陸作戦を行うにあたって邪魔となる障害は出来るだけ取り除いておくのが賢明ですから。
一方の第一航空艦隊は19日の時点でグアムに50機程度の航空機しか集められなかったそうです。本当に壊滅してしまいました。」

「ねぇ、日本に本当にチャンスってあるのかな?」

「確かに、話だけ聞いてりゃもうダメっぽいけどな。」

「日本軍もうダメポ_| ̄|○」

「・・・人聞きの悪い事を言わないで下さい。諦めたらそこで終わりなのですよ。」

「どっかの漫画じゃないんだから・・・諦めなくても、もうダメに決まってるでしょうが。」

「・・・海軍乙事件の影響もあり、基地航空部隊は位置を特定されてしまっています。
ですが、機動部隊ならば行動をある程度秘匿する事が可能です。
それが最大の利点であり、日本軍にとって唯一無二の勝機と言えるでしょう。」

「で、何度か出てるけどアウトレンジ戦法って何なの?」

「アスカさん!あなたは何を聞いているんですか!
日本軍機の足の長さを生かした作戦だと綾波さんが再三に亘って説明しているじゃありませんか!」

「うるさいわね!詳しい説明は全然してないじゃない!」

「・・・確かに。」

「そこまでエラそーな事言うんだったら、ひし形!あんたが説明してみなさいよ!」

「え、何で私なんです?」

「また話が変な方向に・・・」

「あんた、まさか知らないなんて言わないわよね?
人を散々コケにしといて・・・知らなかったらどうなるかは分かってるでしょうね。」

「然り。わたしはすぐに征く」

「オブイェークト♪」

「ひし形!現実逃避すんじゃないわよ!」

「T-72とチハは完成された!」

∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃーい♪

「・・・・・。」

「・・・また妙なネタを引っ張ってきたか。」

「何を言うんですか!神はチハの上にチハを作らず!チハの下にチハを作らずなんですよ!」

「∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃい♪」

「・・・もういい。」

「・・・とりあえず、節操無しにネタを混ぜるの止めた方が良くないか?」

「何の話なのかよく分からないけど・・・」

「・・・陸軍の事は私もよく分かりません。」

「あんたの知識ってそーとー偏ってるものね。」

「・・・海軍の方に興味があるので。これは好みの問題ですからあまり気になさらないで下さい。」

「ってぇと・・・、お前さんも海軍善玉とか思ってるクチか?」

「・・・前にも少し話しましたが、単純な二元論で語るのはあまり良い傾向とは思えません。
陸軍であろうと海軍であろうと多くの方々は日本を守ろうとして戦い、亡くなられていったのです。」

「だからって全てが許されるわけじゃないでしょ?インパール作戦の何とか言う司令官なんてボロクソに言われてるわよ。」

陸軍については詳しくないので、軽々しい事は言えません。」

「知らないんなら少しくらい調べなさいよ!だから説明が適当なんて言われんのよ!」

「そう言ってるのって、アスカさんくらいなんじゃないですか?」

「テキトーって言うより、説明が長い気がするけど・・・」

「そういうのを無駄に長いって言うの。説明ってのは起承転結が基本でしょうが。
ファーストの説明にはまとまりが無いのよ、まとまりが。」

「・・・それについては、出来るだけ善処するという方針で進めます。ところで、話を戻してもよろしいですか?」

「戻すって?」

「マリアナ沖海戦の話にです。また、忘れられても困るので・・・。」

「つーか、インパール作戦はどこにいったのよ?」

「・・・インパール作戦は私が提示した題材ではありませんが。」

「むしろ、説明責任はアスカさんの方にあるんじゃないですか?」

「だから言ってるでしょうが、日本軍の中に無能な人間はいるって。
ファーストの日本軍擁護が酷すぎるから、適当な例を持ってきただけよ。」

「適当になんて・・・本当にいい加減なんですねぇ。」

「私が言った適当ってのは、適切って意味の方よ!」

「ところで、そのインパール作戦とはどういったものだったのだ?」

「帝国陸軍によるインド方面への侵攻作戦です。内容をざっと見ましたが・・・無謀な作戦だったとしか言えませんね。」

「え、いつも通り擁護すんじゃないの?」

「・・・どこをどう擁護すれば良いのですか?
一般的な知識ですが、敵地への侵攻作戦で最も重要なのは補給路の確立です。
少々かじった程度の知識しかありませんが、作戦立案の時点から補給を軽視している以上どうにもなりません。
補給を考慮しないのであれば、体勢を整える前に一気に叩く電撃戦くらいしか方法はありません。

劣勢に追い込まれた前線の報告を受けたにも関わらず、牟田口中将は撤退すら認めなかったとか・・・。
しかも、自分だけ早々に後方に逃れているなんて・・・これでは、後世から酷評を受けるのも仕方の無い話でしょうね。」

「フフッ、ようやく認めたわね。日本軍が無謀な軍隊だったって。」

「そういう流れに話は繋がりません。一部を見て、それが全てだと思考停止するのは愚者のする事です。」

「愚者愚者〜♪」

「るさい!」

「まぁ、陸軍の説明は気が向いたら話すという事にして・・・次に移りたいと思います。」

「興味ある事以外は、やけにあっさりしてんのね。」

「・・・長引きますよ?」

「長引くって何が?」

「説明が・・・だろ。何を話すつもりなのかは知らんが。」

「止めておいたほうがいいぞ。脱線を続ければマリアナ沖海戦の話を一からやり直す羽目になる。」

「それはそれで愉快な出来事ですけどね。」

「愉快じゃないわよ!」

「では、異論は無いという事で次に移りたいと思います。」

「何の話の途中だったんだっけ?」

「アウトレンジ戦術とやらだ。」

「・・・これまでも何度か話に出ていますが、日本軍機の長所は航続距離の長さにあります。
また、航空機の航続距離が長いという事は偵察範囲も長くなるという事になります。」

「よく分からないんだけど。」

「では、こちらの図をご覧下さい。」

 

「青が日本、赤がアメリカ軍になっています。円で示した範囲は双方の索敵範囲、中心部は空母と思ってください。」

「エヘへ、やっぱり分からないんだけど。」

「・・・いつもの事だが、少し考えてみろ。双方が近付いていったらどうなる?」

「どうなるんですか?」

「アメリカ軍空母の索敵範囲が日本の空母を捉えるより先に、
日本軍空母がアメリカ軍を捉える事が出来るという事だ。・・・分かったか?」

「さっぱり分かりません♪」

「∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃーい♪」

「ええ〜い!人が分かりやすく説明してやったというのに・・・なんだ貴様らは!

「だって〜、分からないんだもん。」

「・・・だからってチハは関係ないでしょ、チハは。」

「ならば、こうすれば良いか?」

 

「あれ?なんかさっきと変わってるね。」

「さすがに、この図なら分かるとは思うが・・・どうだ?」

「ん〜、なんとなく?」

「・・・図を見れば一目瞭然ですが、双方の索敵範囲においてアメリカより先に日本が敵空母を捉える事が出来ます。
マシュマーさんの言うとおり、この状況を最大限に活用さえ出来ればかなり優位に立つ事が可能なのです。」

「そうなのかな?でも、アメリカ軍もこっちに近寄ってきたら見つかっちゃうじゃん。」

「敵の艦隊運動さえ掴めていれば問題はありません。
回避するなりなんなり・・・とりあえず、付かず離れずの距離を保ちさえすれば良いのですから。」

「そんなものなんですかねぇ。」

「日本の索敵範囲広いとか言ってるけど・・・アメリカ軍のレーダーはどうすんのよ?」

「私に言われても困りますが・・・」

「困る困らないの問題じゃ無いっての!
先にアメリカ軍を発見出来たって、近寄れなきゃしょうがないでしょうが!前に出撃した時だって散々だったじゃない!」

「前って・・・いつの話だ?」

「ろ号作戦の時に行われたブーゲンビル島沖での戦いだろう。」

「それってどんな戦いなんだっけ?」

「私に聞いているのか?」

「うん。」

「少しは思い出せ。
レーダーを生かした迎撃システムやVT信管により、日本軍の攻撃隊がアメリカ軍空母に対し手も足も出なかった戦いだ。」

「あん時だってダメだったんだから、今回だってうまくいく訳無いっての。」

「前回とは状況が違います。」

「あんたは何度同じ事を言えば気が済むのよ!状況が違うどころか同じじゃない!」

「いや、むしろ前回と比べるとパイロットの質も今回のほうが不利なんじゃないですか?」

「あんた・・・そんなまともな意見言えたんだっけ?」

酷っ!私だってアスカさんのお力になりたいと思って日々精進しているんですよ!」

「・・・どの口で言うのよ。」

(・・・どこに口があるのかしら?)

「∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃイェークト」

「・・・無闇に混ぜるな。」

「・・・前回のブーゲンビル島沖海戦との相違点を挙げてみましょうか。」

 

ブーゲンビル島沖海戦
基地航空隊(日)
VS機動部隊(米)

マリアナ沖海戦
機動部隊(日)
VS機動部隊(米)

 

「何が違うの?」

「ブーゲンビル島沖海戦での日本軍航空隊の拠点は陸上基地だった。ここまではいいか?」

「まぁ・・・なんとなく。」

「だが、今回は日本軍も空母を持ち出してきている。
航空機の数や質の差はあるだろうが、これで日本軍も母艦搭載機の長所を行かせるという事だ。」

「何が言いたいのか分からないでつ。」

「・・・前回のブーゲンビル島沖での戦いでは、アメリカ軍の空襲を受けた後に日本軍が空母を追撃すると言う形になりました。
追撃戦といえば聞こえは良いですが、アメリカ軍側から見ても日本軍機が襲来するおおよその方角は特定出来ます。
戦闘機を上空警戒に上げておくにしても、敵拠点の方角さえ分かっていれば大分楽になるのです。

しかし、機動部隊が相手となれば、どこから攻撃されるのかまるで分からないというのが当時の状況です。
日本軍は言うに及ばず、レーダー開発に先んじていたアメリカ軍と言えど例外ではありません。」

「なんでそういう話になんのよ。レーダーに対する何の解決にもなってないじゃん。」

「・・・解決?当時の日本軍にどうしろと?

「逆ギレすんじゃないわよ!
あんたがアウトレンジ戦術なんて、さも優れた方法みたいに話してるから疑問を指摘しただけじゃない!」

「敵レーダーに対する方法はこれと言ってありません。
大戦後半になれば欺瞞紙と呼ばれるものも出てくるのですが・・・マリアナ沖海戦で使われた形跡はありませんからね。」

「欺瞞紙って?」

「敵レーダー波を混乱させる為に作り出された一種の兵器です。
日本軍の欺瞞紙は錫箔に模造紙を貼り付けた物だったそうで・・・」

「もう、理解不能でつ。」

「おそらく、我々の時代で言うミノフスキー粒子だろうな。」

「・・・原始的なチャフとも言えますね。」

「で、レーダーの対策は結局何も無いわけ?」

「そうですね。」

「そうですね、じゃないわよ!敵に近寄れなきゃどーしようもないじゃない!」

「仰る事はもっともですが・・・対策の立てようもないのが当時の現状です。」

「だそうだ・・・。」

「根本的な問題も解決されてない分際で、アウトレンジ戦術が優れてるなんて言うんじゃ無いわよ。
そういうのは、ちゃんと万全の対策を立ててから言うもんでしょうが。」

「そりゃそーなんだろうが・・・」

「完全に準備を終えるころには、日本はすでに降伏しているでしょうね。
あるいは、戦う前に空襲によって機動部隊壊滅か・・・どちらにしろ賢明な選択ではありません。」

「ちょっと待ちなさいよ!対策も無しに攻撃に向かわせるなんて無謀もいいところじゃない!」

「・・・昭和19年6月の時点で執りえる最善の選択がアウトレンジ戦だったのです。
準備にさらに時間をかければサイパン島は陥落・・・必然的に、内地がB-29爆撃機の脅威にさらされることになります。
一度陥落してしまえば奪回はほぼ不可能・・・確実性を増やす為の準備などと言って時間を費やす訳にはいきません。」

「む・・・。」

「(・∀・)ニヤニヤ」

「あんたムカつく!」

「ねぇ、B-29って何?」

「アメリカ軍の開発した最新の長距離爆撃機です。後々説明する予定なので詳しい話は省略します。
一方のアメリカ軍ですが、大兵力を有しているとは言え、サイパン島攻略がそれほど楽な作戦だという認識は無かったそうです。」

「そうなのか?物量の差で圧勝って気がするが。」

「・・・海軍乙事件で手の内を知られているとは言え、完全ではありません。
また、基地航空部隊の第一航空戦隊を叩いたと言っても、実際に兵を上陸させて飛行場を制圧しなければ完璧とは言えません。
つまりサイパン攻略時のアメリカ軍機動部隊は
サイパン島の攻略支援と日本機動部隊への警戒というの2つの仕事をこなさなければならなかったのです。」

「ふむ・・・、まるでミッドウェーでの日本軍の様だな。」

「・・・そうですね。違いがあるとすれば双方の技術格差くらいのものでしょう。」

「でも、アメリカ軍なら空母とかもたくさんあるんでしょ?テキトーに何隻かの空母を迎撃に向かわせれば問題無いんじゃない?」

「おお!同志エルピー・プル、ナイスな状況判断です!」

「・・・兵力の分散は各個撃破の可能性が出てくるぞ。」

「ひっど〜い!あたし、一生懸命考えたのに〜!」

「鬼!悪魔!子羊ちゃん!」

「・・・問題点を指摘する事の何がおかしい?
あらゆる可能性を考慮するのが指揮官の責務、部下の判断ミスを未然に防ぐ事も重要なのだ。」

「え〜ん、マシュマー様がいじめた〜!」

「マシュマーさん!女の子を泣かせるなんてサイテーですよ!」

「・・・プル、嘘泣きは止めろと言ったはずだ。」

「な〜んだ、やっぱりバレてたんだ。」

「ざ〜んねん。」

「前にも言ったはずだが、どんな内容であれ考えるのは良い事だ。今回の発言とて、決して的外れな意見では無いからな。」

「そうなの?」

「・・・艦隊の分離は各個撃破の可能性もありますが、逆に考えれば分離した戦力で敵を一定時間抑える事も可能なのです。
兵力の分離も間違った意見ではありません。」

「なら、良いんじゃん。」

「・・・兵力を分離させるにあたって問題となってくるのが日本機動部隊の正確な位置です。
西方から日本軍がやってくる事は分かっていましたが、その程度の情報では不十分です。海というのは迂回も十分可能ですからね。」

「そんなものなんですか?」

「・・・海は広いですからね。
また、分離させた艦隊も敵を見つける事が出来なければ、遊軍化してしまう可能性すら出てきてしまいます。」

「遊軍化?」

「・・・待機している軍隊の事だ。一言で言うなら、何もしていない軍隊と言ったところか。」

「ファースト、あんた自分に都合のいい説明してない?」

「何がですか?」

「アメリカのやる事には難癖つけてばっかなのに、
日本軍の時には理由があった仕方が無か(ryとか擁護しまくってるじゃん。あんたは、どうしてそう偏ってんのよ?」

「アメリカの擁護はアスカさんがしてますから、バランス取れて良いんじゃないですか?」

「まぁ、確かに。」

「一理あるな。」

「無いっての!」

「・・・昭和19年6月18日、
第58任務部隊の指揮官ミッチャー中将はスプルーアンス大将に日本軍機動部隊迎撃の為の西進を進言しました。
行方の知れない日本機動部隊は、アメリカ軍にとっても十分脅威だったからです。」

「ちょっと!無視すんじゃないわよ!」

「しかし、スプルーアンス大将は、ミッチャー中将の意見を聞き入れず、マリアナ沖で友軍の上陸支援を続ける事にしたのです。」

「え、なんで?」

「ま、待ち戦法ってのも割と使えるからな。」

「・・・日本軍の動きが掴めない状況で無闇に動き回るのは危険です。
仮にアメリカ軍が西進したとして、日本軍がアメリカ軍の機動部隊に向かってくる保障は無いのですから。」

「よく分からないんだけど・・・」

「・・・アメリカ軍はサイパン島攻略の為に大勢の陸兵を上陸させています。
もし、迎撃に向かった隙を突かれ、上陸部隊が日本機動部隊に攻撃されたりしたらどうします?」

「どうしますと言われても・・・」

「・・・スプルーアンス大将は、その行動から堅実的な人物と考えられます。
また、ミッドウェーで南雲機動部隊に大打撃を与える事にも成功しているので日本での彼の評価も高いようです。」

「で、あんたはどう思ってんのよ?」

「あ、復活してますね。」

「何が復活よ!私は最初から何ともなってないわよ!」

「だって、さっき完全にスルーされてたじゃないですか。てっきり orz になってるのかと思ってたんですが・・・。」

「そんなしおらしいワケないだろ、この嬢ちゃんは。」

「確かにな。」

「何、納得してんのよ!」

「・・・私はスプルーアンス大将を普通の提督だと思っていますけどね。
もっとも、ある人物に対する評価など人それぞれですから、あまり参考にはならないと思いますが。」

「いいからちゃんと答えなさいよ。そんな抽象的な表現じゃなくてさ。」

「何故そこまでこだわるのだ?」

「綾波さんがボロ出すのを待っているんでしょう。姑息な人でつ、ハイ。」

「るさい!」

「・・・あくまで個人的な意見を言わせてもらうのなら
私の中でのスプルーアンス大将は南雲中将と同じくらいと言ったでしょうか。
よく言われるほど持ち上げる人物では無いと思うのですが・・・。」

「なんでそういう話になんのよ?南雲なんとかいう人とじゃ世間一般で評価が全然違うじゃない。」

「南雲中将とスプルーアンス大将、2人の評価の違いは勝ったか負けたかの点に集約されます。
もし、南雲中将がインド方面の作戦を終えたあたりで機動部隊指揮官から退いていたなら、彼の評価はかなり高かったでしょうから。」

「そりゃそーだろ。その後でミッドウェーで負けてんだからな。」

「・・・極論を言わせてもらえば、スプルーアンス大将の評価が高いのはアメリカの指揮官だからです。
同じ様な指揮を日本軍で執ったら・・・即左遷か予備役編入が妥当かと思われます。」

「あんた、アメリカ嫌いだからってそこまで言う?」

「・・・私はアメリカ嫌いではありませんよ。」

「どこがよ!スプルーアンスって人の評価が南雲なんたらと同じなんて聞いた事が無いわ!」

「・・・あくまで個人的な意見と言ったはずですが。それに私はアメリカ嫌いではありません。
強いて言うならアメリカ至上主義が嫌いと言ったところでしょうか。
たまに見かけるんです。アメリカの合理性は素晴らしく、当時の日本軍は発想の柔軟性が欠けていた・・・という意見を。」

「何かおかしいのか?」

「・・・別におかしくはありませんよ。アメリカの合理的な思考は見習うべきところが多いと思われます。」

「よく分からないけど、アメリカの方が良かったんならそれで良いんじゃないの?」

「・・・アメリカ軍の合理性が優れている事と、日本軍の思想の硬直性は別問題です。
それに、日本軍はよく言われるほど思考が硬直していたとは思えません。」

「で、あんたはいつも通り日本軍擁護するわけよね。」

「・・・話が進まないのでそのあたりは省略します。」

「・・・省略するんかい。」

「スプルーアンス大将についてはまた後ほど・・・さて、本題に話を戻します。」

「何の話してたんだっけ?」

「・・・6月18日、アメリカ軍がいまだに日本軍の行方をつかめていなかった頃の話です。」

「そういえば、その頃日本軍って何してたの?」

「説明の順序がメチャクチャだもの。そりゃ忘れちゃうわよね。」

「・・・アメリカ軍が日本機動部隊の行方が掴めず焦燥を深めていた頃
日本軍機動部隊はすでにアメリカ軍機動部隊を発見していました。6月18日15:00頃の事です。」

「え?もう見つけちゃってんの?」

「・・・小沢中将閣下はミッドウェーでの敗戦を踏まえ、敗北原因の一つとなった一段索敵を改め、
より確実性を増した三段索敵を用いていたのです。
入念な索敵の甲斐もあり、日本軍が一方的にアメリカ軍を捉える事に成功していました。」

「・・・それは良い材料だ。何かと不安要素の多い日本軍にとっては尚更な。」

「そんなものなんでしたっけ?」

「そういうものだ。アメリカ軍と言えど、数百kmも離れた敵を見つけるには索敵を行う以外にはないからな。」

「・・・この時点で攻撃すれば完全な奇襲となりえたでしょう。しかし、小沢中将閣下は出撃を命じる事はしませんでした。」

「なんでまた?」

「どーせ、今の出撃は確実性が無いとか言ってチャンスを逃したんじゃないの?」

「人聞きの悪い事は言わないで下さい。
出撃命令を下さなかった理由は帰還する航空隊の収容が夜間になることが推測されたからに他なりません。
これは、練度の低い搭乗員に対する配慮とも言えます。」

「配慮って・・・それでもし、アメリカ軍に先に攻撃されたらどうすんのよ?」

「・・・付かず離れずの距離さえ維持していれば問題はありません。
それに、無理をして出撃させて貴重な搭乗員や航空機を失う愚は避けるのが当然でしょう。」

「それが裏目に出なきゃいいけど。」

「・・・それについてはまた後ほど。ここで覚えておいて頂きたいのは、
小沢中将閣下が攻撃隊の帰還が夜間になる事を考慮して攻撃隊を発進させなかった事です。
これは日米の良い比較になると思うので、是非とも覚えておいて下さい。」

「それほど重要な事なのか?」

「・・・さほど重要ではありません。興味深い事だとは思いますが。」

「それって覚えておいた方がいいの?」

「・・・出来るだけ。後々の話が繋がらなくなるので。」

「それじゃ、覚えておくとしましょうか。」

「そ〜だね。」

「あんたら、いちいち断り入れなきゃ覚えないんかい。」

「人の記憶の容量には限界があるのです。余計な知識に費やす脳細胞は無駄だと言えませんか?」

「うんうん。」

「つーか、しょーもない知識ばっか溜めてんのはあんたらでしょうが。」

「オブイェークト♪」

「∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃーい♪」

「・・・・・。」

「・・・話を続けますよ?昭和19年6月18日までの経過は以上です。
次は、マリアナ沖海戦の行われた19日の説明になります。」

「いよいよ決戦か。」

「・・・この日の夜明け前、第一機動艦隊から43機の偵察機が発進しました。目標はやはり敵機動部隊です。」

「あれ?敵って昨日見つけてたんじゃないの?」

「・・・敵がずっと同じ海域にいるとは限りません。攻撃の確実性を増す為にも索敵は必要です。」

「ミッドウェーの時もこのくらいやってれば勝てたでしょうにね〜。」

「・・・敗北の教訓を生かしたからこその三段索敵です。
失敗する前に失敗を予見するなど、並の人間に出来る芸当ではありません。」

「ニュータイプとかならピキーンって閃きそうだけどね。」

「その割には失敗も多いけどな。
ほれ、アムロ大尉とかクワトロ大尉とか・・・何でもかんでも完璧ってワケじゃ無いみたいだしな。」

「フ、完璧なニュータイプと言えば、やはりハマーン様以外にはありえんな。」

「また、ハマーン様ですか?」

「そうだ、考えてもみろ。指揮能力や戦闘能力、果ては政務に至るまで・・・全て非の打ち所が無いではないか。」

「その割にはグレミーに反乱起こされちゃってるよね。」

「ええ〜い、うるさい!それはハマーン様の能力とは何の関係も無いだろう!」

「いや、十分関係ある気がするが・・・」

「とにかくだ、ハマーン様を超えるニュータイプなど存在しない事が分かればそれで良い。」

「確かに、あのオカッパ頭の大きさには誰もかないませんけどねぇ。」

どんな着眼点だ!貴様、ハマーン様を愚弄する気か!」

「でも、ハマーン様って髪を下ろしてると凄くフツーなんだよね。別にオカッパ頭にしてなくても良い様な気がするけど。」

「ハマーン様が髪を下ろされていただと?そんな事があったのか?」

「うん・・・あれ?もしかしてマシュマー様、知らなかったの?」

「・・・知らん。ハマーン様は生来あの髪型なのかと思っていたが。」

「んなワケないでしょうが。どこぞの戦闘民族じゃあるまいし。」

「話が進まないので脱線は程ほどに・・・」

「すまん・・・。」

脱線賛歌は勇気の賛歌!脱線の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!

脱線賛歌!!

「あんたら、何をワケの分からんことを・・・」

「脱線する・・・そんな言葉は使う必要がねーんだ。
なぜなら、オレやオレ達の仲間はその言葉を頭の中に思い浮かべた時には実際に脱線しちまって、もうすでに終わってるからだッ!
だから使ったことがねェーッ!

「と、同志エルピー・プルの仰せであらせられますでつ。」

「・・・次に進みますよ?」

「ツッコミが冷たい・・・。」

「・・・06:23、日本軍偵察機がアメリカ軍の機動部隊・・・第58任務部隊を発見しました。
距離は前衛の第二艦隊からおよそ700km。このアメリカ軍の位置は七イと呼称されました。私たちもそれに倣い、同様に呼称します。」

 

「ま、んな事はどうでもいいけどね。」

「アメリカ軍は、まだ日本軍の位置を特定出来ていなかったのか?」

「アメリカ軍も同様に偵察機を飛ばしていましたが、日本軍機動部隊の位置を特定するには至っていません。」

「ふ〜ん、けっこう良さ気じゃん。」

「また、アメリカ軍は後方の安全を確保するためグアム島へ攻撃隊を出撃させていたのです。
これは、日本軍にとってこの上無い好機でした。」

「何でなんです?」

「ミッドウェーの日本軍を忘れたか?あの時同様・・・奇襲を加えるには絶好の機会だ。」

「・・・07:30、小沢中将閣下は前衛の第三航空戦隊に出撃を命じました。」

前衛部隊
第一次攻撃隊
零戦52型(制空)×14
零戦21型(爆装)×43
天山艦攻(雷装)×7

 

「ひさしぶりディスね、こういうの。」

「最近、説明が適当だったものね。」

「ねぇ、ちょっと思ったんだけど・・・」

「何でしょうか?」

「零戦に爆装って・・・爆弾積んでるって事?」

「そうですよ、それが何か?」

「なんで軽さが命の零戦に爆弾なんか積んでんのよ?」

「・・・爆撃が目的だからです。」

「そういう事を聞いてるんじゃないの!なんで爆撃目的なのに、ちゃんとした爆撃機を使わないのかって聞いてんのよ!」

「艦爆の数を集められなかった事が原因らしいです。空戦目的の零戦を爆装で出撃させるのは苦肉の策だったとか・・・」

「何やってんだか・・・」

「第一次攻撃隊の目的は敵空母の飛行甲板に損害を与え、空母としての能力を奪う事になります。
その為、零戦21型は緩降下爆撃を加える予定になっていました。」

「出撃させるのは良いとして・・・レーダーはどうすんの?」

「確かにな、ある程度近寄れても迎撃されちゃどうしようもないだろ?」

「・・・敵レーダーに対抗する手段として、低空飛行で接敵する方法が考えられていました。
目標まで50浬の地点までは超低空飛行で進撃し、その後高度を上げ爆撃を加えるという方法です。」

「え?そんな事してたの?」

「・・・いいえ。搭乗員の練度が不足していた事もあってか、実際の出撃時にはそういった命令は下されなかったそうです。」

「なら、ダメじゃん。」

「出来ないものは仕方ありません。また、明け方と同時に奇襲を加えるという方法も考えられていました。」

「確かに、早朝を狙うと言うのは奇襲には妥当な戦術だが・・・」

「でも、実際はやってないんでしょ?」

「・・・はい。先ほど申し上げたとおり、出撃は7時過ぎですから。」

「じゃ、何の対策もしてないって事じゃない。そんなんでどーすんのよ?」

「・・・他力本願な意見ですが、日本軍にとって幸運があったとすれば
日本軍機が出撃した後もアメリカ軍はグアム島へ攻撃を加えていた事でしょう。
攻撃隊を見送った日本軍将兵が勝てると思ったのも無理は無い話なのです。」

「そうなの?」

「なんでそれが幸運になるのか、さっぱり分からないんだけど・・・」

「・・・少々不本意ですが、ミッドウェー海戦時の南雲機動部隊を思い出してください。
昭和17年の6月、南雲機動部隊は基地へ航空攻撃を加えていました。」

「で?」

「しかし、空母が出現した事による度重なる命令変更により、甲板上は大忙しとなっていました。
それに伴う作業の遅れも敗北原因の一つと言えます。」

「確かそうでしたねぇ。」

「ほとんど忘れちゃったけどね。」

「今回のアメリカ軍の置かれた状況も似たようなものでした。
制空戦闘機や攻撃隊の収容などで甲板上が混雑していたのです。」

「混雑って・・・そんなに酷かったの?」

「・・・具体的にはどの程度かは分かりませんが、日本軍の第一次攻撃隊がレーダーに捉えられた9時頃から30分程の間、
アメリカ軍は戦闘機隊を空中に上げる事もままならなかったそうです。」

「・・・30分?レーダーもあるんだし、それくらいなら問題ないんじゃないの?」

「・・・微妙な範囲だと思います。もし、日本軍の第一次攻撃隊が順調に進撃していれば
アメリカ軍の防空体制が整う前に機動部隊上空に到達できていた可能性は否定出来ません。」

「何か妙な言い回しだな。まるで、日本軍の攻撃隊がアメリカ艦隊まで到達できなかったかのように聞こえるが。」

「・・・日本軍の第一次攻撃隊がアメリカ軍のレーダーに捕えられた頃、
当の攻撃隊は遠距離飛行によって乱れた隊形を整えようと旋回を繰り返していました。
これにより、十数分の時間を費やしてしてしまっていたのです。」

「なにやってんのよ。」

「以前、少し話したかもしれませんが長時間の飛行は搭乗員への疲労がかなり大きいのです。
練度の低い搭乗員には片道350浬の長々距離飛行は荷が重すぎたのかもしれません。」

「だったら、わざわざアウトレンジなんて方法じゃなく、普通に攻撃してればよかったんじゃないの?」

「・・・遠距離からの奇襲がアウトレンジ戦術の要です。
距離を詰め、アメリカ軍の哨戒網に引っかかってしまったのでは意味がありません。」

「そういう事を言ってるんじゃないの。出来もしない作戦を実行して何が楽しいのよ?」

「・・・アウトレンジ戦術こそが、劣勢の日本軍が勝利する唯一の方法だったのです。
正面から挑んだところで、物量さから自ずと負けは決定していますから。」

「そういう事を言ったってしょうがないでしょ!そんな絵に書いた餅みたいな夢物語を語ってたってしょうがないでしょうが!」

「・・・夢物語ではありません。第一次攻撃隊が敵機動部隊上空まで無事に到達さえ出来ていれば。
多少なりとも敵空母に損害を与える事が出来てさえいれば・・・日本軍の勝利は確定なのです。」

「で、結局日本軍の攻撃隊はどうなったんだ?」

「・・・時間を費やしてしまった第一次攻撃隊は、アメリカ軍の機動部隊から約50浬付近で戦闘機の迎撃にあってしまいました。」

「迎撃にあったって・・・日本軍はどうなっちゃったの?」

「零戦と言えど、250kg爆弾を搭載していたのでは自慢の機動性を生かす事は出来ません。
日本軍機はアメリカ軍の戦闘機に次々と撃ち落されていったのです。」

「それ有名な話よね。確か・・・」

マリアナの七面鳥撃ちでつ。」

「をい、なんでアンタがそういう事知ってんのよ?」

「人は、無駄な知識を得る事に快感を覚える奇妙な生物なんですよん♪」

「そうそう♪」

「さっきと言っている事が違う気がするが・・・」

「マリアナの七・・・なんだっけ?」

「アメリカ軍の搭乗員がそんな事を言っていたそうですよ。まるで、飛ぶのが下手な七面鳥を撃つかのような戦闘だったとか。」

「・・・・・。」

「おや?何かご不満ですか?これは至極有名な話ですよ。まさか、この話を否定したりはしませんですよねぇ、クスクス。」

「あんた、どっちの味方なのよ。」

「・・・日本軍の搭乗員の練度が低かった事は否定しません。アメリカ軍の戦闘機に容易に撃墜されてしまった事も同様です。」

「ヲホホ!ついに認めましたね?やはり日本軍は無謀な軍隊だったのです!
ちゃんと考えていれば、良い方法もあったでしょうに!」

「・・・気色悪い声出すんじゃないわよ。」

「・・・戦闘機に対し爆撃機が弱いというのは、基本的にどの国も同じです。
別に日本軍に限った話ではないのに・・・なぜ日本ばかりがこんな誹謗中傷を受けるのか理解できません。」

「フッ、負け惜しみは見苦しいでつよ?」

「・・・爆弾を抱えた非力な戦闘機が、高性能の戦闘機と互角に戦えるとでも?
戦闘機の迎撃を受ければ撃墜されるのは明白です。」

「むむむ・・・。」

「さらに付け加えるなら、何度も言うように第一次攻撃隊は奇襲が目的です。
極論を言ってしまえば、この第一次攻撃隊が苛烈な迎撃を受けるというのは想定外だったのです。」

「さ、アスカさん。出番でつよ。」

「はぁ?なにがよ?」

「綾波さんを論破する為の援護射撃は完了しましたであります!さ、後はアスカさんが「ウラ〜」と突撃するだけでつ!」

「ワケの分からない事を言うんじゃないわよ!挑発するだけして投げっぱなしなんて・・・あんたはどこぞの軍隊か!」

「どこぞの軍隊ってどこなんだろ?」

「以前、話に出た国だろう。確か・・・イタリアとか言ったか?」

「・・・話を続けますが、よろしいですか?」

「は〜い♪」

「あんた・・・。」

「多少の失敗でめげてはいけません。反復攻撃を行う事こそ重要なんですよん♪」

「はいはい・・・。」

「・・・アメリカ軍の迎撃を受け、第三航空戦隊の第一次攻撃隊は甚大な被害を受けました。
しかし、その迎撃をかいくぐり数機の攻撃機が敵空母上空まで到達したのです。」

「え?たどり着けたの?」

「・・・はい。だからこそ、前述の編隊飛行の乱れによる時間の浪費が悔やまれてなりません。
三航戦の第一次攻撃隊が敵に与えた損害は次の通りです。」


戦艦・サウスダコタ(爆弾命中×1)
重巡・ミネアポリス(至近弾×1)

「こんだけなの?」

「・・・F6F戦闘機70機程に迎撃されながらもたどり着いたのです。
アメリカ軍の防空体制を考慮するなら、これでも十分立派なものですよ。」

「ところでさ、爆弾命中ってのは分かるんだが・・・至近弾ってのは何なんだ?」

「・・・言葉の通りです。爆弾が目標に命中せず海に落ちてしまった状況を指します。」

「それハズレじゃないの?」

「・・・海に落ちることで威力が弱められるとは言え、その損傷は無視出来るものでもありません。
日本軍の空母が至近弾を受けた時、船体に無数の小さい穴が空いてしまいましたから。」

「直接、命中しなくとも侮れんという事か。」

「・・・そうですね。さて、次はアウトレンジ戦術の第二段階についての説明に移ります。」

「第二も何も・・・もう破綻してんじゃん。」

「・・・そんな事を言われても困ります。攻撃隊を発進させてしまえば、司令部にはどうしようもないのですから。」

「無線とか使えば良いじゃん。」

「日本軍の無線は信頼性が高くありません。日本軍が無線電話を活用しはじめるのはもっと後です。」

「ところで、アウトレンジ戦術の第二段階とは何だ?」

「前衛部隊の第一次攻撃隊がある程度敵空母に損害を与えているという前提が必要ですが、
艦攻・艦爆を有する多数の混成部隊で戦果をさらに確実なものとするという目的が与えられていました。
今度は奇襲ではなく強襲が目的となります。」

「奇襲と強襲の違いって・・・何だっけ?」

「前に説明したはずだが・・・奇襲は不意打ち、強襲は力押しだ。」

「強襲が目的って・・・アウトレンジって、奇襲攻撃が目的なんじゃなかったの?」

「・・・アウトレンジ戦術の要はあくまで第一次攻撃隊の先制攻撃です。
ですから、後は距離を詰めながらの反復攻撃が目的となります。続いて出撃したのは機動部隊本隊の攻撃隊です。」

 

機動部隊本隊
第一次攻撃隊
零戦52型(制空)×48
彗星艦爆(爆撃)×53
天山艦攻(雷撃)×27

「今度はそれなりの数なんだな。」

「・・・本隊からの第一次攻撃隊も七イに向けて出撃しました。しかし、途中で予期せぬトラブルに遭遇したのです。」

「トラブル?」

「途中に敵戦闘機でも居たんじゃないですか?」

「それはトラブルとは言えまい。敵の迎撃に遭うのはむしろ当然の事だ。」

「一体何があったのよ?」

「・・・機動部隊は七イに向けて進撃しています。
そして、第一次攻撃隊が七イに向かうには前衛部隊上空を通らねばなりません。」

「だから、それがどうしたってのよ?」

「・・・本隊からの攻撃隊は前衛部隊からの対空砲火を受けてしまったのです。
平たく言うなら・・・同士討ちですね。」

「同士討ちって言うと・・・味方から攻撃されちまったって事だろ?」

「・・・そうです。この味方撃ちにより、攻撃隊の編隊は大きく乱れてしまいました。
被弾により母艦へ戻る機体、運悪く落下してゆく機体・・・多々ありました。」

「肝心な時に何やってんのよ!いくらなんでもメチャクチャすぎるでしょうが!」

「・・・味方撃ちも珍しい話では無いとは言え、この時の対空砲火はあまりにもタイミングが悪すぎました。
どうにか進撃を再開しましたが、七イから70km程手前でF6F戦闘機160機あまりの迎撃を受け70機程が撃墜されてしまったそうです。」

「・・・散々な話だな。」

「話、聞いてると失敗ばかりしてんじゃん。」

「しかし、敵迎撃をどうにかかいくぐり、約20機程が敵艦隊上空へ到達出来ました。敵へ与えた損害は次の通りです。」


戦艦・インディアナ(体当たり×1)
空母・バンカーヒル(至近弾×1)

 

「これだけ?」

「攻撃隊のほとんどが敵迎撃機に落とされてしまいましたから・・・。
それにアメリカ軍には強力な対空兵器もありますし、以前説明したVT信管もあります。
敵艦隊上空に辿りつけても楽な仕事ではないのです。」

「ホントに絵に描いた餅になっちゃったわね〜。」

「・・・日本軍の悲劇はまだ続きます。機動部隊本隊が第一次攻撃隊を発進させた08:00頃まで話を戻します。」

「・・・日本にとって悪い材料がまだ出てくるのか。」

「・・・本隊から第一次攻撃隊として飛び立った彗星艦爆の内の1機が海面に激突しました。
その光景を見ていた空母大鳳の乗組員の方によると、最初はエンジン不調が原因で墜落したと思ったそうです。」

「そういえば、彗星のエンジンってあんまり調子が良く無かったのよね。」

「・・・この時はエンジン不調とは関係無いと思われます。
彗星が海面に激突した方向から4本の雷跡が向かってくるのが確認出来ました。」

「雷跡?」

「魚雷の排気が泡になる事で見える跡の事だ。
だが、その魚雷は何処からやってきたのだ?アメリカ軍の哨戒網からは大分離れているはずだが・・・」

「付近を哨戒していた潜水艦の魚雷です。第一機動艦隊はついにアメリカ軍に接敵されてしまったのです。」

「何の為のアウトレンジなんだか・・・」

「・・・日本軍の駆逐艦に搭載されていたソナーはあまり性能が良くありませんでした。
アメリカ軍に比べ、対潜哨戒能力が劣っていた事は事実です。」

「そんなんで、よくアメリカと戦ったもんだ。」

「・・・先ほどの彗星の海面への激突は、母艦を魚雷から守ろうとする自己犠牲の行動であったのではないかと推測されます。
しかし、アメリカ潜水艦アルバコアから放たれた魚雷を全て防ぐには至らず・・・4本の魚雷が新鋭空母大鳳へと向かって来たのです。
その距離から、回避はもはや不可能な状況でした。」

「回避行動任せる!後方銃座、弾幕薄いぞ!」

「何やってんの!」

「んな事、真似てどうすんのよ・・・。」

「・・・新鋭空母大鳳の左舷前方、前部エレベーター付近に魚雷が1本命中しました。
この衝撃で前部エレベーターに異常が発生。エレベーター昇降用のワイヤーが魚雷爆発の影響で滑車から外れてしまったのです。
エレベーターそのものは飛行甲板と上部格納庫の間で停止してしまい・・・復旧の見込みすら絶たれてしまいました。」

「エレベーターが壊れたらダメなの?」

「・・・飛行機の収容も発進も出来なくなるからな。それだけで空母としての戦闘力は失われてしまったに等しい。」

「・・・このままでは不都合が発生するため応急処置が施され、どうにか飛行甲板を使えるように復旧させました。
しかし、魚雷が命中した付近ではもう一つのトラブルが発生していました。
被雷した付近のガソリンタンクに亀裂が入り、ガソリンが漏れ始めたのです。
こちらでも乗組員の懸命の復旧作業によりガソリン漏れの勢いは弱められました。」

「ふ〜ん、なんかトラブルばっかだね。」

「・・・ですが、ガソリン漏れの勢いは食い止められても、気化ガスを食い止める事は出来ませんでした。
気化ガスの濃度が濃くなった事で、復旧作業を行う乗組員がガス中毒で倒れていってしまうという有様だったのです。」

「ガス中毒で倒れるって・・・何やってんのよ。」

「一応、防毒マスクは付けていたそうですが・・・それでもガス中毒になる状況です。
大鳳の艦内がどれほど危険な状況かは分かるかと思います。」

「ふと思ったんですけど、換気すれば良いんじゃないですか?」

「・・・すぐに思いつく様な事は、史実で実行されていますよ。
第一次戦闘配備が解かれた大鳳では全艦通風換気が命じられました。
艦内各所のあらゆる扉を開き出来る限り外気を取り入れる様に務め、大型排風機も使用されました。
ですが、防御第一で造られた大鳳には外気の入る場所は少なく・・・気化ガスの濃度は依然高いままだったのです。」

「何やってんだか・・・」

「ガソリンから発生した気化ガスは危険ではないのか?」

「・・・非常に危険です。
ガソリンの気化ガスは燃焼性が高く、濃度が高ければほんの少しの火花でも大爆発を起こす可能性があります。
そのため、大鳳艦内には火気厳禁・全排気装置作動が厳命されました。
それでも、ガスの濃度が下がる事は無かったのです。」

「なんか、いや〜な予感がするんだけど。」

「唯一作動する後部エレベーターも最下層まで降ろされ、通気が試みられました。
しかし、正午頃になると出撃した攻撃隊が続々と帰還。大鳳ではその都度、エレベーターを上げ下げし機体を収容しなければなりません。
4時間程が経過しましたが、大鳳内の換気は遅々として進みませんでした。

「ねぇ、ちょっといい?」

「また、イチャモンでつか?」

「うるさいわね!あんたは黙ってなさいよ!」

「それで何か?」

「大体、換気が進まない進まないって・・・
そんなに通気させたいんだったら前のエレベーターも下まで下げちゃえば良いじゃない。」


赤い部分に注目

「・・・アスカ、この図は少し違います。」

「はぁ?」

「大鳳の艦首はエンクローズドバウだから、こんな形状ではありません。それに、艦橋は煙突と一体型だからもう少し・・・」

「うるっさいわね〜!んな細かい事はどうでも良いでしょ!」

「また逆ギレですか?」

「るさい!人の話をちゃんと聞きなさいよ!」

「で、一体なんなんだ?」

「・・・さっきファーストが話してたエレベーターの故障で応急処置したってのは赤い部分。
その部分を閉じたまんまじゃ、ちゃんとした換気が出来ないと思わない?」

「そんなもんなの?」

「まぁな。換気を効率よく行うには空気の入り口と出口を空けてやるのが最良だからな。」

「アスカさんの意見の割には珍しく正鵠を射ていますねぇ。」

「珍しくは余計よ!」

「それで何か?」

「人の話をちゃんと聞きなさいって言ってるでしょうが!
あんた、換気が進まない進まないって言ってるけど・・・やれる事全部やってないじゃない!」

「前部エレベーターが下がったままでは飛行機が着艦出来ません。
それに、話を聞く限りですが大鳳のエレベーターは上がらなくなったのではなく昇降不能になったものと推察されます。
上げる事も下げる事もできないのなら、アスカの意見は最初から実行不能なのです。」

「なんでそんな事が分かるのよ?」

「大鳳のエレベータ故障は昇降用のワイヤーが滑車から外れたことが原因です。以前に話したはずですが・・・」

「もうちょっと分かりやすく・・・」

「そうですね、アスカさんの意見は絵に描いた餅という事だと思ってもらえれば差し支えは無いかと・・・」

「るさい!」

「何のことかよく分からんが・・・大鳳とやらはどうなったのだ?」

「・・・換気作業の進まない大鳳ですが、飛行機の着艦は引き続き行われました。
しかし魚雷命中から約6時間後の14:32、大鳳艦内で突然大爆発が起きたのです。」

「もしかして引火しちゃいました?」

「・・・おそらく。爆発の衝撃で重装甲の甲板が大きく変形するほどの大爆発だったそうです。
その甲板の裂け目から煙と炎が立ち上り始めたのです。」

「言わんこっちゃない・・・。」

「・・・大鳳の悲劇はまだ続きます。
爆発の衝撃で各機関へ潤滑油を送る装置が損傷してしまい、潤滑油が送れなくなってしまったのです。」

「潤滑油?」

「・・・基本的に機械と言うのは金属の集合体です。
金属と金属が触れ合うような部分には潤滑油が無ければ、焼きついてしまう可能性があるのです。」

「じゃあ・・・壊れたらダメじゃん。」

「ですが、壊れてしまったものはどうしようもありません。程なくして艦は完全に停止・・・
爆発から約2時間後の16:28、様々な期待が寄せられた新鋭空母大鳳は海中に姿を消してしまったのです。」

「沈没か・・・。」

「何やってんだか・・・、全然進歩が無いじゃないの。」

「・・・進歩はしてますよ。ミッドウェーでの教訓を踏まえた甲板の重装甲、より消火に適した泡沫式撒水装置の採用。
機関室通風口の改善や舷側防御に水槽利用防御形式が取られているなど・・・」

「んな事はどうでもいいっての!実際、魚雷1発で沈んでたんじゃ意味無いじゃない!」

「ホントに魚雷1発で沈没だからな。」

「重装甲で爆弾には耐えられますとか言っておきながら、
魚雷食らって沈没なんて・・・そんなオチ誰も期待してないわよ。」

「別にオチをつけたつもりはありませんが・・・」

「実際にそーなってるじゃない!大見栄切って長々と説明しておきながら速攻沈むなんて・・・笑えないっての!」

「別に笑いをとったつもりはありませんが・・・」

「当たり前よ!なんでそう日本軍は進歩が無いのよ!」

「・・・魚雷の命中は沈没の直接的な原因ではありません。
魚雷命中の影響でガソリンが漏れ、気化ガスが艦内に充満してしまった事。
前部エレベーターの故障も含めて・・・これは不運な出来事だったと言えます。」

「あんた、また運が悪いって・・・私は、少しくらい反省しなさいって言ってんの!」

「・・・反省はこの教訓を次に生かす事で反映されます。次に期待しましょう。」

「確かにな。沈没原因の究明と対策は必要だが、それが大鳳とやらの否定には繋がらん。」

「次に生かす機会があれば良いけどね。」

「・・・日本軍の悲劇はまだ続きます。この日、沈没した空母は大鳳だけではありません。」

「なに、まだあるの?」

「正規空母翔鶴もアメリカ軍の潜水艦カヴァラから雷撃を受けました。
大鳳が被雷した3時間後の11:20頃、魚雷3本が命中しガソリンタンクに引火
弾薬庫まで火が回り大爆発を起こして沈没してしまったのです。」

「また沈没か・・・。」

「ホントなにやってんだか・・・」

「・・・大鳳で換気作業より着艦作業が優先されたのも、翔鶴の被雷が影響していたものと思われます。
大鳳も日本軍にとっては数少ない大型空母でしたから。」

「なんか、散々だね・・・。」

「そうですね・・・。日本軍は第一次攻撃隊を発進させた後も、数度に亘り攻撃隊を発進させました。
七イに向かう攻撃隊、新たに発見された空母群に向かう攻撃隊・・・
目標は様々でしたが日本軍の攻撃隊が敵空母を沈める事はありませんでした。」

「なんか、説明が適当過ぎない?」

「・・・日本軍の攻撃隊が、なす術もなく撃ち落されていく様を説明しろと言うのですか?」

「あ〜!アスカさんったらいじめっ子〜!」

「るさい!」

「確かに日本軍機がアメリカ軍の戦闘機を撃ち落すと言う戦果もありましたが・・・全体的に見ればそれは微々たるものでした。
大局を覆すには至りません。」

「それで・・・日本軍の被害はどの程度のものだったのだ?」

「・・・6月19日の日本軍の損害は次の通りです。」


空母・大鳳(沈没)
空母・翔鶴(沈没)
航空機・315機

「正規空母2隻沈没に加えて航空機の損失が300機程か・・・。
航空機の5割以上が喪失しているのでは、もはや敗北では無いのか?」

「・・・それでも、小沢中将閣下は戦域を離れようとはしませんでした。翌日の6月20日も攻撃を続行したのです。」

「このまま続けても意味無いように思えるんだけど。」

「・・・退いても意味はありませんけどね。もはや、再建不可能なまでの大打撃を受けているのです。
このまま撤退して終わりにするか一縷の望みをかけて攻撃続行か・・・二つに一つしか無いのです。
・・・しかし、翌日になると日本軍は中々アメリカ軍を発見する事が出来なくなりました。」

「なんで?」

「・・・さぁ?おそらく索敵機不足では無いかと思いますが、詳しいことは分かりません。」

「分かりませんって、をい。」

「この日、先に敵を発見したのはアメリカ軍でした。時間は15:00頃・・・スプルーアンス大将は迷わず攻撃を指示したそうです。」

「ま、そりゃ攻撃するでしょうね。」

「・・・しかし、ここが小沢中将閣下と彼の差。また、日本とアメリカの差だと思うのです。」

「・・・どういう事だ?」

「・・・アメリカ軍の攻撃隊は日本機動部隊を捉え攻撃を加えました。
これにより、日本軍は空母飛鷹を失ってしまったのです。また、他の艦船も少なからず損傷を受けました。」

「何が問題なのよ?」

「・・・しかし、出撃時刻が遅かった為、
攻撃を終えたアメリカ軍の攻撃隊は着艦を失敗したり洋上に不時着したりしているのです。
6月18日の時点で敵を発見していながら
攻撃隊の帰投を考慮して攻撃命令を出さなかった小沢中将閣下とは大きな差があると思うのです。」

「それはあんたの主観でしょうが。それに、アメリカ軍だって不時着した飛行機をほっとくような事はしないでしょ。」

「はい。情報源が不確かなので確定ではありませんが、
スプルーアンス大将は照明弾等を駆使して搭乗員の救助に当たらせたそうです。」

「なら良いじゃん。あんたは煙の無いところに火を立てたいだけじゃないの?」

「・・・いいえ。これはアメリカ軍だから出来たことなのです。
搭乗員救助の為とは言え、夜間に大々的に照明弾を使うなど正気とは思えません。」

「なんで?」

潜水艦の格好の餌食になってしまうからです。
敵潜水艦からの攻撃を防ぐ為、艦船から漏れる明かりにすら気をつけなければならない状況で照明弾など・・・。
対潜能力が低い日本軍で同じ行動を執れば、無能呼ばわりされるのがオチかと思います。」

「あんた・・・スプルーアンスって人がそんなに嫌いなの?」

「・・・まさか。話で聞いている限りですが、堅実的なその行動は高く評価出来ると思います。」

「なら、なんでそんなに突っかかるのよ?」

「・・・戦史を参考にした文献の多くにスプルーアンス大将=有能な提督と言う評価が多かったもので。
そういった時に引き合いに出されるのが大抵、日本軍の方々なので・・・少々、不愉快に思っただけです。」

「結局、あんたの主観じゃない・・・。」

「・・・圧倒的な戦力を有しながら、不時着で70機以上の航空機を失っているのです。
そんなに持ち上げるほどの方とは思えません。」

「まぁ、人物の評価は人それぞれだからな。」

「ところで、マリアナ沖海戦はどうなったんだ?」

「・・・6月20日の一連の攻撃が終了した時点で、小沢中将閣下の手元には35機程の稼動機しか残っていませんでした。
その日の19:45、連合艦隊司令長官、豊田副武大将から戦線離脱の命令が届いたのです。
満身創痍の機動部隊は沖縄の中城湾へと引き上げていきました。
地図では進路が一直線ですが、小沢艦隊は当然回避運動を行ったり細かく針路変更をしています。
説明がくどいかもしれませんが、一応念のため。

 

「帰っちゃうの?」

「機動部隊の要は航空機だ。それが失われた今、もはや日本軍に勝機は無い。残念だが・・・撤退は妥当な判断だろう。」

「結局、何の戦果も得られなかったけどね。」

「・・・入念に立てられた作戦と言えど、運に見放されれば負けてしまいますから。」

「あんた、そんなに運のせいにしたいわけ?」

「・・・運も作用しましたが、元々勝ち目の薄い戦いだったのです。
海軍乙事件でこちらの情報は漏れてしまい、単純な兵力差でも圧倒的に不利。不本意ですが・・・成るべくして成った結果とも言えます。」

「あんた、全然反省してないわね。」

「・・・過去を悔やむ事や後知恵を語ることが反省ではありません。過去の教訓を生かす事こそが最善なのです。」

「ところで、機動部隊が引き上げて・・・サイパン島とやらはどうなるのだ?元々は、その島の救援が目的だったのだろう?」

「サイパン島ではその後も日本軍が奮戦を続けましたが・・・
7月7日の総攻撃を行った時点で、日本軍の組織的な抵抗は停止しました。サイパン島は陥落してしまったのです。
この戦いで、中部太平洋方面艦隊司令長官の南雲中将が自決されました。
そして、サイパン島だけで約4万もの将兵が戦死されてしまったのです。」

「南雲さん、死んじゃったんだ。」

「悲しい事です、シクシク。」

「ついにサイパン島が陥落か・・・。だが、ここを失っては日本軍はさらに不利になってしまうはずだが。」

「・・・サイパン島を含むマリアナ諸島の喪失は日本の絶対国防圏の崩壊を意味します。
大本営でも再上陸などが検討されましたが・・・結局は無理という事でサイパン島の奪回は断念されました。」

「諦めちゃってどうすんのよ。」

「そんな事を言われても困りますが・・・

また、マリアナ諸島の激戦は在留邦人が犠牲になった戦いでもありました。その数は決して少ないものではありません。
民間人が地上戦の犠牲となったのは沖縄が有名ですが、はるか南方でも民間人が犠牲になるという同様の出来事は起きていたのです。」

「だが、これからどうするのだ?このまま放っておいてはまずいのだろう?」

「・・・確かに。以前にも少し話しましたが、
マリアナ諸島からですと内地のほとんどがB-29の爆撃圏内に入ってしまいます。
これは憂慮すべき事態ですが・・・当時の日本軍になす術はもうありませんでした。」

「そうなのか?」

「マリアナ沖海戦は、日本軍機動部隊に再建不可能なほどの打撃を与えていました。
南太平洋海戦後の様な、時間的余裕さえあれば再建は出来ますが・・・
アメリカ軍の準備が整ってしまった昭和19年の時点では、どうしようもありません。」

「そんなに酷いの?」

「空母の損失は3隻でしたが、失われた搭乗員は400人を超えています。
ただでさえ、母艦搭乗員の練成には時間がかかるもの・・・今後、日本軍は一昔前の海軍へと退化することになってしまいました。」

「退化?」

「・・・当時の近代戦術の要は空母と航空機です。それが無くなれば、海上における戦いの主導権を握る事は出来ません。」

「でも、日本にだってまだ空母はあるんでしょ?」

「それもそうよねぇ。確か、この海戦では新鋭空母が含まれてるって言っても沈んだのは3隻だけだし。」

「何か含みのある言い方だな。」

「さすが!嫌味を言わせたら天下一品でございます!」

「うるさい!」

「日本軍も確かに空母の建造は優先して続けられています。しかし、空母に載せる機体を扱う搭乗員がいないのです。
全くいない訳ではありませんが・・・これまでの様に機動部隊を編成して戦いに赴けるほどの数を集める事は出来ません。」

「ふむ・・・、搭乗員がいなければ飛行機も役には立たんからな。」

「マリアナ沖海戦における双方の損害は次の通りです。」

日本軍
空母・大鳳(沈没)
空母・翔鶴(沈没)
空母・飛鷹(沈没)
空母・瑞鶴(小破)
空母・準鷹(小破)
空母・龍鳳(小破)
空母・千代田(小破)
戦艦・榛名(小破)
重巡・摩耶(小破)
航空機損失378機

アメリカ軍
空母・バンカーヒル(小破)
戦艦・サウスダコタ(小破)
戦艦・インディアナ(小破)
重巡・ミネアポリス(小破)
航空機損失120機

 

「散々な結果だな・・・。」

「ホントだね・・・。」

「アウトレンジ戦法が優れてるとか言っておきながら、結果はたいした事無かったじゃない。」

「・・・日本軍が執りえる戦術の中では最良の戦術でした。」

「とか何とか言って・・・他に良い方法があったんじゃないの?」

「同様の意見を戦後、小沢中将閣下本人に問いかけた方がいたそうです。
他にどんな方法があったのか?と、閣下にあっさり切り返されてしまったそうですが・・・。」

「実際にも、アスカさんに匹敵する特攻をする人がいるものなんですねぇ。」

「特攻って言うよりはむしろ自爆だろ。」

「うるさい!」

「・・・代案の無い批判は説得力がありませんからね。」

「代案ならあるでしょうが。最初からアウトレンジなんて余計な事を考えずに、普通に攻めてれば良かったのよ。」

「そうなの?」

「そうよ。ファーストだって前に言ってたじゃない。長距離飛行は疲れるって。
そんなにパイロットの腕がヘボいってんなら、なおさら長距離飛行させるなんて無謀以外のなにものでもないでしょ。」

「まぁ、言われてみれば・・・」

「その代償として、先制攻撃のチャンスが失われる可能性は高いと思われます。
強襲作戦になってしまえばその結果は史実とさほど変わりません。
そうなれば、当然のごとく批判されたでしょうね。何故勝ち目が無いのに正面から戦ったのか?と。」

「む・・・。」

「おや?また自爆ですか?」

「るさい!」

「では、マリアナ沖海戦のまとめに入ります。」

1.マリアナ沖海戦は日本の決定的な敗北。以降、空母決戦を挑む事が出来なくなった。
2.絶対国防圏の崩壊。内地がB-29爆撃機の脅威にさらされるのは時間の問題となった。
3.マリアナ諸島を失った事で、日本のシーレーンがさらに脅かされる事が考慮される。

 

「・・・ざっと上げただけでもこんな感じですね。」

「ねぇ・・・この後どうすんの?」

「・・・出来るだけ有利な条件での講和を目指す事に変わりはありません。
その為にはアメリカ軍に大打撃を与える事。望みは薄くても、それくらいしか方法は無いのです。」

「やはり、それくらいしか手は無いか。」

 

 

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