比島沖海戦 後

 

 

 

 

「・・・説明を続けます。こちらがプルさんとマシュマーさんに演じていただいた栗田艦隊の航路になります。」


 

「あんたも、何事も無かったかの様に説明してんじゃないわよ。」

「へ〜、あたし達ってこんな風に移動してたんだ〜。」

「知らなかったんかい・・・。」

「・・・台本すらほとんど読んでいなかった様だからな。仕方あるまい。」

「・・・今回のレイテ沖開戦の目的はレイテ湾に上陸したアメリカ軍上陸部隊への攻撃です。
要となる栗田艦隊が予定通りレイテ湾に到達できれば良いのですが、
レイテ突入にあたって障害となってくるのがアメリカ軍機動部隊です。」

「機動部隊機動部隊言ってるけど、どこにいんのよ?」

「こちらをご覧下さい。」

 

「なんだこれ?」

「・・・栗田艦隊の航路は以前と同じ。
地図上の赤い円で示した付近がハルゼー大将率いるアメリカ軍機動部隊の守備範囲となります。」

「・・・なるほど。栗田艦隊がレイテに向かうにはどうしても敵機動部隊をどうにかしなければならんという事か。」

「・・・その為の囮が地図の北に示した矢印、小沢機動部隊です。
内地から出撃したこの部隊がアメリカ軍を釣り上げる役目を果たします。」

「あの、私達の部隊は・・・?」

「・・・こちらです。」

 

「・・・ブルネイから出港したのが西村艦隊。台湾方面から進撃して来るのが志摩艦隊です。」

「ほとんど全滅しちゃった部隊だっけ?」

「・・・西村艦隊は今回の海戦寸前に編成された部隊でした。
ほとんど実地訓練も行われていなかったため、艦隊としての連携もあまり期待は出来ません。」

「をい、そんな部隊を突撃させてんの?」

「・・・西村中将は事前の作戦会議にも出席しなかったそうです。
おそらく、この作戦による生還が見込めなかったからでしょうね。ちなみにこちらが西村艦隊の旗艦です。」

 


扶桑型戦艦

 

「なに、この変な形の艦橋は?」

「なんて事を言うんですか!あなたはその一言で
全世界の扶桑タンのくびれ(;´Д`)…ハァハァというコアなファンの方々を敵に回してしまったのですよ!
言うに事欠いて、不自然な増改築艦橋とは何事ですか!」

「うるっさいわね〜!私はそこまで言ってないでしょうが!」

「フォローになっていない気がするが・・・」

「でも、この船面白い形してるね〜。」

「・・・こちらの扶桑型戦艦は大正時代に造られた旧式戦艦です。戦艦建造も試行錯誤の時代でしたからね。
この様な前部艦橋・・・当時は前檣楼と言ったそうですが、必要に応じて必要な改装を繰り返した結果、こういった形となったのです。」

「結局、行き当たりばったりって事でしょ?」

「・・・試行錯誤はおかしい事ではありません。それらの技術や実験が蓄積されて後年の戦艦建造に役立てられたのです。」

「でも、旧式なんだろ?」

「・・・そうですね。扶桑型戦艦は速力も遅かったため、今大戦中も長期間練習艦として使われてました。」

「そんな旧式も使わねばならなかったという事か・・・。」

「比島沖海戦(レイテ沖海戦)で戦場に赴いた艦隊の中で一番最初に出港したのは小沢機動部隊です。
この部隊は空母4隻を擁していましたが、それらに載せる航空機はすでに残っていませんでした。」

「残ってないって?」

「・・・稼動機を各地からかき集めて、ようやく100機そこそこというありさまです。
また、24日の作戦予定海域に到達するまでに索敵に飛ばした航空機が帰還出来なかった事も重なり、
決戦前に稼動機はさらに減少してしまいました。
また、航空機の稼働率もそれほど良いものではありませんでした。本当に・・・3年前の栄光が夢のようです。」

「んな過去の栄光なんかにすがってどうすんのよ。」

「・・・失礼しました。一方の栗田艦隊ですが、レイテ湾への進撃中に幾度も敵の攻撃にさらされました。」

「そういえばそうだったよな。」

「まずは潜水艦による攻撃です。」

 

「・・・アメリカ軍の潜水艦による攻撃を受けたのは青い円で示した海域です。」

「ここで海に落とされちゃったんだよね、あたし・・・」

「栗田艦隊旗艦である巡洋艦愛宕が沈没したのもこの辺りです。ここで重巡3隻のうち、2隻が沈み1隻が退却しました。
また、退却する巡洋艦のために駆逐艦2隻を護衛に回しました。」

「何かマズイ事でも?」

「・・・戦力の少ない日本軍にとっては大きな痛手です。
栗田艦隊はその後も進撃を続けますが、障害となるのがハルゼー大将の機動部隊です。
栗田艦隊がアメリカ軍機の攻撃を受けたのは青い円で示した海域です。」

 

 

「・・・ここか。我々が執拗な攻撃を受けたのは。」

「・・・大和の主砲がアメリカ軍に対し攻撃を行ったのはこの時が初めてと言われています。
もっとも、それに関しては諸説あるので確定した情報ではありませんが。」

「その時の被害って大きかったんでしょ?」

「・・・はい。被害が最も大きかったのは大和型戦艦の二番艦、武蔵でした。」

「ゲッターで特攻しちゃう人でつよね♪」

「そのムサシじゃないっての。」

「・・・武蔵が受けた魚雷は20本。爆弾14発とされています。これにも諸説あるので正確な情報とは言えません。」

「ちょっとちょっと。さっきから不確定な情報ばかりじゃないのよ。」

「・・・そんな事を言われても困ります。
しかし、武蔵以外の艦の損傷がそれほどでも無かった事を考えると、魚雷の命中数もあながち間違いでは無いと思います。
魚雷の命中数についてはほぼ間違いないと見て良いと思います。その後のアメリカ軍の行動にも表れますから。」

「ホントかしら。」

 


回避運動を行う戦艦大和(写真中央)

 

「・・・この時行われたシブヤン海海戦では色々な話があります。
例えば、武蔵が主砲を斉射した際に機銃掃射員が反動で海に落ちてしまったとか、
発射した三式弾の弾子が味方駆逐艦の上に降り注いでしまったとか・・・」

「おいおい・・・、それって失敗ばかりじゃない。」

「・・・予定外の事は起きるもの。未確認情報ではありますが、ありえない話でもないでしょう。
数度に亘って続けられた航空攻撃により、損傷艦は増加しました、」


戦艦・武蔵(沈没)
戦艦・長門(損傷)
重巡・利根(損傷)
重巡・妙高(被害甚大)
駆逐艦・清霜(損傷)
駆逐艦・浜風(損傷)

 

「思ったりよりは被害が無かったかな・・・?」

「・・・武蔵と大和が敵の攻撃を吸収した結果でしょう。
沈没したのは武蔵のみですが、妙高も雷撃により被害が大きかったので駆逐艦2隻に護衛されてブルネイに引き返しました。」

「ここでも戦力がすり減らされたからな。」

「ちなみに、大和にも爆弾が数発命中しましたが、ほとんど被害がなかったので損傷艦としては明記しませんでした。」

「だから言ったのよ。空母を護衛に付けとけば被害も抑えられたでしょうに。」

「・・・では、栗田艦隊に空母が随伴していたらどうしましたか?」

「へ?私に聞いてんの?」

「そりゃまぁ、さっきまでハルゼーさん役でしたからねぇ。」

「空母を潰すまで攻撃するに決まってるでしょうが。」

「・・・そんな事をされては困るから別行動を取っているのです。
それに空母を随伴させても戦闘機が足りません。
故に満足に防空できるとは思えないので、栗田艦隊に空母を随伴させても意味は無かったでしょう。」

「で、この後で栗田さんは逃げちゃうんだよね。」

「・・・転進だ、転進。」

「・・・あまりの攻撃の激しさに栗田中将は一時艦隊を反転させました。
本来ならば、小沢艦隊がアメリカ軍機動部隊を引きつけている予定だったからです。」

「フフン、私がそんな単純な策略に引っかかるわけないでしょうが。」

「・・・と、言うより、アメリカ軍は小沢機動部隊の出撃に気付いてなかっただけの様ですね。
小沢機動部隊では、前日から長い電文を送ったり煙幕を使って敵の注意を惹こうとしていました。
ですが、どういう訳かアメリカ軍に気付かれる事無く日本軍が攻撃隊を送るには絶好の位置まで接近出来たのです。

・・・戦いとは思うようにいかないものですね。」

「まったくだな。」

「・・・ここで小沢機動部隊はなけなしの航空機を用いて攻撃隊を編成、敵艦隊を攻撃する事にしました。」


零戦(制空)×30
零戦(爆装)×20
天山(雷装)×6
彗星(爆装)×2

 

「ホントに少なくなっちゃったんだね。」

「本来はもう少し多い予定だったのですが、
整備不良等で発艦出来なかった機体やエンジン不調で引き返す機があり・・・この数での攻撃となったのです。」

「こんな程度の数でどうにかなるわけ無いでしょうが。」

「・・・残しておいても意味はありません。
ちなみに、これらの攻撃隊は攻撃を終えた後、空母に戻らなくても良い事になっていました。」

「戻らなくても良いって・・・?」

「・・・言葉の通りです。
練度の低い搭乗員が多かった事も考慮すると・・・着艦に不慣れな搭乗員に対する配慮と考えて良いと思います。
誰の意向かは分かりませんが、おそらく小沢中将閣下の温情ではないかと・・・」

「あんたが勝手に脳内変換すんのは勝手だけど、飛行機が戻らなくてどうすんのよ?」

「・・・元々が囮ですから問題はありません。
さて、日本軍攻撃隊ですが・・・未確認ながら、空母一隻に損傷を与えたらしいのですが・・・戦果らしい戦果はありませんでした。」

「ラングレー(二代目)さんですよね(・∀・)ニヤニヤ」

「るさい!」

「しかし、どういう運命の悪戯かこの日はアメリカ軍が来襲する事はありませんでした。
日本軍攻撃隊出現の報告を受けたハルゼー大将は、北方警戒の空母群を一度南下させました。」

「なんで?」

「・・・劇中でもありましたが、攻撃に確実性を持たせるためです。
ハルゼー大将は小沢機動部隊を敵主力と判断。4群に分かれていた空母部隊を引き連れて、明日の攻撃に備えたのです。」

「そういえばそんな事してましたよねぇ。」

「空母ってのは脅威なんだから当たり前でしょうが。」

「負け惜しみ〜♪」

「うるさいっての!」

「ハルゼー大将の判断は決して間違っていた訳ではありません。ただ一点を除いてですが・・・。」

「何が間違ってたんだ?」

「・・・栗田艦隊の一度目の反転を退却と誤認してしまった事です。
栗田艦隊は再反転し、24日の深夜にサンベルナルジノ海峡を無事越える事が出来たのです。」

「その海域を守るアメリカ軍はいなかったのか?」

「・・・それがハルゼー大将麾下の機動部隊です。
彼らはすでに北方の小沢機動部隊目指して北進中ですから、この海域を守備する部隊はいなかったのです。」

「・・・って言うと、うまくいったって事かな?」

「・・・そうなります。この時のアメリカ軍機動部隊司令官がハルゼー大将であった事は日本にとっても幸運でしたね。」

「なんでよ?」

「・・・前々回のマリアナ沖海戦のアメリカ軍機動部隊指揮官スプルーアンス大将では
日本軍の囮には釣られない可能性が高いからです。
彼は、マリアナ沖で退却する日本軍の追撃を認めませんでした。同様に、今回の海戦でも無闇に北上はしなかった事と思います。」

「(・∀・)ニヤニヤ」

「あんた、ムカつく!」

「・・・地味な話ですが、これは日本軍の作戦が本当にうまくいった好例だと思います。
障害となる敵空母群を全て北方に引き寄せてしまったのですからね。」

「うるっさいわね〜!空母が来たなら全力で備えるのが当たり前でしょうが。」

「・・・そこを逆手に取るのが戦術です。戦争とは基本的に騙し合いなのですから。
さて・・・進撃を続ける日本軍ですが、栗田艦隊がサンベルナルジノ海峡を越えて南下を始めた頃
同時突入する手はずだった西村艦隊が先に戦闘を開始しました。」

「確か・・・全滅しちゃったのよね。」

「西村艦隊は出港後、一度だけ敵航空隊の襲撃を受けましたが、その後は順調に進撃していったのです。」

「だが・・・、待ち伏せされていたのだろう?」

「・・・アメリカ軍は魚雷艇や駆逐艦を用いて西村艦隊をたびたび脅かしていました。
数隻の艦艇が損傷しましたが、それでも西村中将は前進を続けたのです。」

「ヤバイと思ったら引き返せば良いのに・・・虎穴に飛び込むようなモンじゃない。」

「・・・アスカの言うとおり、西村艦隊を待ち受けていたのはジェシー・B・オルデンドルフ少将率いる戦艦群でした。
彼らは優勢な艦艇を用いて西村艦隊の進路を塞ぎながら艦隊攻撃の理想形とも言えるT字戦法を用いていたのです。」

「T字って・・・何だっけ?」

「敵に対し横向きで艦を並べて挑む戦法だ。向かってくる艦艇に対し、待つ側はより多くの砲を活用する事が出来るのだ。」

「・・・突入時刻は夜間なので、当然野戦になりますが
アメリカ軍はレーダー射撃を用いていました。いかに奮戦しようと、西村艦隊にはなす術もなかったのです。」

「で、全滅しちまったんだよな。」

「・・・最終的に、駆逐艦時雨は残りましたけどね。
さて、西村艦隊に遅れて志摩艦隊が戦場に到着しました。
その時、反転してきた西村艦隊所属の重巡洋艦最上と志摩艦隊の重巡洋艦那智が衝突。志摩艦隊は反転を余儀なくされたのです。」

「衝突って・・・なにやってんのよ。」

「・・・酷な事を言わないで下さい。最上は艦橋に被弾し、主だった指揮官や将校が戦死してしまっていたのですから。
しかし、最上も奮戦虚しく翌日、アメリカ軍機の攻撃を受け自沈に追い込まれてしまいました。」


巡洋艦・最上(軽巡洋艦時)

「結局、沈んじゃったんだ。」

「・・・戦場から離脱できただけでも十分立派ですよ。
次はレイテ湾へ進撃を続ける栗田艦隊です。彼らは早朝、アメリカ軍の護衛空母群と遭遇する事になりました。」

「え?護衛空母だったの?」

「・・・正規空母は小沢機動部隊が釣り上げてますからね。」

「こんなエサで俺様がクマー(AA略」

「うるっさいわね〜!」

「日米双方とも、突然表れた敵艦隊に驚きました。日本軍にとって、空母が攻撃圏内に入るというのは願ったり叶ったりですが
アメリカ軍にとってみれば、万に一つもありえない状況でしょうね。
サンベルナルジノ海峡付近はハルゼー艦隊が押さえているはずなのですから。」

「はいはい、私が悪いんでしょ。」

「・・・いえ、むしろお礼を言いたいくらいです。
ハルゼー大将が指揮官だったおかげで、小沢中将閣下は戦術目標を達成出来たのですから。」

「それ、ものすごい嫌味にしか聞こえないんだけど。」

「プw」

「あんたは黙ってなさいよ!」

「・・・栗田艦隊は直ちに護衛空母群へ突撃を開始しました。
しかし、アメリカ軍駆逐艦の必死の抵抗により護衛空母群に止めをさす事は出来ず取り逃がしてしまいました。」

「あれ?マシュマー様は攻撃止めたとか言ってたんだけど・・・」

「・・・間違いではありません。護衛空母群に逃げられてしまったから栗田艦隊は追撃を止めたのです。」

「射程内に入ったのに取り逃がしちゃってんの?日本軍もたいした事ないわね〜♪」

「話逸らそうと必死でつね?」

「うるさいわね〜!そんなんじゃないわよ!」

「・・・射程内と言っても30000m以上の遠距離です。
また、味方駆逐艦を使おうにも燃料の残量に問題があります。多くを求めるのは酷かと思いますが。」

「・・・だそうだ。」

「結局、逃げられちゃったんじゃん。」

「・・・無理を言うな。後々、レイテ湾への突入が控えているのに余計な戦闘をしている余裕は無い。」

「・・・栗田艦隊では、この護衛空母群との戦闘で次の戦果を得られたと認識していました。」


正規空母撃沈×4
重巡洋艦撃沈×1
軽巡洋艦撃沈×1

 

「どーせ誤認でしょ?」

「はい。実際の戦果は次の通りになっています。」


護衛空母・ガンビアベイ(撃沈)
駆逐艦・ホーエル(撃沈)
駆逐艦・ロバーツ(撃沈)
駆逐艦・ジョンストン(撃沈)

 

「戦果誤認も、もうお約束よね。」

「必死でつね。」

「うるさいっつってるでしょうが!」

「・・・アメリカ軍の損傷艦はもっと多いはずですが、資料が無いので省略してあります。」

「資料が無いってのはどういう事よ?」

「・・・言葉の通りです。
大和の主砲弾が突き抜けたと思われる護衛空母の写真があるそうなのですが、手元に無いので分かりません。
なので保留という事にしておきます。」

「ふ〜ん、でも圧勝だった事に代わりは無いんでしょ?」

「・・・そうでもありません。
護衛空母群は栗田艦隊との距離を開けた後で、艦載機による攻撃を行っているのです。これにより重巡洋艦3隻が沈没しています。」

「なんか・・・散々だね。」

「しかし、護衛空母群も前述の特攻隊により大損害を受けています。痛み分けと見て良いでしょう。
さて、当面の障害が無くなった栗田艦隊ですが、小沢機動部隊の陽動が成功した事が未だに栗田中将の元に届いていませんでした。」

「そうなの?」

「お前は何を聞いていたのだ・・・?味方の機動部隊が何をしているのか分からないと何度も言ったはずだが。」

「エヘへ、忘れちゃった〜。」

「やれやれ・・・」

「・・・栗田艦隊はレイテ湾まで後80kmというところまで接近していました。
しかし、情報不足により栗田艦隊は反転。新たに出現したとされる敵主力艦隊目指し進撃したのです。」

「要するに、敵前逃亡ってヤツでしょ?」

「・・・人聞きの悪い事を言わないで下さい。転進です。」

「そうやって、日本軍の擁護ばっかしてんじゃないわよ!そもそも栗田って人の批判が一番凄いのもここでしょ!」

「・・・栗田中将への批判は、戦後に造られた意図的な誤情報かと思いますが。」

「はぁ?」

「どういう事?」

「・・・ここで反転せず、栗田艦隊がレイテ湾に突入すればさらに戦果を拡大出来た。
故に、反転した栗田中将は臆病、または無能だったとする論説があるのです。」

「うわ・・・、凄い言われようだね。」

「・・・これは後知恵の最たるものです。完全に的外れな意見と見て良いでしょう。」

「あんた、なんでそこまで必死なのよ?栗田って人に対する評価なんて決まってる様なもんじゃない。」

「・・・後からなら何とでも言えます。
栗田中将が反転を決意した理由の最たるものは敵機動部隊の動静不明という点が挙げられます。
敵機動部隊主力がどこにいるのか分からないという状況で、闇雲に前進し続けるという選択の方がむしろ無謀と言えます。」

「言い訳にしか聞こえないんだけど。」

「・・・それに護衛空母を正規空母と誤認した件もあります。
周囲に機動部隊主力が居るという可能性を考慮するのがむしろ当然でしょう。」

「そんなもんかね。」

「つーか、なんで空母を見間違えるのよ。大きさが違うでしょうが大きさが。」

「・・・30km以上彼方の空母を正確に識別出来ると思う方がおかしいと思いますが。」

「をい、あんた何逆ギレしてんのよ?」

「・・・当時、戦闘海域ではスコールが発生。
また、敵駆逐艦の煙幕もあり視界十分とは言えない状況でした。双眼鏡等を使うにしても基本的には目視です。
そんな状況でどう空母を識別するのですか?」

「んな事、言われても困るって。」

「また玉砕ですか?」

「るさい!」

「・・・もちろん、誤認は許される事ではありません。しかし、当時の日本軍に完璧を求めるのも酷な話です。」

「つーか、なんでそこまでして擁護すんのよ?」

「・・・栗田中将が不当に酷評されていると思うからです。
確かに積極性に欠ける傾向はありますが、それとこれとは話が違います。
出撃してからというもの、大した休みも取らずに指揮を続けていたというのに・・・ここまで酷評を受ける理由は何なんでしょうね?」

「・・・海戦に勝てなかったからだろう?それ以外の何物でもない。」

「・・・そうですね。それはそうかもしれません。しかし、当の栗田艦隊は海戦に負けて退却したという意識は無かったそうです。」

「はい?何で話がそうなんのよ。」

「・・・先ほどの戦果誤認を覚えていますか?」

「空母4隻沈めたってヤツだよな。」

「巡洋艦も沈めたという設定でつよ。まぁ、幻だったんですけどね。」

「日本軍ってずいぶんおめでたいわね〜。戦果誤認しといて負けてないとか言う訳?」

「・・・この海戦でのアメリカ軍の被害が分かったのは戦後です。前回の台湾沖航空戦とは話が違います。」

「話が違うで終わらせてどうすんのよ。」

「実際、内地に帰還した栗田中将は戦果を称えられています。戦果誤認であろうと、当時はそれが真実だったのです。」

「・・・言い訳でしょ?それ。」

「・・・戦果誤認は確かに良い事ではありません。そこは反省するべきでしょう。さて、一方の小沢機動部隊ですが・・・」

「まだ話は終わってないわよ!」

「・・・終わったんです。臆病とか戦意が無かった等で反転したという単純な話では無いのです。
反転するには、それなりの理由がちゃんとあった・・・それだけの話です。」

「でも、作戦目的はレイテへの突入だろ?命令無視しちまっていいのか?」

「・・・それは現場の判断です。
一応、栗田艦隊は敵艦隊を発見したため転進したという事になっているんですから。」

「その肝心の情報はどこから来たのよ?出所がまるで分かってないって話じゃない。」

「・・・はい、分かりません。それが何か?」

「情報の出所が分からないとはどういう事だ?台本には敵艦隊が北方に現れたという話だったはずだが。」

「その電文がどこから送られたのか分からないのです。
日本軍もアメリカ軍も送った覚えは無いと・・・おそらく、怪奇現象の一つでしょう。」

「その冗談つまんないわよ。」

「・・・情報の出所が分からない以上、何を言っても推論にしかなりません。
分かっているのは、その情報が元になって栗田艦隊が反転した事・・・事実はそれだけです。」

「無視すんじゃないわよ!」

「とりあえず・・・どういう事なんだ?」

「保留にしておいて下さい。本当に分からないので。
さて、囮の小沢機動部隊についてですが・・・24日にハルゼー大将が北進を決定した時点で、
小沢中将閣下の戦術目標は達成されたと言って良いでしょう。」

「なら、それで説明終わりじゃないの?」

「・・・それでも良いのですが一応、話しておきます。
アメリカ軍機が来襲したのは25日の早朝。160機以上の大編隊に対し日本軍の迎撃部隊は零戦が18機。
いかに奮戦しようと防ぐ事は出来ません。」

「最初から勝ち目なしじゃんか。」

「・・・まぁ、最初から分かっていた話ですがね。ただ、日本軍も手を拱いていた訳ではなく新兵器も取り付けられていました。」

「新兵器とは?」

「・・・12センチ28連装噴進砲です。小沢機動部隊の全ての空母と一部の艦艇に搭載されていました。」

「12・・・何それ?」

「・・・分かりやすく言うならロケットランチャーですね。無誘導のロケット弾を撃ち出す新兵器です。」

「無誘導って事は・・・」

「ただ、直進するだけだろうな。」

「ロケット弾には時限信管が取り付けられていました。敵攻撃機の進路前面に打ち込めばそれなりの効果は見込めます。
事実、この28連装噴進砲は今回の海戦でかなり有効であった事が確認されました。」

「ファーストの事だから、半分以上誇張されてるんでしょうけど。」

「・・・さぁ?」

「あんた何、ワケ分かんない事言ってんのよ。」

「・・・事実、小沢機動部隊は栗田艦隊より多数の敵機を撃墜しています。
また、艦隊の規模から考えても小沢機動部隊は戦術的にかなり善戦したと考えて良いでしょうね。」

「だから、それが誇張だっての。」

「・・・とは言うものの、いくら善戦しようと本来の目的を達成出来なかった以上
今回の比島沖海戦は日本軍の敗北だったとしか言えません。
その中で小沢機動部隊だけが唯一戦術目的を果たし、
日本軍機動部隊としての優秀の美を飾ったと言えなくもありません。」

「で、どうなっちゃったの?」

「・・・帝国陸軍はレイテ島での戦いで劣勢に追い込まれていきました。その後、戦場はルソン島へと移っていきます。
組織的な抵抗は昭和20年6月に終わりましたが、現地の将兵の方々は終戦のその日まで戦い抜きました。」

「あんたの好きな海軍は?」

「・・・今回の比島沖海戦での損害は連合艦隊にかなりの損害を与えました。
再起不能とまでは言えませんが、被害甚大だった事は明白です。」

「元々が全滅覚悟の作戦だったんですよね。だったら問題ないんじゃないですか?」

「・・・問題あります。フィリピンの陥落は日本にとって致命的だったのです。」

「なんで?」

「・・・少しは思い出せ。フィリピンは日本と資源のある南方とを結ぶ上で重要な地点だ。」

「だから?」

「だからな。南方と日本が遮断されては、これ以上戦争の継続が出来なくなるという事だ。」

「戦争が終わるの?なら良い事じゃん。」

「・・・いえ。連合国の日本に対する態度が変わっていない以上、状況が悪くなったとしか言い様がありません。
日本は完全に追い込まれ・・・いえ、追い込まれていたのは開戦前からですね。」

「あんた、1人でなに自問自答してんのよ。」

「・・・今海戦で日本軍が受けた被害は甚大。
おまけに、継戦能力に関わる戦略的な要衝も敵に奪われてしまいました。これで、日本の敗戦は決まった様なものです。」

「さっさと降伏しなさいっての。もう、どうしようもないでしょ。」

「確かに、万策尽きたって気はするが・・・。」

「・・・ですが、日本という国家の存続が約束されなければ降伏など出来ません。日本はまだ戦わなければならなかったのです。」

「あ〜もう!ほんっとうに諦めが悪いわね〜!」

「諦めが悪い軍隊にまんまと釣られた人も世の中にはいらっしゃいますけどね(プ」

「うるさいっ!」

「・・・比島沖海戦で、連合艦隊主力は内地へと引き揚げてしまいました。
しかし、フィリピンでの戦いがこれで終結したわけでもありません。」

「諦めが悪いだけでしょ?」

「・・・不屈の精神と言ってください。
比島沖海戦以降もフィリピンや周辺地域に残っていた各部隊は奮戦を続けていいるのですから。」

「・・・でも、艦隊はほとんど帰っちゃったんでしょ?」

「・・・僅かながらの艦隊と基地航空隊は残っています。日本軍は特攻隊を戦術の一つとして実行し続けたのです。
10月30日から11月25日にかけて行われた特攻による戦果は次の通りです。」

正規空母・フランクリン(中破)
軽空母・ベローウッド(損傷)
正規空母・レキシントン(中破)
正規空母・エセックス(損傷)
正規空母・イントレピット(損傷)
正規空母・ハンコック(損傷)
軽空母・キャボット(損傷)

「日本軍にしては、かなり打撃を与えているようだが・・・」

「・・・そうですね。
ですが、体当たりで敵を食い止めるというのは、どう説明すれば良いのか分かりません。
もちろん、彼等の行為は称えられて然るべきですが・・・特攻という戦術そのものは肯定出来ませんから。
また、フィリピンにアメリカ軍が侵攻した事により日本近海にもある変化がおとずれました。」

「何かあったの?」

「・・・アメリカ軍潜水艦の存在です。度重なる戦闘で駆逐艦を消耗させてしまった日本軍にとって、潜水艦は十分な脅威でした。」

「大和なんて役立たずを造ってるからそうなんのよ。」

「ですから、武蔵以降は戦艦を建造していないと何度言えば・・・あ。」

「何よ、いきなり。」

「大和型戦艦の三番艦を改造した空母・信濃が竣工したのもこの時期でした。海軍が期待をかけていた最新鋭の超大型空母です。」


空母信濃

「そんなにデカイのか?」

「全長は以前紹介した大鳳とさほど変わりませんが、排水量は30000t近く増加しています。
信濃がいかに巨大な空母かが分かるかと・・・」

「排水量って?」

「・・・分かりやすく言うなら、排水量とは船の重さです。
まぁ、物資や装備等の増減によって排水量の基準も色々異なるのですが、説明するのが手間なのでここでは省略します。」

「いい加減ねぇ・・・。」

「・・・本当にどうでもいい話ですから。」

「この信濃とやらの搭載機数はどれくらいなのだ?超大型と言うくらいだから、さぞたくさん積めるのだろうが・・・」

「・・・予定では次の通りになっていました。」

戦闘機×18(補用+2)
攻撃機×18(補用+2)
偵察機×6(補用+1)

「え〜と・・・少なくない?」

「なんで超大型空母とか言っておきながら、搭載数が50機たらずなのよ。いくらなんでも少なすぎるでしょうが。」

「・・・以前説明した大鳳と同じ理由です。
瑞鶴の様な攻撃空母と違い、信濃の設計思想の根幹は海上補給基地ですから。」

「攻撃空母?もしかして甲板がクルリと回って砲台が出てくるとか?」

「さらに、いざというときのためのデ○ラー砲も完備!これで日本軍は無問題でつ♪」

「何の話をしてんのよ・・・。」

「やっぱり空母は三段だよね〜♪」

「転送装置を装備した円盤も欲しいところでつ。」

「・・・空母赤城・加賀は飛行甲板を三段にしていた事もありますよ。」

「え、そうなの?」

 


空母・加賀(改装前)

「ホントに三段なんだ・・・。三段の方が便利そうなのになんで止めちゃったの?」

「・・・艦載機の発艦速度の上昇等、航空機の急激な発達に伴い不便な面が出てきたので
最終的に全通の一枚甲板に変更した方が良いと言う話になったのです。

さて・・・信濃と比較するには、攻撃型空母で一番大きな翔鶴型が適当かと思うので・・・それにのっとって話を進めます。」

「翔鶴型?」


翔鶴型空母・瑞鶴

「瑞鶴・翔鶴は建造時、日本空母として蓄積された技術の集大成でした。
搭載機は常用72+補用12、以前にも話しましたが、甲板に爆弾が命中した時の対策も施され、開戦当時は最新鋭の空母だったのです。」

「対策が施されてたって・・・役に立ってなかったじゃん。」

「・・・その辺りは仕方が無いと言ったはずです。実際、爆弾を落として確認する訳にはいかないのですから。」

「それで・・・、翔鶴型とやらが攻撃空母と言うのはどういう事だ?」

「単純に航空機の搭載数、航行速度等を考慮した結果です。
搭載した航空機を用いて敵空母を撃滅・・・それが、攻撃空母としての役割です。」

「で?図体のデカイ信濃と何の関係も無いじゃない。」

「・・・信濃の役割は、機動部隊本隊の前面に位置して攻撃隊の燃料・弾薬補給を行う事。
また、高い防御力を生かして敵の攻撃を吸収する事などが目的とされていました。」

「ふむ・・・以前の大鳳と似たようなものか。」

「・・・信濃はこれまでの教訓を生かし、日本空母としては珍しく航空機格納庫の半分を開放型としていました。」

「ようやく、アメリカの合理性が分かってきたのかしら?」

「まぁ、開放型には利点がありますからね。
また、大鳳のガソリン漏れを踏まえ、信濃のガソリンタンクの周囲にはセメントが充填されました。」

「セメントなんかで大丈夫なの?」

「・・・大丈夫とは言えません、苦肉の策と言ったところでしょうね。」

「でも、なんで飛行機の数が少ないんだ?大きい空母なんだからたくさん積めそうな機がするが・・・」

「・・・信濃は元々、戦艦として建造されていました。
スクラップとなる可能性もあったのですが廃棄するには工事が進みすぎていたので、一時保留とされ放置されていたのです。」

「ほったらかしって事?」

「・・・そんなところです。状況が変わったのがミッドウェーです。」

「なるほど・・・空母4隻を失ったから、とりあえず空母を増やしてしまえという事か。」

「・・・概ね当たりです。
ミッドウェーでの損害を踏まえ、信濃の空母へ改造される事となったのです。竣工予定は昭和20年の3月でした。」

「昭和20年3月?信濃って、たしか前の年の11月に完成してたんじゃなかった?」

「さすが日本!工期を早めるなんて、俺達ができない事を平然とやってのける!そこにシビれるあこがれるぅ〜!

URYYYYYY〜!

「・・・・・。」

「・・・そんな単純な話でも無いのです。」

「何が言いたいのよ、あんたは。」

「・・・先程も少し話しましたが、戦時中日本のドックは戦傷艦の修理等で一杯一杯でした。
優先順位から考えて、手の掛かる信濃の工事は幾度か中止されていたのです。」

「ふ〜ん。」

「それなのに早く完成できたなんて・・・凄いのね。」

「軍令部から工期の短縮が命じられた原因の一つが新鋭空母大鳳の損失でした。
来るべき決戦に備えるには信濃がどうしても必要と考えられていたのです。
まぁ、結局はレイテ沖海戦に間に合わなかったわけですが・・・」

「駄目じゃん。」

「それでも、当初の計画から考えれば異常過ぎる速さです。・・・何かおかしいとは思いませんか?」

「なにが?」

「信濃の建造には多数の人員が必要とされました。しかし、戦争末期には熟練工も少なくなっています。
そんな状況で予定より早く竣工させる・・・当然ながら無理があります。」

「でも、完成したんだろ?」

「・・・問題はそこです。空母信濃は一応海軍に引き渡されたものの未完成部分が多々あったのです。
また、工期を早める為に不本意ながら工事の簡略化も行われていました。」

「それって・・・要は手抜き工事って事でしょ?」

「・・・まぁ、否定はしません。」

「あらら、意外とあっさりしてますね。」

「おいおい、否定しないんかい。」

「・・・期限が予定より短くなってしまったのでは、どこかで調整するより他ありません。
文句があるなら、無理な指示をした軍令部等に言って下さい。」

「あれ?あんた、日本軍擁護しないの?」

「・・・もちろん軍令部にも言い分はあるでしょう。
まさか、大鳳が沈むとは・・・いえ、マリアナ沖であそこまで大敗するとは思っていなかったでしょうから。
数少ない大型空母である信濃の完成を急かしたのも分からなくはありません。」

「・・・結局、擁護すんのね。」

「・・・信濃は昭和19年11月19日に一応竣工しました。ですが、その時点でも信濃は完成には至っていません。
全部で12ある缶室も8缶しか整備されていなかったため最大速力の27ノットも出せない状況でした。」

「造りかけ・・・それなのに完成させちゃっていいの?」

「・・・もちろん問題があります。
しかも、竣工したとは言え対空兵装も完全ではありませんでしたから、もうしばらくはドックで作業を行う必要があります。
ですが、刻々と変化する情勢は信濃の完成を待ってはくれなかったのです。」

「そーゆう分かりにくい表現は止めなさいよ。」

「・・・以前、サイパン島が攻略された事を覚えていますか?」

「サイパンって・・・どこだっけ?」

「グアム島の周辺だ。いい加減に覚えろ。」

「で、そのグアムがどうかしたんですか?」

「・・・マリアナ諸島の喪失は、
内地のほぼ全てがアメリカ軍の長距離爆撃機B-29の爆撃圏内に入る事を意味します。
昭和19年11月25日、アメリカ軍は東京西部の中島飛行機製作所へ爆撃を行いました。
日本軍が恐れていた内地への本格的な空襲が、ついに始まってしまったのです。」

「B-29って、授業とかで聞いた事があるけど・・・」

「・・・こちらがB-29です。」


B-29 スーパーフォートレス

「・・・このB-29は排気タービンを搭載し高々度を戦闘機並の速度で飛行することが出来ました。
爆弾搭載量は約9000kg、航続距離も6000km以上。日本にしてみれば実に羨まし・・・脅威となりえる機体だったのです。」

「何よ、その羨ましいってのは。」

「日本でも一応、4発爆撃機の開発はしていましたが実用化には至っていません。だから羨ましいと・・・」

「なんでダメだったの?」

「・・・技術不足です。
仮に試作がうまくいっていたとしても量産は無理だったでしょうね。日本には資源が不足していましたから。
このB-29が実際に襲来する以前から、日本にはアメリカ軍の新型爆撃機開発の情報は届いていました。
B-17相手ですら苦戦しているのに、さらに強力な爆撃機が出てくるとなれば・・・
日本軍が焦燥を深めるには十分な理由でしょう?」

「Bなんとかってのの何が凄いのか、いまいちピンとこないんだけど。」

「・・・従来の戦闘機ではB-29に対抗する事が難しいからです。」

「もうちょっと分かりやすく・・・」

「帝国海軍の代表的な戦闘機である零戦の最大上昇高度は約10000m。
しかし、これはあくまで上昇できる高度でしかありません。
高度が高くなってしまうと、零戦のエンジンでは有効に働けなくなってしまうのです。」

「う〜む・・・」

「・・・当時のエンジンは酸素とガソリンの混合ガスで動いています。
したがって、酸素濃度が低下する高々度でエンジン出力が低下するのは必然と言えます。」

「だが、B-29とやらは高々度を高速で飛行できるのだろう?一体、何が違うのだ?」

「・・・以前も少し話しましたが、零戦のエンジンに搭載されているのは機械式の過給機です。
詳しい説明は省略しますが機構上、機械式過給機は回転数の上昇に伴い出力が伸び悩んでしまうのです。
しかし、B-29に搭載されているのは排気ガスを利用した過給機。
排気ガスが増加する事で回転数が上昇する排気タービンは、エンジンが高回転になればなるほど出力が上昇するのです。」

「よく分からないんだけど・・・日本もその排気なんとかってのを作ればいいんじゃないの?」

「・・・日本も排気タービン搭載戦闘機を製作はしていましたが、実用化には至っていません。」

「なんでまた?」

「・・・排気タービンのブレードに使用する資源が入手困難だったからです。
B-29のブレードですら数十時間の飛行で交換が必要なほどの消耗品・・・
技術的な問題も含め、日本の国力では無理が多すぎました。」

「結局ダメダメって事じゃん。」

「・・・まぁ、そのあたりについては後ほど。とにかく、B-29の襲来は日本に大きな衝撃を与えたのです。
それは大型空母信濃についても例外ではありません。」

「ようやく話が戻ったか・・・。」

「・・・信濃が建造されていたのは神奈川県の横須賀です。
B-29が来襲した東京からは目と鼻の先・・・このままでは、新鋭空母信濃にも危険が及びます。」

「神奈川県ってドコ?」

「・・・そのくらい自分で調べろ。」

「え〜、だってあたしはスペースノイドだもん。分からなくたって当たり前じゃん。」

「そうそう♪」

「・・・東京くらいは分かるだろう?神奈川はその近くだ。」

「あんたの説明も投げやりじゃない・・・。」

「・・・日本の地図については後で出します。
とりあえず、信濃の移送が急務だった事が分かっていただければ問題はありません。
昭和19年11月24日、信濃艦長である阿部俊雄大佐のもとに
信濃及び第十七駆逐隊は速やかに内海西部に回航すべしという連合艦隊からの指示が届きました。」

「なにそれ?」

「アメリカ軍の攻撃を受ける前に西へ逃げろという事です。
このまま横須賀に居ては、いずれアメリカ軍の攻撃を受けてしまうでしょうから。」

「でも、別に良いんじゃないの?日本自慢の装甲空母なんでしょ?」

「装甲空母を一体何だと思って・・・」

「いくら爆弾に耐えられると言っても、無闇に損傷させる理由はあるまい。
退避できるのなら迅速に退避させるのが最良だろう。」

「ま、確かにな。」

「・・・装甲空母と言えど、想定されているのは500kg爆弾までです。
それに、信濃も大鳳同様に装甲は前部エレベーターから後部エレベーターまでの間のみ。
爆弾に耐えられるからと言って、攻撃を受けて良い理由にはなりません。」

「ATフィールドに頼りきって、攻撃を避けようとしない人に言っても分からない話ですかねぇ。」

「るさいっ!あんたのほうがよっぽど避けてないでしょうが!」

「ま、エヴァ関係はどっちかと言えばスーパーロボットに近いからな。攻撃を避けるなんてのは希だろ。」

「アスカは集中を覚えないから・・・」

「うるさい!熱血すら覚えないあんたなんかに言われたかないわよ!」

「捨て身があるから問題ありません。
さて・・・脱線するのも何なので、話を進めたいと思います。」

「ちょっと!勝手に話を進めるんじゃないわよ!」

「アスカとやら・・・無闇に争いをするな。」

「集中も必中も覚えないあんたは黙ってなさいよ!」

「な!」

「マシュマー様・・・、集中も必中も覚えないの?ダメダメじゃん。」

「フッ、命中率などたたの飾りだ。この身はハマーン様の御為に・・・その為ならば、いかな困難でも打ち砕いて見せるわ!」

「でも、ひらめきで避けられちゃうじゃん。」

「嫌な事を思い出させるな・・・。お前には、奇跡の一撃を避けられた時のあの敗北感は分かるまい。」

「どうでもいいが、お前ら贅沢だぞ。俺らは精神コマンド2〜3コしかねぇんだぜ?」

贅沢は敵だー!

「るさい!どこぞの国粋主義者みたいな事言うんじゃないわよ!」

「・・・まぁ、戦争末期には贅沢などしている余裕はありませんでしたが。」

「あんたも、すぐそっち方面に話を繋げるの止めなさいよ!そもそも全ての原因はあんたでしょうが!」

「?」

「集中が無くたって、使えないって事にはなんないでしょ!」

「いい加減、話を本題に戻したいのですが・・・」

「そろそろ、何の話してたのか忘れちゃいそうだし・・・」

「む・・・」

「・・・雑談は休憩時間にお願いします。もう少しなので、説明を続けますよ。」

「何の話の途中なんだっけ?」

「空母信濃の、西部地域への回航が決まったというところまでです。
出港は11月28日の13:30、乗組員の他にも工事関係者や便乗者を乗せた信濃は横須賀を後にしました。」

「空母一隻でか?」

「第十七駆逐隊の駆逐艦3隻が護衛に付いています。
第十七駆逐隊が随伴する事は以前説明したはずですが・・・話が少し前だったので忘れられてしまった様ですね。」

「ん、すまん。そうだったか・・・。」

「どっかの誰かさんのおかげで・・・」

「誰かさんってのは誰のことよ!」

「・・・出港した信濃ですが、その旅路は不運そのものでした。」

「まさか、逃げようとしてて攻撃食らったとか言わないわよね?」

「アメリカ軍の潜水艦アーチャー・フィッシュの雷撃を受けた信濃は翌29日10:57、海中に姿を消してしまいました。」

「をい、冗談で言ったつもりだったのに・・・」

「嘘から出たなんとやらというヤツだな。」

「ちょっと!笑い話にもなんないわよ!
爆弾にも耐えられます・色々改良もしました。とか言って魚雷食らって沈没なんて・・・
そんなオチ期待してないって言ったでしょうが!」

「・・・オチをつけたつもりはありませんが。」

「あったりまえでしょ!日本軍は何やってんのよ!」

「・・・信濃に命中した魚雷は4発。それだけ食らえば、どんな空母だって被害甚大・・・大抵は沈みますよ。」

「だが・・・、いくらなんでもあっけない気がするがな。」

「そうそう。その空母って元はヤマトと同じなんでしょ?」

「字が違うわよ、字が・・・」

「・・・確かに船体の基本は大和と同型です。しかし、空母へと改造されていますから細かい部分は違います。
それに・・・信濃は戦時中の突貫工事を経て完成した空母です。
以前、不本意ながら省略した部分があると言ったのを覚えていますか?」

「手抜き工事でしたっけ?」

「手抜きしたくてした訳では無いのですが・・・とりあえずこちらをご覧下さい。」

「なにこれ?」

「信濃が海に浮かんでいる様を表現していると思ってください。」

「何なのよ、この寸胴な絵は。」

「・・・そういう細かい事は気にしないで下さい。こんな形状では何もしなくても、まず間違いなく転覆するでしょうから。」

「それで・・・この図がどうかしたのか?」

「空母に限らず、大抵の船にとって喫水下への攻撃は脅威です。
海中に面した部分に穴が空けば、瞬く間に海水が進入・・・巨艦と言えど、容易に沈没に至ります。」

「で?結局は手抜きな訳でしょ。」

「・・・信濃については、少々誤解されている部分があるようです。
信濃の工事で省略されたのは水線上の部分です。
突貫工事とは言え、艦として重要な水線下の防水区画の水密試験は済んでいたのです。
そして、魚雷による攻撃は大抵が水線下への攻撃・・・もし、魚雷の深度が深かったなら信濃は助かっていたかもしれません。」

「つーか、ワケ分かんないんだけど。結局、沈んでるでしょうが。」

「・・・敵魚雷の深度が浅かった事が信濃の運命を決めました。
水密試験の済んでいない水線上にも損傷を与え破孔を開けていたのです。こちらをご覧下さい。」


「今度は何だ?」

「空母信濃を正面から見た図だと思って下さい。」

「また、なんつー手抜きな・・・」

「・・・赤く示した部分が水密試験が済んでいない部分です。
水線下の白い部分の水密が完全であっても、水線上の部分から海水がどんどん入り込んできます。
また、当日の天候不良も信濃への海水侵入に影響を与えました。このままでは、信濃の沈没は時間の問題だったのです。」

「だが、同型の武蔵は20本の魚雷を受けてようやく沈んだのだろう?この差は何だ?」

「・・・乗員の練度不足は否めません。実際、注排水弁の誤作動等もあったようです。」

「もう何がなんだか・・・」

「頭がパンクしそうでつ。」

「片側からの浸水が進めば、いずれ転覆してしまいます。
それを防ぐ為の手段が、艦の反対側に海水を注水する事です。」



「いい加減、図を出すんならしっかり描きなさいよ。」

「・・・そんな事をしても時間の無駄です。図で説明というのは分かりやすくが基本なんですから。」

「なぁ、反対側にも水入れちまって大丈夫なのか?余計に沈没しちまいそうな気がするんだが・・・」

「艦の傾斜が増してしまうよりは・・・」

「そうなの?」

「・・・艦の傾きが増大すればいずれ機関停止に追い込まれてしまいます。
機関停止は艦の喪失とほぼ同義ですから。
逆から言えば、機関さえ動いてさえいれば艦というのはどうにかなるものなんです。」

「ホントかしら・・・。」

「しかし、信濃は竣工して間もない空母でした。
時間的な問題から、乗員の訓練も十分だったとは言えませんが・・・こればかりはどうしようもありません。」

どうしようもないで済ませるんじゃないっての。
空母一隻喪失しといて、なんであんたは海軍にそんなに大甘なのよ。」

「・・・そうですか?私は出来るだけ公平な意見を述べているつもりですが。」

「どこがよ!あんたの意見は偏りすぎでしょうが!あんた達だってそう思うでしょ?」

「え?あたし達に言ってるの?」

「いきなり同意を求められてもなぁ。」

「アスカさんだって十分偏ってまつよ?」

「確かにな。」

「く〜!ちょっとくらい気を利かせなさいよ!」

「・・・・・。」

「ヒカリ、ヒカリは私の言ってる事に賛成してくれるでしょ?」

「え・・・あの・・・」

「ジャイアンみたいな強要はいけませんよ?」

「誰がジャイアンよ!」

「あ・・・、私ちょっとお茶入れなおしてくるね。」

「・・・もう少しですから、説明を続けます。
もっとも、信濃の沈没については不明な点も多いので私の意見が事実とは限りません。説の一つと思って下さい。」

「エラそーに説明しといて・・・何なのよ、そのあやふやさは。」

「・・・自説が完璧であると豪語するほうがどうかと思いますが。私の意見はあくまで個人的な意見なのですから。」

「で、信濃ってのの沈没は何が悪かったんだ?」

軍令部のアホが悪いんでしょ。
工事を止めたり急がせたりして、爆撃機が来たからって慌てて移動させようとした挙句に沈められちゃってんだから。」

「・・・そんな単純な話ではありません。。」

「仕方ありませんよ。アスカさんそのものが単純なんでつから。」

「うるっさいわね〜!」

「・・・アスカの意見はほとんどが後知恵です。
工事を止めたのは他に優先する作業があったから、工事を急がせたのは決戦に間に合わせる為。
移動させようとしたのはあくまで信濃の保全を優先したからです。」

「確かに筋は通っているな。」

「む・・・」

「魚雷攻撃を受けたのは11月29日03:17、乗員の方々は必死に艦を立て直そうとしていたのです。
信濃については、竣工後間もない時期に攻撃を受けてしまった事そのものが不運だったとしか言いようがありません。」

「また、運のせい?」

「私にはそうとしか・・・。」

「もうあんた、ビョーキね。そこまで日本を擁護する気がしれないわ。」

「もちろん、日本側にも落ち度はありましたよ。
例えば、アメリカ軍の魚雷の威力の見積もりが甘かったりとか・・・」

「ちょっとちょっと!なんでそういう肝心な事を黙ってたのよ!根本的に間違ってるじゃないの!」

「日本軍の情報戦の不備と言うか何と言うか・・・。
もっとも、アメリカ軍の魚雷の威力が上がったのは開戦以降の様ですし・・・これについては微妙なところですね。」

「微妙・・・ステキな言葉です、ハイ。」

「とりあえず、信濃については以上ですね。結局は運が悪かった・・・と。」

「あんた、反省する気全然無いでしょ?」

「・・・どう反省しろと?
当日は海も荒れていたので潜水艦の雷撃視認も困難な状況でした。
護衛の駆逐艦は3隻で対潜哨戒も十分とは言えませんが、駆逐艦が足りない日本軍では贅沢は言えません。
一度振り切った潜水艦にまた遭遇するなど・・・運に見放されていたとしか言い様がありませんね。」

「つーか、他に方法あったんじゃないの?」

「もちろん。ただ、それには未来を予知する力が無ければ無理な話です。」

「そっか、やっぱりニュータイプは凄いんだね〜♪」

「話が違うと思うが・・・」

「信濃が沈没するという結末を知っていれば誰だって他の選択肢を選ぶでしょう。
まぁ、そんな事を議論してもあまり意味は無いと思いますが。」

「あんた、遠まわしに私にケンカ売ってるでしょ?」

「・・・そのつもりはありませんよ。」

「どこがよ!あんた、事あるごとに反論してるじゃない!」

「むしろ、アスカさんが綾波さんに食ってかかってる様にしか見えませんよ。」

「んだな。」

「人外は黙ってなさいよ!」

酷っ!人を見た目で判断するなんて!」

「謝罪しる?」

「疑問系?」

「お前達・・・一体何の話をしているのだ?」

「さて、そろそろまとめに入りましょうか。
いつの間にか信濃についての話になってしまいましたが、個人的な見解としては次の通りです。」


1.信濃はこれまでの日本海軍の経験が生かされた新鋭空母だった。
2.日々悪化する戦況に翻弄され工事が遅々として進まなかった。
3.信濃の喫水線上の工事で省略された部分があるのは事実。
4.乗員の練度不足も沈没原因の一つ。しかし、竣工後10日では訓練する時間も十分だったとは言えない。
5.一度振り切った敵潜水艦に捕捉されるという運の無さ。
6.港に曳航しようとしても駆逐艦では無理でした。残念。

 

「ほとんど言い訳にしか聞こえないんだけど。」

「では、代案をお願いします。」

「はぁ?何を言い出すのよ。」

「・・・信濃の沈没を回避する方法として考えられるとすれば、
方法はただ一つ信濃の工事を優先させる事です。
それ以外では、どうしても後知恵になってしまうのでそれくらいしか思いつきません。」

「そうなのか?」

「当日のコースを変更、あるいは日時の変更。回航の中止等は
信濃沈没の歴史を知っているからこそ出てくる代案なので却下です。
故に工事を優先させるという選択肢しか無いわけですが・・・それはそれで問題があります。」

「やれやれ、日本軍は問題だらけだな。」

「ねぇ、問題って?」

「史実で修理を優先させた損傷艦の復帰が遅れる事です。
ソロモン海等で傷付いた艦や定期的なメンテナンスを必要とする艦を犠牲にしなければ、
信濃の工事の大幅な優先など出来ないでしょうからね。」

「どっちも優先すりゃ良いじゃない。」

「・・・それが出来ないから片方を優先した訳です。
もっとも、信濃を史実より早く完璧に竣工させたとしても一隻の空母で戦局を変える事は不可能ですから
どっちみち批判の対象にはなっていたでしょうね。」

「なんと言うか・・・八方塞がりな話だな。」

「いつもの事だけどね〜♪」

「さて、そろそろ休憩にしましょうか。それでは資料を持ってくるので少し席を外します。」

「ちょっと待ちなさいよ!さっきの話が終わってないで━━━」


ウイィィィン(ドアの開閉音)


「行っちまったな。」

「ところで、さっきの話って何です?」

「集中がどうたらって話に決まってるでしょ!あんの人形女・・・どういう了見してんのよ!」

「エヘへ〜、あたしは集中も熱血も魂も覚えるもんね〜♪」

「別に気にする事ないですよ。だって、アスカさんはスーパーロボット乗りじゃないですか。」

「はぁ?あんたも何を言い出すのよ?」

「ほら、EVA弐号機って武装が斧とか槍とかあるじゃないですか。だからでつ♪」

「誰がよ!遠距離戦用の武器ぐらい使えるわよ!」

「でも、命中率が悪いじゃないですか。例えて言うなら弐号機は空飛べない真ゲッター1ですかねぇ。
打撃武器と射撃武器のバランスとか色々考えると。」

「それ、褒めてんの?」

「どう聞いても褒め言葉じゃないわな。」

「こんのひし形〜!あんたは〜!」

「イタタ、暴力反対〜!」

「2人とも仲良いんだな。」

「ホントホント、犬猿の仲だっけ?」

「的確な表現だが使い方は違うぞ。」

 

 

 

 

 

「にしても、どこで油売ってんのかしらね。あの人形女は。」

「何がなんでも気にいらないんですねぇ。そんなにカリカリしてると小ジワが増えますよ?」

「るさい!私はまだ14才だっての!」

「・・・そういやそうだったな。」

「みんな、お茶が入ったけど・・・」

「ありがと〜♪」

「今度は紅茶か。」

「うん。いつも同じものじゃ飽きちゃうものね。」

「さすが洞木さん。どっかの誰かさんとは大違いですねぇ。」

「あんた、私の事を何だと思ってんのよ。」

「私の最愛の人でつ♪」

「気色悪い事を言うんじゃない!」


ウイィィィン(ドアの開閉音)

「・・・おまたせしました。」

「おそ〜い!あんたは、資料探すのにどれだけ時間かけてんのよ!」

「・・・それほどの時間は経過していないと認識していますが?」

「どこがよ!いい加減、待ちくたびれちゃったわよ!」

「・・・確かにな。少し時間が掛かりすぎていたかもしれん。」

「そうですか。出来るだけ急いだつもりだったのですが・・・」

「どーせ、どっかで時間潰してたんでしょ。」

「まぁ、良いんじゃん?休憩もたくさんとれたんだし♪」

「それはそうだけど・・・」

「さて、日本の空母についての説明は終了したわけですが・・・何か質問はありますか?」

「い〜え、日本の空母がヘタレだったって事がよ〜く分かったから十分よ。」

「言葉の端々にトゲがありませんか?」

「いや、むしろわざとだろ。」

「・・・日本の空母には確かに不運が重なりました。
しかし、戦争中に得られた教訓を生かして建造していたのもまた事実。
あっさり沈んでしまったからと言って、日本空母を否定する理由にはなりません。」

「そうやって、一から十まで海軍擁護すんの止めなさいよ。日本よりアメリカの方が優れてるってのは、もう明確でしょうに。」

「・・・・・。」

駆逐艦
ハル、モナガン、スペンス、デューウィ
エイルウィン、ヒコックス

軽巡
マイアミ

軽空母
モントレー、カウペンズ、サン・ジャシント

護衛空母
アルタマハ、ケープ・エスペランス

他、戦艦を含む損傷艦19隻
航空機損失146機

「あんた、いきなり何ずらずらと名前並べてんの?」

「見たところ、アメリカ軍の艦艇の様だが・・・」

「1944年12月18日、ルソン島の東方約300マイルの海域でアメリカ軍の第3艦隊が台風に遭遇したのです。
上記の艦艇は、その時の主な損傷艦です。」

「台風って・・・気象現象の一つの台風の事だよな?」

「・・・そうです。その時の台風の規模は分かりませんが相当なものだったようですね。
ファラガット級駆逐艦なんかは4隻が沈没か大破してますから。」

弱w

「うるっさいわね〜!災害なんかにそうそう勝てるわけ無いでしょうが!」

「・・・これが、日本との決定的な差です。
以前に少し説明しましたが、帝国海軍は友鶴事件以降艦の強度や安定性には最大限の配慮をしていました。
戦い以前に、災害に負けていたのでは話になりませんからね。」

「そういえば、そんな事話してたっけ・・・。」

「日本軍が、アメリカ軍と同じ設計思想で艦艇を造り続けていたらどうなっていたか・・・
想像に難くないとは思いませんか?」

「どうなってたの?」

「日本って台風がよく来るところなの。だから・・・」

「・・・ふむ。台風が来るたびに大損害を受けていた可能性も否定できない訳か。」

「台風に負けたアメリカ軍(プw」

「るっさいわね〜!そんな事言ったらアメリカだって台風がよく来てるでしょうが!
なんでアメリカばっかり被害受けまくってんのよ?」

「・・・さぁ?私に聞かれても困りますが。」

「冷蔵庫が壊れたからって、
台風の中を突っ切って帰ろうとして遭難した漁師さんがいるDQNな国だから仕方ないんじゃないですか?」

「その映画つまんなかったけどな。」

「うるさい!何の話してんのよ!」

「・・・何事も比較は難しいんです。
アメリカの技術が優れていたからといって、すぐに真似られるほど簡単なモノではないのです。
お国柄と言うか伝統と言うか・・・その辺りは察してください。」

「お国柄で済ませんじゃないわよ。負けまくってちゃ話になんないじゃない。」

「・・・そこはそれです。
色々批判はあるでしょうがあえて言います。日本は連合国の物量に負けたと。
もちろん他にも問題は山ほどありますが、物量が最大の原因である事は紛れも無い事実です。
多少の小細工で戦局を覆せるのなら苦労はありませんからね。」

「をい、そこまで言い切っちゃっていいわけ?」

「多少の小細工とはなんだ?」

「色々ですよ。
零戦の後継機やレーダー開発、機動部隊司令部の在り方や人事。母艦機搭乗員の欠乏や陸海軍の不仲・・・
確かにそれらの問題がクリア出来ていれば史実と違った歴史を歩んでいたかもしれませんが、
逆に戦況が悪化した可能性とかはあまり聞きません。
基本的に、日本はあちらを立てればこちらが立たずの状況なのですから、他に夢の様な選択肢があるとは思えないのです。」

「日本は一杯一杯だったからなぁ。」

「でも、ファーストの話ってほとんど妄想じゃん。」

「・・・推論と言って下さい。
私は、別の手段を講じていれば戦争に勝てたと思えるほどの楽観論者では無いというだけの話です。」

「勝てなくても、も少し良い戦いは出来たんじゃないでつか?例えば栗田さんとか栗田さんとか栗田さんとか。」

「南雲さんとか南雲さんとか南雲さんとか♪」

「・・・司令官1人が変わったくらいで戦局が変わるとは思えません。
もちろん史実より良い結末を迎える可能性は否定しませんが、同様に逆も然りです。
より戦局が悪化し、日本が無条件降伏していた可能性も否定は出来ませんから。」

「無条件降伏って・・・どっちにしても史実と似たようなモンじゃん。」

「・・・・・。」

「な、何よ?」

「アスカの意見は見識不足と言わざるを得ません。
日本の無条件降伏と史実の終戦とは似て非なるものなのです。
まぁ、詳しい話については後ほど・・・次はフィリピンでの海戦を説明します。」

「フィリピンって?前の栗田さんの話で終わりじゃないの?」

「西村さんも志摩さんも小沢さんも居ましたよん♪」

「以前にも少し話しましたが、フィリピンでは死力を尽くして戦っている陸軍の方々や海軍の残存戦力があります。
それに、シーレーンが危険になったとは言え、この時期なら南方との行き来はまだ可能ですから。」

「ふ〜ん・・・。」

「だが、日本軍の機動部隊はおろか水上艦艇も甚大な被害は受けていたのだろう?まだ戦えるというのか?」

「・・・戦ったからこそ歴史が残っているのです。」

 

 

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