プロローグ
「・・・復唱どうぞ。」
至誠に悖るなかりしか
言行に恥づるなかりしか
気力に缺くるなかりしか
努力に憾みなかりしか
不精に亘るなかりしか
「・・・・・。」
「ねぇねぇ、それって何?」
「・・・これは五省。旧帝国海軍兵学校では、一日の終わりにこの五省を唱和していたとの事です。」
「ふ〜ん・・・。」
「で、アンタは脈絡も無く何がしたいわけ?」
「昔の日本の良さを感じてもらおうかと思って・・・。」
「感じられる訳無いでしょ!」
「ねぇ、さっきのってどういう意味なの?」
「こういう意味です・・・。」
至誠に悖るなかりしか
(真心に逆らうようなことをしていないか)
言行に恥づるなかりしか
(言葉と行動に恥ずかしいことはしていないか)
気力に缺くるなかりしか
(気力に欠けているようなことはないか)
努力に憾みなかりしか
(努力不足を残念に思うようなことはないか)
不精に亘るなかりしか
(不精になつているようなことはないか)
「ふ〜ん・・・、やっぱ分かんないな。」
「そういう話はいいんだけどさぁ・・・ファースト、あんたに聞きたい事があるんだけど。」
「・・・何でしょう?」
「あんた・・・何がしたいの?」
「・・・旧帝国海軍の良さを解ってもらおうかと思って。」
「そういう問題じゃないわ!なんでそんな時代錯誤な事言ってんのかって聞いてんの!」
「・・・時代錯誤じゃない、これは必然。物事全てに理由がある。原因と結果、作用反作用・・・」
「マトリックスネタは止めなさいよ!とっくに旬は過ぎてるでしょうが!」
「ところで、これから何かするの?ここに集まる様にって誰かから聞いたんだけど。」
「誰かって・・・誰?」
「ん〜・・・、誰だっけ?忘れちゃったよ。」
「名前くらい覚えときなさいよ・・・。」
「お前達、こんな所で何をしている?」
「あ、マシュマー様!」
「・・・何であんたが脈絡無く出てくんのよ。ネオジオン軍人でしょ?」
「何を言う?アクシズは先程、降伏したではないか。
力及ばず貴様らに敗北を喫したが・・・過去の事は過去の事だ。さぁ、共に手を携えハマーン様の為に戦おうではないか!」
「何、勝手な事言ってんのよ!そういう問題じゃないでしょ!」
「そんなにカリカリする事ないじゃないですか。昨日の敵は今日の友って言うでしょ。」
「んだな。」
「あんたらに言われたく・・・って!どっから湧いて出たのよ!アンタ達、使徒でしょ!」
「だから、言ってるじゃねぇか。昨日の敵は今日の友って。これからは仲良くいこうや。」
「仲良くって・・・大体、なんであんた達小さくなってんの?」
「え?だって大きいままだとマクロスに乗れないじゃないですか。」
「そういう問題じゃ無いって・・・。」
「ゼントラーディの技術さ。おかげでここまで小さくなれたんだ。ホント、大したモンだよな。」
「そんな設定いつ出来たのよ・・・。」
「細かい事は気にするな。そんな事では大儀を果たす事など出来んぞ?」
「知らないわよ!」
「アスカ、だいじょうぶ?さっきから怒鳴ってばかりだけど・・・。」
「あ〜、ヒカリ!良かった〜!
ワラワラと変なのばっかり出てきたからどうなるかと思っちゃったけど、ヒカリが一緒にいてくれるなら安心だわ。」
「アスカさん!変なのとはどういう事ですか!他の方々に失礼じゃないですか!」
「一番おかしいのはアンタよ!大体、どうやって喋ってんのよ!」
「それは、ATフィールドを使ってですね・・・」
「勝手に話を作るんじゃないわよ!」
「まぁ、いいさ。とりあえず俺達が集められた理由は何なんだ?」
「あ、あたしも気になってたんだ〜!何で呼ばれたんだろ?」
「バトルロワイアルでもするんでしょうかねぇ。」
「ふむ、そうなると各々の能力が勝負の決め手となるな。
もっとも、騎士である私の相手が務まるような兵は居ない様だがな。フッフッフッ・・・」
「マシュマー様が一番弱い気がするけど・・・」
「うるさい!これまで負け続けたのは機体の問題だ!
ザクVにサイコミュが搭載されファンネルが使えるようになりさえすれば、私に敵など無い!」
「それじゃ、ザクVじゃないじゃん・・・」
「ええ〜い、うるさい!とにかくだ、誰と誰が戦うのか決めなければ話は進まんぞ?」
「困りましたねぇ、私は平和主義者なんですけど。」
「俺はいつでもいけるぜ。さぁ、誰が相手だ?」
「・・・勝手に話を進めないで下さい。
これからあなた達には戦史を学んでもらいます。対象となるのは第二次世界大戦中、
太平洋を舞台に繰り広げられた日本軍と連合国軍との戦争・・・主に海戦が中心となります。」
「はぁ?なんでそんな話を聞かなきゃなんないのよ?」
「・・・大事な事なの。これからエアロゲイターとの決戦に向けて必要な知識を吸収しておいた方がいいでしょう?」
「あたしはまぁ・・・どっちでもいいや。暇だし・・・」
「物好きなのね・・・。第一、戦史をどう学んだらこれからの戦いに役立つのよ。」
「意見に耳を傾けるのも上官の務めだ。専制的な上官など厄介以外の何者でもないからな。」
「マシュマー様も人の事言えないと思うけどな〜。」
「何か言ったか?」
「え?何でもない。空耳だよ。」
「空耳ア〜ワ〜♪」
「はい?」
「6!6!6!6!6階さわらせてぇ〜♪」
「ワケわかんないわよ!」
「まぁ、とりあえず私達も一応聞いていきましょうかねぇ。これからの役に立つそうですし。」
「ん〜・・・。そだな。どうせ俺達やる事なんかないしなぁ。」
「あたしも時間があるから聞いていくね。綾波さん、よろしくお願いします。」
「ヒカリが聞いてくなら私も付き合うわ。不本意だけど・・・」
「・・・了解しました。それでは始めます。時は西暦1930年代まで遡ります。」
「随分、昔の話だな。ジオンの存在する以前の話なのか?」
「・・・西暦って言ってる時点で気付きなさいよ。ジオンどころかコロニーすら無い時代だっての。」
「当時、世界は植民地支配が正義とされる帝国主義が常識の世の中でした。
その中で、着実に力を付け始めていた日本という国が今回の話の中心となります。」
「日本ねぇ、何かと物語の中心になる話だからなぁ。」
「そうなの?」
「ほら、光子力研究所があったりとか、スーパーロボット系の拠点がいろいろあるじゃないですか。
私もサキエルさんも第三新東京市にご厄介になりましたし・・・」
「ふ〜ん、色々大変なんだね〜。」
「日本は当時、中国大陸に進出していました。中国からすれば侵略になりますが、
日本としてもロシアの南下を防ぐなどの対処を行わねばならなかったので・・・不可抗力という事で片付けておきたいと思います。」
「いいの?そんな簡単で・・・」
「これ以上説明すると、話が異常に長くなるので割愛します。
中国に進出した日本ですが、中国における利権を狙っていたのは日本だけではありませんでした。
様々な国が中国という市場をねらっていましたが、特に日本との対立が顕著になり始めた国があります。」
「あの国の出番ですね?」
「あの国って?」
「自称正義の国アメリカ合衆国ですよ。正義を体現していると思っている御目出度い国ですからねぇ。」
「むぅ、正義を自認するとは傲慢な国があったものだな。身の程を知らぬ者に未来は無いぞ。」
「アクシズやらネオジオンだって似たようなもんじゃない。独善的だし・・・」
「何を言う!我々の正当性は証明されているだろう!
我々の戦いは重力に魂を縛られた愚物から地球圏を救うためのジハード(聖戦)だ!
その様な訳の分からんアメリカなどと一緒にするな!」
「ジハードじゃ無いでしょ・・・。」
「話聞いてるだけだと、どっちもどっちな気がするんだけど・・・」
「うるさい!」
「そのアメリカと日本の関係は急速に悪化していきます。
その裏にはアカの暗躍があったのですが・・・その話は割愛します。」
「ねぇ、アスカ。アカって何なのか知ってる?」
「共産主義者の事でしょ。
詳しくは知んないけど独善的な危険思想の狂信者集団て、覚えておけばいいんじゃない。」
「なんか凄い偏見入ってる気がするんだけど・・・」
「気にすんなよ。あの連中は本当に危険思想なんだから。
目的の為には手段を選ばないって事を証明してる連中なんだぜ。」
「それって・・・ジオンより酷いって事かな。」
「アカに比べたらジオンなんか赤子同然でしょ。
アカの国では反共産主義者は問答無用で抹殺、あるいは強制収容所送りにされますからね。」
「アカの手先と化した報道機関の助力もあり、大日本帝国はアメリカ合衆国との戦争に突入しました。
その戦端を開いたのが、これから説明する真珠湾攻撃です。
まぁ、正確に言えば日本とアメリカは真珠湾以前にもすでに戦っていたのですが・・・やはり長くなるので割愛します。」
「あんた、さっきから説明省いてばかりじゃない。少しくらい詳しく説明したらどう?」
「そうだな。あまり省きすぎると、苦情が来るかもしれん。手を抜きすぎるのも禁物だぞ。」
「正直どっちでもいい気はするんだけど・・・」
「同感。」
「ここは綾波さんの裁量に任せましょうかねぇ。」
「・・・分かりました。では、手短に説明します。
1941年12月の真珠湾攻撃からさかのぼる事約半年・・・、
戦争中の中国大陸にフライングタイガースという名のアメリカ人義勇兵部隊が現れ、対日本の戦闘に参加しました。」
「義勇兵?何それ・・・?」
「正義の為に自ら志願し自発的に戦う兵の事だ。」
「ふ〜ん・・・、マシュマー様みたいだね。」
「ふむ、お前もようやく理解出来たか。正義を重んじるこの私の崇高さが。」
「違うよ。正義とか言って戦うのって、おめでたいな〜と思って・・・」
「何だと!」
「え〜、これでも褒めてるんだよ。」
「褒めてるようには聞こえんが・・・。」
「どうでもいいけど義勇兵なんでしょ?それだと、アメリカ軍じゃなくてアメリカ人が戦ってるだけじゃない。
別にアメリカ軍が動いてたって訳じゃないんだから、アメリカと日本が戦ってたって事にはなんないでしょ?」
「・・・それは違います。義勇兵と言うのは表向きの話で、実際はアメリカ大統領の行政命令が存在したのです。
米空軍・海軍・海兵隊の軍人に陸軍航空隊のクレア・シェンノート大佐の指揮するフライングタイガー戦闘機部隊に
志願するよう促す・・・というものでした。」
「え〜と・・・どういう事?」
「その話だと、フライングタイガーはアメリカ大統領の命令を受けていたという事になりますねぇ。」
「よく、言われている話で真珠湾攻撃が騙し討ちというものがあります。
しかし、フライングタイガーの例を見ても解る通り、アメリカは真珠湾攻撃以前から戦う意思があったと言えます。
つまり、アメリカには日本を非難する資格など無いのです。
まぁ、そんな事を言い出したら、真珠湾が騙し討ち以前に米大統領が詐欺師だろうという話になってしまいますが・・・。」
「あのさぁ、フライングタイガースって部隊として派遣されたのは戦前だけど
実際に戦闘に参加したのは1941年12月20日が最初だって話よ。」
「そうなんですか?」
「そうなんですか?じゃないわよ!あんた、いい加減な説明してんじゃないわよ!」
「・・・では、私の使ったソースが間違っていたのでしょう。
よくよく考えたらフライングタイガースの初陣の日付を確認するの忘れてましたからね。
まぁ、何を言おうと言い訳は出来ません。誤情報を流して失礼しました。
それでも、アメリカの正義を否定できるとすればアメリカが日本に突き付けたハルノートの存在でしょう。
これは日本政府に対する最後通告と受け取っても間違いありません。要点のみを説明します。」
日本軍の中国(満州含む)・仏印からの撤退
日本のアジア地域に対する不可侵
三国同盟の破棄
「・・・他にもあるのですが、ほんの少し挙げただけでもこの内容です。
当時の日本にとっては、到底受け入れられるものでは無かったのです。」
「そうですか?別に期限とかは書いて無いですよね。
それを逆手にとって、時間を先延ばしにしていけば良かったんじゃないですか?」
「どこをどう逆手に取れと?
ハルノートの目的はアメリカの準備が整うまでの時間稼ぎに過ぎません。
仮にハルノートを受け入れていたとしても難癖つけて後々宣戦布告されていたであろう事は想像に難くありません。
しかも、ハルノートを受け入れたとしても、日本に対する資源の輸入等は約束されたものではないのです。
つまり、日米開戦以前の日本にとっては戦って死ぬか座して死ぬかの二通りしか無かったのです。
悲しい事ですが・・・現実は非情なのです。」
「悦に入ってるところ悪いんだけど、それはアンタの推論でしょ?どうしてアメリカが後々、宣戦布告するなんて言えんのよ。」
「準備を整えてから日本を潰す・・・その方がアメリカにとっても都合は良いはずです。
時が経てば経つほど、基礎工業力で圧倒的なアメリカは優位が約束されます。
現に、あのペテン師は大規模な建艦計画を実行に移しています。
中国の利権で対立している以上戦争は避けられない・・・
しかも、時が経つにつれ日本の石油備蓄は着実に無くなっていくから、機を逃せばまともな抵抗すら出来なくなるのは必定。
対米開戦は止むを得ない選択だったとしか言えません。」
「ふむ、話を聞いていると我らの祖となったジオンに通じるものがあるな。」
「無い無い。」
「う〜ん・・・、でも日本にとって勝算は薄かったんでしょ?他の方法って無かったのかな?」
「・・・残念ですが、現実は正解が用意されている選択肢ばかりでは無いのです。
よく、ハルノートを受け入れれば日本は多大な被害を受けずに済んだという意見を耳にしますが
日本がアメリカの植民地と化していた可能性はどうして考えないのか不思議です。
力の無い国は強国の糧となる非情な時代・・・命綱である石油の供給を立たれては、何もせずに敗北を喫する事になるのです。
ならば、一縷の望みに賭けるというのも決して間違った選択肢ではありません。
もし、本気で戦争を回避したいのなら方法はただ一つ
どこかのマッドサイエンティストの作ったタイムマシンに乗って過去へ行き、別の1941年を作り出すほか無いでしょう。」
「それ、何のネタよ・・・。」
「冗談はさておき・・・当時の日本には戦争以外の道は無かったと思ってください。」
「死なばもろともというヤツだな。」
「日本の中の人も大変だったんだね〜。」
「中の人って・・・」
「・・・以上の事を踏まえて、真珠湾攻撃の説明に移りたいと思います。」