ブーゲンビル島沖海戦 前

 

 

 

 

「・・・ニューギニア方面の制空権は徐々に連合国側に奪われつつありました。
日本軍の要衝、ラバウルからも連日の様に航空隊が出撃しましたが、度重なる戦闘の影響で次第に消耗していったのです。」

「まぁ、そりゃそうでしょうね。」

「・・・南東方面の陸海軍部隊や大本営陸軍部からは
小沢中将閣下率いる機動部隊母艦機の基地運用を求める声がたびたび上がっていたそうです。
以前行われた、い号作戦の時と状況は酷似していますね。」

「つーか、補給はどうしたんだ?前線の飛行機が減ってるなら補充くらいするだろ?」

「・・・必死に補充してこの有様なのでしょう。だからこそ、機動部隊の母艦機を欲していたのだと思います。
おまけに、昭和18年にはアメリカ軍による通商破壊戦が激化していた年でもありますから・・・前線への補給は大変だったのです。」

「そーいえば、そんな話を前にしてたよね。」

「ビスマルク海海戦の話だな。補給路の遮断は戦術の基本・・・こういう手はジワジワと効いてくるものだからな。」

「・・・その通りです。」

「フン、海上の警護を軽視してるからよ。」

「だから、それは軽視していたのではなく手が回らなかっただけなのだと何度言えば・・・」

「このままだと、話が無限ループだわな。」

「アスカさん、また返り討ちに遭いますですよ?」

「うるっさいわね〜!誰が返り討ちなのよ!」

「誰って・・・貴女の他に誰がいると?」

「まぁ・・・いつもの事だからな。」

「うるさいうるさ〜い!」

「・・・まぁ、それは良いとして先に進めますよ?」

「良くないわよ!」

「・・・前回のい号作戦の時もそうでしたが、
今回も小沢中将閣下は母艦機の基地投入に反対でした。反対の理由は以前話しましたよね?」

「そうだっけ?」

「そうだ。
母艦搭乗員は練成に時間がかかるからむやみに投入したくない・・・それが理由だ。少しくらい覚えておけ。」

「反対していたのは小沢中将閣下だけではなく、海軍中央部も連合艦隊司令部も消極的だったそうです。
その理由は閣下と同じですが・・・ここで、転機が訪れます。」

「あ〜した転機にな〜れ♪」

「それは天気!字が違うわよ字が!」

「転機を大切にね♪」

「それは電気!つまんないボケを続けんじゃないわよ!」

「雨により運動会は順延とします。」

「それは・・・なに?ワケ分かんないんだけど。」

「延期ですよ。フッ、アスカさんもまだまだですね(はあと」

「なにがよ!ワケが分からないっつってんでしょ!」

「ニライカナイ?」

「うるさーいっ!」

「・・・脱線は程ほどに。
転機が訪れたのは昭和18年10月28日、連合艦隊司令長官古賀峯一大将から新たな作戦が命じられました。
それが、ろ号作戦と呼ばれるものです。作戦内容は第一航空戦隊の母艦機をラバウルに進出させ
基地航空隊と合同で大規模航空作戦を実施。敵を撃滅する・・・というものでした。」

「中身だけじゃなくて、名前まで似てるんだね。」

「似てると言うか・・・前回のい号作戦に符丁を合わせて名づけられた作戦名らしいのです。」

「ふ〜ん・・・。」

「ところで、その古賀って人が新しい連合艦隊司令長官なんだろ?どんな人間だったんだ?」

「う〜、ペパダイ〜ン♪」

「・・・古賀違いよ、それ。」

「・・・古賀大将も山本大将と同様に対米開戦反対派でした。
山本大将の次は古賀大将が連合艦隊司令長官に、との評価が多かったそうです。」

「その割には開戦以来、ずっと名前が出てこなかった気がするが・・・」

「・・・連合艦隊司令長官になる前は横須賀鎮守府の司令官でしたからね。
開戦前は、支那方面艦隊の司令長官をしていたそうです。話に出す必要も無かったので・・・」

 

 

 

「話を戻します。以前に少し話したと思いますが、
古賀大将は本作戦以前にマーシャル諸島方面・・・地図で言うとグェゼリンに出撃、敵を撃滅しようとしましたが
捕捉出来ずに終わってしまっていました。
そんな不利な状況を挽回したいとの考えで、ろ号作戦を発動したのだと思います。」

「結局、今回も機動部隊の航空隊を投入するのか?」

「・・・そうです。機種は分かりませんが合計で173機がラバウルに投入されました。
練成途上の決戦兵力を消耗戦に投入しなければならない小沢中将閣下の心中は・・・
私には、想像は出来ても解る事は出来ません。」

「心がなんたらって・・・どこぞの使徒の台詞だな。」

「フンフンフンフン(ry」

「ホモ男の真似は止めなさいって。」

「もっとも、母艦機を投入しなければ戦闘の主導権も握れないので、やむを得ない状況だったとも言えますが・・・やはり残念です。」

「じゃあ、どーすれば良かったって思うのよ。」

「分かりません。」

「はい?」

「・・・私個人の考えを述べるなら、やはり母艦機を投入したくありません。
しかし、ラバウル航空隊が消耗しているのもまた事実・・・。」

 

戦力を温存させラバウルを失う
戦力を投入して敵を抑える

 

 

「この二つのどちらかを選ぶしか無いのです。どちらの選択肢も問題があります。・・・だから、私には選ぶ事は出来ません。」

「だが、選ばなければなるまい?それが将たる者の務めだ。」

「・・・そうですね。こんな辛い決断を強いられるのですから、指揮官とは大変な仕事だと思います。」

「お前は分かっているようだな。将兵の命を預かる上官の苦悩というものが。」

「マシュマー様には関係ない話だよね〜。三等兵だもん。」

「何を言うか!私は三等兵などでは無い!」

「そうですよん。マシュマーさんは雑用係なんですから♪」

「誰が雑用係だ!根拠の無いデマを流すのは止めろ!」

「じゃあ、すぐやる係で。」

「小学校の当番じゃないんだから・・・」

「・・・さて、日本軍はろ号作戦を発動させましたが、一方の連合軍も新たな作戦を始めました。
11月1日未明、連合軍はブーゲンビル島西岸のタロキナへ上陸を開始。こちらが詳しい地図になってます。」

 

 

 

「ブーゲンビル?以前にどこかで聞いた様な・・・」

「・・・昭和18年の4月18日、山本五十六連合艦隊司令長官が亡くなられた場所です。
また、地図にあるショートランドはガダルカナル島を巡る攻防戦において幾度も駆逐艦が出発した拠点でもあります。
連合軍は・・・ついに日本軍の要衝の一つに上陸を始めたのです。」

「それがタロキナってとこか。」

「連合軍がこのタロキナを上陸地点にしたのも、上陸しやすい砂浜であり飛行場建設にも適した地形だった事が挙げられます。
連合軍のブーゲンビル島上陸作戦と時を同じくして、日本軍の哨戒隊がブーゲンビル島付近を飛行していました。」

「へ〜、もしかして日本も連合軍の動きを察知してたの?」

「もし、そうなら嬉しいのですが・・・ただの偶然だったそうです。」

「偶然かい・・・。」

「哨戒にあたっていた日本軍の編成は次の通りになっています。」

零戦×44
九九艦爆×8
彗星艦爆×1

「日本軍にしてはずいぶん数が多いな。合計すると50機以上か。」

「ところで、その彗星とやら・・・聞いた事が無いが新型か?」

「・・・そうです。こちらが彗星についての詳しい説明になってます。」

 

艦上爆撃機 彗星

空技廠(航空技術工廠)設計の爆撃機。
最初は研究機という意味合いが強かったが、
後に九九艦爆の後継機となる。
武装・7.7mm機銃 500kg、30kg爆弾

長所・様々な新技術を採用したが故の高性能
短所・水冷エンジンの運用の難しさ

 

 

「ふむ・・・、ようやく日本軍にも新型が現れたか。」

「つーか、ちょっといい?」

「何でしょう?」

「どーせ、また心無いツッコミか言いがかりでしょ。」

「うるさい!人の話くらいちゃんと聞きなさいよ!」

「で、何か?」

「あんた、自分で何とも思わないわけ?」

 

長所
様々な新技術を採用したが故の高性能

短所
液冷エンジンの運用の難しさ

 

 

「こんな説明じゃ何がなんだか分かる訳ないでしょうが!解説するなら手抜きしないでちゃんとしなさいよ!」

「いつもはヲタな話止めろ何て言ってるくせにぃ〜。」

「るさいっ!」

「・・・では、手短に。まず外見から見ても分かるかと思いますが、爆弾が格納式になり胴体内に収容されるタイプになってます。」

「いや、見ても分からないから。」

「やっぱりツッコミ入れてるじゃないですか。」

「うるさいっつってるでしょ!」

「また、引き込み足やフラップを電動化したり、照準装置を新型にしたり
全体的に空気抵抗を抑える為のデザインがとられています。」

「何がなんだか分からないんだけど・・・」

「ほら見なさい!余計に分かりづらくなってるじゃない!」

「では、彗星について一言で総括します。彗星の一番の特徴は水冷エンジンの採用という点が挙げられます。
水冷エンジン・・・つまり、冷却のために水を使用しているエンジンの事です。」

「エヘへ・・・」

「綾波さん!我が同志エルピー・プルが、分からないと申しております!もう少し、分かりやすい説明をキボンヌであります!」

「はぁ・・・、どこから説明を始めたらいいのか分かりませんが・・・とりあえず、始めますね。」

「へ〜い。」

「まずは、日本軍に広く採用されていた空冷エンジンの特徴からいきましょうか。
空冷エンジンはその機構上、比較的単純であると言えます。
もっとも、単純とは言え水冷エンジンと比較しての話ですから、当然ながら整備等に専門的な知識・技術は必要です。
空冷エンジンは、その名が示す通りエンジン冷却に空気を使用しています。
平たく言うなら、エンジンに風を当てて冷やしているという事ですね。
空気を当てて冷やすとなると、エンジンそのものの風の当たる面積を大きく取る必要が出てきます。
しかし、そうする事は空気抵抗を増やす事にもつながり・・・互いは相反する要素と言えますね。」

「また、小難しい事を・・・」

「相反する・・・ヤマアラシのジレンマでつね?」

「使い方違うから・・・」

「・・・一方の水冷式は水をエンジン冷却に使用している為、
機体前面面積を多く取る必要が無く空気抵抗を減らす事が出来るのです。
図を見ていただければ解ると思いますが、どちらが空気抵抗が低いか考えるまでも無いでしょう?」

 

 
空冷エンジン                      水冷エンジン

 

 

「ふ〜ん、て言うと・・・水冷式の方が良いって事じゃん。」

「・・・そうなるのだろうな。」

「しかし、水冷式にも欠点はあります。」

「欠点って?」

水冷エンジンは造りが複雑なんです。
水でエンジンを冷やすと言っても直接エンジンに水をかけて冷やしているわけではなく・・・」

「そんなの分かるって。」

「水冷エンジンはエンジン内部に冷却水の通り道を的確に作り
その上でエンジンの熱を吸収した水を冷やす機構まで作らなければならないのです。無論、水もただ流すだけではなく
加圧しなければまともな冷却効果も得られないので高圧力に耐えられるだけの造りにしなければなりませんし・・・」

「だから、分かりやすくしろっつってるでしょ!なんであんたは、すぐに話をマニアックな方向に進めんのよ!」

「少しは静粛に。ほんとに困った人です。」

「うるっさいわね〜!」

「この彗星に積まれたエンジンは、ライセンス契約を結んだドイツ製のDB601というエンジンが元になっています。
ドイツ軍の主力戦闘機Bf109に搭載されていたエンジンです。思い込んだら一直線のドイツ人が設計したエンジンですから
何もそこまでしなくてもと日本の技術者が思うくらい凝り過ぎていたそうです。
そういえば、海軍と陸軍で別々にライセンス契約を行い別々にお金を払ったのも、このエンジンでしたね。」

「別々に契約って・・・何の話だ?」

「陸軍と海軍が、ドイツの会社と別々に契約結んでたって話よねぇ。ファースト?」

「・・・そうです。」

「日本軍の内ゲバの歴史がまた一ページ・・・」

「違います。」

「どうして別々に契約を結んだの?」

「そんなの、陸軍海軍の仲が悪いからに決まってるわよ。その契約先の人だか誰だかに言われたそうじゃない。
日本はどこと戦争してるのか分からないって。
まったく・・・何が目的なのかワケが分からないわね。」

「・・・耳の痛い話です。もう少し仲良くしてもらえば、多少は状況も良くなったのではないかと思うのですが・・・残念です。」

「何故、そんなに仲が悪いのだ?」

「組織と組織の仲が悪いのはよくある話です。大なり小なり・・・」

「よくある話で済ませんじゃないわよ。」

「・・・ところで、どこまで話が進みましたっけ?」

「さぁ?どこだっけ?」

「日本の新型機彗星の長所短所の話だろう?」

「・・・そうでした。彗星の性能は当時としては一級品のモノだったと見ていいでしょう。
最高速度は時速580km。爆弾の搭載量も先の九九艦爆より多くなっています。」

「なんだ、凄いじゃん♪」

「新型だけあり、彗星は高性能と言えば確かに高性能です。
しかし、その性能を発揮するには稼働率が良くなければならない・・・という大前提を忘れてはなりません。
ここが日本軍にとって大きな問題でした。」

「えへへ・・・どゆこと?」

「まだ分からんのか・・・。」

「ひっど〜い!あたしだって一生懸命聞いてるのに〜!」

「条件反射で人に食ってかかるな・・・。プル、自分の身に置き換えて考えてみろ。」

「ワケ分かんないんだけど。」

「一つ聞くが、お前がキュベレイで出撃出来るのは何故だ?」

「なんでって・・・?」

「撃墜された時や出撃前、修理や整備をしてくれるのは誰だ?」

「アストナージさんとかモーラさんとかでしょ。それがどうしたの?」

「では、そいつらがいなかったらどうする?あるいは、お前のキュベレイの造りが難しく整備出来ないという話になったらどうする?」

「どうなるの?」

「出撃出来なくなるわな。」

「え〜、なんでよ〜!」

「MSに限らず、兵器ってのは消耗品の塊だぞ?整備せずに出撃ばっかしてたんじゃ、遅かれ早かれ壊れちまうぜ。」

「そうでしょうねぇ。私の様に常に稼働率100%なんてありえないでしょうしぃ〜。」

「あんたの話は聞いてない!」

「で、何の話だっけ?」

「・・・つまりだ。お前が出撃出来るのは、後方でバックアップしてくれる人員がいて初めて可能だという話だ。
無論、出撃するパイロットが大切なのは言うまでも無いが・・・後方を預かる連中も等しく重要なのだ。」

「ふ〜ん、マシュマー様にしては珍しくまともな事、言ってるような・・・」

「私は常にまともだ!」

「・・・結局、何が言いたいわけ?」

「話の流れから察するに、日本軍では水冷エンジンの運用をモノにする事が出来なかったのだろう。違うか?」

「・・・概ね当たりです。」

「そういう事だ。高性能機といえど稼働率を高めに維持できなければ本末転倒となる。
だからまとめてあっただろう?」

 

長所
様々な新技術を採用したが故の高性能

短所
液冷エンジンの運用の難しさ

 

 

「性能的には高くとも、まともに運用できなければ兵器としては致命的だからな。」

「で、結局使えたの?その彗星って。」

「全体としては使えなかったと見るべきでしょう。異論はあるでしょうけど・・・。」

「なによ、その奥歯にモノが挟まった様な言い方は・・・」

「言葉の通りですが。」

「彗星が使えなかったなら使えなかったって、ちゃんと言いなさいよ。」

「・・・勘違いしてもらっては困ります。彗星そのものが使えなかった訳ではありません。」

「をい・・・、話を無限ループさせてどうすんのよ。」

「・・・戦争末期、彗星を主機として運用し活躍した部隊の話があるのです。
今はまだその時ではありませんので、説明は控えておきますが・・・」

「また先送りかい・・・。」

「まぁ、いいじゃねぇか。楽しみは後にとっておくもんだぜ?」

「楽しみじゃないってば。」

「ちなみに、この彗星は以前にも戦場に出たことはあります。」

「へぇ・・・そりゃ、いつの話だ?」

「ミッドウェー海戦の時です。もっとも、その時は爆撃機としてではなく偵察機として使用されていたのですが・・・」

「ほう、それでその彗星はどうなったのだ?」

「蒼龍と一緒に海の底ですが何か?」

「チッ・・・」

「なによ、その舌打ちは!ムカつくわね〜!」

「・・・彗星についての説明は、とりあえずこの辺りで止めておきます。それでは次に移りましょう。」

「ようやく、話が進むってワケね。」

「おや?今回の脱線の原因はアスカさんじゃありませんでしたっけ?」

「うるさいっての!」

「・・・いいですか?あまりにも前の話しなので、とりあえずもう一度地図を出しておきましょう。」

 

 

 

「日本軍の哨戒隊は、タロキナへと向かう敵輸送船団を発見し直ちに攻撃に移りました。
しかし、上陸の妨害となりえるほどの損害を与える事は出来ず・・・一度ラバウルへ帰還しました。」

「まぁ、爆撃機が9機ではな。連合軍の事だから数も多いのだろう。」

「先ほどの哨戒隊は補給を済ませると、もう一度輸送船団の攻撃に向かいました。
ですが、今度は連合軍側も十分な迎撃戦闘機を待機させていたため、今回の攻撃も打撃を与える事は出来ませんでした。」

「駄目じゃん。」

「連合軍のブーゲンビル島上陸を黙って見ている連合艦隊ではありません。」

 

第五戦隊
第三水雷戦隊
第十戦隊
輸送隊

 

 

「重巡×2、軽巡×2、駆逐艦×11からなる襲撃隊が編成されました。
急遽編成された部隊ですが、その日の午後3時にはラバウルから出撃していったのです。」

「・・・で、あんたの好きなアレはまた出ないわけ?」

「アレとは?」

「あのデカブツよ!戦況がヤバくなってんだったら、さっさと前線に投入しなさいよ!」

「・・・無茶を言わないで下さい。
その時、大和は連合艦隊根拠地のトラック環礁にあり、迅速さを要求される作戦に大和を待つ時間的余裕はありません。」

「確かにな。」

「む・・・」

「全然、学習能力が無いですねぇ。AI1の方がよっぽどお利巧さんなんじゃないですか?」

「うるっさいわね〜!なんで私があのイカレ女が溺愛してる機械と比較されなきゃなんないのよ!」

「ほら、アスカさんも同じだから・・・」

「るさい!私をあんなのと一緒にすんじゃないわよ!」

「話が分からないのだが・・・」

「すまん、俺もだ。」

「MXの話だからしょーがないって。」

「・・・さて、出撃した日本軍の襲撃隊ですが、この日本軍の動きはすぐにアメリカ軍の知るところとなりました。」

「しるこ?」

「ムリヤリすぎ・・・。」

「・・・アメリカ軍は重巡と駆逐艦からなる第39任務部隊を日本軍の迎撃に向かわせました。
10月2日の00:00頃、両軍は互いにタロキナ沖に向かう途中で遭遇したのです。」

「いつも通りの夜戦だな。」

「ワンパターンって言っちゃえばそれまでよね。」

「昼間は危険ですから・・・。」

「危険って、いつだってそーでしょ。」

「・・・確かに。約一年前に行われたヘンダーソン飛行場砲撃や第三次ソロモン海戦の時に比べたら、
夜戦における日本軍の優位性は崩れていますからね。」

「そうなの?」

「・・・今回行われた夜戦では、アメリカ軍のレーダーが威力を発揮しました。
日本軍も偵察機を飛ばし、敵の存在には気づいていましたが砲撃戦をするにあたり、すでに差が出ているのです。
敵の発砲による閃光を頼りに目視で照準を付ける日本と、
レーダーにより闇夜でも敵に照準を合わせる事が出来るアメリカ軍・・・
どちらが有利かは明白かと思います。戦闘結果は次の通りです。」

 

日本軍
駆逐艦・川内(沈没)
駆逐艦・初風(沈没)
駆逐艦・五月雨(中破)
駆逐艦・白露(中破)

アメリカ軍
軽巡洋艦・デンバー(小破)
駆逐艦・フート(大破)
駆逐艦・スペンス(中破)

 

 

「ボコボコにされてんじゃん。」

「・・・日本軍損傷艦の半分以上は衝突によって生じた被害です。
まぁ、損傷を受けた事には変わりないので、何を言っても詮無いことですが。」

「日本軍もうだめぽ。」

「・・・・・。」

「ん?反論は無しか?」

「これまでは、どうにか互角に戦えていましたが・・・そろそろキツくなってきます。
今回の海戦でも、本来の戦略目標である陸兵の上陸作戦は果たせていませんから・・・。」

「そうなの?」

「・・・元々、急ぎで立てられた作戦なので、揚陸作戦に必要な時間が得られなかったという事もあります。
戦果のみで見れば、日本軍のほうが大打撃を受けていますし・・・今回の海戦は日本軍の敗北と見て差し支えはないでしょう。」

「残念だったわね〜。夜戦でも負け始めてるんじゃ本当にもう駄目ね。」

「・・・・・。」

「反論はしないんでつか?」

「するだけ無駄ですから・・・
翌日11月3日、ろ号作戦発動を受け栗田中将率いる艦隊がトラックの連合艦隊司令部からラバウルへ進出しました。」

 

日本軍

第四戦隊・愛宕、高雄、摩耶、鳥海
第七戦隊・鈴谷、最上
第八戦隊・筑摩(重巡)
他軽巡×1、駆逐艦×4

 

 

「・・・合計12隻からなる大艦隊です。出発から2日後の11月5日早朝にはラバウルに入港しています。」

「あのデカブツは?」

「連合艦隊根拠地のトラックにありますが何か?」

「何かじゃないでしょ!前は時間が間に合わないとか言ってたけど、今度は違うでしょ!何でいつもいつも後方で遊ばせとくのよ!」

「なんでこの嬢ちゃんはそんなこだわってんだ?」

「こういう事だと思いまつよ。」

 

自分の人気がまるで無い

綾波さんが気に入らない

彼女の大和贔屓が気に入らない

大和が使えない事を証明する

綾波さんに勝利

自身の人気が上がって(・∀・)ウマー

 

 

「これで、十中八九当りだと思うんですけどね。」

「な〜るほど。納得納得。」

「逆恨みか、恐ろしいものだ。」

ちがわい!

「おや、違うんですか?」

「あったりまえでしょ!ファーストは気に入らないけど、何で私が逆恨みなんかしなきゃなんないのよ!」

「ダブルスコアで人気投票負けてるって聞きましたよ?」

「るっさい!いつの話を持ち出してきてんのよ!」

「でも、大体当たりだろ?」

「当たりじゃない!私が気に入らないのは、ファーストが全然反省してないからよ!謙虚さが足りないのよ謙虚さが!」

「・・・・・。」

「反論は何も無いのか?」

「・・・今、説明しなくてもいずれ分かってくれるでしょう。とりあえず、次に移りたいと思います。
一応、アスカの疑問に答えておきますが、大和を動かさなかったのは燃料の問題です。」

「燃料?」

「大和1隻満タンにするのと重巡3隻満タンにするのは、ほぼ同じ重油量です。
大和を動かすより重巡を動かした方が良いと判断したのでしょう。
それに、見方を変えれば大和はトラックの防備に回っていたとも取れますし・・・つまりはそういう事です。」

中途半端な説明は止めなさいよ!」

「結局、どういう事なの?」

「だから言っているだろう、燃料の問題だと。
少ない燃料を有効活用するのなら、戦艦1隻より重巡3隻の方が良いと判断したのだろう。」

「・・・ラバウルに進出した栗田艦隊ですが、この一連の動きもアメリカ軍に察知されていました。
しかし、南太平洋方面艦隊指揮官ハルゼー大将の手元には水上戦で対抗出来る手駒は不足していたそうです。」

 

正規空母・サラトガ
軽空母・プリンストン

 

 

「上記2隻の空母からなる第38任務部隊をラバウル空襲に向かわせたのです。」

「サラトガか〜。随分久しぶりの登場だね、それ。」

「・・・戦争初期に日本軍潜水艦の雷撃をたびたび受けていましたからね。
ミッドウェーにも南太平洋海戦にも参加していませんから、やや馴染みが薄いのかもしれません。」

「それはあんたの主観でしょうに。」

「また、軽空母のプリンストンは搭載機数こそ少ないものの、週一空母とは違い高速航行可能です。
機動部隊の空母としては十分な性能と言えるでしょう。」

「週一空母?」

「・・・以前にも少し話しましたが、アメリカ軍が大量生産した護衛空母の事です。
その名の通り、週一ペースで空母が竣工していったので・・・日本にしてみれば恐ろしい話ですね。」

「うんざりする話だな・・・。」

「・・・話は変わりますが、ラングレー(2代)もこのインディペンデンス級空母として建造され運用されています。」

「何で私を見ながら言うのよ?」

「( ・∀・)つ〃∩ ヘェー」

「1へぇ・・・、少ないんだね。」

「ところで、一つお尋ねしたいのですが・・・」

「どうしました?」

「そのラングレーさんは魚雷ですか?爆弾ですか?砲弾ですか?」

「?」

「あんた、何言ってんの?」

「やだなぁ、ラングレーさんへの止めの一撃が何だったのか?という問いに決まってるじゃないですかぁ♪」

「あんたは〜っ!」

「・・・軽空母ラングレー(2代)は数々の海戦に参加していますが、終戦まで生き延びていますよ。」

「な〜んだ、がっかり〜_| ̄|○」

「うるさいっての!」

「でも、終戦まで生き残ってるんだから、結構凄いよね〜♪」

「・・・まぁね、やっとまともな空母が出てきたって気がするけど。」

「あんたの名前に関係してる空母は・・・だろ?」

「ええ。これまでのが酷すぎたからってのもあるけどね。」

「蛇足になりますが、軽空母ラングレー(2代)は戦後フランスに貸与されています。
数年間使われた後、アメリカに戻され最終的にはスクラップにされてしまっていますが・・・」

「本当に蛇足じゃない!余計な事をペラペラ喋るんじゃないわよ!」

「身売りされたあげくこき使われて、払い戻されたと思ったら氏んじゃったって感じですねぇ。」

「うるさい!」

「でも、すっきりしました。心は晴れやかでございます♪」

「・・・そうですか。私はただ、軽空母ラングレー(2代)のその後を話しただけなのですが・・・お役に立てて何よりです。」

「つーか、2代2代うるさいわよ!どこぞのボンクラ商人の跡取り息子じゃあるまいし!」

「・・・別にアスカの事を呼んでる訳じゃありません。ムキになる必要は無いと思いますけど。」

「うるさいっつってるでしょ!ファーストのくせに私に口答えするんじゃないわよ!」

「ジャイアニズム・・・」

「のび太のくせに生意気だぞ〜♪」

「何の話なのやら・・・」

「・・・話しを戻します。ラバウル空襲に向かった攻撃隊の編成は次のようになってます。」

 

アメリカ軍
F6F戦闘機×52
SB2C爆撃機×22
TBF攻撃機×23

 

 

「なんかなつかしーね。」

「なにがです?」

「ほら、こんな風に説明するのってしばらく無かったじゃん♪だから、なんとなく懐かしいな〜って。」

「・・・確かに、その通りですね。」

「・・・それにしても、さすがはアメリカだな。」

「何がよ?」

「・・・気づかんか?」

「分からないから聞いてるんでしょうが。で・・・何なのよ?」

「アメリカ軍の戦闘機と爆撃機が見知らぬ名前になっている。状況から察するに新型と見ていいだろう。違うか?」

「・・・その通りです。」

「へぇ〜、あんたにしては結構注意力あんのね。」

「何をいうか。指揮官たるもの常に冷静に状況を観察しなければならぬもの・・・。
些細な事でも見逃す事は命取りに繋がるかもしれんからな。」

「でも、三等兵じゃん。」

「黙れ!私は三等兵では無いと何度言えば分かるのだ!」

「じゃあ、階級は?」

「・・・無い。そもそも、我々の組織は特殊だからな。」

「じゃあ、三等兵じゃないって言い切れないじゃん♪」

「じゃあとは何だじゃあとは。三等兵で指揮官などありえん。そもそも、三等兵というクラスが本当にあるのか?」

「さぁ・・・」

「一番下っ端は二等兵じゃなかったか?」

「じゃあ、分からないから保留って事で。」

「少しくらい調べなさいよ・・・。」

「とりあえず、誤解は解けたようだな。くだらんデマを吹聴しおって・・・」

「え〜。アクシズは他の組織と違うんだから、三等兵って括りがあっても不思議は無いと思うんだけどなぁ〜。」

「同志エルピー・プルがそう仰るのなら異論はございません。」

「黙れ!」

「・・・話が進まなくなりそうなので、脱線はほどほどにお願いします。」

「すまんな・・・。」

「はぁ〜い。」

「とりあえず、アメリカ軍の新型について少し説明しましょうか。」

 

F6Fヘルキャット

F4F戦闘機の後を継いだ艦上戦闘機。
頑丈、高出力が特徴。
武装・12.7mm機銃×6、90kg爆弾

 

 

「あれ?これには長所とか短所は無いの?」

「日本軍のエースパイロットの方々に言わせると
格闘戦はたいした事が無かったそうです。ですが、長所短所とするには不適格かと・・・」

「そうなの?」

「・・・実際の戦果で見れば、このF6Fは零戦を圧倒したと言ってもいいくらいの成績を残しています。
また、その頑丈さゆえにパイロットの生存率も高いため、無意味に人的資源を枯渇させる事もありません。」

「ふ〜ん、鬼畜米英のあんたにしては珍しい意見ね。」

「私は別にアメリカ嫌いではありませんが・・・」

「話、逸れてますよ?」

「・・・失礼しました、F6Fは格闘戦において零戦には遠く及びませんが、そこはそれ。
どんな兵器も使い方次第ですから、一概にどうとは言えません。」

「話しぶりから察するに、優れた機体だったようには思えるが・・・」

「・・・戦況の推移を見る限り、艦載機としては優秀だったと言えるでしょう。
もっとも、日本軍の劣勢は零戦の後継機の完成が遅すぎたというのもありますが・・・」

「そういや、そんな話を聞いたような聞かないような・・・」

「・・・日本軍は戦争初期の零戦を改造する事で間に合わせていました。
しかし、改造を加えると言っても零戦は元から完成機でしたからね。高機動、重武装、航続距離の長さ・・・
限界まで切り詰められた機体の改造ですから、改造するにしても難しい話だと思われます。」

「完成機ってのはどういう事よ。力不足で戦況にそぐわなくなってきてるでしょうが。」

「またイチャモンでつか?」

「違うわよ!ファーストの言ってる事がメチャクチャだから指摘してるだけ!」

「・・・何か間違った事を言いましたか?零戦は紛れも無く完成されています。」

「またワケの分からん事を・・・」

「零戦は登場した時点では間違いなく世界最強でしたが、
次世代機であるF6Fに対抗出来ないのは必然だったとしか言えません。
日本軍はF6Fに相当する機体を戦争に間に合わせる事が出来なかったのですから・・・これは間違いなく国力の問題だと思います。」

「国力かぁ〜、それじゃしょうがないよね。」

「そうだな。」

「ちょっと待ちなさいよ!そんな事ばかり言ってちゃ反省になんないでしょうが!」

「・・・反省してますよ。」

「どこがよ!あんたは口を開けば国力だの運だの、言い訳してばっかじゃない!」

「・・・言い訳ではなく純然たる事実です。何かいけませんか?」

「あ〜もう、あんたは〜!問題点なら腐るほどあるでしょ!
大体、さっきの後継機が間に合わなかったって話だって海軍の無能が悪いんでしょうが!」

「・・・・・。」

「反論はしないのか?」

「・・・脱線しても良いなら。」

「どうします?」

「ん〜、最近話が逸れすぎだから真面目に進めたほうが良いような気がするが・・・」

「何の話の途中か忘れちゃいそうだしね・・・。」

「でも、後回しにして忘れちゃったりしたら後味悪いと思うな。どーせなんだから、脱線続けちゃってもいい気がするけど。」

「そうそう。」

「ふむ、一理あるな。」

「ん〜、じゃあそうするか。」

「皆さんがそう言うのなら・・・。」

(へへへ、うまくいったね♪あたしはレイに賭けるね。)

(はい、私はアスカさんに全部という事で。大穴ですからねぇ。)

「・・・で、どう反論するつもりよ?」

「それ以前に、基本的な説明が無ければ何の事だか話が見えないと思うのですが・・・」

「まぁな。予備知識が無けりゃ全然分からんし。」

「そうね。じゃ、テキトーに説明するわ。」

「大丈夫なんですか?」

「うるさいわね〜!少しは静かにしなさいよ!」

「で、どうした?」

「そうね。え〜と・・・、日本軍の後継機が間に合わなかったって話はしてたわよね?」

「そうだけど・・・それがどうしたの?」

「その後継機・・・烈風てんだけど、エンジンの選定で間違いがあったのよ。
その間違いが無ければ戦争に間に合ってたかもしんないのにね。」

「・・・・・。」

「エンジンの選定に間違い・・・どういう事だ?」

「あたしも分からないんだけど・・・」

「だから、その新型に載せるエンジンに二種類の候補があったのよ。
で、海軍の石頭が誉っていう方を選んじゃったの。」

「それの何が悪いんだ?二者択一だろ?」

「でも、その誉ってエンジンは別のトコで作ってるヤツでね。烈風作ってる技術者は反対したらしいのよ。
自社のエンジンが良いってね。でも、海軍は耳を貸さずに誉を採用しちゃったってわけ。」

「それの何が悪いんですか?」

「まだ話が終わってないっての!最期までちゃんと聞きなさいよ!」

「え〜ん、アスカさんが怒鳴った〜、鬼、悪魔、嫁き遅れ〜・゚・(ノД`)・゚・」

「まぁ、いつもの事だがな。」

「で、その誉ってエンジン積んだ烈風が昭和19年5月に完成したらしいんだけど
零戦に毛が生えた程度の性能しか発揮出来なかったのよ。
結局、三行半食らいかけたんだけど、技術者が独自に自社のエンジン積んだら見違えるような性能を発揮しちゃったのよ。
でも、時すでに遅しってヤツで、量産体制に入りかけた時に終戦になっちゃったってオチ。」

「嫌なオチだな・・・。」

「・・・で、何が悪かったの?」

「技術者の言う事を聞かなかった海軍の石頭に決まってるでしょ。私には何がしたかったんだかさっぱり分からないわ。」

「これは・・・どう判断すれば良いのだ?」

「話、聞いている分には・・・海軍が悪いわな。」

(大穴キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!)

「フフン。どう、ファースト?これでも何か反論出来る?」

「・・・確かに。エンジンの選定を間違った事は確かですし異論はありません。技術陣の言い分が正しかった事も事実です。」

(敗北宣言キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!)

(うそ・・・)

(さ、プルさん。勝負は勝負でつ。ちゃんと掛け金下さいね♪)

(あ〜、ショック〜・・・)

「お前達、さっきから何コソコソやってるのだ?」

「え、ううん、別に〜・・・」

「そうでつそうでつ。たいした事じゃありませんよ。」

「これで、海軍の無能っぷりは証明されたわね。あ〜、スッキリした〜。」

「・・・誰が無能なんですか?」

「はい?あんただって認めたじゃない。エンジン選び間違えてたって。」

「・・・そうですよ。ですが、勘違いしてもらっても困ります。
間違い=無能というのではあまりに短絡的過ぎます。もう少し深慮が必要かと思いますが・・・」

「考えてるわよ!どー考えてもおかしいでしょうが!」

(なんか雲行きが・・・)

「さっき私が言ったでしょ!烈風作ってた技術陣も誉エンジンに反対してたって!
作ってる本人らが反対してんのに、何で強硬採決しちゃうのよ!」

「・・・以前に少し話しましたが、
高性能な機体を開発したとしても稼働率が高くなければ意味はありません。ここまでは良いですか?」

「なに、つながりの無い話してんのよ。今は彗星の話じゃないでしょ。」

「繋がりはあります。誉とA20では性能以外にも差はあるのですから。」

「ワケの分かんない話すんじゃないわよ。もっと具体的に言いなさいよ、具体的に。」

「突き詰めると、やはり国力の問題という事になりますが・・・」

「をい!」

「・・・開発陣が推したA20は選定当時、開発段階のエンジンに過ぎませんでした。
一方の誉は他機種への採用も決まっていたエンジンです。」

「だからなによ?」

「あたしも分からないんだけど・・・」

「・・・無闇にエンジンの種類を増やす事は、余裕の無い日本にとって賢明な選択とは言えません。
エンジンの種類が違うという事は生産ラインの増加だけではなく、配備されうるであろう前線にも大きな手間となります。」

「まぁ・・・そうかもしれんな。彗星の件もある。」

「・・・結果的にA20が使えた事は事実ですが、全体的な流れを見れば誉を選択した海軍の判断も分からなくはありません。」

「で、結局はどうなんだ?」

「・・・誉エンジンが使えない事、A20が使える事をあらかじめ知っていればA20の方を選ぶでしょうね。
ですが、技術者の意見具申があったとはいえその性能は未知数だった訳ですから、
危険な賭けに出られなかったというのが正直なところだと思います。」

「結局は先見の明が無かったって事でしょ。」

「・・・いいえ、結果的に間違っていたとしても、その他の要素も合わせるなら間違いとは言い切れません。
量産体制に入った不安の残るエンジンと未完成で性能未知数の専用エンジンのどちらを選ぶか?というだけの話であって、
どちらの選択にも長所短所があるだけです。」

「結局はいつも通りの様だな。」

「どゆこと?」

「どちらの決断も間違いでは無かったという事だ。
もちろん、結果的に見れば間違いは明白だが・・・あのアスカとやらの言う様に海軍=無能と言うほどの説得力は無い。
何事も、決断するにはそれなりの理由があるのだからな。」

(て事はあたしの勝ち?ねぇ、あたしの勝ちかな?)

「ぐぬぬぬ・・・」

「どうした?・・・腹でも痛いのか?」

「アスカさん!一体どういう事ですか!
貴女が自信満々だから・・・私はお手当てを全て賭けたというのに!貴女は・・・貴女はぁぁぁぁ!」

「あんた、なにマジ切れしてんのよ。」

「キレたくもなります!あの時、貴女は自身に満ち溢れた地球に来た時のべジータさんなみの顔をしていたのですよ!
必ず勝つと信じて私のお手当ての全てを、我が同志エルピー・プルとの賭けに興じたと言うのに・・・ムキィーッヽ( `Д´)ノ」

「プル、賭けとはどういう事だ?
高尚なるネオジオン軍人たるもの・・・ましてや、私の指揮下でその様な不毛な行為をするとは言語道断!」

「あ〜あ、バレちゃった〜・・・。」

「あ・・・すみません。つい。」

「あんたら、何してんのよ・・・。」

「まぁ、話をまとめるとアスカさんの返り討ちという事でFA?」

「う〜ん、どうだろうな〜。」

「ファイナルアンサー?」

「じゃ、50:50を使おうかな。」

「あんたらも無意味な脱線すんじゃないわよ!そもそも、私が返り討ちってのはどういう事よ!」

「・・・正解。」

「るさい!」

「まとめるなら、決断そのものは間違っていたが、その選択にも理由はあった・・・と言ったところか。
どちらも正解と言えるしどちらも間違いと言える。」

「う〜、難しいなぁ。もう少しカンタンになんないのかな。」

「物事がそこまで単純なら苦労は無い。ましてや、軍の命運をかけた決断なのだからな。」

「だからって、使えない戦闘機作ったってしょーがないでしょ!」

「・・・誉エンジンは大東亜決戦機とも呼ばれ大量生産された
陸軍の四式戦闘機こと疾風にも搭載され高い性能を発揮していました。
選定時期に四式戦は無かったと思いますが、
誉エンジンが所定の性能さえ発揮していれば海軍の決断は間違いにはならなかったのです。」

「んな、仮定の話を持ち出してどうすんのよ。そのエンジンが使えなかったのは証明されてるでしょうが。」

「そこが国力の差というものです。
四式戦も高い性能を発揮しましたが、エンジン性能のバラつきにより所定の性能を出せない事が多々ありました。
しかし、この問題は日本の工業力が高ければクリア出来る話です。」

「ねぇ、陸軍と海軍って飛行機違うの?」

「そうですよ。」

「アメリカより大変なんでしょ?なのにバラバラにやってちゃ勝てるわけないじゃん。」

「・・・そこは耳の痛い話です。しかし、そればかりはどうしようもありません。」

「だから、日本は駄目なのよ。」

「どさくさに紛れて不穏当な発言はなさらないで下さい。」

「ところで、エンジン性能とやらは国力が高ければ本当に解決できる問題なのか?」

「・・・そのはずです。エンジン性能のバラつきが出たのは生産ラインに不備があったため・・・
材質の悪化や熟練工の不足などが原因でしょうから。
国力の違いと言うのは、物質的な資源だけの問題ではありません。
新型を開発しようにも日本の様に開発者の層が薄いのでは、思うように事は運びません。
先ほど話に出た海軍の次世代艦上戦闘機である烈風も計画では昭和16年には開発に着手する予定でした。」

「昭和16年?それって戦争始まる前の話じゃねーか?」

「そうですね。開発に一年を要したとしても昭和18年には量産化されていた事でしょう。全てがうまくいけば・・・の話ですが。」

「なんで、そんなに話が延び延びになってんのよ?」

「開発陣が零戦の改造や他の機体の開発に追われていたからです。これは、優先順位の違いですね。
・・・と言う事で、次に移りたいと思います。」

「ちょっと!中途半端に説明を止めるんじゃないわよ!」

「・・・話は終わっていますよ。エンジンの選定に間違いはありましたが後だから言える話という結論です。
開発陣の意見は的を得ていましたが、開発の後の運用の事まで考えていたかと言えば・・・正直どうなのかは分かりません。
効率化を優先するなら誉エンジンを選んだ海軍の決断にも一理はあるのです。」

「む・・・。」

「やっぱり返り討ちじゃないですか。」

「うるさいうるさい!」

「まぁ、いつも通りだがな。」

「ついでですから、改造された零戦についても説明しておきます。」

 

零式艦上戦闘機52型

零戦に改良を経て採用された機体。
過給器が改良され初期型より馬力が上昇している。
武装・13mm機銃×3、20mm機銃×2

長所・速度上昇、機体強度の強化。
短所・航続距離、運動性の低下

 

 

「これ・・・、性能上がったのか?下がったのか?」

「全体的に性能は底上げさていると思いますよ。
もっとも、初期型零戦に乗りなれたベテランの方々は初期型を好んで選んでいたという話もありますが・・・
現場の戦闘機パイロットには軽快な機体が好まれたそうですから。」

「せっかく改造したのがあるのに、前の飛行機の方が良いの?」

「・・・さぁ?それは個人個人の問題でしょう。
エースパイロットの方々に言わせれば当たらなければどうと言う事は無いを地でいっていたのでしょうからね。
初期型零戦は高々度でのエンジン出力に問題はありますが、低高度の格闘戦ならF6F相手であろうと十分戦えたそうです。
どんな兵器も使い様という事ですね。」

「ん〜、シャア少佐?」

「当たらなければ大した事無いって・・・そりゃそうでしょうけど、そう都合よくいくもんなの?」

「・・・人次第ですよ。まぁ、呪文を唱えていれば弾も避けてくれるかもしれませんけど。」

「何の話だ?」

「まぁ、その話は置いといて・・・そろそろ、話を本題に戻しますけどよろしいですか?」

「異議無し!」

「文句無いなら叫ぶんじゃないわよ。」

「で、どこまで話が進んでた・・・もとい、どこで止まったんだ?」

「・・・ブーゲンビルでの海戦後、アメリカ軍の機動部隊第38任務部隊によるラバウル急襲の寸前までです。
その時、ラバウル港にはトラックから進出した栗田艦隊・・・重巡を中心とした艦隊が進出しています。」

「説明お疲れさま〜♪」

「・・・どうも。」

「次いってみよ〜!」

「おいっす〜♪」

「・・・・・。」

「・・・アメリカ軍によるラバウル空襲は完全に奇襲となりました。
ラバウルに到着したばかりの栗田艦隊は艦の速度が上がらないうちに次々と被弾。多数が損害を受けました。」

「何やってんだか・・・。」

「また、その後アメリカ陸軍航空隊の攻撃も受け、栗田艦隊の損害はさらに増加してしまいました。
あまりの損害に栗田艦隊はトラックに引き返せざるを得ませんでした・・・。」

「ちょっと待ったぁっ!」

「うわ、ビックリした〜!」

「どうしたのだ?いきなり大声を出して。」

「どうしたもこうしたも無いわよ!あんた達、何も不思議に思わないの?」

「何が?」

「だ〜か〜ら!その栗田って人よ!何で支援に来たと思ったらすぐに帰っちゃうのよ!」

「・・・被害甚大だったからです。機動部隊の攻撃隊と陸軍航空隊、合計200機強もの大部隊です。
もちろん、日本軍も対空砲火や迎撃隊、艦艇からの高射砲での攻撃で応戦しましたが・・・
先ほども言いましたが、被害が甚大だったのです。」

「なんで、敵が来るまで気付かなかったのよ?」

「何を言っているんです?気付かなかったから奇襲になってるんじゃないですか。」

「うるさい!」

「・・・日本軍が地対空レーダーを実用化出来たのは大戦後期です。
この頃の日本軍に早期警戒を期待するのは酷かと思います。
それに今回のラバウル空襲において、第一撃を加えたのは機動部隊によるものです。
当時の日本軍にとって機動部隊による攻撃がいかに防ぎがたく恐ろしいものか
ここまでの説明を聞いていれば分かるかと思います。
戦争初期の散発的な空襲に始まり、日本に戦略的ダメージを与えたドゥーリットル空襲・・・
そして、昭和18年の現在に至るまで日本軍は有効な対処法が見出せていないのが実情です。」

「何で新撰組の中の人?」

「まぁ、その台詞の時は明治政府の中の人ですけどね。」

「つーか、中の人なんかいないけどな。」

「何の話よ・・・。」

「やはり、レーダーの有無は大きな差か・・・。」

「・・・そうでしょうね。目視に頼らなくとも、目視以上の範囲を監視出来るわけですから。
もちろん、レーダーだけの問題でも無いでしょうけど。」

「なぁ、やっぱりアレか?」

「アレって?」

「負けるべくして負けたってヤツ。つーか、一方的に攻撃食らうわ、打って出たら返り討ちに遭うわじゃ・・・勝てるわけねーだろ。」

「それもそーだね・・・。」

「まるでどっかの誰かさんみたいでつねぇ〜(・∀・)ニヤニヤ」

「良い度胸してるわね、アンタ。」

「・・・さて、ラバウルに進出した栗田艦隊は何もせずに引き返す事になってしまいましたが━━━」

「だから、待ちなさいっての!話が終わってないでしょうが!」

「?」

「なんで、すぐに引き返しちゃったのよ?せっかくの大艦隊だったんでしょ?」

「・・・その艦隊のかなりの艦艇が損傷を受けているのです。
損傷した艦を、意味も無く前線に置いておいても何の効果もありませんからね。」

「そりゃ、そうだわな。」

「じゃあ、何のために前線にまで持ってきたのよ!すぐ帰っちゃたんじゃ意味が無さ過ぎるでしょうが!」

「損傷した艦を意味も無く前線に置いておく方が無益です。
進出して即撤退というのはあまり良いものではありませんが・・・仕方の無い事なのです。」

「私はどうしても納得出来ないんだけど。」

「・・・進出した日に即空襲ですからね。納得できないその気持ちも分からなくはありませんが、
意固地になって前線にしがみついても損傷が直るわけはありませんし・・・苦渋の決断だったと言えるでしょうね。」

「でも、司令官はあの栗田って人でしょ?どーしてもイメージが・・・」

「悪いのか?」

「そう。ミッドウェーでだってさっさと逃げちゃってるし・・・」

「・・・・・。」

「でもまぁ、実際のところはどうだか分からんだろ?確かに消極的かもしれんが裏を返せば慎重だったとも言えるしな。」

「慎重すぎるのかもしれませんけどね。」

「・・・まぁ、好き嫌いは人それぞれですから。その辺りに関しては言及しません。」

「ねぇ、レイは誰か嫌いな人いないの?」

「はい?」

「聞くまでも無いでしょ。綾波さんが嫌いな人ってこの人ですから。」

「人を指差すんじゃない!」

(どうやって指差しているのかしら・・・?)

「だって、出す人出す人・・・みんな悪く言ってないじゃん。誰かいないのかな〜と思って。」

「・・・そうですね。あのペテン師大統領はどうしても好きになれませんが。」

「あんたのルーズベルト大統領嫌いは筋金入りだものね。」

「違う違う。アメリカって方じゃなくて日本で。誰かいても良いような気がするんだけど。」

「それもそうでつね。人間なんですからコイツ使えないじゃ〜ん!みたいな。
そんな人の1人や2人いてもおかしくはありませんですよ。」

「・・・特にいませんが何か?」

「えぇ〜!つまんな〜い!」

「・・・いないものは仕方ありません。」

「え〜、有名どころで言うと辻さんとか牟田口さんとか南雲さんとか色々言われてるじゃないですか〜。」

「それ言ったら、栗田って人も散々だろ。叩けばまだまだ出てきそうだが。」

「・・・後からならいくらでも言えます。
確かに、過去の失敗を教訓にする事には賛成ですが・・・先人を否定するつもりはありません。
その辻さんにしてもよく知らないので言及は避けておきます。精神論についても見方を変えれば随分変わるものですから。
・・・私としては、日本を守る為に戦われた方々を咎めるつもりはありませんよ。」

「随分とまぁ、優等生らしい答えね〜。」

「他に言いようがありませんから・・・」

 

 

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