ビスマルク海海戦
「反省ですか・・・。
もし次があるならドイツがソ連に攻め入った時、それに呼応して日本もソ連に攻撃を加えましょう。その次に・・・」
「待った待った!そういう反省じゃないわよ!」
「・・・残念です。さて、次の講義はビスマルク海海戦にしようと思っていたのですが止めます。」
「はい?いきなり何を言い出すのよ?」
「何でまた?流石に飽きたか?」
「微妙に違います。
これから先を考えて全体の見通しを立ててみたのですが・・・
恐ろしく長くなりそうなので、削れるところは削っていきたいという事で。」
「要は手抜きって事でしょ?」
「・・・以前のペースで進めると、三桁になっても終わらないかもしれませんよ?」
「え〜!そんなにかかるの〜?」
「・・・だから、方策の転換なんです。それに、昭和18年はそれほど大きな戦闘は行われていませんから。」
「そうなのか?」
「・・・被害としては甚大だったのですけどね。
昭和18年、アメリカが着々と戦力を増強している間、日本は再建した航空隊を戦場に逐次投入。
結果的に戦力を消耗させていたのです。」
「よく分からないんだけど。」
「どこから話せば良いものか・・・。とりあえず当時の日米航空戦力の比較から始めましょうか。」
「・・・またヲタな話が始まるって訳ね。」
「・・・今回はすぐに終わります。心配は要りませんよ。
前年の昭和17年の日米航空機の生産数は次の通りになっています。参考までにどうぞ。」
日本・8861機
アメリカ・47836機
「この差は・・・圧倒的ではないか。」
「・・・そうですね。ちなみにイギリスは約23000、ドイツが約14000程です。
どちらが有利でどちらが不利かは説明するまでも無いと思います。
短期決戦でなければアメリカとの講和の可能性は無い・・・と、以前話したと思いますがこういう事です。
短期決戦・早期講和の考え方は山本大将のものですが、彼はアメリカの駐在武官の経験がありました。
アメリカの実情を知っていればこそ・・・この結論に至ったのだと思われます。」
「まぁ・・・、ここまで数字が明確だと何も言えねぇわな。」
「ホントホント、こんなんでよく戦争する気になったね〜。」
「いえ・・・散々既出ですが、日本はアメリカと戦争するつもりは無かったのです。
勝てない事が分かっているのに戦争なんかしても意味はありませんからね。」
「でも、やっちゃったんじゃん。」
「必要最低限の資源を確保しなければ、国家として立ち行かなくなってしまう・・・これは必然です。」
「あんたさぁ、日本は戦争する気が無かったって言ってるけど・・・
南雲なんたらって人は開戦したがってたって聞いたんだけど。」
「・・・それが本当かどうかは知りませんが、早期開戦を求める意見が出てくるのも至極当然だと思いますが。」
「はい?あんた矛盾してない?」
異議あり!!
「被告の証言は明らかにムジュンしている!」
「なんだと!フフフ、成━━━」
「だから止めなさいってば。」
「何のネタだ?」
「知らん知らん。私に聞くな。」
「開戦が遅れればその分だけ日本が不利になる。
だからこそ一刻も早い開戦を望む・・・との意見なのですから、十分理にかなっていると思います。」
「じゃあ、山本なんとかって人と意見が違ってんじゃん。結局どーすりゃ良かったってのよ?」
「・・・さぁ?開戦前、アメリカは交渉と称して時間稼ぎをしていただけですからね。
交渉により、日本の安全が保障されたとは考えにくいと思います。」
「つまり、交渉は無駄だった・・・と?」
「・・・そうでもありません。開戦するにしろ、あまり早期では日本の準備すら整っていませんから。
開戦前の日本の交渉や軍事的な準備に関しては、ベターな選択だったと思われます。
結果的に真珠湾で成功を収める事が出来たのですから・・・」
「・・・その後を考えると、私はあんたみたいに大日本帝国万歳思想にはなれないのよね。
中国から撤兵しろってんならそーすりゃ良かったんじゃないの?」
「異議あり!当時、中国という国は存在しない!」
「いちいちうるっさいわね〜っ!そんなの分かってるわよ!中国大陸よ中・国・大・陸!」
「中国大陸って呼び名は当時あったんですか?」
「んなの私が知るわけないでしょ!そーいう細かいところは気になる人が調べればそれで良いでしょうが!」
「・・・中国大陸からの撤兵など無理な相談です。
軍隊の仕事には治安維持の役割もありましたからね。
治安の悪い中国大陸から撤兵してしまえば・・・満州の一般居留民がどうなるかは通州事件の例からも分かるかと思います。」
「通州事件?」
「・・・例えに出して何なのですが、あまり語りたくありません。別のところで紹介されているのでここでは避けますが・・・」
「それだと説明にもなってないでしょうが。大まかに話すくらいなら良いでしょ?」
「じゃあ、一言で・・・通州事件は日本人虐殺事件というものだと理解していただければ十分かと思います。」
「虐殺・・・?」
「そうです・・・。
その時犠牲になられた居留民の方達は、ただ殺されるのではなく・・・あまりに酷い殺され方をされているのです。」
「酷いって・・・どんな?」
「・・・知らない方が良いでしょう。少なくともある程度の年齢に達するまでは。」
「このゲームにはグロテスクな表現・内容・描写が含まれています。」
「それは違うでしょ。」
「本筋からズレるのでこれ以上は止めますが、
通州事件から分かる事は軍隊無しでの中国大陸は危険という事です。
ある程度の軍事力が無ければ、安全を確保する事など出来ません。
故にハル・ノートの受け入れは不可能・・・当然の結論ですね。」
「どうしても?」
「無理です。それともなんですか?居留民を見捨てて撤退する事が最善の手だったとでも言うのですか?」
「む、それは違うけど・・・。」
「・・・百歩譲ってハルノートを受け入れたとして、当時の帝国陸軍がすんなり撤退するとでも?
もし、1941年の時点でそんな事をすれば、ほぼ確実に内乱が起きていたでしょうね。」
「内ゲバ?」
「・・・違います。一緒にしないで下さい。」
「お前は・・・。やれやれ、どうでもいい知識だけは豊富なのだな。」
「凄いでしょ?」
「いや、そういう問題じゃ無いと思うけど・・・」
「・・・と言う訳で、開戦を決意した当時の政府の決断は間違ってはいなかった、と言う事でよろしいですか?」
「異議あり!」
「はい?何であんたが口を挟むのよ。」
「良いじゃないですか。私が貴女の力になってあげようと言うのです。」
「・・・いい加減、先に進めたいのですが。」
「異議あり!まだまだ日本の悪行を否定は出来ませんですよ!」
「悪行って・・・。」
「戦争は国連で禁止されているんでつ!よく分からないですが駄目なものは駄目!平和に対する罪は重いのです!」
「・・・いつの間にか話がズレてしまっていましたが、日本はそんなこんなで戦争に突入してしまったわけです。」
「シクシク・・・酷いです、無視するなんて。」
「・・・当時、戦争は禁止されていませんし、平和に対する罪もありません。
難癖をつけるにしても、もう少し熟慮の上で実行した方がよろしいかと思います。」
「てへっ、返り討ちにあっちゃった♪」
「つーか、考えてから発言しなさいよ。言ってる事がメチャクチャじゃない。」
「だって〜、世の中にそういう意見があるのは紛れも無い事実ですしぃ〜。
やっぱり意見があるという事は検証の必要もありますしぃ〜。」
「ええ〜い、鬱陶しい!その物言い止めんか!」
「話が大きく逸れてしまいましたが、緒戦の日本軍は事前の準備もあってか連戦連勝でした。しかし・・・」
「どしたの?」
「・・・日本には確固たる道筋がありませんでした。
もちろん、アメリカと講和を結ぶという大きな目標はありましたがそれに至る過程が決まっていなかったのです。」
「そういえば、いつだったか次の攻撃目標をどうするかで揉めてた時期があったよな。」
「確か・・・イギリス軍を叩く前の話だったか?」
「・・・懐かしいですね。あの頃の日本軍の勢いが遠い過去の様に思えます。」
「どーでもいいけど、講和を結ぶ方法を考えて無いってどういう事よ?無責任過ぎるでしょ。」
「では、どうすれば日本がアメリカと講和を結べたと思いますか?」
「へ、え〜と・・・何で私に聞くのよ。」
「・・・方法があるなら知りたいからです。」
「代案の無い批判なら誰でも出来ますからねぇ。」
「うるさいっ!」
「で、嬢ちゃんには何か良いアイディアがあるのか?」
「いきなり言われても思いつかないわよ。第一、私は専門家じゃないもの。」
「・・・参考までに。
山本大将はイギリスとの講和にシンガポールの返還も材料の一つとして考えていたそうです。
おそらく彼は、叩けるだけ叩いた後に大幅な譲歩を用いる事で、米英との講和を結ぼうと考えていたのだと思われます。
しかし、シンガポールを取引材料にイギリスを交渉のテーブルに着かせることが出来たとしても、アメリカが応じる訳はありません。
その為の駄目押しとして、ハワイ攻略があったのだと思います。」
「だから、ハワイは脳内妄想でしょうに。」
「・・・ですが、結果は知っての通り。
短期決戦に失敗した日本軍は先の見通しも立たないまま、泥沼のソロモン戦線での戦闘を強いられる事になってしまったのです。」
「それが、さっきまで話してたガ島の戦いだな?」
「そうです。日本軍にとってミッドウェーでの敗北は単なるキッカケであり
本当の天王山は一連のソロモン海戦であったと考えていいと思います。
これらの戦いで失われた熟練搭乗員の数はミッドウェーの比ではありませんからね。
一方のアメリカ軍も搭乗員を失っていますが、そこで出てくるのが国力の差です。
人的・物的資源が根本的に違いすぎるのですから勝てるはずもないのです。」
「それは仕方あるまい。無いものねだりをしたところで何が変わるわけでもないからな。」
「・・・確かに。ですが、仮に将棋と同じ様に日米が同戦力であるのなら引き分けに持ち込めていたのです。ところで・・・」
「どしたの?」
「戦争を回避する方法は何か思いつきましたか?」
「何?私に言ってんの?」
「貴女の他に誰がいるとでも?」
「・・・考える時間は十分だったはずです。では、お願いします。」
「勝手に話を進めるんじゃないわよ!そんな短い時間で思いつくわけ無いでしょ!」
「逆ギレ(・A・)イクナイ!!」
「うるさいっ!」
「・・・それでは、日本の宣戦布告については異論が無いようなので次に進めたいと思います。」
「ちょっと待ちなさいよ!無いなんて言ってないでしょ!」
「おいおい、また話をむしかえすのか?」
「そうじゃないわよ。戦争する意外にも方法あるでしょ。例えば・・・」
「例えば?」
「軍隊だけじゃなく民間人も日本に戻しちゃうってのはどう?そうすれば軍隊が引き上げても問題ないじゃない。」
「・・・ふぅ。」
「何よ、その溜め息!」
「・・・百歩譲って陸海軍がハルノートを受け入れたとしましょう。
さらに百歩譲って大陸から軍民全てが内地に引き上げたとしましょう。それで?」
「はい?」
「・・・そこまでして、日本に何か利点はありますか?」
「無事に戦争回避出来るじゃない。それにハルノートには有効期限みたいなものも書いて無かったんでしょ?
そうすれば何とでも言い訳できるんじゃないの?」
「・・・確かにその時の開戦は防げますが、その後の保障は何もありません。
石油等の資源輸入の目処も立たずに大陸から撤退・・・それは外交的な敗北に過ぎません。
そうしてまで土下座外交をしたいのですか?」
「土下座とかそういう事にこだわってる場合じゃないでしょ!」
「・・・アスカの意見は木を見て森を見ず、ですね。
有効期限が記入されてないので、話を引き伸ばせば良かったという話はよく聞きますが・・・一体何を考えているのでしょうか?
理解に苦しみます。」
「あんた、遠まわしにケンカ売ってんの?」
「いや、かなりストレートだぞ。」
「うむ。」
「うるさいっ!」
「・・・考えてもみてください。話を引き伸ばして得をするのはアメリカですよ?
元々、時間稼ぎが目的の相手に時間を引き延ばすなど・・・敵に塩を送っているようなもの。
おまけに期限が決められていないという事は、アメリカにとって有利なのです。
何故なら、後からいくらでもケチをつけられますから。つまり・・・ハルノート受諾は、どう転んでも日本に明るい材料など無かったのです。」
「む・・・。でも、戦争するよりはマシじゃないの?」
「戦争した方が良かったのかもしれませんよ?少なくとも、日本という国家が今もこうして存続しているのですから。
戦争せずにハルノートを受け入れていたら日本は滅亡していたのかもしれませんからね。」
「滅亡って・・・をい。」
「世の中なにがどうなるのか・・・完全に予測する事は不可能です。
ですが、こういった事くらいなら推察出来るでしょう?」
ハルノート受け入れる
↓
日本の石油備蓄が無くなっていく
↓
海軍が慢性的な石油不足に陥る
↓
まともな作戦どころか訓練すら出来なくなる
↓
アメリカの準備が完了する
↓
テキトーに難癖つけてアメリカが宣戦布告
↓
まともな抵抗も出来ずに帝国海軍壊滅
↓
アメリカ(・∀・)ウマー
「これって・・・悲観的に考えすぎじゃないのかな?」
「十分ありえた・・・と言うか、ハルノートを受け入れた日本の末路の1つと考えて良いと思います。
軍艦は停泊しているだけでも燃料を消費します。また、戦力の要たる機動部隊の練度を維持するにも訓練は欠かせません。
それに、石油は軍事だけではなく民間も必要としています。
石油輸入の目処が立たなければ、遅かれ早かれ日本経済は破綻していたでしょうね。」
「・・・・・。」
「駄目押し食らっちゃいましたね(はぁと」
「うるさい!」
「さて、多少話が重複していると思いますが、これまでのおさらいだと思ってお付き合い下さい。
さて、次は日米の航空母艦について比較しましょうか。」
「航空母艦・・・空母でしょ?」
「そうです。日本とアメリカで差が出てくるのもこの時期ですから。」
「日本とアメリカの差・・・ねぇ。密閉型と開放型の違いとかそういう話か?」
「何でしたっけ?それ。」
「爆撃を受けた際に何故、日本とアメリカの空母で修理期間が違いすぎるのか・・・その辺りの原因の話かと思います。
密閉型と開放型についての話はまだ終わってはいませんが、細かい機構の違いについての説明は後にします。」
「をい・・・、また伸ばすんかい。」
「・・・今はまだ話す時ではありません。今は日米の空母生産数の比較をした方が良いと思うので。」
「生産数?」
「・・・真珠湾攻撃やその後の戦闘により、航空機と航空母艦の有用性が立証されました。
そこで日本もアメリカも空母の生産に力を入れる事になったのです。」
「まぁ・・・当然の話だな。」
「しかし、ここで問題になってくるのがその数です。日米の国力差がより顕著に現れると思います。
参考までに、こちらをご覧下さい。昭和18年に就航していたと思われる日米の空母です。」
日本軍
瑞鶴、翔鶴、隼鷹、飛鷹
大鷹、雲鷹、冲鷹
アメリカ軍
エンタープライズ、サラトガ
エセックス級×4
護衛空母×腐るほど
「日本軍で航空機搭載数が最も多いのは瑞鶴、翔鶴。この2隻は日本軍にとっての最新鋭の攻撃空母です。
次が隼鷹、飛鷹・・・こちらは商船改造ですが、日本にとって貴重な空母であることに変わりはありません。
残りの空母は・・・アメリカ軍の護衛空母と大差ありません。
一方、アメリカ軍空母のエセックス級は日本の航空母艦以上の搭載数を有しています。」
「ちょっと・・・護衛空母の腐るほどってのは何なのよ。」
「呼んで字の如くです。昭和18年の中頃から約1年間で50隻近く竣工させていますし、
別の種類も含めると一体何隻になるのか・・・気が遠くなります。」
「さすがはアメリカだな。そんなの相手じゃ確かに勝てる方法なんて思いつくわけないわな。」
「・・・日本の空母が少ないってんなら、どうしてあんな役立たずを造ってるのよ?」
「役立たず?」
「大和よ、大和!あの役立たずの権化みたいな船!あんな前時代的な戦艦が役に立つ訳無いでしょ!」
「自分だって万年二軍じゃないですか。」
「うるさいっ!」
「大和の悲運は完成が遅かった事・・・こればかりは仕方ありません。」
「仕方なく無いでしょ!大和を造るって時に山本何とかって人が反対したそうじゃない!」
「・・・その様ですが、それが何か?」
「何かじゃないでしょ、何かじゃ!反対意見が出てるのに無理やり造っちゃったんじゃない!」
「・・・当時の常識としては大鑑巨砲主義が当然の世の中だったのです。
現在の常識で物事を語るのはいかがなものかと思いますが?」
「そういう問題じゃないでしょうに。」
「・・・仮に大和建造の代わりに空母や航空機を大量生産していたとしても、
それに載せるパイロットや乗組員はどうするのです?」
「どうって・・・そんな事言われても困るって。」
「戦争開始時の日本軍稼動機は陸海合わせて3000程です。
航空機を運用するには、搭乗員だけでなく機体整備員、兵装整備員も必要になります。
また、空母で運用するとすれば空母の乗組員も必要になりますし、エレベーター等の設備を保守点検する人員も必要になります。」
「ん〜・・・頭痛くなってきちゃった。」
「同じく〜。」
「他にも空母を護衛する為の巡洋艦・駆逐艦等も必要になりますし・・・それらの乗組員もまた必要になります。」
「で、何が言いたいのよ。あんたは?」
「空母をただ作れば良いと言うものでは無いのです。それを扱う人員が居なければ役には立たない。
それらの問題がクリアされなければ本質的な解決には至らないのです。・・・分かっていただけましたか?」
「でも、それが大和の正当性を実証するわけじゃないでしょ。」
「・・・実際、日本軍は真珠湾攻撃以降は空母の建造に力を入れています。
どちらかと言えばアメリカの方が大鑑巨砲主義に囚われていたと言えますが?」
「そうなの?」
「・・・日本は大和型戦艦の二番艦・武蔵以降、戦艦は建造していないはずです。
ミッドウェーで失った空母の穴を埋めるため建造中の信濃を急遽空母に改装しているくらいですから。
それに引き換え、アメリカは真珠湾攻撃後も戦艦を5〜6隻は建造しています。
この状況を見ると、アメリカは大鑑巨砲主義から脱したのではなく
単に余裕があったとしか思えないのですが、いかがでしょうか?」
「いかがでしょうかって・・・私らに聞かれても困るわよ。」
「・・・空母や航空機を大量生産するだけでなく戦艦も多数建造可能な上に、真珠湾で沈めた戦艦を修理する余裕もある。
巡洋艦や駆逐艦に至っては・・・数える気力すらおきませんよ。数があまりにも多すぎて。
昭和18年はアメリカ軍の準備が完全に整っていなかったためか、大規模な艦隊決戦は起きませんでした。」
「そなの?」
「はい。一方の日本軍もソロモン海で損失した戦力の回復に力を入れていたため攻勢に出る事は出来なかったのです。
もっとも、日本軍も虎の子の機動部隊を用いて敵機動部隊を求めて出撃した事もありましたが、接敵する事が出来なかったとか・・・
つくづくミッドウェーでの敗北が悔やまれますね。」
「・・・話を聞けば聞くほど、日本とやらに勝機が無かった事が分かるな。」
「後は・・・連合国の通商破壊戦による輸送船の損害が大きすぎたというのもありますね。」
「通商破壊・・・とんでもない数の輸送船が沈められたってアレか。」
「・・・戦争初期は輸送船団の護衛に駆逐艦を付けたりする余裕がありました。
ですが、この頃になると護衛に回せる駆逐艦が少なくなっていたようで、
数多くの輸送船がアメリカ軍の潜水艦によって沈められてしまっているのです。
もちろん、護衛艦が全く無しという事は無いと思いますが・・・」
「駄目じゃん。何やってんのよ。」
「・・・輸送船にとっては、潜水艦だけでは無く航空機も脅威となります。
アメリカ軍の飛行場が建設されると、そこから航空機で攻撃を加えてくるようになります。
その為、生半可な護衛では輸送船は簡単に海の藻屑となってしまうのです。」
「あれ?でも、これまでも輸送船って沈められてたんじゃなかったっけ?」
「これまで以上に・・・より確実に、です。
その代表例がビスマルク海海戦、別の名をダンピールの悲劇・・・というものです。」
「ああ、それでつか。そんなの未来からやってきたイージス艦でイチコロですよん♪」
「・・・漫画と現実を混同すんじゃないわよ。」
「この時、日本軍は護衛の駆逐艦を付けていましたが、航空機からの攻撃にはあまりに無力でした。」
「まぁ・・・相手が航空機ではな。」
「直衛の零戦が奮闘するも、あまりにも爆撃機の数が多く攻撃を防ぐ事は出来ませんでした。
アメリカ軍の取った新戦法跳躍爆撃により、日本軍の被害はさらに拡大してしまったのです。」
「新戦法?」
「図で表すとこんな感じです。」
「また、なんつー絵を・・・」
「攻撃の要領は雷撃とほぼ同じです。
違いは雷撃の様に速度を落とす必要が無く、この戦法で使われる爆弾の速度は魚雷より速いという点です。」
「聞きなさいよ、人の話。」
「攻撃を受けた輸送船乗組員の話だと、爆弾を投下した航空機が船の上を通り過ぎると同時に被弾したそうです。
おそらく爆弾の速度は時速2〜300km以上、したがって輸送船では回避困難。
このビスマルク海海戦では輸送船8隻が全滅、護衛の駆逐艦も約半数が沈没という燦々たる状況でした。」
「凄いモンだな。まぁ、アメリカの事だから爆撃機の数も多かったんだろうが。」
「・・・敵航空機は戦闘・攻撃・爆撃合計200機程だったそうです。対する日本軍の直援機は25機、
ラバウル等の飛行場から援護に駆けつけた航空機を合わせても70機くらい。
アメリカ軍の爆撃機が頑丈だったのも被害が増えた原因でしょう・・・。
これ以降、この跳躍爆撃はアメリカ軍の戦術の一つとなり日本軍の脅威となっていくのです。」
「例の漫画にもそう書いてありますからねぇ。現実とは非情なものです。」
「は〜い、しつも〜ん。」
「何でしょう?」
「その攻撃方法って凄かったんでしょ?やっぱり日本もその方法をマネしちゃったりとかしたの?」
「・・・昭和19年に一応、訓練は行われていた様です。ただ、実戦で戦果を挙げたという話は聞きません。」
「それって・・・日本はその何とかって攻撃法をモノに出来なかったって事?」
「そうなります。と、言うより・・・何と言えば良いのか困りますね。
どう考えようとも跳躍爆撃が実行出来なかったのは国力の差という結論に至ってしまうので・・・何とも言えません。」
「ちょっと待ちなさいよ!あんた、何でもかんでもそればっかじゃない!本気で反省する気あんの?」
「・・・はい。ですから、反省はしてるでしょう?ドイツと同時にソ連を攻めようと。
とりあえず、ソ連が東方に配置していたという部隊を満州付近に釘付けにしておくだけで良いと思います。
あとはドイツがモスクワなりスターリングラードなり落としてくれるでしょうから。」
「そうじゃないでしょ!」
「・・・はぁ。となると、やはりアメリカ本土空襲しかありませんね。
もちろん、ほぼ無傷の状態で南雲機動部隊が現存してなければ難しいでしょう。
ガダルカナルはどうでも良いとして、ミッドウェーとハワイの占領は必須。ハワイさえ失えば米潜水艦の脅威も半減するはずです。
ダッジハーバーへの牽制はアッツ・キスカの維持で十分でしょう。
昭和18年になるとエセックス級が竣工し始めるので、
遅くとも18年初頭にはワシントンへの艦砲射撃を終わらせておかねばなりません。」
「長々とあんたはなんつー電波を飛ばしてんのよ!違うっつってるでしょ!」
「・・・まぁ、実際に艦砲射撃に移る前に駄目押しとして
ハルノートの英語版を記した号外バラ撒き作戦も考慮に入れておいた方が良いですね。
零戦からワシントンに舞い落ちる多量の号外、驚愕するアメリカ市民とペテン師・・・
あのペテン師はマスコミ対策が上手だったと言いますが眼前の超巨大戦艦を隠す事は不可能です。
真珠湾での被害状況も知れ渡り国民の不満が噴出、トントン拍子でペテン師は退陣に追い込まれ・・・
次の大統領が日本に講和を申し入れ、大和の前甲板で講和文書に調印・・・夢が膨らむじゃありませんか。」
「違う違う違う!私が言いたいのはそういう事じゃないっての!」
「違う違うぅ〜。こんなの私じゃな〜い♪」
「るさいっ!」
「・・・まぁ、妄言を言っていても仕方が無いのでそろそろ話を戻しましょう。
先程紹介した跳躍爆撃が優れているとは言え、危険度は雷撃と同等です。
大した武装の無い輸送船相手ならいざ知らず、まともな軍艦相手では敵の対空砲を掻い潜らなければなりません。
跳躍爆撃と言えど楽な戦術ではないのです。」
「へ〜、そうなんだ。」
「本当に分かっているのか?」
「ん〜、何となく。」
「また、跳躍具合によっては爆弾が艦を飛び越えてしまう事もあります。
おまけに雷撃と比べると非力過ぎるので、ある程度の装甲を持つ軍艦相手には不向きなのです。
・・・という事で跳躍爆撃で日本軍が戦果を挙げるために必要な事項をいくつか挙げておきます。」
1.爆撃機が敵艦隊付近まで無事に辿りつく。
2.敵制空戦闘機・及び対空砲を掻い潜る。
3.艦艇側面を正確に叩ける練度が必要。
「・・・と、少なくともこれらの問題がクリア出来なければ無理ですね。それに、跳躍爆撃専用の爆弾も必要になります。」
「なんだ、そうすれば良いじゃん。」
「・・・そう簡単にアメリカ艦隊に近付く事が出来れば苦労はありません。
昭和18年以降、日本にとって状況はますます不利になっていくのですから。」
「そうなの?」
「・・・詳しい話はもう少し先になりますけどね。」
「よく分からんが、敵の艦隊に攻撃するのが無理なら輸送船団を狙うってのはどうだ?」
「・・・アメリカ軍は艦艇に余裕があるので日本軍の様に輸送船団の護衛が薄いという事はありません。
跳躍爆撃ではありませんが、輸送船団攻撃を行った日本軍が大打撃を受けたという話もありますから。」
「それもそうか・・・。」
「結局、日本軍が跳躍爆撃を習得出来ようとそうでなかろうと・・・戦局に違いは無いと思われます。
もし仮に違いがあったとしても終戦をほんの少し延ばせるかもしれない程度。
もちろん、可能性は零ではありませんが・・・その見込みは限りなく少ないでしょうね。」
「おいおい・・・、そこまで言っちゃうの?」
「不可能な事を出来ると言って何か楽しいですか?・・・悲しい事ですが現実は受け入れなければなりません。
跳躍爆撃については以上ですが・・・何か質問はありますか?」
「別に・・・。」
「は〜いはいは〜い!問題提起〜♪」
「何でしょう?」
「何で日本軍は海軍機ばかり話に出てくるんですかぁ〜?アメリカみたいに陸海協力して戦ったほうが良いと思いま〜す!」
「・・・日本軍の陸海の不仲は有名ですから。
もちろん、時には協力した事もありますが・・・こればかりはどうしようもありません。」
「ひょひょひょ・・・、アメリカという強大な敵がありながら内ゲバなど笑止千万!日本軍は負けるべくして負けたんでつよ!」
「内ゲバではありません・・・。アレと一緒にしないで下さい。」
「おい。」
「何です?」
「プルにどうでも良い知識を与えているのはお前か?」
「そうですけど?」
「プルに余計な事を吹き込むな。ただでさえ扱いが難しいのに、これ以上困難にしてどうする?」
「あんたってプルの保護者だったっけ?」
「違う。だが、上官たるもの部下の状態には気を配らねばならん。
ヤツの精神に余計な干渉をしては後々の作戦にも支障が出るだろう。」
「我が同志エルピー・プルには相応しい物の見方をなさってもらわねばならん。貴様こそ心変わりしたのではないのか?」
「その台詞・・・!」
「我が同志エルピープルの御前である!それ以上の無礼はやめい!」
「貴様・・・それはハマーン様の真似だろう!いい加減に止めんか!」
「控えぃ控えぃ!控えおろぅ!この紋所が目に―――」
「それは違うでしょ。つーか、お笑い騎士。何であんたがそこまで必死になってんの?」
「別に必死では無いが。」
「あ〜!もしかして・・・あたしの魅力にクラクラきちゃったとか♪」
「ロリコンか?」
「不潔です!マシュマーさん!」
「待て待て。そもそも何故そんな話の流れになる?」
「・・・次はフロリダ島沖海戦です。」
「あんた、誰に言ってんの?」