第拾弐話 奇跡の価値は
アスカ「あーもうパンツまでぐしょぐしょー!」
突然の大雨に襲われてびしょ濡れのアスカが、悪態つきつき帰宅。
出迎えたのは、三馬鹿トリオではなく
アスカ「…なんでアンタがここに居んのよ」
レイ「やー、あたしも雨でびしょ濡れになっちゃって、シンちゃんに頼んでシャワー借りちゃった、みたいな?」
停電の一件以降、妙に葛城家に居つくようになったレイ。
肩にマイタオルをつっかけて、蜂蜜入りのホットミルクなんぞ舐めつつ、すっかりくつろぎスタイル。
アスカ「アンタまさか、電気に続いてガスまで止められてんじゃないでしょうね」
レイ「………」
アスカ「目ぇ逸らすんじゃないわよっ!」
図星だった。
アスカ「大体シンジはファーストに甘い!甘すぎるのよ!何よ二人、デキてるわけぇ!?」
シンジ「…甘いかな?」
だって放っとくとのたれ日干しになりそうだし、綾波。
レイ「甘いと思うよ?碇司令の次くらいに」
司令はもっと甘いのかよ!
戦慄するシンジにアスカ。
ミサト「あら、いらっしゃい、レイ。つーかこの所よく見るわねー」
レイ「あ、あはははは、お邪魔してます、葛城三佐!」
この所徹夜仕事続きの家主の顔に、いささか引きつった敬礼を返すレイ
アスカ「…あれ?ミサト、昇進したの?」
シンジ「そうだったんですか?」
レイ「…知らなかったの?襟章見ればわかるじゃん。薄情者だなあ、二人とも!」
レイにうりうりと頬を突っつかれるシンジとアスカ。
気を取り直して、
シンジ「じゃあ、お祝いしなくちゃ」
ミサト「ありがと。でも、気持ちだけでいいのよ?」
アスカ「なんか、あんまし嬉しくなさそーねえ」
ミサト「…そーいうわけでもないんだけどね?」
当のミサトは苦笑気味。
ミサトのネルフに入った経緯からすれば当然のことなんだが、
レイ「お祝い!お祝いなら、ネルフ宴会本部長のワタクシにお任せを!」
当然彼女の知ったこっちゃ無い。
レイの顔の広いこと、リツコ、加持はもちろん、クラスの友人知人、非番のオペレーター、警備のおっちゃん、
居ないのは南極に出張中の司令と副司令くらいのもんじゃなかろうか、たちまちのうちに関係者をかき集め、
おっぱじめられる大宴会。
レイ「呑めー!食えー!ていうかあたしが食べるから取るなー!」
アスカ「あんたこそアタシの皿から取るんじゃないわよっ!」
ミサト「…ただチャンスがあれば騒ぎたいだけなんじゃない」
が、目の前で無邪気な姿を見せる子供たちの姿の向こうに、自分の復讐心のために
彼らを利用する浅ましさを見せ付けられた気がして、どうにも居心地が悪くていたのだが、
こうまではっちゃけられると毒気も抜かれる。
結局、思ってた以上に宴会を楽しんでしまった自分に呆れて、憮然とした表情で残ったアルコールを殲滅してみたり。
くすくす笑いながら、それを見やって皿を片付けるシンジの余裕ぶっこいた態度も気に食わない。
なによう。くそう。
そんなある日。
第十使徒発見の報に震撼するネルフ。
大気圏外からの落下による直接攻撃に対し、MAGIは全会一致で撤退を提言するも、ミサトはこれを却下。
アスカ「手で受け止めるゥ!?マジ!?」
エヴァンゲリオン三機による迎撃作戦を立案。
成功率は 0.00001%!
ミサト「一応、規則では遺書を書くことになってるんだけど…」
レイ「はーい!必要ありません!絶対成功させて、三佐にスペシャルディナーを奢ってもらうんだからあ!」
ミサト「うそっ!?いつからそういう話になったの!?」
レイ「言っておきますけど、あたしが本気になると…凄いですよ?」
ミサト「えーい、作戦が成功するなら、ステーキでも何でも奢ってやるわよ!」
レイ「牛ごと?」
ミサト「奢るかっ!」
かくして無謀なる作戦スタート。
空を焦がし、肉眼で確認できるほど巨大に迫る使徒の下へと、文字通りの全力疾走で走り寄る三機。
MAGIとミサトの女の勘による落下地点予想はどうにも外れ気味だったが、
アスカ「ちっくしょう、遠いってーのよ!ミサトのアホたれー!」
シンジ「間に合え!間に合え!うわああああー!」
レイ「ディナあああああー!!」
チルドレンズはこれを気合でカバー、寸でのところで迎撃に成功、
使徒、殲滅。
終わってみれば、損害らしい損害は初号機のツノが折れただけ。
奇跡の様な成功率とされた作戦は、奇跡的な結果をもって成功裏に幕となった。
52 名前: 第拾弐話「奇跡の価値は」 投稿日:
2005/11/30(水) 04:45:07 ID:tBUQiZ+V
自らの力で持って、無謀極まりない作戦を完遂せしめたチルドレンズ。
ふっふーん♪と得意げなアスカ。
照れた様な笑顔のシンジ。
そして、特別報酬を前ににっこにこのレイ。
ミサトはそれを彼らと同じく笑顔で迎えて、(少々一方的なものではあったが)
約束通り夕食に連れて行く事に。
子供たちの頑張りに応えようと、給料日前にも関わらず(多少引きつりながら)
大枚下ろして覚悟を決めてきたミサトが、彼らのたっての要望で連れられてきたのは
アスカ「ミサトの懐具合なんてわかってるってーの!」
第三新東京市では通好みとして中々の評判らしいが、ちんまりとしたラーメン屋台。
ミサト「いや、そこまでして気を使ってもらわなくてもいいのよ?
それこそほら、ステーキでもなんでも」
シンジ「あ、それは実は綾波が」
レイ「あははははははははは、実はあたし、お肉苦手なんです。意外でした?」
アスカ「足が付いてれば何でも食べる口だと思ってたわ、正直」
レイ「あたしそこまで悪食じゃないもん!」
ぎゃーぎゃーかしましく騒ぎながらも、評判通りの味のラーメンに舌鼓をうつ一行。
レイ「シンちゃんさ。さっき、碇司令と話せて、嬉しかった?」
ミサトが南極に発っている司令に戦後報告を入れた際、わずかながらもシンジは
実の父親であるゲンドウとの会話を得る事ができていた。
シンジ「…うん。本当は正直な自分の気持ちって、まだわからないんだけど。
でも、父さんと話せて、こうして皆と話もできて。
エヴァに乗るのは今も怖いけど、良かったって思えることも増えてきてる、
そんな気がしてるんだ」
それを聞いて、にへへーと笑うレイ。
レイ「言ったでしょ?シンちゃんなら、皆と絆をいっぱい作る事ができるって!」
シンジ「うん。…でも、こうして僕がエヴァに乗り続けられてるのは、綾波がそうして
いつもさりげなくフォロー入れてくれてるおかげだと思う。
…ありがとう、ね」
ずびびびびーっと音高くスープをすすって、こっぱずかしいシンジの告白に
気づかないフリをするレイ。
レイ「おっちゃん、替え玉!あとニンニクてんこもりで!」
一連のやりとりをジト目で見るアスカと、ニヤニヤ生暖かい視線を送るミサト。
顔を赤くして食事に逃げ込んだレイは、追求と冷やかしを免れるために、
結局五つもの替え玉を殲滅することになった。
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