漢たちのサマール沖海戦
「次のお題はこちらです。」
「なんだっけ?」
「我々が劇を務めた時にやっただろう?」
「え〜と・・・」
「比島沖海戦での戦闘の一つです。大和さんが敵艦隊との砲撃戦を行った唯一の海戦でもあります。」
「で?」
「次はそのサマール沖海戦について説明していこうかと。」
「良いのか?大和がらみの話だろ?」
「良いんですよ、綾波さんは寝ちゃいましたし。」
「でも、なんで今さら?」
「まぁ、その辺はおいおい。では簡単なおさらいからいってみましょうか。」
「おさらい?」
「総勢32隻・・・くらいだったと思いますけど、それだけの艦船で出撃した帝国海軍も
今回の戦場のサマール沖に到着する頃にはかなりの戦力を消耗していたんです。
前に出てきた武蔵さんを始め、重巡洋艦に駆逐艦・・・沈んだものや引き返したものとか色々。」
「ああ、アメリカ軍に手も足も出なかったのよね。」
「相手は飛行機ですからね。そのあたりは仕方ありませんよ。
それで、日本軍の艦隊はレイテ湾を目指してサンベルナルジノ海峡を越えました。」
「それ、どこだ?」
「では、迷えるプルツーさんのために地図で見てみましょう。」
「大体、ルソン島の南端あたりです。」
「なんて適当な説明だ・・・。」
「まぁ、大体で大丈夫ですよ。
さて、サンベルナルジノ海峡を抜けた日本軍の目に飛び込んできたのがアメリカ軍の護衛空母部隊です。」
「空母か・・・。」
「サンベルナルジノ海峡を抑えているはずのハルゼーさんが釣られクマーで北上しちゃいましたからね。
これは、綾波さんの好きな小沢中将さんのお手柄なんですけど。」
「で?」
「双方、接敵するとは思ってなかったので突然の状況に驚きました。
特に日本軍の方は航空機に対する警戒がメインでしたから、まさかこんなところで空母に出くわすとは想像もしてなかった様です。
ですから、空母を見つけてもスムーズに砲撃戦に移行する事が出来ませんでした。」
「そなの?」
「遅れたといっても十数分くらいのはずですけどね。ただ、後からその事を悔いているみたいな意見もあります。」
「まぁ、戦場での遅れは命取りにもなりかねんからな。」
「で、その後はどうなったんだ?」
「では、また図で説明してみましょう。」
「なにこれ・・・?」
「一目瞭然じゃないですか。ばったり出会っちゃった時の日本軍とアメリカ軍ですよ。
例えて言うなら、パンを加えて遅刻遅刻と学校へ急いでいる時に
角を曲がったところで可愛い転校生とぶつかっちゃうみたいな?」
「例えになってない・・・。」
「つか、7Sとか5Sとかって何よ?」
「7Sは第7戦隊の略、5Sは第5戦隊の略ですね。ほら、いちいち正式名称で書いたら面倒でしょ?」
「略したら余計、ワケ分かんなくなるでしょうが。」
「そんな事言われましても、元がそういう略し方してるんですからしょうがないですよ。
で、このサマール沖海戦で戦闘に参加したのは第1、第5、第7、第10戦隊と金剛と榛名の2隻の高速戦艦になってます。」
「なぁ、左端の2Sdってのはなんだ?」
「第二水雷戦隊の略です。
サマール沖海戦では第二水雷戦隊は後方で続行を命じられているのみで戦闘には参加してません。」
「参加してませんって・・・なんで使わないのよ。」
「温存してたんだと思いますよ。
ほら、この後レイテに突入する予定でしたし。それに燃料事情もありますからね。」
「燃料ったって、ここは南方でしょ?近くで補給とかしてきたんじゃないの?」
「駆逐艦の場合は航続距離が長くないから、ちゃんと考えて行動しないとガス欠になっちゃうんですよ。
戦艦から燃料を分けるって方法もあるんですけど、駆逐艦みんながみんなガス欠になったら手が回らなくなっちゃいますし。」
「む・・・」
「アスカさん、なんで私に玉砕してるんです?」
「るさいわね!ただ聞いただけでしょうが!」
「ところで戦闘はどうなったんだ?空母と戦艦が至近戦なんて考えた事も無かったが。」
「そうですね。普通、空母は戦艦の射程に捕らえられないはずですから。
こうなったら空母は退避するしかありません。アメリカ軍の護衛空母は味方駆逐艦の援護を受けつつ東方へ退避を始めました。
救援を平文で要請している事から見ても分かるとおり、アメリカ側も相当焦っていたようですね。」
「焦っているだと?私は冷静だ!」
「ガルマ様だ〜!」
「そのネタ、何度目よ・・・。」
「ところで駆逐艦の援護って何?」
「追撃の日本軍相手に攻撃したり煙幕を展開したり。
また、空母もただ逃げるだけではなく、スコールという雲を隠れ蓑にしつつ退避したりしてます。」
「なに?蜘蛛だって?」
「・・・その蜘蛛じゃありません。空に浮かぶ雲ですよ。」
「なに?蜘蛛が空に浮かぶって?」
「・・・変な事、言わないで下さい。」
「まぁ、どうでもいい事はどうでもいいが・・・結局は取り逃がしたんだったよな?」
「そうですね。駆逐艦数隻とガンビアベイは撃沈してますが、護衛空母のほとんどは戦場から離脱出来ています。
でも、その後特攻機の攻撃を受けて結構な被害は受けちゃってますけど。」
「特攻機?」
「ほら、日本軍が何機かで特攻して戦果を上げちゃった話ですよ。」
「ああ、そういやそんな話もあったな。」
「それで・・・この戦闘は日本の圧勝なのか?」
「いえ、そういう話でもなくて、アメリカも護衛空母から艦載機を発艦させ、日本軍にそれなりの損害を与えています。」
「そういえば思い出したわ。ファーストの好きな大和が味方を誤射したなんて話もあったわよね?」
「なにそれ?」
「なんか、大和が撃った主砲が味方の巡洋艦に当たって沈んだとかって話よ。
まぁ、巡洋艦を沈めるくらいだからそれなりの威力があったって事は証明されてるわよね〜。」
「そんな情報を知ってるならなんで、あの嬢ちゃんがいる時に言わなかったんだ?」
「ただ忘れてただけよ。ファーストがここにいるならあの人形女は何も言えなくなってるって。」
「アスカさん、その話・・・綾波さんがいなくて良かったかもしれませんよ?」
「は?何がよ?」
「大和さんが味方を誤射・・・というのもそれは電探間接射撃を行ったためで
電探の反応がある方位に向けて撃つだけですから敵味方の識別は困難なんです。
それに、当時の戦闘では誤射はつきものですし、綾波さんを攻めるにはその話では力不足かと思います。」
「は?でも、それで巡洋艦沈んでるじゃん。」
「その巡洋艦は鳥海さんの事かと思いますけど、鳥海さんの沈没原因は大和さんの主砲弾が原因では無いようです。
当たった箇所から考えると、大和さんから撃ちだされた砲弾ではありえないという事なので。」
「フ、フフン。巡洋艦相手に砲弾も当てられないようじゃ大和も大した事無いわよねぇ〜。」
「そうですか。さて、このサマール沖海戦についてなんですが―――」
「ちょっと!スルーってどういう事よ!」
「軽く受け流したな。」
「だって、反論の必要は無いとおもったものですから・・・」
「ひし形、お前も容赦ないんだな。レイは一応反論くらいはしてたぞ。」
「え〜と・・・、
じゃあ、良かったですね、アスカさん。綾波さん相手に玉砕しなくて。」
「るさいわね!これじゃまるでアンタに玉砕したみたいじゃないのよ!」
「まぁ、確かにそうだな。」
「それじゃ、今回の出来事は私の胸の中だけに留めておきます。無かった事にしましょう。」
「うるさいっつってるでしょ!アンタにそんな事言われたかないわよ!」
「では、てきぱきと次の話題に移りますね。そうすれば目立たなくなりますから。」
「余計な一言つけるな!」
「でも、これで戦闘は終わりなんだろ?何か他にあるのか?」
「あ、それなんですけどね。どういうわけかこういう話もあるんです。」
日本軍の追撃打ち切り早すぎ。もっとちゃんとやれば敵を殲滅出来た。
「これはなんだ?」
「言葉の通りですよ。追撃を打ち切らずに攻撃を続けていればもっと戦果を上げられたんじゃないかという話があるんです。」
「そうなのか?」
「さぁ?とりあえず追撃を打ち切った時の艦隊の配置はこんな感じです。」
「なんで追撃しなかったのよ?」
「多分、護衛空母を正規空母と誤認してたからでしょう。
正規空母だと速力は30ノットを超えますから、逃げられちゃったら追いつけませんからね。」
「つまり追いつけそうにないから止めたという事ですか?」
「そんな感じです。それに後々レイテ突入も控えてましたし、先ほど話した燃料事情もありますからね。
この時点でレイテに突入する気が無いのなら殲滅戦に移行しても良いのでしょうけど、
この時はまだ反転は決まってませんでしたから。」
「ふ〜ん。」
「反転は決まってないって・・・ホントは決まってたんじゃないの?」
「は?いきなり何を言い出すんだ?」
「だって、ここから集合かけた時に北上して集合したって話よ。レイテに行くつもりならなんで北に集まる必要があんのよ。」
「どういう事だ?」
「だから、上の図みたいにバラバラになってる艦艇を集合かけなきゃなんないんだけど
その集合場所を北にしたって話なのよ。レイテに行くつもりなら南に集合かけるのが普通でしょ。」
「あ、それもそうですね。」
「だから、この時点で反転する気満々だったって事でしょ。ひし形もテキトーな事言うから。」
「アスカさん、あの・・・」
「なによ?」
「それ多分誤解ですよ。北に集合かけたんじゃなくて、大和さんの北に集合をかけたっていうのが正確です。」
「わけが分からないんだが。」
「ほら、大和さん・・・1Sの北って第二水雷戦隊が集まってるじゃないですか。
それにそのあたりの位置が全ての艦艇からの中心くらいですし。
北上して集合したんじゃなくて大和さんの北に集めたと見るのが自然かと思いますよ。」
「は?」
「だって、何の目印も無い洋上で集合するんですよ?
適当に南下して集合するより、あらかじめ艦艇の集まってる位置に集合するのが一番だと思いませんか?」
「だからって、わざわざ北にする必要は無いでしょ。」
「ある程度の艦艇が集まりだしてからは陣形を整えて進路を変更しています。
その後、分散していた艦艇が徐々に合流していってますから・・・全部の艦艇が集まってから初めて針路変更ってワケじゃないんですよ。
それに大和さんの北は第10戦隊から見れば南になりますよ?」
「う・・・」
「それに、追撃するしない以前に艦隊司令部では敵の位置を見失っていたそうです。
図では丸見えですが、実際には20000m以上の遠距離に加えてスコール、
敵艦の煙幕もありましたから敵情が良く分かってなかったんですよ。
で、艦隊が集まりだしてから西に発砲の光が見えたので、改めてそちらに向けて進撃を開始したんです。」
「そうだったのか・・・。」
「それに、榛名さんの位置から南方の方にも敵艦のマストが見えていたそうですからね。
当時、日本軍が捉えていたのは図に書いてある敵だけじゃないんです。」
「む・・・」
「良かったですね。綾波さん相手に玉砕しなくて。」
「うるさいわね!ちっとも良くないわよ!」
「で、こんな状態から敵を殲滅出来たのか?」
「出来ますよ。レイテへの突入を諦めておけば。」
「それ、出来るって言わねぇし。」
「あんまり追撃戦をやってると頭に血を上らせたハルゼーさんが戻ってきちゃいますからね。
撤退が遅れれば史実より多くの艦が損害を受けることにもなるでしょうし。」
「損害って何の話だ?」
「レイテに突入しないで反転北上した日本軍なんですが、
その帰り道にアメリカ軍航空機の攻撃を受け、結構な損害を受けてしまってるんです。
ですから、もし帰るのが遅れればもっと沈んでしまった艦が増えるのではないかと思います。
それに、帰り道のサンベルナルジノ海峡も日本軍通過後の数時間後にはアメリカ軍が封鎖しちゃってますから。」
「そーなんだ。」
「まぁ、そのあたりの話はサマール沖海戦とは関係ないので、今回はこのあたりで終了です。」
「これで終わりかよ。」
「はい、終了です。」
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